第5話:友達作り前夜祭
巡川とは学校の下駄箱で分かれた。
最後に「迷惑かけてすみません」と謝罪をされ、少し小走りで校門を抜けていく巡川を3人で見送りながら、私達も校門を出た。
駅に向かって歩きながら今日を振り返る。
「さっそく楽しくなりそうだね、愛華。」
「いいなぁ2人は楽しそうで。私も同じ委員会にするつもりだったのに、体育委員に入っちゃったよ。愛那は体育委員に入ると思ったのに。」
「私は別に楽しくないよ…。だいたい、愛那は勝手に張り切りすぎなんだよ!」
「あぁ~やめてくれ、私だけ仲間外れはおもしろくない。」
溜息を吐きながら、仲間外れにされた紗那が愚痴をこぼす。
橘紗那。
彼女は私と愛那が保育園の時から一緒で幼馴染と言うやつである。
もちろん、小学校、中学校、高校と全て同じで、家も隣同士だ。
ただしクラスは1年4組。私達は5組。
身長は170cm、私達と同じくらい髪は長くポニーテイルで黒髪、怒れば怖いが普段は真面目できちんとしている。
中学の時は愛那と一緒に武勇伝を作ってきた張本人だ。
「女版鬼爆」の「爆の字」みたいな。
紗那の愚痴に謝る愛那。
駅に着き、電車に乗って、向かい合わせの席に座る。
「とりあえず巡川さんのこと考えないと。明日にはこの件を終わらせよう。愛那はいい案ある?紗那も何かない?」
正直期待は紗那にしかいかないが、一応愛那にも尋ねる。
紗那はクラスで別に浮いてはいないが、私達といるせいか他の人とあまり関わろうとしない。
私と違うところは、関りがいらないのではなく、関りがなくてもよいという考え方なのだ。
それでもクラスの人たちとは卒なく仲良く、誘われれば一緒にお昼を食べてたりする。
この3人の中では1番この手のこと(友達の作り方)を知っているはずだ。
「私は…そうだな…部活に入るのを手伝ってあげる、とかはどうだ?そもそも彼女のプロフィールは分かってるのか?」
「あ…。」
「あ…。」
そういえば名前とクラスしか知らない。
「何をやってたんだ2人とも…」
「ほとんど介抱に時間を使っちゃったから…。」
それにまさか私達がこんなに深く関わるなんて思ってもみなかった。
とりあえずプロフィールは明日聞くとして。
「今日はいくつか考えて、明日その中から提案しよう。紗那は今日も寄っていく?」
「あぁ今日も親はいないからお邪魔するよ。」
紗那の両親は共働きで、2人とも忙しく帰ってこない日がよくある。
それでも親子間、夫婦間は良好で、よくできた家庭だ。
そんな親がいない日は紗那はうちに泊りに来る。
これは私の母と紗那の両親が決めたことで中学の時から続いている。
ちなみに、私の母は帰ってこない日はないが遅くなるので、夕飯はいつも交代交代で作る。
今日は愛那の当番の日だ。
「じゃあ夜もあるし、ゆっくり3人で考えよっか。愛那が自分で言い出したんだから、1番案出してよ!」
「うっ…。分かったよ~。今日、夕飯のメニューも考えなきゃだし忙しいなぁ。紗那代わってよ~。」
「嫌だよ!私は愛華と一緒に考えるんだから!」
他愛ない会話もそこそこに、長すぎる電車の時間は3人をうとうとさせる。
私は目を瞑り、少し寝ようとしながら巡川のことを考えた。
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最寄りの駅に着き駅から家に帰る。
3人とも下校道は全く一緒で、ほぼ毎日3人で帰っているから帰り道で何かを話したり、逆に今日みたいに話題がないときは特に話さない。
一般的な女子高校生なら新しいお店ができたとか、このメイクが流行ってるとか、このテレビが面白いとか、いろいろ話すネタはあるのだろうが、そういった話は外よりも家でするため余計話題がなくなるのだ。
今日も最寄駅からは寝起きと言うこともあって私はポーっとしながら家に向かう。
紗那は白いイヤホンをしてるし、愛那はケータイで電子書籍の漫画を読んでいる。
私もそろそろイヤホンを持ち歩こうかと思った頃に自宅に着いた。
家は2階建ての一軒家(元々は祖母の家)で、1度改築しているから見た目も中もそこそこにキレイだ。
家に入り「ただいま」を言って手を洗いに行く。
紗那もここでは「ただいま」と言う。
愛那はそのまま冷蔵庫を開けて夕飯を考え、紗那はテレビをつけ、宿題を開いた。
私はお風呂の準備をし、湯が張るまで放課後にやった宿題の残りを片す。
冷蔵庫から食材を出す前に愛那がメニューを言う。
「なんかめんどくさいし、今日は焼飯でもいい?」
