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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第一章
30/630

30.手つかずの鉱山

 

 ティオとリムとのんびり景色を楽しみながら、時には精霊たちと交流し、狩りをして料理をした。

 ティオは大地の精霊の加護を得てから、従来の戦闘力を伸ばしていたが、リムが気軽に魔法を使うのに倣って、自分も魔法を取り入れだした。人目がないところで、大っぴらに使うそれは圧巻だった。

 大地が割れ、下から硬い岩がせり出して来て、見る間に先が尖る。それが中空に浮かぶティオの眼前にまで浮き上がったかと思うと、一直線に獲物に襲い掛かる。巨大な杭はティオの急降下よろしく地を駆ける獲物を屠る。

 シアンも魔法を使ってみたが、調整が難しい。獲物に大きな穴を開けて肉や魔石や売れる部位を破壊してしまう。

 ティオはシアンが獲物を解体し、素材と食材に分けていることを見て来たことから、それらを損なうのを最小限にしてくれている。


 ログアウトを挟みながら、帰りの分の肉以外の食料の残量を確認し、そろそろ目的を果たそうと、風の精霊が案内する山裾にたどり着いた。

 現実世界と折り合いをつけるのは難しいものの、こちらの世界でシアンを待ってくれているティオやリム、精霊たちのことを思うと何ら苦に感じない。


 風の精霊の依頼により、大地の精霊が山肌の最も薄い部分を削り穴を穿つと、中から熱水が飛び出した。洞窟に地下水がたまり、マグマで熱せられたのだそうだ。

 大地の精霊と風の精霊が協力して熱水を出し切る間、昼食を済ませる。

 その後、闇の精霊が洞窟内の温度を下げ、風の精霊が清浄な空気を流し込み、光の精霊の灯りによって内部が照らされる。

 たった今作り出された洞窟の中を、ティオに乗って飛ぶ。


 三百六十度びっしり白い石の牙が生えている。洞窟のあちこちにつららができている状態で、しかも、太さはシアンの胴よりも太い。

 光の精霊が作り出したいくつもの灯がティオの前方や左右を照らす。その淡い金色の輝きに、洞窟から生える白い結晶が仄かに照らされ輝く。澄んだ共鳴音を発しそうな、神秘的な光景だ。

 洞窟内は空気が薄いこともなく、異臭もせず、少しひんやりしとして湿気が多い。

 直径三十メートルほどもある大きい洞窟の内部で、ティオはそのカーブに沿って、あるいは突き出した石柱を避け、細かく高度を上げ下げし、左右に蛇行した。

 周囲の光景に、シアンはただ圧倒された。

 ティオの飛行速度に合わせて移動する灯が通過するたび、白い柱が光を弾く。鉱石が呼吸しているかのようだ。

 時折通過する細く枝分かれした道は縦横無尽に太い柱がそそり立っている。おそらく、本道は風の精霊が空気を送り込んだ際、ティオが飛翔できるだけのスペースをも確保してくれたのだろう。距離もそうだが、シアンが歩くとえっちらおっちら下から突き出すつららを超えていくことになる。


 しばらく地下へと潜る隧道を通っていくと、広い場所に出た。

 光の精霊が作り出した灯が先行するが、先が見えない。小さな街くらいの広さがあるかもしれない。

『綺麗だろう? あまり見られない光景だから、一度見ておくといい』

 それで外で待つよりも洞窟内部へと招いたと風の精霊が言う。

『ここはどの国の領域でもない場所だから、採掘権は考えなくていい。その分、トリスから離れていて不便なんだけどね』

「へ? ここ全部採掘し放題?」

 あまりのことに素っ頓狂な声が出てしまう。

 冒険者の行う採鉱は採取と同じく洞窟や山肌で採掘ポイントをみつけて手に入れる。洞窟全部から得られるとは。

 風の精霊は、採掘権といったものは面倒事が絡むから、誰の領地でもない場所で人が欲しがる鉱物が採れる場所を探したと続けた。

『私たちは人の作った制度など関係ないけれど、君はそうはいかないからね。既存の洞窟は見つけられやすい。だから、今回は穴を開けた。出入口は軽く大地のにふさいでもらって更に光のと闇のに隠ぺいしてもらっておけば見つからない』

 それはもはや誰にも入り口を見つけることはできないだろう。

『銅鉱石も鉄鉱石も銀鉱石もある。ああ、私たちの魔力によって魔銀や魔鉄ができつつある』

「魔銀って確か、以前、楽器を作る時に雄大に貰ったけど、今トリスで流通しているの?」

『ないことはないけれど、少ないね』

「持ち出しても売ることはできないかもしれないね。でも一応、何かあった時のために採っておこうかな」


 そういえば、ツルハシやスコップなどの器具を持ってこなかったことに今更ながら気づいた。いくらティオの爪が強靭だからといって、依頼するのには気が引ける。第一、怪我をしてほしくはない。さてどうしよう、とシアンが考える時間は瞬時に終了した。

