第65話:最終決戦4
「時間がないってどういうこと??」
私は愛那に尋ねる。
「…ほら、…私、死んじゃってるからさ。」
少し、いや、かなり、現実を突き付けられたような、そんな気持ちになった。
愛那は申し訳なさそうに、そう言う。
「いやいや!そんな風に気まずい顔しないで!!…私はずっと楽しかったんだから。ね?」
そうだけど。
そうなんだろうけど。
違う。
この気持ちは、どう表現すればいいんだろう。
「…ぅっく…。うぅ…っっ!」
涙が、止まらない。
「…まだ、背負ってるんだね。」
私は、もう愛那の件について負い目を感じたりするつもりはなかった。
それでもやはり、心のどこかで何かのせいにしていないと、やってられないのだ。
自分のせいにしないと、やってられないのだ。
「愛華。」
愛那が、私を抱きしめる。
「昔はこうして、愛華がよく私を大事にしてくれたよね。」
「…。」
「最近のがんばり、見てたよ。ずっと。愛華はもう一人で大丈夫だね。」
「…大丈夫じゃないよ…。私、愛那がいてくれたからここまでできたんだ。」
「そんなことないよ。ほら、皆今、愛華のために動いてくれてる。愛華の行動に、皆ついてきてくれてる。紗那だっているし、英梨だって、北条だって、原口だっている。他にも、学校の人達がきっともっと話しかけてくれる。友達もいっぱいできるよ。昔みたいに。」
「でも、愛那がいないと…。」
「私はいるよ。ずっと…」
愛那は私から一歩離れて手を広げて言う。
「私はずっとここにいるよ。なんていったって、愛華の心臓だからね!」
「…っぷ。あはは。なにそれ。」
「えぇ!?おかしなこと言ってないよ!!」
「あははは…。…なんか、懐かしくて笑っちゃった。」
懐かしい気持ちで、泣きながら笑った。
「…ねぇ愛華。」
「…?」
「私はもう、表に出ることはできないんだ。愛華の体を、これ以上好き勝手はできないからね。でも、私はずっとここにいるよ。愛華と、一緒に生きていくよ。だからさ、…寂しいことなんてないよ。」
愛那は少し泣きそうな顔をしながら微笑む。
私は、止まりかけた涙をぬぐい、それでも落ちる涙は無視した。
「…寂しいよ。どんなに強くなっても、どんなに変われても、私はきっと愛那がいないこの人生はずっと寂しいんだと思う。でも…」
私は愛那を抱きしめる。
「ぅわっとっと!!」
「私はこの…寂しい気持ちを大事にしたい…!!愛那を思う気持ちを一つも失いたく…ないぃ!!」
止まりかけた涙がまた少しずつ流れ出す。
ぬぐえない気持ちも、私の正直な気持ちなんだ。
いらないものなんて、ないのだ。
「…さすが愛華。…ありがとう。」
愛那は微笑みながら言う。
優しく私を抱きしめる。
「よし!!!愛華!!!」
愛那は私の涙をぬぐう。
「まだ、やることがあるんでしょ?みんな待ってるよ。」
「…うん。そうだ。ここにいる場合じゃない。」
「私が少し時間を稼いだからね。私ができることは愛華にもできるよ。絶対に。」
愛那が私の背中に回り込み、肩に手を当てる。
「行ってくるよ。愛那。」
「うん。行っておいで。」
愛那が、肩を押す。
「愛那、じゃあね。」
「じゃあね、愛華。」
きっと、愛那に合うのはこれで最後だ。
スゥっとその空間が薄くぼやけ始め、光に包まれるような感覚になる。
現実へと戻っていくのが分かる。
「「愛してる。」」
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「渡辺…愛那??訳の分からないこと言うな…!!」
本郷は手の届く小物を投げつけた。
愛那はそれを手で防ぐ。
「っくそ…なんであの電撃で落ちないんだよ!!」
立ち上がり、後ずさる本郷。
「…来いよ。私の妹を虐めた分…今、返してやる。」
後ずさり、棚から小さい刃物を取り出す。
「刃物でビビると思ったのか?」
「…ふっ。死ねよ!!!!」
本郷は少し笑い、刃物を振り上げ、襲い掛かってくる。
愛那は息を落ち着かせて構える。
「……ふっ!!!!!!!」
振り上げたその腕に回し蹴りを当てる。
少しジャンプして、高く、高く上げた足で蹴り上げる。
刃物が飛び、本郷も倒れそうになる。
「っく…!おらぁ!!!」
その回しの勢いで、愛那が一発。
拳を入れる。
心臓に、入れる。
「……ぁっ!!」
本郷は最初にいた机の向こうまで吹き飛んだ。
愛那はそこからも気を抜かず、構える。
「…っふ…っふっふ…あははははは!!!まんまと予想通りに動いてくれる!!!刃物にビビらない??じゃあこっちはどうだ!!!!」
本郷は右手を構える。
その手には、日本ではほとんどお目にかかることはできない、拳銃が握られていた。
「こっちに飛ばしてくれると思ったぜ。少し効いたが、それでも幾多の死線を潜ってきた私にとっては大したことないダメージだ!!!」
「…。」
「恐怖で声も出ないだろう!!!脅しじゃねぇぞ!!私はお前を殺す!!!!」
「…すごいよ…愛華。」
「あぁ??」
「…そろそろだね、後は頼むよ。」
「さっきから一人でぼそぼそと!!死ねや!!!!」
「1つだけ言っておくよ。愛華は私よりも一撃は強い。なんて言ったって2人分だからね。」
「…ッチ!!!」
引き金に指をかける本郷。
愛那はそのまま目をつぶる。
「…愛華、よろしく。」
カチッ
パァン!!!!!!!!
