13.リム、ペットを飼う1
一角獣の島の把握は山や川、湖や浜辺だけでなく、洞窟内にも及んだ。
ある時、視力の利かない暗闇の中で洞窟の主との死闘に及び、そこで魔力感知の能力を伸ばした。
元々、目に頼るだけでなく、聴覚や臭気や空気の僅かな動き、熱量や魔力を感じ取ることはしていた。世界を認識する上で視力というのは大きなウェイトを占める。それを暗がりの中での戦闘で、命のやり取りという背水の陣の上で物にした。
突進という一瞬で決着する戦闘で得たものは大きかった。一つ瞬きする僅かな間で多くのものを感じ、沢山のものを超越した。
強力な魔獣が住処にしていた洞窟を見回っていると、奥の開けた場所の壁一帯から魔力を感じた。
『魔石?』
魔力を含む石は力ある獣から得られる。
魔獣の死骸から取り出したものを集めていたのか、人間みたいなことをするなと一角獣はその石を持ち帰った。
ところが、その石を鸞が鑑定したところ、魔力溜まりでできる魔晶石という物だという。
『有体に言えば、魔石は動植物から取れ、魔晶石は自然に出来上がる物だな』
魔晶石も魔石と同じく動力源になるというので、ユエとフラッシュが喜んだ。
『強い魔石と同じく保有魔力が多い物があり、動力源として長持ちする。中には、魔石と異なる特性を有している物もある。ふむ、吾も詳しくはないが、この魔力への反応から見ると、世界最高峰の品質を保持しているやもしれぬな』
それを聞いて、一角獣はまた採鉱してくると言うのを、鸞が乱獲はいけないと諫める。
『まだ大量にあったよ』
不満気に鼻を鳴らす一角獣に、鸞が現場を見たいと言い、ユエも同行を願い出た。遠方であるため、時間制限があるフラッシュは工房に残った。一角獣が自分の背に乗せた方が良いのか逡巡していると、フラッシュが一角獣ほどの幻獣においそれと乗せて貰えるとは思わないと笑った。流石は聖獣であり凶獣でもある九尾を召喚獣にする者だけはある。
一角獣を護衛に一行は洞窟へ向かう。
鸞に自分が付いていける速度で移動してほしいと言われ、一角獣は初めて速度を調整することに思い至る。ゆるゆると飛びながら景色を眺めてあれこれ話すのも楽しいものだと知る。
鸞が一角獣の背の上のユエに、素材になりそうなものを指し示しながら説明してやるのを、一緒になって聞き、質問を差し挟むと丁寧に答えてくれる。そのやり取りも心地よかった。彼らが何に興味を持ち、どう感じるのかを知るのも面白かった。
ユエは一角獣の好物のジャガイモの芽を綺麗に取り除くことができるように、皮むき器を改良する予定なのだという。
『ふむ、それは良いな。芽には毒素が含まれる。吾らには支障なくとも、シアンには障りとなるゆえな』
『うん。シアンはベヘルツトの好きなジャガイモ料理を良く作ってくれるから、手間が少なくなるようにするの』
面倒だから作らないのではなく、一角獣の好きなものを作るのが少しでも楽になるように力を貸してくれるという。
『カランがね、そうすると良いと教えてくれたんだよ』
一角獣にユエが言う。
『カランは何だかんだ言って、吾ら幻獣やシアンのことをよく見て気働きができる者だからな』
鸞も同意する。
『カランはシアンのブラシ待ちをしていたら、掛けてくれるんだよ』
一角獣が言うと、ユエもやってもらった、と言う。
『絶妙な力加減だった』
満足げに言うのに頷く。
そんな風にしてたどり着いた洞窟の広さに鸞もユエも驚いた。山にぽっかりと口を開け、奥まで続いている。
『ほう、霊力に満ちているな。元々魔力溜まりがあったところだが、シアンが住まうようになって精霊王たちの力が満ちたことから、一層各属性の粋が集められたのだろう』
この先、洞窟内全てが魔晶石と化すかもしれないと鸞は言う。
『じゃあ、ここにある物は持っていっても構わない?』
『そうだな。膨大にあるうちの一部なら構うまい』
ユエが喜んでマジックバッグに詰める。
シアンはディーノに依頼してマジックバッグをいくつか購入していた。高価なものであるが、幻獣が増え、それぞれ狩りや採取を行うので、便利が良いだろうと考えてのことだ。
館や設備などに金銭を使わなかったので、他に幻獣のしもべ団の軍資金くらいしか使い道がないのだ。
そして、豊かな島で幻獣たちが存分に狩った獲物をマジックバッグによって大量に持ち帰り、そこから得られる素材が貴重なもので、高額で取り引きされ、金が金を呼ぶ循環に陥っていた。魔族としても貴重な素材を流してくれるので有難がられている。
また、優秀なゲートキーパーを兼任する家令が幻獣たちが狩り尽くさないように調整していた。
島主であるシアンが鷹揚である分、セバスチャンの言にはよくよく耳を傾ける幻獣たちだった。第一、シアン自身が食べたり身を守る以外の殺生を厭うたのだ。
一角獣一行は館への帰路の途中、敷地の外の木の根元で頭を突き合わせるリムと麒麟、わんわん三兄弟の姿が見え、そちらへ向かう。
空からゆるゆると降りてくる一角獣たちに気づいたリムがぴっと前脚を上げて左右に振る。
背に乗せた鸞とユエが転がり落ちないように、ゆるやかな速度で飛翔していた一角獣は地に足をつけると小首を傾げた。
『何をしているの?』
『見て! 小さいのを拾ったの』
リムが満面の笑顔で指し示す先に、チィチィと小さな声で鳴く小鳥に似た姿の獣がいた。
黒い体毛で覆われた成人男性の掌二つ分ほどの大きさがある。普通の鳥の雛よりも大きいが、嘴の小ささ柔らかさ、羽の生えそろっていなさからそれと分かる。
『ふむ、これは魔獣の一種だな』
『シェンシ、知っているの?』
心配気に見守っていた麒麟が鸞を見やり、目を丸くする。
『流石はシェンシ様!』
『諸書に通じておいで!』
『本の虫は伊達ではありませぬ!』
わんわん三兄弟が口々に言う。
『レンツ、門の外に出ては危ないよ。中に入って』
戦闘能力を持たない麒麟を一角獣が促す。
『でも、雛がずっと鳴いていてね。親が来ないし、この木の枝に巣がある訳でもないし』
地面から少し浮き上がっていた麒麟はその場で蹄にて空を掻く。
『じゃあ、中に持って入ろう』
『それを連れて行くのか?』
リムに鸞が怪訝な視線を向ける。
『うん、飼うの!』
『『『『『『『えっ⁈』』』』』』』
リム以外の一同が揃って目を丸くする。
『シアンがね、倒れているカランを拾ってご飯を食べさせてゆっくり休ませてあげたら元気になったの。ぼくもね、この小さいのを元気にしてあげるの!』
リムは胸を張ってふんすと鼻息を漏らす。
『し、しかし、魔獣とはいえ雛を育てるのは並大抵のものではあるまい』
『シェンシ、この小さいのが何を食べるか知らないの?』
『いや、それは知っておるが』
逆に問い返されてついつい正直に答えてしまった鸞に、リムがぱっと笑顔を弾けさせる。幻獣たちはこの笑顔に弱かった。
それは、セバスチャンも同じだった。
この笑顔のためならば、魔神の一柱や二柱、容易に狩って来ることができる。その魔神でさえもリムのためならばおおよそのことは許容してしまえるのだが。
問題はシアンだった。