 風の精霊が吟味した鉱物を大地の精霊が採掘してシアンの目の前に積み上げた。至れり尽くせりだ。

 一部屋いっぱい分ほどあり、トロッコ何台分だろう、と恐れおののく。

 風の精霊がシアンたちの拠点があるアダレード国では国王が軍事に力を入れているから、誰にも言わない方がいいという。

 そうすると、これを売りさばくのが問題だ。まず、鉱石からの分離をどうするか。フラッシュに頼んでもよいものか。フラッシュが鉱物、特に鉄が手に入らないと言っていたのは軍事云々が関連していそうだ。

「そんな時期にここが見つかったら確かに大変なことになりそうだね」

『ここの奪い合いになりかねない』

 風の精霊の示唆する隠ぺいが無難だ。自然が作り出す綺羅綺羅しい光景を、無残に壊されることなく、もう少し残しておきたい気持ちもある。

「ただ、こんなにすごいものを独り占めするのはなあ」

 独りごちる。ただでさえ、分不相応な仲間がいて、助力を得ているのだ。何より、プレイヤーに知られれば、またリソース独占を追及される。

『君のために見つけてきたんだから気にする必要はない』

「良く見つけられたね」

『大地のに協力を願ったから簡単だったよ』

「英知も雄大も、稀輝も深遠もありがとう。ティオも飛びにくいところを運んでくれてありがとう。リムも首にずっといてくれたから寒くなかったよ」

「ピィ!」

「キュア!」

 シアンの礼にティオとリムが誇らしげに鳴いた。



 期せずして、大量の財宝を手に入れたシアン一行は帰路に就いた。

 洞窟内、広場の向こう側にも長く道は続いているが、同じ光景が広がっているそうなので、帰ることにした。

『フラッシュにいっぱいお土産できるね!』

「うん、そうだね」

 リムの弾む言葉に返しながら、でも、全部渡すとまた卒倒するかもしれない、と心労をかけることに気をもむ。小出しにすべきか。悩ましいところである。


 洞窟を出てトリスに向けてティオが飛翔する。

 途中、野営地で宿泊し、行きのような寄り道ばかりではないものの、のんびりと進んだ。昼食の獲物を見つけるため、低空飛行していたティオが大きく旗を振る人影を見つける。

『この前助けた人間が見せた布を振ってのがいるよ』

「あの助けた男の人が持っていたやつ? ええと、青と赤と緑の?」

『うん、もう少し降りてみる?』

 風の精霊のサポートを受け、相当な高度の飛行にも耐えられるようになった。プレイヤーの視線に晒されないようになったのは重畳だが、シアンにはティオほど上空から特定物を見分けられない。

「お願い。あと行き過ぎたようだったら、戻ってみてくれる?」

『でも、この先にも同じ布を振っている人がいるよ』

 ティオが高度を下げると、シアンにも黒い粒だったのが何かを振り動かしているのだと知れる。

「ということは、僕たちに合図しているということだね」

『近寄ろうか?』

「うん、話を聞いてみよう。あの男の人は多分、信用できる」

 声は内容だけでなく感情も伝える。良い耳を持つ音楽家は話し手の声に現れる感情の変化に敏感だ。

 シアンが初見で九尾の言わんとすることを理解できたのは恐らくそれが原因ではないかと思っている。九尾ほどの高度なAIであればこそ、声に感情を持つ人と変わらない個性を持ち、それをシアンの脳が聞き分け、親密度を上げるという手順を踏まずに意思を汲み取ることができた。

 精霊と会いやすいのもそれに関連しているのではないかとも思う。身近にいながら、感じることができない彼らのわずかな痕跡をつかみ取ることができたからこそ、闇の精霊や風の精霊のその姿を目にすることができたのではないかと思う。

 そして、シアンの訓練を積んだ脳は、あの男は嘘は言わなかったと告げている。

 また、マウロは豪胆さや明るいところが少し金髪の方の光の精霊と似ている気がしていた。人の心にするりと入ってくる得難い性質だ。

「言えないことも沢山あるみたいだったけれど、それは僕たちを巻き込まないため、という感じだったし」

『いいよ、下に降りよう。でも、シアンに何かしたら攻撃してもいいよね?』

「あー、うん、ティオも怪我しないでね」

 お手柔らかにとは言えなかった。やられたら反撃するのはティオの当然の権利だ。



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