銃声が鳴り響く。
「!?!?」
それを、『私』は避けた。
ぎりぎりでなく、愛那が既に避けるための初期微動を行っていたから、後はそれに乗るだけだったのだ。
とにかく、私は夢の中から帰ってきたのだ。
「なっ!!!」
その勢いのまま、私は本郷に近づく。
「ありがとう愛那。」
泣きながら、私はありったけの力を籠める。
「なっ…なんでっ!!!」
「あぁああああああ!!!!!!!」
私は愛那と同じく、心臓に一撃、本気の一発を入れた。
棚にぶち当たった本郷は、棚の中身ごとその場になだれ落ちた。
もう、声を出すほどの気力もなく、本郷は完全に気絶した。
「はぁ…はぁ……。」
ドン!!!
ドアが開く。
「愛華!!!!大丈夫か??銃声がしたぞ!!」
「愛華さん!!助けに来ましたよ!」
「はぁ…紗那、英梨。…あは、終わったよ。」
私はグっと親指を立てて笑う。
「…!!!よぉおおおし!!!!!!!!」
「…っあ!鍵!!!」
全て終わったのだ。
残すは北条の部屋の鍵と、それからもう一つだけだ。
「鍵は持ってるよ、急いでやろう。…そっちは大丈夫だったの?」
「あぁ、大丈夫だったぞ。他の奴らも、戦う気力なんて全くない感じだったしな。」
英梨も紗那もグッと親指を立てて笑う。
「よし、じゃあ…。」
私は英梨に鍵を渡し、英梨は部屋の方へと走っていった。
私は本郷が持っていた銃をハンカチ越しに手に取る。
「それにしても、本当に銃を持っていたな。さすが愛華だ。予想通りだな。」
「危ない取引もしてるし、持っているとは思ってたけど、これで作戦通り動けるね。」
銃を持ったまま部屋を出て、そのすぐそばの部屋に入る。
ここは誰もいない部屋だ。
表通りに面している部屋で窓から外をうかがう。
「後は待つだけだね。」
「愛華さん!!紗那さん!!!いましたよ!!」
どうやら北条がいたらしい。
「よし!!愛華、私が行ってくるよ。あとは任せるぞ?」
「うん、大丈夫。」
しばらくして、紗那と英梨と北条が来た。
北条は意識もはっきりしており、一応は無事のようだ。
「すまなかったね、みんな。」
「北条さん。今日でもう終わらせますよ。」
「あぁ、紗那から少し聞いたよ。」
「…あ!来ましたよ!」
外を見ると、パトカーが一台来た。
「よし、行くよ。」
私は窓を開けて天井に向けて2発、発砲した。
「よし!!帰るぞ!!」
音の反響がやまぬ間に拳銃を本郷の元に戻しに行く。
そしてそのまま私達は階段を駆け下りた。
一階にて原口と合流する。
「原口さん!カメラの映像削除できましたか?」
「ばっちりです!皆さんもお疲れさまでした。さ、もう警官がオフィスの方まで来ています。応援も呼んでいるようなので急ぎましょう。」
私達は裏口から気づかれることなく出た。
そのまま私達は自転車に乗り、北条は車に乗り、私達はその場を後にした。
私達の完全勝利だ。




