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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第四章
152/630

7.梟の王2  ~置いて行かれちゃった/差別だ!~

 


『さて、我らは花帯の君にも深謝と共に、お詫びの品をお持ちした次第です』

「いえ、僕たちもそう被害を被ったという訳ではないので」

『これからも聞いております。街の者の歓呼、期待、注視、羨望、嫉妬、そういったものを爆発させる起爆剤となったのがかの者が仕出かしたこと。なに、お持ちしたのは衣服や小物類です。お気に召したら使っていただければ良いのですよ。お気に召さなければどこぞで売却すれば、路銀の足しになるという程度にお考えいただければ』

 穏やかに、着実に相手に主張を呑み込ませる手腕は流石なものだ。

 そして、有無を言わさずどこからともなく服を取り出す。

 床板がむき出しの居間にこちらもいつの間にか台が置かれ、その上に緋色の光沢のある布が掛かっている。そこへ複数の長衣、襟付きのシャツ、ズボン、マント、といった布や革製品の他、ベルト、ブーツ、手袋、帽子、といった小物類が並ぶ。

 シアンに断り、ディーノが喫茶したテーブルを壁際に寄せる。手伝おうとするのを笑顔で断られる。

『わあ、いっぱいだね! シアン、着るの?』

『ぜひ、御手に取ってみてください』

 リムが突然現れた衣服や小物にはしゃぎ、梟の王がにこやかな口元で勧める。触ってみると見た目だけではない品質の良さが知れる。

「すごいな。縫製も糸が見えない。品質も逸品ですね。でも、僕は外で活動するので服を大事にすることは二の次になってしまうし、折角なので、深遠に着てもらいたいな」

 後者は独り言になった。

 闇の精霊に、と願ったのは、多少なりとも彼らの気持ちを受け取ってやれば、彼らの傾倒を少し緩やかにできるのではないかと考えたからだ。


『シアンは着ないの?』

『似合いそうだよ?』

 台に両前足をかけたリムが小首を傾げてシアンを見上げる。もちろん、後ろ脚は床につかないので、中空で浮かんでいる。

 その傍らで、こちらもいつの間に現れたのか、黒い楕円形の姿を取った闇の精霊が同じような仕草で小首を傾げる。首も顔もないが、天辺あたりが少し傾いでいる。リムと並んで浮かんでいる様は微笑みを誘う。

 魔族としてはそれどころではなかった。

『……っ‼』

「…………っ‼」

 梟の王とディーノが息を飲み硬直する。立ち直りは前者の方が早かった。突っ立ったままのディーノの腕を引っ張り、壁際に後退して額ずく。

 その様子から、恐らく立ち上がるよう声を掛けても無駄だろうと察する。

 シアンは現実世界で飾り立てられるのにややうんざりしていたにもかかわらず、闇の精霊に着せたいと押し付けるのも悪いかなと考えつつ口意を開く。

「外で活動していたらどうしてもあちこち引っ掛けるし、料理もするからね。こんなに良い生地に綺麗なデザインなんだもの。何となく、深遠に似合いそうだな、と思ったんだよ。深遠が着替えるのに興味がないなら別に構わないんだよ。あれこれ着せ替えされるのも大変だろうしね」

