第7話:友達作り2
放課後。
二度目の放課後活動だ。
私と愛那は授業が終わるとすぐに相談室に向かった。
相談室の中には昨日と同様佐倉先生がソファーで寝ていた。
たった2回の出来事なのに私達を驚かせなくするのがこの先生のすごいとこだ。
いや、ダメなところだ。
「おっさん邪魔だって、委員会するんだから。」
「…ん?なんだお前ら、何して…あぁ委員会か。大丈夫、俺はいないものとして活動していいぞ。」
そう言うとソファーにうつ伏せになり返事をしなくなった。
教師に向いてない。
「ちょ!ほんとに邪魔だって!起きろよ!!」
愛那が体を足で揺するが反応がない。
「いいよ愛那。今日はここに長くいないから置いておこう。」
これから紗那の案でもある部活動への入部を手伝うわけだから、この部屋を使うことはないだろう。
こんな人にエネルギーは使わない。
後で他の先生に伝えておこう。
「ごめん、遅くなった。皆そろって…うお!誰だこのおっさん!?」
紗那が遅れて相談室に来る。
「あぁ、数学の先生か。話には聞いてたけど本当にダメ人間なんだな。」
ダメ人間は寝息を立てている。
鼾でないだけましだ。
ソファーが一つ使えないから、臨時のパイプ椅子を出して私がそこに、愛那と紗那がもう一つのソファーに座る。
私達はどこの部活に入部させるかを話し合うことにした。
運動部はないとして文化部をメインに考えを巡らせる。
紗那は部活のリストを職員室へもらいに行っていたようで、これが遅れた理由だった。
「私は美術部なんていいと思う。多く話さなくてもいいし、話したいときはたくさん話せるしな。2人は?」
「私はいいと思うよ。愛那は?」
「う~ん。吹奏楽…は難しそうだしなぁ。園芸部なんかもよさそうじゃない?」
結局いくつか候補を挙げて、巡川に決めてもらうことにした。
もちろん候補は全て回ってみるつもりだが。
話したところ、候補は美術部、園芸部、手芸部、一応の吹奏楽部の4つに決まった。
後は巡川と見て回るだけ。
なのだが。
放課後になって20分が過ぎた。
さすがに遅すぎる。
「おそいな~。昼休みごたごたしてたし、忘れて帰っちゃったのかな?」
「それはないと思うな、別れるときは冷静そうだったし。ちょっと学校内探してみる?」
「そうだな。もしかしたら先生に呼び出されてた、とかかもしれないし、体調崩して保健室にいるのかもしれない。」
私達はパイプ椅子を部屋の隅に片づけ相談室を出た。
正確には出るためにドアを開けた。
そこで私達の足が止まる。
そこには1枚の折りたたまれた紙が落ちていた。
というよりドアに挟んでたようだ。
紙を開いてその内容を読む。
その内容は以下の通りだ。
渡辺愛那 橘紗那 渡辺愛華
お前達の大事な大事な1年生のかわいい相談者は預からせてもらった。
今のところは何もしてない。
でもこれからはどうなるかは保証できない。
お前ら以外には誰にも言うなよ。
体育館で待つ。
以上内容。
差出人は書いていないが3人全員が理解した。
3年の不良グループ。
それに手紙には私の名前も書かれている。
噂のせいで私にも興味がわいている証拠だ。
私自身はけんかなんてできないのだが。
ずっと黙っている愛那と紗那の顔を見る。
やはり2人はこの上なく怒った顔をしていた。
「あんまりイラつかせてくれんなよあいつら。どうする?先生とかに言うか?」
舌打ちしながら紗那が言う。
「いや、何をするか分かんないし、それにここではっきり終わらせとかないと、何度も同じことが繰り返される。愛華はここに残ってていいよ。私達でケリつけてくるから。」
愛那は気を使って私を相談室に残そうとする。
「…うん。そうだね。私は残ってるから2人でお願い。」
私はけんかなんてできないし、参加したところで何も言える自信はない。
それに、あくまでこれは委員会活動だ。
できる範囲のこと以上は私はしない。
それに、変に関わってしまって巡川と今以上の関係を築くのも嫌だ。
忘れているかもしれないが私は他人とはこれ以上関わりたくない。
今回の件が終わったら相談室に人が来ても簡単に話を聞くだけですぐに追い返そう。
いや、そもそももう相談者なんて来ないかもしれない。
それに、今私が体育館に行って今度こそ誰かに見られたら噂は真実になってしまう。
それに、…あぁ、言い訳ばかりしているな私。
「それじゃあ行ってくるから。」
2人は勢いよく飛び出し体育館へ向かった。
残された私はソファーに座る。
