第6話:友達作り1
朝6時に目覚ましが鳴り、すぐに止めて起き上がる。
紗那と愛那はまだ寝ているが、私が少し早く出るからであって、もう少し寝ていても差し支えはない。
母も8時くらいに起きて仕事に行くから、まだ寝ている。
起きて顔を洗い、歯を磨き、寝ぼけ眼をこすりながらトーストを1枚焼き、ベーコン付きの目玉焼きを作る。
4人分の目玉焼きを大きめのフライパンで作りながらテレビのニュースを見る。
5月になりそうなこの時期の日の出は6時前には始まっていて、外からは低い太陽の日差しが部屋を明るくする。
外からの音はほとんどなくニュースキャスターの声と番組のBGM、目玉焼きを作る音と、トースターの音だけが部屋に響いていた。
「おはよう愛華。」
突然の声にびっくりした。
紗那と愛那が起きてリビングへ来た。
紗那はあくびをしながらでも起きている感じだが、愛那は寝ながら来た感じだ。
「おはよう紗那、愛那。今日は早いね、びっくりした。」
「昨日結局寝ちゃったしな。早く起きて決めようと思って。」
「そっか。…愛那、寝てるんだったら無理やり連れてこなくてもよかったよ?」
見ると愛那は紗那が担いで連れてきていた。
起きなかったんだろう。
「いいのいいの、こいつはこの辺に置いとけば寝づらくて起きるだろ。」
そういって愛那を床に横たわらせた。
と言うより落とした。
「朝ごはんできたから、トーストは自分でお願いしていい?」
目玉焼きをお皿に移し、それをテーブルに持っていく。
冷蔵庫からレタスも出して朝ごはんの準備を終えた。
紗那は自分と愛那の分のトーストを準備し、その間に顔を洗い、歯を磨きに行った。
もちろんまだ寝ている愛那を無理やり連れて行って。
私はトーストの上にレタス、目玉焼きを乗せ食べる。
さながらそれはラピュタの様に。
私はトースト1枚に対して、紗那と愛那はトースト2,3枚は食べる。
1台のトースターで2枚しか焼けないので、焼ける度に私が追加で焼いてあげた。
「うわぁぁぁああ!何!?水!?」
どうやら紗那が無理矢理愛那の顔を洗ったようだ。
ひと悶着あったようだが、状況を把握した愛那はおとなしく歯を磨きだした。
愛那と紗那が来る頃には朝ごはんを食べ終わり、私は食器を洗っていた。
「愛華おはよ~。あんなことしないでも起こしてくれればよかったのに。」
「何度も声かけたけど起きなかったんだからしょうがないだろ。早くしないと愛華でて行っちゃうぞ?」
「2人ともゆっくりでいいよ、私は今日はゆっくり行ってもいいから。」
2人が慣れない早起きまでしたのだ。
私も少しは応えてあげる。
「いや!急ぐよ私は!出遅れたけどね!!紗那もほら、早く!」
「誰のせいで時間食ったんだよ!愛華、先に準備しときな、追いつくから。」
2人はスゴイ速さで朝ごはんを食べる。
私は言葉に甘えて歯を磨き、寝癖を直して、制服に着替えた。
2人の準備が終わるまでリビングでテレビを見ながら少しの間ゆっくりする。
「準備できたよ!行ける!」
紗那は髪を縛り上着のボタンを閉めながら、愛那は上着を手に持ちシャツを着ながら言った。
完全に準備が出来てない2人に笑い、私は鞄を持って3人一緒に玄関を出た。
3人で出るなんて何年ぶりだろうか。
今日1日だけでも頑張ろうと心に決めた。
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私達は途中のコンビニで昼ご飯を買って学校へ向かった。
お昼はいつも朝作るか、面倒くさかったら買うかのどちらかだ。
学校に着いたのは8時過ぎたくらいで、SHRが始まるのは8時40分なのでまだ時間はある。
運動部の朝練の人以外はまだあまり来てない時間だ。
私達は相談室に行き、今日の作戦…活動について話す。
活動はこんな感じで決まった。
昼休みに外で食べているおとなしそうな少数グループ(2,3人)にお弁当を一緒に食べないかと誘ってみる。
上手くしゃべれるように遠くからサポートする。
といった感じだ。
本当は一緒に会話に参加するのがいいのだが、私達がいると怯えさせかねない。
「とりあえず昼休みは1回相談室に集合する?」
「そうだね。あと、巡川さんが昼ごはん食べる前に連れ出さないといけないから、誰が連れ出す?」
「はい!私がやるよ!言い出しっぺだしね!」
