第53話:最悪の切り出し
「よし!!気合い入れていくぞ!!」
「はい!!!」
紗那と英梨は公園へ向かっていた。
二人とも息を荒立て、やる気も十分に。
「一応人数とか見て二人で作戦立てるか。」
「そうですね。いきなり行って下手に連携が取れなくなるよりはいいと思います!」
二人はゆっくり公園に近づく。
公園はそこそこ大きな敷地で、それこそサッカーコートくらいはある。
木々も生い茂り、小さなアスレチックのようなものもある。
だから外からこっそり覗くことは容易なのである。
公園に到着する。
「…見える限りだと…10…15人くらいか?」
「人数いますね。」
「まぁ、大丈夫だろ。」
「そうですね。私達なら。」
二人は公園内へと足を進めた。
「私が見えないところは任せたよ英梨。」
「了解です!」
堂々と正面から行く。
気付かれるのもそう遅くはなかった。
「あ、あいつらか。」
「来やがったな。」
全員が立ち上がり二人を睨みつける。
お互いに動きが止まり、対峙し合う。
「おらぁぁあああ!!!!!」
数人が攻撃を仕掛ける。
もちろん、これくらいの敵なんてことない。
紗那に挟み撃ちの様に殴り掛かる2人組。
一人は紗那に飛び掛かるように、多分体をつかもうと向かって来ている。
もう一人はそれに合わせて殴り掛かる。
紗那は掴みかかってくる相手の顔を先に近づいて片手でつかむ。
そのままそいつを後ろにいなし、その勢いでもう一人の首の付け根の下に肘を入れる。
その一発だけで十分だ。
続いて、いなした相手に対して回し蹴りを顔に入れる。
英梨にも同様に2人が襲い掛かる。
その小さな体躯を生かし、片方に一気に間合いを詰め、低い位置から一気に上へ、顎を手の平で叩く。
それと同時にもう片方の手で鳩尾に正拳を入れる。
一人が崩れ落ち、向かってきているもう一人の足にスライディングの様に足を延ばして引っかけこかす。
倒れてきたその勢いに合わせて同じく鳩尾に正拳。
この二人はもう既に、1対2なんて慣れているのだ。
倒された四人に続いていた他の相手が足を止める。
やはり紗那も英梨もかなり強いのだ。
「もういい。どいてろ。」
相手の後ろから一人、多分このグループのあたんだろう人が動き出す。
「この私が出る幕なんかじゃないとは思ったが、一応来てみれば確かに、あんたら、つい最近まで噂に聞いていた奴らなのか?突然名前が出るにしちゃあ強すぎる。北条には頼まれてないが、私が相手してやる。」
「…。こいつ。」
「…っ。」
北条は肩慣らし程度の奴らしか呼んでいないはずだ。
それに対して、イレギュラーで来たこの女。
しかも、北条を呼び捨てにしている。
それにあの口ぶり。
もしかしたら、いや、何となくわかる。
「こいつ…強いかもしれない。」
ゆっくりと近づいてくる。
ゆっくり、ゆっくりと。
腕の長さ分程、紗那に近づいた。
この女、身長は紗那より少し低め、167cmくらいだろうか。
髪は長く黒く、まっすぐだ。
「…なかなか背が高いね。お前。」
そう言ってそいつは、溜めもなく腹に向かって拳を打ってきた。
「!?!?」
普通殴るとき、力を入れる際のわずかな息遣いや声、拳を握ったり威力を上げるために足を動かしたりと微動作があるはずだが、その女からは一切そういったものがなかった。
何か物を取るかのようにスッと攻撃をしてきたのだ。
だが、もちろん紗那はそれに対応する。
間一髪、右に避けた。
その勢いで紗那も攻撃を仕掛ける。
だが、一手遅れた紗那は、相手が既に防御をしていることに気付かなかった。
「良く反応したね。でも…。」
重心がずれている紗那に対して防御をしながら蹴りを入れる。
蹴りが、入った。
「ぐっ…!!」
そのまま紗那の服をつかむ。
「紗那さん!!!」
既に英梨が援護に来ていた。
だが、英梨に向けて紗那をぶつける。
そのまま体制が戻る前に他の全員が襲い掛かる。
「…確かに強いなこいつら。私が来なかったらお前等じゃあ敵わなかったと思うよ。…じゃあ、こいつら近くの基地に運んどいて。そこでじっくり話聞くから。」
「了解です。」
「じゃ、私が北条にメール送っとくよ。」
その女は北条にメールを送った。
紗那と英梨は、負けたのだ。
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「え??倒したって…。負けたってこと!?紗那と英梨が!?」
私は北条に届いた連絡を聞いて、呆気に取られていた。
信じたいことが聞こえたのだ。
「どういうことだ!?こいつ…なんでこいつがここに来ているんだ!??」
北条もスマホの画面を見ながら焦る。
「ちょっと…どういうことですか!?」
「こいつ…北原園子は私と同じ、このグループができた時から一緒にいる奴だ。私達の、けんか要員だ。かなり強い。なんでこいつが…。」
けんか要員?
