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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第3章 1人の愛
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第42話:約束の始まり

金井との電話の次の日。

私は病院内で北条からの連絡を待っていた。

普通院内はスマホの着信音はオフにするものだが、私はオンにしたまま待つ。

一瞬だし、許してくれるだろう。


その日のお昼前くらいに北条から電話がかかってきた。

実際、北条の着信までは誰からも通知はなかった。


『…やぁ、今からそっちに行くから。準備はできてるかい?』


「はい。1階のカフェで待ってます。」


病院内の1階にはカフェがある。

昼時には混んでしまって、なかなか利用できない時もあるが、今から席を取っておけば大丈夫だろう。

私は1階に行って席をとる。

後は北条を待つだけだ。

2人分のコーヒーを頼んで、私は待つ。


*************************


「おまたせ。」


電話の後からあまり時間はたっていない。


「すみません。ありがとうございます。」


北条は席に着く。

今日もいつも見るときの様に(といっても2度ほどしか会ってはいないが)上下の揃っていないジャージを着ている。


「…ここに来て、あなたに会うと本当に実感する。愛が…愛那がいないってことに。」


「…。」


北条はどこからそのことを聞いたのかは分からないが知っていた。

多分愛那側のネットワークがあって、そっちで知ったのだろう。


「聞きたいことはあると思うけどさ。…少し、私の話も付き合ってよ。」


いつもの気さくな、人を小ばかにするような話し方ではなく、小さく、言った。

その顔は、なんだか怒っているようにも見えるが。


「はい。」


私はそれだけ言って、北条の話を聞く。


「まず最初に、私はあなたがいなければいいと思った。」


「…え?」


唐突に、そう言われた。


***************************


北条は地域で言ったら阿原高校と私の家の地域のちょうど中間地点に住んでいるらしい。

初めて愛那に出会ったのは、愛那が1人でこちらに来た時だという。

それは、愛那が1人で、紗那に迷惑をかけないように、ここらの地域の不良を潰しまわっていた時のことだ。

愛那を始めてみた時に、北条は凄く喜んだらしい。

北条は、元々本郷という女が率いる最大勢力のグループの幹部クラスだったらしい。

創設時からいるメンバーの1人。

だから、最初に愛那と出会ったときと言うのは、もちろん愛那が殴りこんできた時だ。


最初の頃、本郷のグループができた頃は、不良ではあるから悪いことをしていたし、迷惑もかけていたが、特定の人に対して酷いことをすることはなかった。

だが、肥大化し、段々とその状況は変わってきたらしい。

だが、そんなグループを幹部クラスが抜けることなんてできなかった。

そんなときに現れたのが、愛那だった。

もちろん最初はいつも通り、そこにいる奴らで愛那を出迎えて、攻撃をしていた。

辞めたかったが、そんなことできないのは分かっていたから、仕方なく、いつものように殴り合いをした。

だが、愛那は類を見ないほど強かった。


「最後はあんただよ。多分、リーダー的な人でしょ?」


角材を北条に向けて愛那は言ってきた。


「なんだよ。潰されたのにニヤニヤして。悪いけど、今の私はあんまり笑ってあげる自信ないよ」


「いやぁ、ごめん。私もずっとうんざりしてたんだけど。少しだけいいもの見れたからさ。」


そう言って、いつものように、まるでそういうマニュアルかのように、北条は拳を構えた。


「…。あんた。喧嘩好きじゃないでしょ。」


「え?」


北条は驚いて愛那を見る。

自然と拳も下りる。


「さっきも、周りの人に指示は出してるけど。的確な指示じゃないし、どこか適当そうだったし。もしかして、あんまり居心地よくないのか?」


愛那は、容易く北条の根幹を見抜いた。


「…そうだよ。私は何のために、ここにいるんだろう。ほんとな。こんな酷いこと、毎日毎日。何やってんだろう。」


拳は完全に下りていた。

はなから本気でやる気などなかったのだ。


「…じゃあさ、私と一緒に戦わない?」


「え???」


「私について来いよ。こんな汚いところから救い上げてあげる。」


そう言って、愛那は、北条に手を伸ばした。

笑って。

北条は、何も言わずに、その手を握り返した。

