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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第35話:1人になって


ドォン!!!!!


人通りもない時間だったから、普通こういう時は悲鳴とかが聞こえるようなものだが、静寂に包まれる。


「…愛華…。」


唐牛である意識が、現状を把握する。

私達は車にはねられたのだ。


「…そっか。…っ!!…あ~…なるほど。」


腹部に、頭に、ものすごい痛みが走る。

思考も奪われそうだ。

そんな中でも私がどうなっていくのか、何となく分かった。

多分、死んでしまう。


あぁ、もっと愛華や紗那と一緒にいたかったなぁ。

英梨ちゃんとも、せっかくちゃんと友達になったのになぁ。

まだ、たった15年とちょっとしか、私達は一緒じゃなかったのか。

あと何万回と触れ合いたかった、一緒にいたかった。


「…うぅっ。」


涙が出る。

こんなの久しぶりだ。

落ちた涙は血の溜まった場所に落ち、波紋を作る。

まだ生きたかったなぁ。


「愛華ぁ。…ありがとうね。」


最後は笑うことにした。

涙を拭くことも、止めることもできないけど、もう考えることもできそうにない。

目を閉じて、落ちていく意識に身をゆだねる。

最後の言葉にしては上々だろう。

私のやりたかったことも、達成できたし。

最後に愛華と一緒でよかった。

欲を言えば紗那も一緒だとよかったなぁ。


「…おい!!!なんだよ!!しっかりしろ!!愛那!!愛華!!!!」


あ、紗那、来てくれたんだ。

でももう、目は、開かないよ。

最後に、これだけ。


「・・・・・。」


*******************************


移植病棟に移ってから、面会が許可されるらしく、母がまっさきに会いに来てくれた。

やはり、前の部屋はあまり面会できない場所だったらしい。

今はと言うと、完全個室の部屋で、家族以外は来てはいけないらしい。


「愛華。痛みはどう?」


「…うん、まだ痛いけど、生きてるって感じだよ。」


私はと言うと、もう頭の中は完全に整理できていた。

自身に起こったことも、何をしていたかも、愛那のとこも、私の心臓のことも。

この病棟にいて初めて私の体を見た。

腹部、胸部、その他もろもろが打撲でアザのようになっていて、胸のあたりに施術痕が残っていた。

理解したうえで、ようやく今と言う時間に気持ちが追いついたように思う。


「そっか…。うん、よかった!!今日からしばらく一緒にいるから、何かあったら言うように!!」


母は既に、いつものように気さくな感じになっていた。

泣き後ももうない。


「ありがとう。無理はしないようにするね。」


そういって私はベットに体重を預けた。

全て理解したし、整理もしたし、気持ちも追いついた。

でもこの、気持ちがふわふわした感じは何だろう。

ずっと寝ていたわけだし、まだ体が起きることに慣れていないのだろうか。

目をつぶって休む。

今はまだ、何となく寝ていたい。


「…それから…。」


母が花瓶の水を変えながら言う。


「…愛那の葬儀は済ましておいたから。」


「…そっか。」


それはそうだろう。

私の回復を待ってたらいつになるか分からない。

そっちが忙しくて病院に顔を出すのも大変だっただろう。


「葬儀は身内とその他は数人しか呼ばなかったけど、無事終わったからね。」


「うん、ありがとう。」


「それから…。いや、これはまた今度にするわ。」


「…。」


返事をしたつもりだけど、気付かぬうちに睡魔に負けていた。

やはりまだ眠たい。

しばらくは、ずっとこんな感じなんだろうな。


*************************


「失礼します。」


「あ、どうぞ。」


「…お母さん、愛華さんはどうですか?」


「そうですね。愛那のことも、ちゃんと理解しているんだと思いますよ。頭はいいですからね。ただ…少し余裕がなかったもので、まだどこかふわふわしてます。」


「そうですか。心のケアもこれから順次行っていく予定ですので、また何かありましたらお願いします。」


「はい、分かりました。」


「…落ち着いたら感情的になってもらってもいいんですからね。」


「…そうあってほしいですけどね。」


****************************


軽く目が覚めた時、あたりはもう暗くなり始めていた。

陽はぎりぎり山の向こう側に見える程度だ。

母は、見当たらない。

帰ったのだろうか。


「よぉ。」


「!?」


ビックリした。

と言うか、病院の配慮なのかもしれないが、ドアを開ける音がほとんど聞こえない。

人が入ってきたことに全然気づかなかった。

それで、入ってきたのは…


「…佐倉先生??どうして?」


「ん?いや、まぁ…担任だし…。」


「え、でも…。」


この部屋は家族以外は面会禁止のはずでは?

