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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第3章 1人の愛
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第58話:昨日の記憶

ピンポーン


インターホンが鳴って来たのは、北条と原口だった。

一緒に車で来たようだ。


「英梨と紗那は?」


「さっきもう帰るって連絡がありました。後10分くらいじゃないですかね。あ、お茶出すんでリビングでゆっくりしててください。」


北条も原口もリビングに入る。

座る前に、愛那の写真が立ててある場所に行く。

もちろん、二人とも手を合わせ、目をつぶる。

長く、長く。


それが終わって二人とも席に着く。


「そういえば、あれだけ付き合いはあったが初めて来たな。愛の家。」


「そうですよね。私も転校しなかったらもしかしたら来れたかもしれないのに。なんか不思議な感じです。」


私は湯を沸かし、来客用の紅茶を準備する。

と言っても、母の来客用であって自分たちのではないが。

もっと言えば母の来客なんてのも滅多にないのだが。


しばらくすると紗那と英梨が帰ってきた。


「ただいま~。」


「おじゃまします。」


英梨は電車賃を払ってまで本当によく来てくれる。

少し申し訳ない気持ちもあった。


「おかえりなさい。2人とも学校でどうだった?ケガの事とか。」


「あぁ、言い忘れてたな。全然大丈夫だったよ!」


そう言いながら親指を立てる。


「紗那さんのナイスアイデアでまったく大丈夫でした!」


「…そっか。」


それは本当に大丈夫なアイデアだったのか?

紗那のアイデアと言うことで少し不安でもあったが、まぁ何もないならよかった。

私のこの追加でできたケガも自己の物だと言い張ればうまくごまかせる。


「よし、じゃあ全員揃ったところで、反省会もとい、報告会といこうか。」


テーブルの席は四つしかないから、私は立っておくつもりだったが、来客である原口が気を利かして座らせてくれた。

一応の怪我人であるわけで、そこの配慮だろう。


「まぁ、ある程度の当日の話は紗那と英梨から聞いているんだが、まずは私達の方の話だ。」


そう言って原口に目をやる北条。


「私の方は相も変わらず情報収集をしてたんですが、今回のでかなり決定打になりそうなものを見つけました。」


そう言いながら鞄からスマホを取り出し、画面を見せる。

原口がまとめたドキュメントのようだ。


「私が見つけたのは取引相手の情報一覧です。全部ここらの麻薬売買組織やヤクザです。」


「すごいなっ。どうやってこんな情報持ってくるんだ??」


「やり取りをしているメールアカウントをハックしたりとかなんですけど…。あまりいいことはしてないですよ。…あ!もちろんこんなことでしかしてないですからね!!」


「原口一人じゃあもちろんそんなことはすぐできないからな。少しずつ時間をかけて解読したんだよ。私もある程度のアカウント情報は分かってたからな。素人にしては私達は頑張ってやったよ。」


「それでなんですけど、取引相手は分かったので、後は周辺調査や動向を探って、取引をする場を確定できたら私達の勝ちって感じですね。」


その場さえ分かれば後は私達の出番だ。


「警察にその場所を押えてもらえばいいってことだな?」


「いや、それだと本郷には届かない。あの人はやばくなっても自分に足がつかないようにしているからね。」


「ん??じゃあ結局それからどうするんだ??」


「紗那。私達が本郷をおびき寄せるんだよ。」


「え???」


「えーっとつまり…。」


分かりやすく説明したいけど、私からじゃうまく言えない。


「取引場所はいつも本郷が指示しているんだが、そこを逆手に取る。私達はその取引場所をダミーの場所で置き換えるんだ。そこに本郷を別件で呼ぶことで、同現場に引きずり出すことができる。」


