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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第六章
288/630

44.秋を満喫  ~シアンの必殺技の巻/焼き芋に風情を!~

 

『夜にシアンとお団子食べて音楽! 楽しかった!』

『本当だねえ』

『またしたいな』

『そうだね』

『ならば、秋らしいことをしてみようではないか』

『秋らしいって? 例えばどんなこと?』

『秋と言えば美味しい物の他でしたら、運動でしょうかな。サッカーとか凧揚げとか?』

『秋らしいのかにゃ?』

『まあ、運動の秋ということ?』

『きゅっきゅっきゅ、では、大きい凧にわんわん三兄弟の一匹を張り付けさせて、揚げてみましょうかねえ』

 そうして、ログインしたシアンは凧を手にした九尾と興味津々のリム、気づかわし気におろおろする麒麟、胡乱気な表情のティオと鸞、カラン、我関せずの一角獣といった面々に対峙していた。わんわん三兄弟はシアンの姿を見つけてすぐさま駆け寄って来、その足にしがみついている。

 ユエは工房に籠り、ユルクとネーソスは海辺にいるらしい。

「駄目だよ、きゅうちゃん。危ないからね」

『そうですか』

 がっくりと項垂れる。

「サッカーはどうかな? 楽しそうだよね」

 だがしかし。

 わんわん三兄弟が蹴られそうですぐさま中断された。

「そうだ、以前言っていたボール探しゲームをしよう」

 天気も良く、心地よい気候なのでうってつけだ。

 それは何なのかという説明を受けた一角獣が,早速ユルクとネーソスを呼びに飛び出していく。

 ユエも室内から連れ出して、どこで行うかという話になる。

『ユルクが小さくなれるのなら、庭でも十分ではないですか? 良かったですねえ。魔神から大きな庭を貰い受けて』

 貰ったのは島込みた。シアンは苦笑する。

『ぼくたちがいっぱい遊べる庭って言っていたものね』

 リムが満足そうな表情をするのだから、魔神も本望だろう。

『ぼくもこの島と館に住めて良かった』

 ティオの言葉に、他の幻獣たちも我も我もと同意する。

「それで、きゅうちゃんは何をしているの?」

『もちろん、ボールに色々書いているんですよ』

 遊びの準備をしているのだと言う九尾から受け取ったボールを見てみる。

「肉料理」「甘い料理」「物すごく辛い料理」「とんでもなく苦い料理」、とここまでは前回と同じものが書かれている。

「きゅうちゃん、辛い物や苦い物が苦手な人もいるから、これはやめようよ」

『膝枕も入れて』

『はいっ!』

 直立不動でティオのリクエストを受け付けている。

 そのボールをじっと見つめるティオの目が本気であることを物語っている。

 同じ色合い、大きさをしているが、ティオはそのボールを覚え込むように見つめている。

『それならばこんな感じで』

「肉料理」「甘い料理」「膝枕」「好きな音楽」「三分間撫で」「ブラッシング」「にらめっこ」「好きな料理」「一緒に散歩」「鼻ちょん」「抱っこ(ハグ)」と書いていく。

 最後の内容は大きい対称にはハグをするのだそうだ。ユルクが小さい方とどちらを選ぼうと迷っていたが、小さくても十メートル近いので、ユルクがそのボールを得た場合、ハグになるだろう。