はりきって愛那が手を挙げる。
確実にまずい。
「…紗那、できそう?」
「おっけー、まかせといて!」
「ちょ!!なんでダメなんだ!?もうビビらないはずでしょ!?」
「どっからそんな自信出るんだ…。私が行くから2人は相談室で待ってて。」
やることも決まったし、あとは昼休みにうまくいくかどうかだ。
2週間目にして私の最後の大仕事(勝手に言ってるだけ)が始まる。
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昼休み。
私は授業の終わりと同時にお弁当を持って相談室に向かう。
愛華も黙ってついてきている。
何を話すでもなく相談室に到着。
「…私トイレ行ってくるから。」
そう言って愛那はトイレに行き、私は相談室で今日のお弁当を食べ始める。
そろそろ紗那が巡川さんを連れてくるはずだ。
しかし5分経っても来ない。
昼休みが始まっての5分はあまりにも長い。
お昼ご飯を食べ始めるには十分な時間だ。
少し心配になってケータイを取り出し紗那に連絡をしようとしたとき相談室のドアが開いた。
入ってきたのは紗那と愛那、それとぐったりしている巡川だった。
「え?ちょ、どうしたの?」
「巡川さんを教室から呼びだしたまではよかったんだが…。」
「私は悪くない…紗那に話しかけただけなんだ…。」
話を聞くと教室から巡川さんを呼びだしたと同時に、トイレから愛那が出てきて、紗那に話しかけたところ3人がそろってしまい、昨日の耐性が抜けている巡川さんが倒れ、それを見た周りの人達が怯えだし、運ぶのにも誤解を解くにも時間がかかったという。
巡川が不良の渡辺に連れ出されたことになりかけたようだ。
紗那が弁解をしたが、どこまで信じてもらえるだろうか。
「うぅ…すみません。驚いて腰が抜けてしまって。ごめんなさい愛那さん。」
巡川は紗那におんぶされたまま言った。
巡川は身長145㎝、黒髪のショートカットで見立てだけは小さな妖精のようだ。
紗那がそこそこ高身長だからおんぶしている巡川はかなり軽そうに見える。
「いいよ。こっちこそ驚かせてごめんな。驚かせてないけど…。」
重く始まったが最初の条件はクリア。
とりあえず私達の案を伝えながら巡川の回復を待つことにした。
あと愛那の回復も。
数分後。
「…話は理解しました。ふぅ…。」
話を理解した巡川は溜息を吐いて言う。
「話し掛けるなんて無理です!!!!」
やはり、息詰まるとしたらここだと思った。
だがここをクリアしてくれないと、他に方法なんてない。
それにしても巡川が私達と話すのは流暢なのが気になる。
「じゃあ私も一緒に行くから、それならどうだ?愛那が行くよりはいいだろう?」
紗那が一緒に行くことを提案する。
確かに紗那はあまり怖い印象を持たれてないから、話しかけても大丈夫そうだ。
にしてもここまで手伝ってくれるのは意外だった。
「それなら…なんとか…。」
巡川は了承した。
話がまとまったところでまだ落ち込んでいる愛那を連れて、私達は外に出た。
まずは外で食べているグループを探す。
そこそこ時間が経っているがまだ昼ご飯を食べてる頃だろう。
少し歩き回ったところで体育館の横にある木陰のベンチで女の子3人グループを見つける。
遠くから見る限りワイワイ系ではなくおとなし系の人達だろう。
ちなみに学年はシャツの襟部分に、学年ごとに色の違うラインが入っているので、そこを見れば分かる。
私達、今年の新入生は赤のラインで、去年(今の2年生)は青、一昨年(今の3年生)は緑だ。
2年生以上になると卒業式などで先輩からシャツをもらったりして、ラインの色がバラバラになったりするのだが(あきらかに1年じゃない人が赤のラインだったことから推測)、1年生の間はまだそんなことはないだろう。
体育館の陰に私達は残り、紗那と巡川がご飯を持ってグループに向かって行く。
巡川は初めて相談室に来た時以上にモジモジしながら、紗那に背中を押されて行った。
ここからは声は聞こえないので様子をうかがうだけだ。
紗那が話しかけて、2人共ベンチについて昼食に参戦した。
幸先よさそうだ。
「あ~、私はもっと優しくしてもらってもいいんじゃないかなって思うんだけど、ねぇ愛華~。この次は私の友達作りも手伝ってよ。」
何もできなくて暇になったのか、無駄に話しかけてくる愛那。