『ううん、そんなことはないよ』


 シアンと闇の精霊のやり取りを眺めていたリムが、台の上に置いていたブローチを指し示す。

『これ、深遠に似合いそう!』

「本当だね。黒い中にきらきら粒が光って入る。今の深遠の姿にちょっと似ているね」

 黒い石を中央にはめ込み、その周囲を楕円形に精緻な彫刻で彩るブローチに、シアンも声を弾ませる。

『じゃあ、着てみようかな?』

 リムとシアンに感化されたように闇の精霊も楽し気だ。

「いいの? 花帯はどうしようか?」

『大丈夫。ちゃんと取っておくし、またつけられる』

 闇の精霊も楕円形の体の斜め上をちょんと伸ばして保証する。リムがよくする前足を掲げる仕草に似ており、シアンはため息交じりに笑う。

「ふふ、そうなんだ。じゃあ、どれを着ようか。よく見かける貫頭衣の下にズボンを履いてベルトとマント、かな? シャツにベストでも似合いそうだね」


『シアン、これは?』

 ティオが嘴でこれ、と複数のマントの中から一枚を抜き出す。

「あ、綺麗な紺青だね。深みのある青、落ち着いた色だね。もっと深い色で刺繍がされているところもいいな。深遠、これはどう?」

『うん、綺麗な色だね』

 闇の精霊も気に入った様子で、ティオとリムが顔を見合わせてうふふと笑い合う。


「多分、魔族の方がそれぞれ得意分野で作ってくれたんだろうから、一式身に着けてほしいな。それとも、あまり装飾はない方が良い?」

『深遠、似合うのをいっぱいつけよう!』

「リム、全体的にバランスが取れるようにしようね」

『色を統一させたらごちゃごちゃして見えないんじゃないかな』

「ティオの言う通りだと思うよ」

 そんな風にして、あれこれと言い合いながら闇の精霊の着る服を決めていく。

 もちろん、シアンにと用意された服は人間が着るものだ。闇の精霊にも人型を取ってもらい、着替えさせる。といっても、一瞬で身に着けることができる。

 楕円形の黒い柔らかい体が一瞬僅かに縮んだかと思うと、内包する輝きの無数の粒子が一際光り、するりと滑らかな動きで人型を取る。


『深遠、格好良いね!』

『うん、よく似合っているね』

 リムがはしゃいで闇の精霊の周囲をらせん状に飛び回り、ティオも二、三度頷く。

 闇の精霊は面はゆそうに微笑む。

「深遠、ちょっと髪型も変えようか」

『あ、でも、リムが似合いそうだからって摘んでくれた花だから』

「じゃあ、花飾りはまた挿そうね」

『うん』

 闇の精霊を腰掛けさせ、緩めに編んだ髪をほどき、前髪だけを前に垂らして、残りは後頭部で一括りにし、結び目に花を飾る。


「はい、できました。じゃあ、もう一度立ってみてくれる?」

 シアンに言われるまま座ったり立ったりをする闇の精霊は、どう、という風に小首を傾げる。

「ふふ、よく似合うよ。あ、ねえ、リム、深遠の肩に乗ってみて」

『いいよー』

 つい、と弧を描いてそのまま闇の精霊のマントを纏った肩に着地する。ふるふると羽根を二、三度震わし、細い体に沿って畳む。闇の精霊が顔の角度を変えて、それを見やる。切れ長の目が伏せられ、長い睫毛が影を彩る。

