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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第3章 1人の愛
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第48話:最後の仲間2

私が助けた、と言うよりは仲介に入ってあげた時の子。

南達の黒い部分を初めて目撃した瞬間でもあったその時。

私は名前も知らない女の子をいじめから逃がしたことがあった。

名前もクラスも顔も知らない子だった。

まぎれもなく、記憶に違いがないなら愛那の写真に映る原口はその時の子だった。

と言うことは、原口は愛那を私と思ってお礼を言ったのかもしれない。

そうすると、愛那の対応もうなずけるものであるし、アルバムになかったのは引っ越しとかをしていたのかもしれない。

いや、まだ、私のわずかな記憶を基に想像しているだけだから、確信はしているが不安はある。


「じゃあ、愛華さんが昔助けたってことだったんですね。」


「うん、多分。」


「色んな所で繋がってるんですねぇ。」


確かに。


「でも、どっちにしろ連絡手段はないね。紗那ももちろん知らないだろうし…。」


「なんだよ、まだ聞いてもねぇのにそんなこと言うのか。」


「あ、紗那さん!」


「ご飯大体終わってきたからな。で、分かったっぽいな。」


紗那が愛那のケータイを取って画像を見る。


「う~~~ん。私も知らない子だなぁ。」


「やっぱりそっかぁ。」


分かってはいたが、行き詰ってきた。


「SNSでも…やっぱり名前じゃあ出てこないね。」


秋山の時と同様の手段だ。

あの時も、石丸のために秋山の情報を集める際にSNSを駆使したのだ。

あの時はめちゃくちゃ遠回りしながら色んな角度から情報を集めていたが、今回は本人に接触する手段さえ得られればいいわけだ。

名前検索で出てこない以上、どっちにしろ行き詰まったわけだが。


「違う名前だとしても…。」


方法はないわけではないが…。


「…ダメだね。詰んだ。」


私は溜息を吐きながら言う。


「…。」


紗那と英梨が黙ってこちらを見つめる。


「…ん??」


「愛華さん…。方法はまだあるはずでしょ?」


「そうだぞ。今まではこういうの仕方なかったけど、変わるんだろ?」


そうだ。

方法はまだある。

さすがにそれは2人も気付いていた。


「…。」


「私達も、一緒にいますから。ね?」


「うん。分かった。」


紗那も私も、もちろん愛華も、中学校の同級生との関りは一切ない。

私はともかく、愛那と紗那は悪目立ちしたことからであるが。

そんな中で、唯一の方法。

それは今からできるようなことだ。


「じゃあ、今から行くぞ。愛華、大丈夫か?」


「…大丈夫。もう、大丈夫。2人がいるからね。」


紗那と英梨が笑う。


「はい!!もちろんですよ!」


「じゃあ、行こう。」


向かう場所は最寄り駅。

唯一の方法とは、これから帰ってくる地元の子に直接聞くのだ。

原口の所在を、高校を知るために。

心を閉ざしてからは、誰に対しても見向きもしなかったし、関わる気もなかった。

だが、もうそれはやめた。

変わるなら、今このタイミングが丁度良いだろう。

少し怖いが、私は力強く駅へと1歩を踏み出した。


****************************


駅について、改札の前のベンチに座る。

具体的な作戦はこうだ。

私、紗那が知っている同中の子が出てきたら、他愛無い感じで近づいて話す。

そして、原口さんのことをさりげなく聞き出す。

あわよくば連絡先もゲット。

こういった流れだ。

中学生活は酷いものだったが、事が起こる前は普通に過ごしていたのだ。

知っている人はもちろんいる。

最近まで見ないようにしていたから変わってたら分からないけど…。

緊張で心臓はうるさいが、やると言ったらやるのだ。

後戻りはしない。

時間にすると丁度部活終わりの人達が帰ってくる頃だ。


「愛華さん、大丈夫ですか?」


左腕をぎゅっとつかみながら英梨が言う。


「え?大丈夫だよ?」


「…震えてますよ。」


「…。」


やはり、少し震えているのがバレていた。


「…ほら!!」


そう言って紗那が右腕をつかむ。


「これなら安心だろ?」


「…うん、大丈夫。ありがとう。」


震えがなくなったわけではない。

でも、それ以上に、不安がなくなった気持ちの方が強かった。

駅の改札前で、こんな恥ずかしいことをしているのに、今だけは本当にありがたかった。


「あ!制服の人ですよ!」


改札の向こうに制服を着ている女の人がいる。

1人だ。

絶好のチャンス!