まだ、紗那すら来てもいないのに。

担任は入ってこれるのか?


「あ~、その、なんだ。…適当に家族つったら入れたぞ。」


「うわ、査証ですね。」


「な!!俺の心配している気持ちを汲めよ!!」


寝起きだったけど、最初の驚きで目は覚めていた。

嘘をついてまで私の身を案じてくれたのは嬉しいことだが、普段のこの人を知っているせいか嘘と言う行為すらダメ人間のように思える。


「…え~と、どうだ?痛いか?」


「なんですかそれ。痛いですよ。」


「そうか、妹のことは…災難だったな。」


「…そうですね。お葬式くらいは出たかったかもしれないです。」


そんなこと言う感じもデリカシーはない気がするけど、気を使われるよりはマシだ。


「…お前も、泣いたりしねぇのか?」


「…プッ、なんですかその質問。泣いてないですよ。泣いてほしいんですか?」


質問がバカらしくて、少し笑ってしまった。


「いんや?」


その顔はまったくもって真面目だった。

佐倉先生はふざけて質問しているのかと思ったけど、表情は違った。


「こういう時に絶対泣けとは言わねぇよ。泣くことが何かになるかって言ったら何にもなんねぇからな。でもよ、泣きたいときに我慢するのは違うと思っている。俺はそういう奴は嫌いだ。」


「そうですか。私は普段真面目にしない人も少し苦手ですが。」


「おい!!俺のこと言ってんのかよ!!!」


少し水を差してしまった。

あまりにもちゃんとしすぎていて。


「まぁ、ありがとうございます。お見舞いに来てくれて。」


「気にすんな。学校で待ってるからよ。」


そういって佐倉先生は病室を後にした。

1人になった病室で目も覚めてしまった私は久しぶりにスマホを見ようとする。

もちろん、電源はつかない。

それはそうだ。

もう何日も充電なんてしていないのだから。


「紗那達、どうしてるかな。」


無意識にも、口から漏れていた。

それに恥ずかしさを覚えるが、それ以上に驚いた。

自分が紗那以外の人のことも考えていたことに。

私は、愛那のおかげで成長していたんだ。


****************************


その後、私の回復に連れて2日ほどで一般病棟に移った。

痛みは引いてきたのもあるが、どちらかと言うと慣れてきたのかもしれない。

最初はしゃべるのやくしゃみ、少し起き上がるのも痛くてたまらなかったが、今は我慢できないほどでもない感じだ。

食事も食べることができるようになり、自ら歩くこともできた。

大したリハビリもすることなく、残りの検査をするだけで済みそうだ。

スマホは母が充電器を持ってきてくれてから充電をしているが、そういえばまだ一度も触っていないな。

一般病棟に移ってからは家族以外の人の面会も許された。

そもそも家族以外できてくれる人なんて紗那くらいしかいないものだが、そういえばまだ来てくれていない。


「あ、スマホ…。」


一般病棟に移ってから1日したところで、思い出したようにスマホの電源をつけた。

ちなみに母親は移植病棟にいた時は来てくれていたが、さすがに仕事もあるため、次の検査までは来ないように私が計らった。

そのせいか一般病棟に移ってからは、周りに人こそいるものの、紗那たちの事を考えることが増えた。

スマホの電源が点き、メッセージが届いていることに気付く。

といっても連絡先を交換しているのは英梨と紗那くらいだが。


『愛華。面会に行けるようになったら連絡してくれ。すぐにだぞ。英梨も石川も金井さんも心配してる。うるさくないように私だけがメッセージを送るようにしてるから、皆が心配しているってことは知っててくれよ。』