「うるさいよ愛那。ちゃんと見とかないといけな…ん?もう私達帰ってもいいんじゃ…。」
「あれ?なんか様子おかしくない?」
真実に気づきかけた私を愛那が遮り、指をさす方向を見た。
見ると、紗那が3年のいかにも不良と思われるような人達に絡まれていた。
周りの人は怯えている。
紗那が立ち上がり私達とは逆の方へ3年を誘導した。
その紗那の気遣いも虚しく、おとなしめグループは巡川に謝りながらそそくさと去っていく。
「あ~入学式の奴らだ、多分。私も行ってくる。愛華は巡川さん任せた。」
愛那は紗那の方へ向かい、私は巡川の下へ行く。
「巡川さん。大丈夫だった?…巡川さん?」
「……は!?それで、何の話でしたっけ?ってあれ?皆さんは?」
緊張しすぎて今我に返ったようだ。
何が起こったかも知らない感じだ。
私は怖い思いをしなかった安堵と巡川のコミュニケーション力の低さに溜息を吐いた。
状況を伝えると急に理解したのか怯えだし、私の袖を握ったまま震える。
さっきの間に巡川が仲良く話せていたらよかったのだが、後の祭りだ。
友達作りは放課後に延期するしかない。
「巡川さん、もう教室に戻ってもいいよ。私は2人の様子を見てくるから。」
「…はい、わかりました。それでは放課後にまたお願いします。」
巡川は私の顔を見て安心したのかお弁当の残りを持って教室に戻っていった。
私はまだ広げられていた紗那のお弁当を持って2人の後を追った。
するとそこには紗那と愛那2人しかいなかった。
「あれ、もう大丈夫なの?」
「あぁ、もう帰っていったよ。なんか、グループへの勧誘?みたいな感じだった。断ったけどな。」
「でもあの感じ、まだなにかしてきそうで怖いね。愛華には何もないだろうけど、もし何かあったら教えてね。」
不良グループへの勧誘。
やはりこの2人は入学式の日以降目をつけられていたのだ。
噂では愛那と私がやったことになっているが本人たちはちゃんとした事実を知っている、経験しているのだ。
そんな中流れる間違った噂を基に私に興味を持つことも十分考えられる事態だろう。
用心はするがこの2人には迷惑をかけたくないものだ。
「とりあえず、無事でよかったよ。お互いにね。巡川さんには帰ってもらって放課後また会うことにしたから。」
「すまん、私がいたばっかりに、昼休みのチャンスを棒に振ってしまった。」
「気にすんなって~。放課後は部活作戦だな!!」
気を取り直す2人に安心して、まだ食べていない昼食をさっきのベンチに戻って食べる。
あまり時間はなかったので急いで食べて、そのままそれぞれの教室へと帰った。
めんどくさい相談室の仕事は残ったままだが、仕方のないことだ。
放課後には終わらせようと心に決めて5時間目の準備をした。
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昼休みの残りの時間。
体育館の中では昼錬をする人もいれば運動を楽しんでいる人たちもいる。
体育館はそこそこ広く、コートがある部分だけに限らず、ステージの部分もかなり広い。
もちろんそれに伴って舞台裏、ステージを降りたところの裏のスペースも広い。
ただ、ここは放送機器などが置いてあるため基本立ち入り禁止のエリアである。
その空間には窓が高いところに3つほどあり、外と中へ続く二つの扉がある。
鍵はついているのだが壊れてしまっていて機能していない。
立ち入り禁止の制約はこれのせいでなくなってしまっているようなものだ。
そんな場所に数人の女生徒がたむろしている。
「金井さん、やっぱりあの1年2人、うちらのグループには入らないって言ってました。」
「…そうか。まぁいいや今までだってそういうやつには最終的に「入る」って言わせてきたんだから。何かあいつらに関する情報、集めてきたのか?」
「はい、どうやら片方は生徒委員会に入ったようで、1年の女子の相談を聞いているとか。どうします?金井さん。」
「へぇ~なるほどね。…うん、いいこと思いついた。入学式の時の借りもきっちり返さないといけないしな。全員呼び出せ。今日は忙しくなりそうだ。」
運動している人達の汗により体育館が蒸し暑くなる。
そんな蒸し暑さはステージ裏までは届くはずもなく、快適なスペースだ。
彼女達の集会は昼休みが終わってから少しの間まで続いた。