急すぎる展開に、北条はやっと終わるという安堵から、スッと涙を流した。


「やっと…救われた…っ。」


それから、北条は愛那と関係を持つようになった。

もちろん北条はまだ本郷のグループにいるのだが、作戦の内だった。

北条は愛那にグループ内の情報を与えることで、愛那との信頼関係を築いた。

元々北条はグループ内外の情報収集をしていたから、情報のあ集め方はとても長けていた。

愛那も、北条を頼りにしていたのだ。


だが、3割ほどを潰した頃に、異変が起こった。

愛那が辞めたのだ。

私のために。

辞めて、普通の高校生活を送ることにしたのだ。

この展開はどれだけ金井を絶望させたことだろう。

3割程度だが、グループ内では少しずつ、愛那達を探るようになり始めていた。

遅らせるのはかなり危ない。

それでも愛那は辞めて、北条を置き去りにしたのだ。


***************************


「あなたのせいで、あなたの面倒を見るために、愛那は辞めたんだ。もう少しで全て片が付きそうだったのに。」


睨むように北条は言う。

まだ私は、何も返すことができなかった。


「あの日、私があなたに会ったのは、本当は愛那が言う姉を見に来たからだよ。」


あの日と言うのは、初めて私に話しかけてきた日か。

巡川の一件があったあの日。

まだ、私が愛那の過去を知らない時。

まだ、愛那が生きていた時。


「どんな面のやつが愛那をそうさせたのか。写真ですら見たことなかったからね。案の定、…愛に似ていた。」


思い出すようにして、渋い顔をする。


「あそこで、やめていなかったら、こんなことにはなっていなかったんだ。愛を殺したのはあなただ!!愛華!!あなたは愛の優しさに気付かないふりをして、甘えて、何もしてこなかったくせに!!!愛が毎日どんな気持ちだったか知らないなんて言うな!!あなたのために、色々していたんだぞ!?なぁ!!」


こみあげてくる思いを、間髪なくたたきつけてくる。


「おい!!なんとか言っ…。」


「分かってますよ!!!!!!!!!」


病院内のカフェで、それでも昼時は混むからかなり賑わっている。

私のこの大きな声も、せいぜい左右のテーブル程度にしか聞こえてないだろう。


「分かってますよ!愛那と紗那が私のために動いてくれているのは!!でも、最初は無理だった。…怖かったから!!!!友達なんてくそだ!!!いない方がマシだ!!だって、いることになれたら、いなくなったら辛いじゃん!!!」


そういえば昔紗那が言っていたな。

父親がいなくなったら寂しいと。

そうだ。

あるものがなくなるから、焦燥感にかられる。

だったらいっそ


「初めからない方が良い。って、そう思ってた。今も思ってる。」


今はどうだ。


「でも、なくなったものは確かにもう、二度と戻らないけど、なかったことにはできない。そう思うよ。楽しかった思い出も、苦しかった日々も、耐え抜いた日々も、愛那が私にしてくれたことも、紗那がしてくれたことも、最後まで、私は覚えている。なくなってない…。」


歯を食いしばりながら、私は、涙も流れたまま言った。


「…ずっと目を背けてきた過去を、私はちゃんと見ることにした!!他人とも、関わっていくことにした!!!だから、北条さん!!愛那との約束なんです!!!私は、あなたを手伝いたい!!!!!!」


言い切った。

私の想いを。

最後の、愛那との約束を。

私と愛那の仕事を。


「…っっ!!!…あなたは愛じゃない。私はあなたに期待なんかしていない。そんなことを言いたかったんなら、残念だね。私は手を組む気はない。あなたは愛の代わりにはならない。」


目を伏せてそう言い、北条は立ち上がって荷物をまとめだした。

帰るつもりだ。


「代わりにはなれません。でも、私が引き継ぐことはできる。それを証明して見せます!他のメンバーを納得させて、もう一度集めて、必ずあなたを引き込みます!!あなたがいないと始まらないから!!」


北条は既に踵を返し背中を向けている。

その背中に私は宣言した。

愛那達が活動していた頃の人達をもう一度集めると。

当てなんてない。

それでも、どうせいずれは必要になるメンバーだ。

自分で言うのもなんだが、頭の回転はいい方だ。

どうにかして見つけ出す。


北条は何も言わずに帰っていた。

それでも今日のこの時間はとても濃い時間だった。

愛那はさっきまで流れていた涙の痕を袖で拭って顔を叩く。

やっと始まったのだ。

ここから。

愛那との約束を始める。

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