メッセージは紗那からだけだった。

それが寂しいことだなんて思わないけど。


「…ん?」


それからもう一つ。

知らない人からメッセージが来ていた。

名前は


「『あきやまさくらこ』…。秋山さん、連絡先聞いたんだ。」


意外な人からのメッセージに少し戸惑い、驚く。


『早く学校に来い。』


たったそれだけだ。

別段仲がいいわけでもないし、なっていくこともないと思っていたが、秋山なりのお見舞いメッセージなのだろう。

メッセージはこれだけで、私からしたら返信が楽でよかった。

2人にありがとうとお礼のメッセージを送り、紗那にはもう一般病棟に移ったことを伝えた。

時間にしては遅く起きてしまったのもあるが、月曜日のお昼15時。

2人とも授業中だ。

私が入院しているこの病院は、もちろん私の家の近くの病院なので、学校からは遠くに位置する。

授業後に気付いたとして、ここに到着するのは17時過ぎになりそうだ。

暇だし、フリーのアプリでもインストールして遊んでいよう。

そう思った矢先。


『よし、今から行くぞ。』


紗那からのメッセージだ。

もちろん私の学校では授業中のスマホ類の使用は禁止されている。

ほとんどの人がバレないように使用してるけど。

と、まぁ、返事が来る可能性は十分にあるけど、『今から行く』とはどういうことなのだろうか。

授業を抜けてくるということなのか?


『今からって、授業は?』


そう送ると、またもやすぐに返信が来た。


『何とかして今から抜ける。』


何とかって。

王道である体調を崩して保健室に行くふりをして帰る、などだろうか。


『授業終わってからでいいよ。入院って言ってもひどくはないしね。』


残り1時間くらいだけど、サボらせてまで来てもらっても申し訳ない。


『もう学校出た。』


遅かったか。


それから約1時間後。

16時を過ぎた頃に、紗那が病室に来た。


「…えへ、お久しぶり。」


「…やっと会えたな。…どうだ?痛いか?」


聞き覚えのある質問だ。


「ふふ、それ、佐倉先生と同じ質問だよ。」


「あ?おっさん来たのか??…愛華にはなんて言ってた?」


「ん?いや、特には…。」


「お母さんも何も言ってないのか…。」


「ん?」


「いや、何でもない。それより、傷の方はどうなんだよ。」


「あ、もう大丈夫だよ。治ってるって感じ。私の事より…。」


そう。

紗那は大丈夫なのだろうか。

被害こそ受けてはいないが。


「紗那は…大丈夫?」


「…あ、ああ。大丈夫だよ。愛華、ちゃんと全部聞いたんだよな。」


「…うん。」


「…ちゃんと、泣いたか?」


「…いや。そんなタイミングなかったよ。情報整理してたら、その状況に順応した感じ。心臓のことも…。」


「そっか…。愛那は…。」


紗那は躊躇うように咳払いをして、言うのを止めた。


「ここだと人もいるし、散歩でもしよっか。もう外出れるし、久々に歩きたいから。」


「おお、そうだな。」


格好はジャージだったので私はそのまま外へ行くことにした。


「なぁ、病院の敷地外に行こうか。」


紗那がそう言って、敷地外に出る。

少し歩くと住宅街に入り、お店と言ったらコンビニくらいしかないようなところに出た。

もちろん私達の地元だから知っている道だ。

昔からよく。

久しぶりに長く歩いたせいか、心臓が強く脈を打っている。

愛那の心臓が。


「…愛那さ。紗那が来た時は…まだ生きてた?」


良く知った路地の角を曲がる。

ここを曲がったら―


「…ああ。」


このコンビニの前を過ぎたら―


「何か言ってたかな。覚えてないんだけど。最後に何か言ってた気がするんだ。」


この公園を通ったら―


「…言って、た。」


この踏切で止まったら―


「『あいしてる』って…いってた。」


この電車が過ぎたら―


「…あぁっ…あああぁあぁっ!!!ぁああああああぁあぁあっ!!」


泣こう。


私がいて、紗那がいて、愛那がいたこの街。

思い出の場所。

ようやく、ふわふわしていた状態から、目が覚めたような気がする。

電車と踏切の音でかき消されるように、人気のない小さな踏切で、二人の泣き声は響いた。

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