「同じものを複数入れても良いんじゃない? ところで、にらめっこって?」

『そうですなあ。数は多い方が良いでしょう』

 シアンの発言の後半の部分は聞き流して九尾がボールに書いていく。

 ちなみに、書いてあるのは魔族語で、何度か開かれた読み書きの勉強会のお陰で全員が読むことができた。

「こういう勉強の仕方もあるよね」

 シアンも以前、オアシスで出会った商人と意思疎通をすることができた。実践や遊びで楽しみながら学ぶと身につくのも早いだろう。

『鼻ちょんとは何でござりましょうや?』

 アインスがシアンと九尾を見比べる。

『シアンちゃんの必殺技です!』

 幻獣たちが目を見開く。

『殿の必殺技!』

『そ、それは強力そうです!』

『お、お助けぇ』

 怯えるわんわん三兄弟に、シアンは九尾を横目で見やる。

「きゅうちゃん……」

『ある意味、破壊力抜群ですよ』

 どこ吹く風だ。

「はは、大したことないよ。こんな感じのだよ」

 言いながら、シアンはわんわん三兄弟の鼻を順々に軽く突いていく。

『『『……』』』

 わんわん三兄弟が固まった。

 幻獣たちが息を飲む。

 取る。各々、そう心に決めた。

 和やかに遊びが始まるのを待っていたのから一転、きりりと空気が引き締まる。

『まあ、取れなくてもシアンちゃんならば頼めばやってくれますよ。気楽にいきましょう』

「そうだよ。これはあくまで皆で楽しむ遊びだからね。喧嘩したりむきになったりしないで、互いにぶつかりそうになったら手加減してね」

 ゲームに手心を加えるのは忌避されることもあるが、多様な幻獣たちはそれだけに力の差が大きい。

 九尾とシアンの言葉に、勢い込んだ幻獣たちが鎮まる。

 言われてみれば、書いてあるものは全てシアンにねだれば叶えてくれるものだ。

 幻獣たちはボール取り兼探しゲームを楽しんだ。

 シアンが投げたボールは風の精霊が思いも掛けない方向へ飛ばす。

 投げた途端、空中で取った者もいれば、茂みに入り込んだのを探しに行く者もいる。

 ユルクはするりと身をくねらせながら、これはもっと小さくなった方が有利かな、と考え、ひみつの特訓を頑張ることに決める。

 ネーソスは大きくなったり小さくなったりを繰り返しつつ、もっと空中移動を自在にできるようにしようと考える。

 わんわん三兄弟は小回りの利く体を隙間に入り込ませ、匂いを辿る。

 麒麟はうっかり鼻先でボールを押しやってしまい、慌てて顔を上げるとそこには一角獣がおり、そっと蹴り返してくれたのをキャッチする。

 ティオはしっかりと「膝枕」を嘴に挟み掴む。

 リムは「ブラッシング」を取り、前足に掴んで高らかに掲げて見せ、満面の笑みを浮かべる。

 鸞は一つも取れず、やれやれと鼻息を漏らすと、ティオが嘴で挟んだボールを差し出した。思わず受け取ってその中の「好きな料理」という文字を確認した後、顔を上げる。既にティオは悠々と歩き去っていた。

 カランは逃げるボールを習性で追ってしまい、幾つも抱えて、眉尻を下げる。今でも十分貰っているのに、こんなには要らないのだ。

 そんなカランに、では自分にくれとユエが言う。咄嗟に後退したカランに、そうだ、手に入れた物は掴んで離してはいけないと頷く。

 それもそうか、とカランは納得する。

 そして、じっと、前足に掴んだボールに書かれた「鼻ちょん」という文字を見つめるのだった。

「きゅうちゃん、そのボールは投げないの?」

『これはきゅうちゃん専用だから』

「なんて書いたの? 見せて」

 九尾が両前足に乗せたボールを差し出す。

 そこには「芋栗なんきん」と書かれていた。

 どこまでもブレない狐である。

 シアンは噴き出した。

 そして、ひょい、とそのボールを取り上げる。

『きゅうちゃんの、きゅうちゃんの!』

 後ろ脚立ちし前脚を伸ばして、シアンが高く掲げるボールを取ろうとする。シアンは数歩後ろに下がり、軽く九尾に向けて放り投げた。それを九尾が前足でキャッチする。

「これできゅうちゃんもボールを取れたね」

 いつぞや、ロングギャラリーでボール遊びをした際に九尾が言った言葉は己へと返って来た。

 シアンはやはり、幻獣たちに甘いのだ。

 賑やかに騒ぐ幻獣たちを、ふふ、とため息交じりに笑いながら見やる。

 シアンは残ったボールが足元に転がっているのに気づいて拾い上げ、そこに何かを書きつけた。

「きゅうちゃん、はい、もう一つ」

 軽く放られてそれも掴む。

 そこには「お稲荷さん」と書かれており、更に九尾の相好を崩させた。



 館の庭でかくれんぼもした。

 幻獣とシアンとで笑いさざめきながら隠れた。

 この時ばかりはリムも麒麟も隠ぺいを用いない。

 幻獣たちは感知能力が高い。隠れてもすぐにわかってしまってはつまらない。

 そこで、闇の精霊に頼んで、ほんの少しばかり分かりにくくして貰う。

 草が茂り花々が咲き乱れる庭でかくれんぼ。

 見つかったら負けだけど、見つけてくれないと寂しい。

 ユルクが寝床にしている湖とは別の湖にも行こうとなった。

 そこは黄金の世界だった。

 湖岸に黄金色の葉をつけた木々が立ち並び、水面を豊かに輝かせている。光が横に広がっている。ほつ、と葉が一枚水面に落ちる。ゆらゆらと揺られて波紋を作る。

 ほんのり水色の空にうす桃色の雲が広がる。全体的に紗掛かった色彩の下、まさしく一服の絵のようなどこか霞掛かった様は物語の中の光景のようだ。

 しばらく景色に見とれ、散策したり魚釣りをしたり、追いかけっこや放り投げた木の枝を取って来る遊びなどを行った。

 ある時は落ち葉で焚き火をして焼き芋をした。

 リムが落ち葉を踏むのが楽しくて、小さな四本の足で踏みまわる。軽やかな音が実に楽し気だ。

 それを見ていた九尾がはっと息を飲む。

『落ち葉で焼き芋をしましょう!』

 九尾は食い気に閃いた。

 落ち葉を集めて焚火をして焼き芋を作ろう、という気持ちに全て持っていかれる。

 そのため、シアンのバーベキューコンロの方が焼きやすいという言葉も耳に入らない。

『風情です! こういうのは雰囲気重視なのですよ!』

 リムの落ち葉遊びから食い気に偏った発想をしたにもかかわらず、良く言うものである。

 結局、シアン頼み、正確に言うとシアンから精霊に頼み、サツマイモの中までほっくりと火を通して貰った。二つに割ると黄金色の焼き芋を分け合って食べた。十分に数はあったけれど、半分こして食べると一層美味しく感じた。

 なお、銀色の光の精霊は両手に一本ずつ持って食べていた。



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