表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第3章 1人の愛
44/71

第41話:愛のない学校

当たり前のことだが、2人の事故は次の日の内には担任から知らされていた。

もちろん愛華達がいた1年5組だけの話だ。

だが、元々悪い噂が広がっていた2人。

この話が校内を駆け巡るのに、そう時間はかからなかった。


「ねぇ、聞いた?」


「え、ほんとなの?」


「なんでも喧嘩中に事故にあったとか。」


担任、つまり佐倉先生からも詳しく説明はしなかったようで、噂は尾ひれをつけて広がっていく。

今までの愛華達の噂から色々なことが妄想されていった。


「まぁ、不良だし、自業自得でしょ。」


「そもそも関係ない人たちだったし。」


「今更どうにかなったって、私達にはどうでもいいよね。」


冷たい言葉で、愛華達の事故は、知らず知らずの内に収束していった。


********************************


事故の次の日の昼休み。

つまり、佐倉先生から知らせがあったその日。

相談室には紗那、巡川、石丸が来ていた。

巡川も石丸も、紗那が事故の当日連絡していたから、事実を知っている仲だ。


「容体はどうなんですか?!」


焦るように、巡川が言う。


「まだ私にも分からない…。どうしよう…。」


目を伏せて、ソファーに座りながら、顔に手を当てて言う紗那。

昨日の時点で、巡川と石丸には連絡はしたが、色々もたついて遅い時間の連絡となっていた。

2人は内容を聞いているだけで、実際見てはいないから状況を把握しづらいのだろう。


「愛那さんも愛華さんも…。あぁ、信じらんねぇ…。」


石丸もかなり参っているようだ。


「なんにしても、今の私達は何もできないから、無事を祈るしかない。」


紗那自身も現状での詳しい情報は分からない。

愛華達の母からの知らせを待つばかりだ。


「ダメだ、落ち着かねぇ…。今日の昼はもう解散だ…。」


各々が不安を残したまま、昼休みの時間はまだ余っているが、教室に戻ることとなった。


***************************


石丸が戻った1年5組の教室は朝から代わり映えもなく、愛華達の話でもちきりだった。

だが、確実に良い話ではない。


「どうなるんだろうね。」


「でも、このままでいてくれたら、わざわざ怯えなくても済みそう。」


そんな言葉が聞こえる。


「おう、石丸。また図書室でも行ってたのか?」


石丸は昼休みに相談室に行くことは基本伏せている。

と言っても、依頼時以降はあまり昼休みには行っていないのだが。


「それよりさ、渡辺さん達いないから、今日はお前ものびのびできるんじゃないか?」


「え?どういうことだよ?」


「だからぁ、お前、前に渡辺さんに脅されてた時あったろ?ほら…委員会決めの時!!あれは面白かったなぁ。」


男子グループは楽しそうに言う。


「事故にあったらしいからさ、しばらくはお前も怯えなくても済みそうだな。」


男子間のくだらない会話だ。

普段なら、簡単に合図値を打って適当に流すのに。

いや、なんならその話に参加して、一緒に盛り上がれるのに。

石丸は教室の男子とは仲は良いものの、それは話す程度の仲であって、親友と呼べるような人はいない。

当たり障りのない会話はできるし、ノリだって普段いい方なのだ。

部活動や委員会に所属していない、学校内での石丸の居場所と言ってもいい。

空気を読まなければ、そんな居場所、すぐになくなることは分かっている。

なのに。

今回は、空気が読めないかもしれない。


「なぁ…。」


手を握りしめて、なんて、そんな目に見えて『怒ってます』みたいなことはしない。

そんなところで勘づいてほしくない。

石丸の声で、真面目さで、気付いてほしい。

俺は怒っているのだということを。


少し間が開いて、続きの言葉が出ようとしたその時。

遮るように横から割込みがあった。


「君ら、渡辺さん達に失礼と思わないの?」


石丸は目をやる。

その子が怒っていることは分かるし、真面目だというのも分かる。

意外だったのだ。

その子は愛華を、遠ざけていたと思っていたから。


「え、秋山さん?いや、ごめんごめん!!ちょっとふざけただけで、別に渡辺さんたちの悪口を言ったわけじゃないんだよ!?」


「あんまりふざけないでほしいんだけど。そういう話は、私が聞こえないところでしてくれない?邪魔。」


驚いている。

驚きを隠せないでいる。

石丸は知っているからだ。

愛華と秋山の仲を。

秋山の正体を。

