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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第3章 1人の愛
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第55話:愛那

紗那が確かに、愛那と呼んだ。

私は、すぐに振り向いた。

例え夢でも幽霊でも人違いでも、私は愛那に会いたかった。


だが、振り向こうとしても、私は振り向けなかった。

目線は勝手に動き、体も勝手に動いているようなそんな感覚。

しかも、あれだけ辛かった立ち上がることも、なぜか平然とできてしまっている。

体の痛みも、なぜか感じない。

やはりこれは、夢なのだろうか。


『愛華。お疲れさま。あとは私がするから、しばらくそこで見てて。』


「え??愛那??どこ!?!?どこにいるの!??」


確かに、愛那の声だ!

間違えるはずもない!!


『ずっと、傍にいるよ。でも今は、目の前のこいつからだね。じゃあ後は任せてね。』


「え??ちょっと!どういう…こ…と………。」


そこで、私の意識は途切れたのだ。


************************


「痛みで意識が飛んだか???あ??」


北原が立ち上がったその女に近づく。


「愛那…なのか?今の声…。」


だが、その女はさっきまで倒れていた、まぎれもない渡辺愛華自身のはずだ。

立ち上がることすらままならなかったはずの。

その女は前髪をかきあげる。


「!?!?…愛…那ぁ!!」


紗那が泣きながら言う。

その女の声は確かに、愛那の声で、かきあげた顔も、鋭い目つきも全て愛那のようだった。


「愛那さん!!!」


英梨も泣く。


「あぁ??何言ってんだ。てめぇらの茶番に付き合ってる暇はねぇって言ってんだよ!!!」


北原がその女の左腕に右足で蹴りを入れる。

が、その蹴りを、いとも容易く掴んだ。


「…!?」


そしてその女はその足を握力で握っていく。

みしみしと。


「くっ!!放せ!!!」


思いっきり足を引いて、体勢を立て直す。


「…ろすぞ。」


「あ??」


「殺すぞ。」


その女は一気に凄む。

空気が一気に張り詰める。


「…っち!!おらぁ!!!!」


北原の素早い間合い詰め。

それに合わせるように同じように間合いを詰め、その勢いで顔面に一発。

北原は後ろにのけぞる。

その北原の脇腹に、回し蹴りを一発。

そのまま体制が崩れる。

だが、そこからその女は追い打ちをかけなかった。


地面に手をつきながらも、北原はすぐさま対面する形で起き上がり、体勢を戻す。


「ふぅ~。」


北原も、どうやら落ち着いてきたようだ。

そのまま、両手を顔の前に構える。

格闘技の様に。


「…っ!!!!」


息を吐く間もなく低い姿勢で北原が近づいてきた。

この速度で、体勢を維持しながら動くことは、よほどの体幹がなければ難しい。

それを平然とするあたり、やはり北原はかなり強いのだろう。

そのまま北原は左手で脇腹を狙う。

北原の思惑では、この勢いで攻めているから、例えガードをしていてもそれを突き破れる自信があったのだろう。

その女は、そんな北原の意図は分かっているかのように、ひらりと交わし、左手で北原の頭に上からげんこつを入れる。


その後も北原の攻めを全て受け流したり、避けて一撃入れたりを繰り返していく。

その女が、北原から一撃と攻撃を受けることはなかった。


「はぁはぁ…。」


北原が息を上げ始めるのも、そう長くはかからなかった。


「お前…はぁ…なんだよ…。さっきと…まるで違う…。」


「…。」


「だんまりかよ!!くそぉ!!!!!!」


紗那も英梨も、その二人の戦いにただ見入るだけだった。

正確には、完全に安心しきっていたのだ。

不安な要素など、1つもないかのように。


北原の最後の攻撃を敢えてその胸で受ける。

ドンと大きな音が鳴る。

だが、北原の体力的に音に対しては大したダメージはない。

だからこそ受けたのだろう。


「…いくよ。」


その女は北原に、北原がさっき紗那にやったようにゼロ距離からの一撃を腹に入れる。

まるで、息をするかのような、重い重い一撃を。


「あぁあ!!!!!!!!!!!!!」


叫び終わるまでに北原は白目をむき、そのままそこに倒れこんだ。

完全な勝利だ。

それと同時に、動くのも苦しいはずの英梨と紗那がその女に抱き着く。


「あああ愛那ぁ!!!」


「愛那さん!!!」


三人とも倒れこむ。


「…みんなごめん。ありがとうね。」


「どうしてお前!!愛華は?!いや、愛那の真似をしてる愛華なんだろ???」


だが、そ紗那の質問に返事はなかった。