残されたものは何をすればいいんだろうか。
愛那も紗那もいなくて、私だけ。
中学の時みたいだ。
とりあえず昨日飲んだアールグレイを飲もうとポットに水を入れに行く。
帰ってきてポットを動かし、紙コップとアールグレイを準備する。
「…他の2人はどうしたんだ?」
いきなりでびっくりした。
その声は、いないものとして扱っていた佐倉先生だった。
いつから起きていたのかわからない。
手紙のことを知っているのだろうか。
仮にも教師だから知ってしまえば対応しようとするだろう。
「…いつから起きてたんです?」
「お前が出てった音で起きたけど、なんかあったのか?」
一応バレてはないみたいでよかった。
佐倉先生なら言ったところで何もしそうにないのだが。
「いや、何にもなかったです。2人は委員会のことで外に行きました。」
あまりにも嘘をつくと後で何か言われたらめんどうなので、あたりさわりのないことを言った。
それにこの人ならつっこんできたりしないだろう。
「あ、そう。お前は行かねぇの?」
つっこんできた。
「私は…行ってもやることがないというか、何もできないので。」
「そうか。…仲間外れにされたんだな。」
佐倉先生は小さく笑いながら言った。
意外な言葉に少しムッとした。
「仲間はずれになんて…されてないですよ。」
普段なら歯向かわないが、なぜかこの人には歯向かえた。
ダメ人間だからだろうか。
「だったら行って来いよ、何もできないなんて何もしてない奴が言うことだぜ。根拠は俺がよく使うってとこだな。「何もできない」じゃなくて「何もできなかった」って言えるようにしろよ。経験したことに価値があるんだから。」
説得力がある言葉だった。
かなり。
根拠のところが。
少しふざけてはいたが、なかなか良いことを言っていた気がする。
でも、じゃあ私も行こう、とはならない。
結局参加すること自体私の度胸じゃできないから。
「そうですね。…じゃあもし先生だったら、行ってもしょうがないところに行きたいけど、行けない理由がそこにあるとしたらどうしますか?」
今日はいつになく口が動く。
自分でも驚きだ。
「俺だったら?行かねぇよ、めんどいし。」
やっぱりこの人に何か聞いてもダメか。
いや、聞いた時からうすうす気づいていた。
だが、続けて佐倉先生は言った。
「でも、お前は俺じゃねぇだろ?お前が行きたいなら行ってこい。できることはそこで探せ。」
そう言われて始めて気付いた。
私は、あの3人を助けたかったのだ。
巡川を人質に愛那と紗那がどんな目に合うかはわからないが無事ではないことは容易に想像できたはずだ。
もちろんそれはあの2人もわかっている。
それでも進んだ彼女達を私は手伝いたかった、助けたかったのだ。
「ありがとうございます。…私用事を思い出したので、これで失礼します。」
「おお。行ってら。…あ、あとここにいることは先生には内緒にしてくれよな。へへっ。」
最後のあたりは無視して相談室を出た。
私は体育館を目指す。
と同時に思った。
そういえば佐倉先生もいつになく口が動いていたな。
私の顔に出てたのだろうか。
いや、あの人はただ1人になって寝たかっただけだ。
相変わらずクズ人間だ。
見直しかけた私が恥ずかしい。
教師をやめた方がいい。
私の中で1つの結論に達し、体育館に行く前に通り道にある職員室に向かった。
体育館に着いた私は外から様子を見るために窓を探す。
そういえば部活はやってないのか?と思ったが案の定部活はしている。
とすると体育館の中でもステージ裏にいる可能性が高い。
体育館の外からステージ側に回り込む。
ステージ裏当たりの壁の高い位置に窓が3つほどついていて、その窓の下には用具用の倉庫があった。
窓は2つ割れていた。
少し迷ったけどここにしか窓はないから倉庫を登って中を伺う。
はたから見るとこんなところを登るのは不良くらいだろう。
中には案の定3年の先輩と巡川、愛那、紗那がいた。
3年生は6人ほどの人数がいて内3人が私達と同じ阿原高校の制服、他3人は3人とも同じ他校の制服を着ていた。
このために他校からわざわざ来たのだろうか。
どこの学校かは分からないけどご苦労なことだ。
一触即発で互いににらみ合っている状況。
巡川は一人の3年生に両腕を背中で拘束されていて、涙で顔はぐしゃぐしゃだ。
一刻の猶予もなさそう。
ここに来るまでずっと考えていたが本格的に状況を見て考えを確実にしていく。