「わあ、竜の貴公子、って感じだね!」

 思わず、一連の流れにシアンは感嘆の声を上げる。

 もちろん、欲目であることは自覚している。リムは大きくなるまでは殆どの者がどの種の幻獣か分からないままであったのだから。


『おお……』

 他でも起きた感嘆の声に、ようやくディーノと梟の王の存在を思い出す。

「すみません、勝手に頂いた服を他の者に着せてしまって」

『いえ、いえ……、お好きなようになさってくださいと申し上げたのはこちらです。それが、思いもかけぬ眼福を……っ!』

 感極まった様子である。

 顔を伏した状態でも見ることができるのは流石と言おうか。

 ディーノと言えば、まだ固まったままの状態で、息をするのを忘れていやしないか心配になる。

「では、不躾なお願いではありますが、このまま、深遠にあげてしまっても宜しいでしょうか?」

『もちろんでございます! 異論がございますでしょうや!』

 勢い込んで言われ、双方喜んでもらえた仕儀と相成り、良かったのだと胸をなでおろす。

「深遠も、気が向いたら着てみてね。服装が変われば気分も変わるかもしれないよ」

『うん、そうだね。君たちと共に在るようになって、色々試してみる気持ちになったよ』

『ぼくもね、深遠と一緒に美味しい物食べるの、楽しいよ!』

 リムの楽し気な声に、ティオも同調する。

『ぼくも。あと、皆と音楽をするのも楽しい』


『あ、そうだ、深遠と美味しい物を食べるので思い出した!』

 リムが急に声を上げ、マジックバッグからワインボトルを取り出した。

『カラムがね、大地と光の恵みをたっぷり受けたブドウで作ったんだって! 美味しいワインができたって言っていたから、深遠に飲ませてあげようと思っていたの』

 カラムの農場でここ最近天候に恵まれ、その農作物によって作ったワインを、希少価値が高いものが好きな闇の精霊の姉の方に飲ませたいとリムは言う。精霊の好みを覚えていて、手に入れたものを簡単に上げてしまうリムは、精霊に可愛がられるのも無理はない。

「カラムさんから? いつ貰ったの?」

『ちょっと前! マジックバッグに入れたまま忘れちゃってたの。シアンが魔族におもてなしするって言ったから思い出したの。カラムがね、良いワインだからおもてなしにぴったりだって! ぼくも深遠をおもてなし、する!』

 後ろ脚立ちし、胸を張って気炎を吐くリムにどう説明すれば良いか思考を巡らせる。

 シアンにとって既に闇の精霊は身内だ。客の前で身内をもてなすというのは礼儀に適っていない心持ちになる。

「そうなんだ。きっと深遠も喜ぶよ。でもね、今はお客様をお迎えしているから、その方の前で違う方をおもてなしするという話は失礼になるから、しちゃ駄目だよ」

『ダメなの?』

 闇の精霊のために、と弾んでいた気持ちが萎むのと比例して、への字口が急角度になる。眦の毛も力なく垂れる。


『奏上しても宜しいでしょうか?』

「すみません、お待たせしてしまって」

 客人そっちのけで内輪の話をしたことをシアンが謝罪する。

『ご配慮ありがとうございます。しかし、わたくしどもは闇の君がお喜びになることが第一でございます。黒白の獣の君が闇の君の御為になさることを見聞きすることができて、この上ないもてなしを頂戴した心地です』

 発言内容と裏付ける喜悦の表情を浮かべており、声音にも相違はなさそうだ。当人がそれで良いと言っているのだ。シアンには自分の心遣いを無にされたという発想はない。

「わかりました。そういうことでしたら」

 シアンはリムの方を向いて笑う。

「リム、魔族の方がリムが深遠のためにしてくれるのが嬉しいんだって。深遠が喜んでくれると良いね」

『うん!』


『では、頂こうかしら』

 艶やかで深みのある声に振り向くと、闇の精霊が様変わりしていた。黒い長髪が波打ち、白い肌に深紅の唇、黒い裾の長いドレスは大きく開いた胸元は首までレースで飾られていた。体に沿ったワンピースも形が異なっている。

 姉の方は着衣にバリエーションがあるようだ。

『ふふ、おチビちゃんが大事に大事に取っておいてくれたワインね』

 赤い長い爪がワインボトルを撫でる。唇が弧を描き、優雅な仕草で着席する。いつの間にか、衣服や小物が乗った台とテーブルセットの位置が逆転していた。

『今すぐ飲みたいわ。そこの、このワインを開けて頂戴』

『はっ』

 後半は誰に向けての言葉か分からなかったが、すぐさま梟の王が答える。

 どこからか取り出したワインオープナーの他、デキャンタにグラスが並ぶ。

 非常に丁寧な仕草で、そこだけ別世界である。

 呆気に取られていたシアンは我に返って提案する。

「深遠、チーズとかつまみになりそうなものを作ろうか? 簡単なものならそう待たせることはないよ」

『あら、嬉しいわ。折角だから、シアンも一緒に頂きましょうよ』

『ぼくも深遠をおもてなし!』

「ふふ、じゃあ、一緒に手伝ってくれる?」

「キュア!」

 二人で連れ立って厨房へと向かう。

「キュィ……」

 女王様と恭しく仕える下僕の別世界に取り残されたティオが、戸惑った風で情けない鳴き声を上げた。なお、ディーノは部屋の片隅で置物と化していた。



『闇の君の姉君とは幾度かお会いしたことがあるのです』

「そうなんですか」

 ソムリエ然とした梟の王にシアンは頷いた。

 リムはスライストマトとバジル、チーズを交互に配した赤、緑、白の色鮮やかなつまみを食べていた。味付けはオリーブオイルに塩コショウのみで、トマトの甘みと酸味をチーズの柔らかい食感とコク、そしてバジルがアクセントとなっている。