「私はラーメンが食べたい。焼飯作るならラーメンも一緒だろう。醤油ラーメンで頼む。」
「ラーメンかぁ。いいね~。」
紗那の見事な提案に私もお腹が空いてきた。
今日はラーメンで決まり。
「はぁ!?そんなの急に作れないよ!麺もないし!食べたいならカップラーメンで我慢して!それが嫌なら材料は食べたい人が買って来なさいっ!」
ドアの方を指さしながら怒る愛那。
愛那のめんどくさいって気持ちがよく伝わってくる。
「えぇ~、頼むよ愛那。今日は私も愛華も疲れたんだ。な?ひとっ走り、な??」
両手を合わせてウインクしながら頼む紗那。
「絶っっっっ対いやぁぁぁ!!めんどくさい!!茶目っ気だしても無駄だ!」
紗那の茶目っ気はちょっとかわいかった。
「おいおい、今日約束破ったせいで1年間支障が出たけど誰のせいなんだ??」
「う…っ。あれは愛華がやりたいって言ったからで~…。」
「え!?愛那が1人枠のところに無理矢理来たんじゃん!!委員長を脅して。」
「うわ…っ。それは評価下がるよ愛那…。材料買って評価上げていこう?」
「2人して私をいじめてる!?…じゃあもう3人で行こうよ。みんな痛み分けってことで。」
「!?」
嫌な予感がしてきた。
私は二人に気付かれないようにゆっくり後ろに下がり部屋から出ようとする
「えぇ~しょうがないなぁ、じゃあ愛華、行こっか。」
案の定嫌な予感的中。
ピーッ。
このタイミングで丁度お湯が張った音が鳴る。
「あ、私お風呂入るから行かない。ふたりでよろしく~。」
反論を聞く前に私はお風呂に逃げ込む。
結局二人して買い出しに行ったようで、私は普段ない初めての学校の疲れを浴槽で癒す。
よく考えれば今日1日で色々なことに関わりすぎた。
委員会に入ったし、雑用をやることになったし、放課後がつぶれるようになったし、相談者が来た。
それに担任の佐倉先生と余計に関わることになったし。
「はぁ~、…転校ってできるのかなぁ。」
現実味がないことを言うあたり、相当疲れている。
防水機能のあるケータイを浴槽でいじりながら、友達の作り方で検索する。
「やっぱり、どのサイトを見ても自分から話しかけることが大事っぽいなぁ。」
それができる人はとっくにできている。
例外ももちろん身近にいるけれど。
愛那も本当は友達を欲しがっているはずで、最初の数日間は近くの人と話そうとしてたけど皆怯えてなかなかうまくいってなかった。
それでも弱音を吐かなかったのはきっと…。
のぼせそうになったところで浴槽から出て髪と体を洗う。
中学2年の時からロングヘアを維持しているが未だに洗うのはめんどくさい。
もちろん乾かす時が1番めんどくさい。
そろそろ短くしてもいいかな、なんて思う。
浴室を出て体を拭き、下着を着て肌のケアをする。
下着姿のまま髪を乾かし、終わったらパジャマを着る。
乾かすのになかなか時間がかかったせいか、パジャマを着終わってすぐに2人が帰ってきた。
「ただいま~。お腹空いた~。」
「おかえり二人とも、私もお腹空いたよ。今日はみんなで作ろっか。」
さすがに2人で行かせたことに申し訳ない気持ちもあってか、空腹感もあってか、3人で一緒に作って時短することにした。
ラーメンのスープ用、麺用で鍋を2つ用意し、焼飯用のフライパンも用意する。
愛那と紗那は買い出しに来てない私に夕食つくりを全部押し付けて来ることも考えたが、2人ともお腹が空いているせいか素直に受け入れてくれた。
というより一心不乱に材料を出して準備を始めた。
相当お腹空いたんだろうなぁ。
時間は8時前くらいだった。
3人で協力して醤油ラーメンと焼飯が完成したのは8時半を回ったころで、食べながら今日の話をする。
「紗那は体育委員に入ったんでしょ?どんな感じだった?」
「なんか体育の授業の準備と運動会の運営をするくらいしか仕事がなかったよ。特にやることもなくて今日は用具の場所とかを一通り見たり、説明聞いたりしたかな。」
聞くだけだとあからさまに生徒委員会と仕事量が違うが、それでも体育委員も忙しいときは忙しいはずだと思うようにした。
少しでも救われた気持ちにしたい。
体育委員の話を聞いた後私達の委員の話になった。
「担当の先生も委員長も全くやる気がないけど、相談室は環境いいしなかなか良い感じだぞ!相談聞くのも楽しいしな!」
「私は相談が来るなんて思ってなかったから楽しくなかったけどね。」
委員長の紅の話だと、相談者はあんまり来ないようだから希望は捨てないでいるが。
「私も一緒にやりたかったなぁ~。クラスの生徒委員の人と代われないかな。あの子嫌そうだったし代わってくれそう。」