だが、それを知るのはこの場では石丸だけで、言い換えれば、他の全員は秋山のことを当時の石丸と同じく、かわいい人だと思っているのだ。

秋山もそういう風に思わせているのは知っている。

なのに、今のは。

それに反する行いではないだろうか。


秋山はそれっきり、言葉を出すことはなく自分たちのグループに戻っていった。

その子たちも驚いているようだけど。


「…おい、秋山さんと渡辺さん仲良かったのかよ。うわぁ、失敗したぁ。」


ここの男たちは、やはり秋山にある程度の好意を持っているのだろう。

失敗を嘆く。

石丸は、そんな男達の嘆きを無視して、秋山の方を見る。

向こうはまったくこちらを見ようとはしないけど、石丸は何となくこう思っていた。

石丸のために、あのタイミングで秋山が割り込んだのではないかと。

石丸が空気を読まないことを阻止したのではないかと。

真実は分からない。

でも、結果はそうなった。

後で、必ずお礼を言おう。

そう思った。


****************************


放課後。

相談室には昼休みと同様3人が集まっていた。

心ここにあらずといった状況だが、他に行くところもないし、1人でいても不安になるだけだ。


「まだ、何も連絡は来てない。病院に行っても家族以外は会うこともできないと思う。」


「…そうだ、昼休みなんだけど…。」


石丸が昼休みにあったことの話を伝えた。


「秋山さんが…。石丸君、お礼は早いうちにですよ。」


「うん。部活終わったらしようと思ってる。」


「でもやっぱり、いい噂は流れねぇな。こんな時でも…クソッ。」


いつもは愛那も愛華も気にしないから、紗那も何も思わないけど、2人がいない時の2人への悪口は酷く憤りを覚える。

目の前で聞いてしまったらどうなるか分からない。


ドアが開く。


「…っす。あ?もう2人はまだ来てねぇのか?」


紅が入ってきた。

噂ごとには疎いのか、やはり愛華達のことは何も知らないようだ。


「コウさん…あの…。」


紗那が言おうとしたその時、またもドアが思いっきり開いた。


「おい!!渡辺姉妹が入院ってマジか!?!?」


昨日、最後までではないが一緒にいた金井が来た。

もちろん昨日の時点では愛華達の事は知らない。

愛華達の事件の前には、1人でバイクで帰っていたからだ。

もちろん紗那は金井の連絡先なんかは知らないから、多分噂で聞いたのだろうか。


「いつだ?あの後あいつらにやられたのか!?」


「…そうっす。あの後の帰り道で1人が車で歩道に来て…。」


「…クソッ。まじかよ…。」


「…金井さんはいなかったんですか?」


昨日の状況が分からない英梨は金井に聞く。


「あぁ…。…帰りも一緒に帰ってれば…。それで、容体はどうなんだ!?」


金井も焦りを隠せていない。


「まだわからないです。」


「おい、さっきから何の話してんだよ。あの2人どうかしたのか?」


紅が割り込んでくる。

そういえばまだ状況を伝えてなかった。

それにしても、いつもはあんまり真面目じゃない紅も、さすがに真面目な顔つきになっている。


「昨日色々あって、その後事故にあったらしい。」


金井が代わりに言ってくれた。


「…。」


金井に言われなくても、紅は理解していたのだろう。

あくまで、確認だ。

今自分が想像していたことが本当に現実で起こっているのかの。

だから、何も返すことができない。


ピロン


紗那のスマホから通知音が聞こえる。

愛華達の母からだった。


『愛華は無事、一命をとりとめました。』


まずはその一文が送られてきた。

良かった。

愛華は無事なようだ。

そう思って紗那は、自分の、脳内で言った言葉を、呪った。

()()()無事なようだ。


『愛那は亡くなりました。』


その一文は、かなり間が空いて送られてきた。

向こうも、母もなかなか現実を文章にできなかったのだろう。


「…愛華は無事だ。…愛那は…。」


皆の一瞬ホッとした顔がまた強張る。


「…死んだ…っ。」


歯を食いしばって言う紗那。


愛那。

嘘だろ愛那。

…ダメだ、泣いちゃダメだ。

愛華はまだ頑張ってるんだ。


崩れるように、英梨は泣き出した。

石丸も俯いているが、涙が床へと落ちる。

紅も金井も怒った表情で、行き場のない感情を持て余しているように見える。

紗那は、何も言わずに相談室を出た。

止まっていたら、泣いてしまいそうだから。

固く、固く握りしめた手からは、ジワリと血が滲む。

この日から、相談室に人が集まることは無くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