 ティオは生ハムでチーズと大葉を巻いたものを食べている。こちらも味付けはオリーブオイルにブラックペッパーだ。

『あら、美味しいわ。初めて味わう味ね』

「それは、すりおろしたニンニクに醤油とバターを入れたものをパンに塗って焼いて、クリームチーズを挟んでいるんだよ」

 ニンニクとオリーブオイルの組み合わせは闇の精霊も口にしたことがあるだろうが、醤油が加わるとまた味わいが異なって来るのだろう。

『ここに出されたものはクリームチーズばかりね』

『ジョンの農場で貰って来たチーズだよ!』

『トマトと生ハムはこの村のだよ』

 リムがぴっと前脚を上げて宣言し、ティオが補足する。ティオは大分、他の精霊にも馴れてきた様子で、自ら話しかけるようになっている。光の精霊はまだ少し苦手としている風情だ。

「そして、ワインはカラムさんの作品だよ」

『ほほ、精霊王どもがこぞってあなたたちのために食料品作成に傾注しているのね』

 ワイングラスの細い足を撫でながら、闇の精霊が笑い声をあげる。

「ふふ、おかげで、こうやって深遠と美味しい物を楽しめているんだよ」

『まっ……!』

 シアンがただ単に美味しい物を食べられるのだけでなく、精霊たちと分かち合うことが嬉しいし、だから感謝しているのだと言うと、闇の精霊が絶句する。やや頬を染めているのは酔いが回ったせいか。

 この場に九尾がいたならば、シアンが精霊たちに率先してあれこれしてもらえる理由がこれだとでも言ったかもしれない。


『あら、残念、もうワインがないわ』

『またカラムから貰って来るね!』

『ありがとう、楽しみに待っているわ』

「楽しみが増えたね。深遠のお姉さんの方とはまたワインをご一緒することと、弟さんの方とはそうだなあ、あの衣装を着て、一緒にお茶してもらおうか」

『うん! シアン、またリンゴのお菓子、作ってくれる?』

「そうだね」

『ぼくも手伝いたい……』

「お菓子はティオが狩りの獲物と交換してくれたリンゴやバターや卵で作っているんだものね」

『『うん!』』

 シアンたちのやり取りを莞爾として眺めている闇の精霊の手にはワインが注がれたグラスがあった。

 テーブルにはワインボトルが三本増えている。うち、一本は既に空になっている。

 無言で梟の王を見やれば、恭しく胸と腹の間に腕を掲げて軽く一礼して見せる。

「深遠、大丈夫? さっき顔が赤くなっていたみたいだよ」

『あら、心配してくれるの?』

「……平気そうだね」

『ふふ、弟君がお変わり遊ばしたのも分かるわ。シアンとリムが可愛い、彼と共にある幻獣たちも可愛い。歌と踊りと食事が楽しい。ともに分かち合うことが嬉しい。彼らに力を与えることが喜びだと仰っていたわ』

 これからも宜しくね、と言い置いて、闇の精霊は去って行った。その言葉に、梟の王が息を飲み、シアンが気を取られている間に。



 まるで台風一過、残ったワインを梟の王と呑みながら聞かれるままに旅の話をする。

『そうですか、ティオ様も入浴されるのですね』

 リムがグリフォンの巨躯を洗ってやり、共に湯に入ったことを楽し気に話すと、梟の王が感心して頷く。

『ティオ、お風呂好きだものね!』

『リムも好きだものね』

『うん!』

 うふふ、と笑い合う幻獣たちに一つ頷き、居住まいを正して梟の王が口を開く。

『花帯の君には何もお渡しできなかったので、せめてものお詫びと心ばかりの礼としまして、住居をこちらで用意したいと思います。つきましては、ご要望をお聞かせ願えますでしょうか? 館には大きな浴場を用意しましょう』