「顔は良く見えないな。誰だ??」


「う~~ん分からない。でもやっぱり今からの時間が帰り時みたいだね。絶好のタイミン…。」


行ってる間に、向こうの顔が見えた。

見て、分かった。

知り合いだ。

それもすごく、知った仲だ。

いや、知っていた仲だ。

美空優。

元、同じバスケ部だ。


「…愛華。こっち。」


紗那が腕を引いて別の場所に向かわせようとする。

気付いて、さすがに気を使ったのだろう。


「いや。行くよ。大丈夫だから。」


「…。」


腕を放す紗那


「…よし。行ってこい。」


英梨も、何となく察して腕を放す


「愛華さん、頑張ってください。」


「うん。」


過去にけじめをつけるには、ちょうど良すぎるイベントだ。

私は改札の方へ歩み寄る。


「…あ、久しぶ…っ。」


バタッ!!!


綺麗にこけた。

優の目の前で。


「うわぁっ!!大丈夫ですか??」


優に声をかけられる。

こちらの話し掛け自体には気付いていなかったのか、私を誰とも分からずに手を差し伸べる。

私はその手は取らずに自分の力で立ち上がった。


「…あっ…。…愛華…?」


私の顔を見て、すぐに気付いた。

何だかんだあれから一度も絡まなかった私達。

今の髪が伸びた私の顔は分からないかと思ったが、そんなことはなかった。


「…久しぶり、優。」


気まずい雰囲気の中、私達は顔を見合う。


「あ、えっと…。久しぶりだね。何してるの?」


目をきょろきょろしながらドギマギと話す。


「…いや、たまたま駅に来てただけで…。」


私も緊張してなのか、目的を隠してしまった。


「…そっか。…じゃあ、私はこれで。」


最終的に優は目を合わさずに私に別れを告げた。

やはり、あの時できた溝はそう簡単に埋まるものではない。

それは、どれだけ気を張っていた私にとっても同じことだ。


でも、ここで終わっていたらダメだ。


「あの!!!」


「あの!!!」


通り過ぎようとする優に声をかけて引き留める。

はずだったが、他方から同じセリフが聞こえてきた。

その声の主は優だった。


「…ごめん!!!あの時…中学の時…。ずっと、何もできなくて、酷いことして…ごめんなさい!!!」


私が何を言うまでもなく、優はそう言って私に頭を下げた。

私は私以外の人達を皆嫌っていたし、どうでもいい気持ちだったが、それが周りの人達のせいであるとは思っていなかった。

私が弱いせいで、運がなかったせいで、そう思っていた。

だからか、謝られて、驚いてしまった。


「あ…。」


だからと言って『謝るようなことじゃないよ』とかそんなことは言えない。

謝ることじゃないかどうかは、優が決めることだ。

その気持ちを踏みにじったりはできない。


「…私も、ごめん。もっと優達に頼ったりする選択肢もあったし、切り離したりしなくて済んだかもしれない。本当にごめん。」


私も習って頭を下げる。

誰が悪いとか、何が悪いとか、もう今となってはそんなことどうでもいいのだ。

こうして、互いにもう一度話せたのだから。


「ほんと…ごめんっ…!!」


頭を下げたまま、優の顔から雫が落ちる。

私は優の肩に手をあてて顔を上げさせる。


「ありがとう。優。また話せてよかった。」


私達はようやく、あの時のわだかまりを取るためのスタートをすることができたのだ。

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