その女も、北原の様に力なくそこに倒れてしまったからだ。


「…私には、愛那さんとしか思えませんでした。」


「…私もだ。愛華に愛那の魂が宿ったとしか思えない。でも、そんなこと…。」


二人とも、冷静になればおかしいことに気付く。

でも、その瞬間はそんなことを考えることよりも愛那を思う気持ちが出てしまったのだ。


「…はっ!!とりあえず!!逃げましょう!紗那さん!!」


「ん!あぁそうだな!北条に連絡を頼む。」


紗那は愛華を担いで英梨は北条に連絡をして逃げる。

幸い一階であったし、人も全くいなかったのですんなり逃げることができた。

といっても、外に出てすぐ北条の車の近くで待機したが。

愛華は寝息を立てている。

ただ寝ているようで安心した。


「ふぅ~。…さっきのは愛華が目が覚めた時にまた聞くとして、お互い派手にやられたなぁ。」


「私の親は妹がケガして帰ってくるから、あまり気にはされないんですけど…明日の学校が…。」


今日は日曜日で、もちろん明日は月曜日で学校である。

このケガの仕方はさすがに隠し切れないし、言い訳もできない。


「化粧でごまかせるといいんだが…。少し難しそうだな。」


「愛華さんはもう少し自宅療養だから、ぎりぎり大丈夫でしょうが…。いや、自宅療養でこんなケガしてたらまずいですよね。」


「…また、愛華には無理させたな。」


二人が愛華の顔に手を当てる。

そこでアジトから北条が飛び出してきた。


「紗那!!英梨!!勝ったのか!???愛華は!???」


北条が現状を目の当たりにする。


「…!?!?みんな…よく頑張ってきたね。早く出るよ!」


「北条は何してたんだ?」


「私は今まで祝杯あげてた。」


「…。」


紗那と英梨の冷たい目線が向けられる。


「いや、ちゃんとした作戦だからね。じゃあ、早く乗って、帰るよ。話は中で。」


「おう。」


「はい!」


紗那と英梨は愛華を車に乗せて、そそくさとアジトを後にした。

愛華は起きる気配はなさそうだ。

紗那は愛華を見ながら安心しながら事の顛末を話す。


「っていうか!!普通に強い奴来させんなよ!!安心しきってたから油断しただろ!!」


話すと言うより、愚痴をこぼす。


「私は呼んでない。あいつが勝手に来たんだから。」


「もう、ほんとにびっくりしたんですからね。」


「まぁ、結果勝ってきたんだろ?愛華はボロボロになってしまったけど…。よく頑張ったね。」


「いや、倒したのは私等じゃなくて、愛華だぞ。」


「えぇ!??!?」


北条がびっくりしすぎて踏んでるアクセルをさらに踏んでしまい、一瞬スピードが跳ね上がる。


「えぇ????愛華が勝てたの??」


「っていうより…なんだろうな…。」


言いよどむ紗那。


「急に、愛那さんのようになったんですよ。愛華さんが。」


「ん?どういうことだ?」


「声とか、顔つきとか…動きとかが。いや、声はまぁ元々似てるから微妙な変化なんだが。私達には愛華が愛那の演技をしているようには見えなかったんだよ。」


「いや、話について行けないんだが。」


「愛華さんが酷くやられてたんですけど、急に愛那さんの様になって勝ったんですよ!」


完結に説明する英梨。

にわかには信じられないと言った顔をしながら北条は言う。


「…いや、だとしても…。確かに、愛くらいじゃないと北原は倒せないかも…。」


「結構すんなり信じてくれるんすね。私達もちょっとまだ不思議な感じなのに。」


「そんな嘘ついても仕方ないだろう。それに、勝つとしたら確かにその線が強い。実際北原はかなり強いからね。」


といっても非現実的な状況を前に、なかなか頭の整理がつかないのも事実である。

霊的な何かだろうか。

それとも、本当にただの愛華の演技だったのか。


「とりあえずは一旦落ち着いたし、愛華が目が覚めた時に聞こうか。3人ともお疲れ様。」


プルルルル


ここで北条に電話がかかる。

相手は原口だ。


『北条さん!!!そっちはどうなってるんですか!??連絡ないですけど!!』


「ん、ああ。一応…無事とまではいわないが、何とか大丈夫だよ。」


『!?!?はぁ~~~~、よかった~~!こっちはこっちで待ってるんで!早く来てくださいね!』


「ん??今からどこに行くんだ?」


車で向かっているのは渡辺家だと思っていたが、違ったようだ。


「怪我の手当てとかしないとだからね。原口がいる私達だけのアジトに行くよ。一応私達は医者にある程度頼らなくてもいいように備品はたくさん持っているからね。」


「なるほど、…それは…助かる。」


とりあえずだが、今日と言う日を乗り越えた三人。

英梨はもうとっくに寝息を立てていた。

紗那も、力尽きるように、眠る。

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