 今の話を踏まえて、というところだろうが、とんでもないことである。館という表現に嫌な予感がする。

「いえ、もう頂いたので」

『それは闇の君への献上物と相成りました。花帯の君にもぜひお受け取りいただきたい。もともと、貴方様へのお詫びの品ですので』

 闇の精霊が去り、ようやく活動し始めたディーノが口を開く。

「親しくされている錬金術師の工房も使えなくなるのでしょう。ならば、工房つきの住居をご用意しますよ、広い庭もあれば、ティオ様もゆっくり羽根を伸ばせますし」

 そう、ディーノの言う通り、ティオは出会った頃よりも大きくなっている。常に一緒にいたので最近になってようやく気づいたのだ。もしかすると、フラッシュの広い庭でも窮屈だったのかもしれない。

 工房、広い庭、大きい風呂、と気持ちが揺れる。

 自分の不注意でフラッシュも住み慣れた工房を手放すことになるかもしれないのだ。彼女自身は活動拠点が変わったのだから仕方がないことだと言っていたが。

「黒白の獣の君もじきに大きくなられる機会が増えますのに、狭い場所では翼を伸ばすこともかなわず。お可哀想です」

 そう言われてしまえば頷かずにはいられない。

 シアンは失念していた。リムが大きくなった際には相当なものだと。それが翼を広げられる場所というのは相応に広々した空間なのだということを。

「では、そういった家を見つけたら売ってくれる、というので十分です」

『譲渡に関してはまたその時お話ししましょう』

 梟の王は結局、シアンが金銭を支払うことについて、言質を取られることはなかった。



『いやはや、よもや、闇の君の御二方の御尊顔を拝し奉ることが叶うとは』

「黒白の獣の君もそうですが、花帯の君も闇の君とあれほど親しくされているとは」

 どちらの闇の精霊もどこかシアンに甘える風さえも感じられた。

『幻獣のしもべ団、か』

 突然呟いた単語に、ディーノは音がするほどの勢いで梟の王を振り返る。一瞬間声が出ない。

「いやいやいや、駄目ですからね?」

『貴様、不敬ぞ』

「そうです、俺風情が不敬です。だって、貴方は魔神なのですよ? 闇の上位神、人から人ならざる者になったんです」

 ディーノはまさしく魔族であり、花帯の君を最優先した。それは、神々の中でも上位存在となったほどの者が相手であろうと、優先すべきはシアンだ。

『元人間だから構わぬだろう』

「いやいやいやいや、無理です。幻獣のしもべ団団員にはなれませんからね?」

 絶対に居心地が悪い。無論、団員である人間や人型異類のしもべ団団員たちがだ。

 恐ろしいことに、魔神と呼ばれる闇の上位神たちは十柱いる。一柱で済むものか。恐らく、いや間違いなく全員団員になりたがるだろう。

 黒白の獣の君だけでなく、グリフォンなどの幻獣と戯れる花帯の君たちの間に漂う柔らかな雰囲気は、確かに、精霊王たちの心を癒すほどのものなのだ。ディーノだってなれるものならしもべ団団員になりたい。

 しかし、ディーノの渾身の否定を梟の王は聞いていない風情だ。

『貴様、幻獣のしもべ団の団員条件を調べて参れ』

「いや、やめてあげて?」

 そのやり取りをシアンが知れば、心の底から感謝しただろう。ディーノはそうして、辛くも魔族がすべからく入団したがるという仕儀を水際で防いだのだ。

 心情的には二百万人の魔族が準団員であった。

『神だからって差別よな』

 それは上位神も区別なく、全ての魔族、であった。



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