かなり強い??
紗那と英梨が負けるほど???
それを聞くだけで、その見たこともない北原と言う人が途方もなく大きな存在となった。
「そんな!!なんでそんな人が来るんですか!!?」
私らしくもない、考えればわかるようなことを考えることを放棄して口任せに怒鳴った。
それくらい、焦っているのだ。
「私は呼んでいない!!どういうことだ…。勝手に園子に声をかけたのか…??」
「早く…。早くしないと!!!早く助けないと!!!ひどい目に合うんじゃないですか!?早く!!!助けないと!!!」
「落ち着け愛!!まだ私が指示できる!!園子に今から連絡して、私が引き取るまで待って…あぁ、その理由付けをどうすれば…。」
「どこですか!?私が行きます!!!北条さん!!!」
焦る。
焦る。
「愛!!落ち着け!!!!」
北条が私の肩を持ち、力を入れる。
「ふぅ、ふぅ…ふぅ…ふぅ~。」
北条はじっとこちらを見つめて落ち着かせる。
おかげで、少し落ち着くことができた。
ピロン
北条に追加でメッセージが届く。
「…『たまには私が焼き入れとくから。好きにさせてもらうな。』って。くそっ…やばいな。」
どうする。
どうすればいい。
「とにかくここは切り上げる!!車で向かうぞ。多分行先はアジトだ。策は車の中で考えろ!愛!!」
「…はい!」
心ここにあらず。
私は思考を巡らせながら車へとかけた。
怖い。
また、誰かが、死ぬような目に合うのではないだろうか。
私は、不安な気持ちと、それともう一つ、北原と言う人に抱いていた。
これはきっと、怒りだ。
北条は電話をかけている。
相手は原口だ。
「智代。作戦失敗した。紗那と英梨が負けた。北原が参戦してたらしい。」
『え!?ほんとですか!??今からどうするんですか!??』
「とりあえずこっちは切り上げてアジトに行く。私が顔を出すのは色々不審がられそうだが、愛と一緒に作戦を考えておく。そっちが終わったらすぐ来てくれ。」
『了解です。愛華さんに代われますか?』
「愛、智代からだ。」
私達は走りながら、北条からスマホを受け取る。
「もしもし。」
『愛華さん。焦るかもしれないですが、落ち着いて下さい。私もこっちで作戦を考えておきますから。』
「ありがとう原口さん。そっちも頑張って。」
私はスマホの通話を切り、北条に返す。
「…北条さん。愛那は、どんな格好でいつも戦ってましたか?」
「ん?愛も英梨と同じようにマスクをつけてたけど。」
「見た目とかはどうですか?」
「見た目は…!?もしかして愛華。愛那に成り済まそうとでもしてるのか??」
「…そうです。そこから気を引くんで、北条さんは何とか2人を解放さえしてくれれば…。次は紗那も英梨もきっと…。」
「随分無茶な作戦だ。相手は北原だけじゃないぞ。上手くいったとしても、愛華が…。」
「…。」
私はまっすぐ前を見たまま歩を止めずにいた。
「…分かった。そこからもう少し考えるよ。もっと煮詰める。」
「ありがとうございます。」
私達は車に到着した。