「あぁ、なるほど。そこで現場もろとも本郷を捕まえるってことか。でも本郷はただ居合わせた人ってことにならないか?」


「それでいいんだよ。とにかく同時に捕まえられれば絶対に捜査されるし、そうなればもう逃げようはないからね。」


「そういうことだ愛華。だから後欲しいのは、偽の取引現場を設定することと、本郷を呼び出すことだけだよ。」


言ってはいるが、正直難しい。

本郷と言う人は決して表には出ない、徹して裏方なのだ。


「この策はしばらく考えるから、今はずっと同じようにやっていこう。もちろんケガが癒えてからだけどね。まぁ、私達の報告はこんなもんかな。それじゃあ…。」


みんなの目線が私に向く。


「愛華。覚えてることだけで良い。昨日のことを話せるか?」


紗那が遠慮そうに言う。

皆が口々に電話で言ってきたこと。

『昨日のことは覚えてるか?』


「…何となくですが。思い出せました。」


皆は、何も言わず、私を焦らせないように私の発言を待っている。


「…私も、よくは分からないんですが、ずっと夢の中で戦っているような、そんな感じでした。」


「夢…か。」


「…単刀直入に言う。昨日の愛華は、まるで愛那みたいだった。声の感じも、たたずまいも、動きも。演技をしているようには思わなかった。」


「え…??」


愛那のようだった??

私が??

だからみんな『覚えているか?』と聞いて来たのか?


「いや、演技をしていると思ったんだが、どうやらそんな風でもなさそうだな。じゃあやっぱり…愛那が憑依したとかなのか??」


「そんなオカルト信じられませんよ紗那さん。」


「いや…でもずっと、愛那が話しかけてくれたような、そんな気がしたんだけど…。」


愛那が憑依したのか?

そんなことが起こったりするのだろうか?


「うん、この件に関して、私は少し調べてみたんだけど。」


北条が自身のスマホからある記事を見せる。

それは移植手術による記憶転移の記事だった。


「移植手術後にドナーの記憶の断片や趣味、性格が変わる例がある…。え、もしかして私の…。」


私は胸に手を当てる。

その音は、かつては愛那の胸で鼓動を刻んでいたものだ。


「そう。もしかしたら、愛の記憶の断片が、愛華の中に転移したのかもしれない。体の動かし方や、たたずまい、声色も、双子なら影響が強いのかもしれない。」


鼓動が、早くなる。

怖くてではない。

愛那が、今もこうして私の中で生きていたのだと思うと、すごく、不思議な感情になった。


「ってことは、昨日私達が見た愛那は…。」


「本当に本物の愛那さんてことなんですか!?」


「そんな…ことって…。」


驚きを隠せない。


「まぁ、こういう記事があったってだけ。確信じゃない。それに今回だけかもしれないしね。」


愛那に、また会えるのかもしれない。

私のこの体を貸せば、皆はまた、愛那と話せるのかも。

だったら早く、私の体を―


「でも。愛華。」


北条が私に向けて言う。


「だからって昨日みたいになったら出るとか考えるな。愛はもう死んだんだ。そう言うことで私達はもう納得してる。変なこと考えるな。今の私達は愛華、お前が大切なんだ。そして、同じようにセンスがあるなら愛華も強くなれるはずだ。見えない愛那に頼ろうとするのはやめろ。」


我に返る。

そうだ。

今の私はもう、周りからも、自分からも大切な存在としたのだ。

粗末に扱わないと決めたのだ。

愛那のためにも。

ここで愛那に会いたいだなんて、私の体を貸すだなんて。

そんなの、愛那も望まないと思う。


「ありがとうございます。そうですね。私も、もう立ち止まっていられないです。頑張らないと。愛那ほどとは言わなくても英梨と紗那と一緒に戦えるように。」


「おう!」


「はい!!」


北条が少し笑って言う。


「よし、じゃあまずは体つくりだな。どれもこれも怪我がある程度治ってからだか、できることをやっていくぞ!」


「はい!!」


「原口、お前も頑張るだろ?」


「えぇ!?運動はちょっと…。…分かりましたよ!!少しだけですからね…。」


渋々ながらも原口も了承した。

私ももうすぐ自宅療養が終わり学校が始まる。

日常を少しずつでいい。

取り戻していこう。

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