1つは3人を助けること。
1つは私がいたことを気づかれないこと。
1つは今後何もされないようにすること。
1つは私と巡川の関係を維持できること。
これら全てを満たす案を考える。
考えながら3年の先輩の一番リーダーっぽい人を見て何か気になった。
あの人、どこかで見たことがあるような。
数秒後、私は考えをまとめて動き出した。
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愛華が到着する数分前。
愛那と紗那は体育館へ走りながらどうするかを話す。
「私は一度体育館の全体を見て回ってるからわかるけど、放課後のこの時間ならステージの裏であいつらは待ってると思う。そこなら外の倉庫から中の様子を見れるはずだ。」
「おっけ。分かった。早くそこに行くよ。」
だんだんとスピードに乗る2人。
体育館に着くと外から裏に回り込み倉庫を登って中の様子を見る。
案の定そこには3年の先輩と巡川がいた。
「…ッチ。冗談だったらまだ救いようがあったけどな。」
「状況は分かったよ。体育館の中からは入れないから…外のドアから入ろうか。」
愛那は拳を握りしめながら、それでも冷静に言った。
「相手は6人。どうする?巡川もいるし。下手に入っていっても何もできないかもしれない。」
6人はそれぞれがケータイをいじったりだべったりして巡川は放置している。
しかしリーダーっぽい女は巡川のそばを離れようとしない。
私達が入った瞬間に拘束できるようにしている。
「いい案があるよ。」
愛那がアイコンタクトで紗那に伝える。
「私もいい案だと思うよ。」
紗那は倉庫の上から降りバスケットボールを二つ手に取る。
もう一度倉庫に上ってボールを一つ愛那に渡し―
「行きますか!!!」
2人でバスケットボールを使って同時に窓ガラスを割って飛び込んだ。
そこそこ高いけど靴だし、長そでだし、ガラスによるけがは心配してない。
着地をして2人は一気に巡川に飛びつく。
3年の不良達は案の定驚いたようで反応が鈍い。
巡川に愛那の手が触れる直前、その時、リーダー的女の手が愛那の腕をつかむ。
紗那は顔に蹴りを入れられて反対方向に飛ばされる。
愛那は掴まれた腕をそのまま背負い投げされ紗那と同じ方向に飛ばされた。
2人はすぐに起き上がるが動きが止まる。
すでに他の不良達は冷静にこちらを囲んでいた。
「紗那、ごめん。この人結構強いわ。」
「いいよ、それよりどうすっかな。」
苦笑いを浮かべながら現状に対して集中する。
万事休す。
囲まれた状態でリーダー的女が口を開く
「よぉ。1年共。ん?もう一人呼んだはずなんだが、まぁそいつはおまけみたいなもんだったし、どうでもいいや。お前ら入学式の時はどうも。おかげで3日間停学食らっちまったよ、ハハハ。笑えねんだけどな。ところでお前ら、中学の時は散々名前が売れてたらしいなぁ。わざわざこんな遠くの学校に通ってまで身バレするなんてかわいそうだなぁ。それでもこっちにも噂はあったぜ?ロングヘアの名前も知らない中学生が急に抗争に参加したとかな。あれもお前らのことか?まぁどっちでもいいけど。」
淡々と話した後、話を本題へもっていく。
「さて、それじゃあ単刀直入に言うが、私らの傘下に入ってもらう。名も売れてるし、私もグループを大きくしたいんでね。あぁ、先に言っとくんだった。お前らに拒否権はない。嫌なら入るっていうまでは何するかは分かんないけどな?」
そういいながら巡川をグイと自分の方に寄せる。
言い終わると同時に全員がヘラヘラ笑いだす。
不良ってこういう感じの時ほんとに笑うのだ。
愛那は紗那を見ることもなく答えた。
紗那も同時に言う。
「誰が入るか、ばーか!!」
「交渉決裂、いや交渉ではなく命令か。命令決裂だ。お前らやれ。」
じりじりと近寄ってくる周りの人達。
手が出せない絶対的不利な状況下。
紗那は考えながら愛那の顔色を見る。
同じく険しい顔をする愛那。
一人が愛那をビンタする。
それを見た紗那はキレかけたがこらえて紗那もビンタを食らう。
目で睨むことしかできない紗那。
いっせいに5人の不良に囲まれながら殴る蹴るをされ2人は地面に倒れていった。
「入りたくなったらいつでも言えよ~。ハハハッ。」
紗那は今にもブチ切れそうだ。
「…クソッ。」
小さくつぶやいた紗那の言葉もかき消すように罵声と暴行が続く。
愛那は何も言わずにただ耐えている。
しかし、わずかに笑みを浮かべていた。