1年4組の生徒委員会と言えば「部活があるのでこれで抜けたい」と言い出した子だ。
教室から出る前に学年と組を聞かれていたから間違いないが。
やはり普通に委員会を選ぶ人はどんな委員会か分かって入ってくるのだろう。
生徒委員会は一般生徒からすれば雑用委員、つまりハズレなのだ。
そんな委員会と代われるとなったら誰でも代わりたがるだろうが、学校的にありなのかどうかは分からない。
半分くらい食べ終わった頃に玄関が開く。
「ただいま~、紗那来てるの?いらっしゃ~い。」
3人ともおかえりを言う。
「おかえりなさい、お母さん。ラーメンと焼飯作っといたよ。今日は3人で作ったんだ。」
紗那は私達の母を「お母さん」と呼ぶが、昔からそうなので当たり前のようになっている。
私達は紗那のお母さんは「紗那のお母さん」と呼ぶが。
「紗那も手伝ったの?愛那の当番なのに、さては愛那めんどくさがったな~?」
「うぅっ。…めんどくさがってないよ。紗那と愛華がお腹空いてるからどうしても早くしたいって。」
「な!?確かにお腹は空いてたから手伝ったのはあってるけど…。」
「はははっ。まぁ私ができない分よくやってるよ皆は。そんなみんなにデザート買ってきてるからね!食べな。」
母は基本放任主義だが私達にはちゃんと気をかけているし、叱るときはしっかり叱ってくれる、褒めるときは褒めてくれる母だ。
もちろん『私達』の中には紗那も入っている。
紗那はもう家族の一員みたいなものなのだ。
食べ終わった食器は普段はそれぞれが洗うのだが、今日は母が洗うと言ってくれたのでシンクにお皿を積んでおく。
愛那と紗那はお風呂に入り(私も紗那も愛那もお風呂に一緒に入ることは基本よくある)、私は自分の部屋のベッドに寝転びケータイをいじる。
自分の部屋と言っても1つの大きな部屋を2人で使っているのだが、紗那洋のベッドもいつの頃からか置いてある。
ケータイをいじるといっても、SNSなんてやらないし、話すような相手もいない。
漫画を読んだり、まとめサイトを見たりしている。
ドライヤーで髪を乾かす音が聞こえた頃に明日の学校の準備をする。
帰り道に思った、イヤホンを持っていくことを思いだし、黒のイヤホンを机の引き出しから出してカバンに入れる。
明日の登下校が少し楽しみになった。
「ふぃ~。もう今日は寝よ~。」
「何言ってんだ愛那。巡川さんのこと考えるんだろ?それに宿題やったのか?」
「あぁ~、今日やること多すぎだよ、愛華宿題手伝って~。」
「全部自分が蒔いた種でしょ!!放課後少しでもやってればよかったのに。それに愛那は一人でそれくらいできるでしょ。」
渋々と宿題をやりながら明日のことを考える。
「具体的に何か案は思いついたか?愛那は…まぁ先に宿題やるとして、愛華はどうだ?」
「私は少人数のグループであまりワイワイしてないところに頑張って話し掛けに行ってもらう作戦かなぁ。私達が物陰から見てあげてれば勇気出るんじゃないかな?」
結構真面目に考えた意見だと思うが、なかなかこれ以上の案はないのではなかろうか。
「…ぷふっ。愛華「作戦」だなんて、案外乗り気じゃん。ぷふっ。」
「違うし!!!愛那は黙ってて!!」
愛那がチャチャを入れてくるのに腹が立つ。
「愛那、あんまりからかってやるなよ。愛華だって必死に考えたんだから。」
見方をしてくれようとする紗那が笑いをこらえるのに必死な顔をしている。
「!?もう!二人で考えればいいじゃん!私はもう意見ないから、寝る!!」
「ちょ!ごめんって愛華!私は愛華に笑ったんじゃなく愛那につられただけで…。」
「えーっ!嘘だ!私は紗那が一瞬笑ってたの見たよ!」
「な!?お前は黙って宿題終わらせてろよ!!!!!」
2人はこの後数分討論していたが、私は布団にもぐり本気で寝に入った。
紗那と愛那が布団を揺らして起こしにきたが無視した。
「あ~あ、愛那のせいで寝ちゃった。まぁ今日は疲れたんだろうし、案も出たし、私も寝ようかな。」
「え!?ちょっと待って、もう宿題終わるから。ってか案って一つしかなかったじゃん。」
「帰りに私が言った部活の奴もあるから!愛那だけだぞ~?案がないの。」
「う…。明日までに考えとく。」
紗那は部屋の明かりを消し、愛那は机の電気だけで宿題を終わらせる。
「おやすみ愛那、愛華。」
「おやすみ~。」
「…おやすみ2人とも。」
布団から顔を出して本格的に寝る。
今日くらい他人のことを考えながら寝ることはきっと今後ないだろうから、私は貴重な体験だと思いながら、明日のことを寝ながら考えた。