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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第34話:mix


「私も…一緒に手伝うよ。」


「…。」


照れ笑いする愛那。

だが、返事はない。


「…ん?愛那?」


私は何かしらの反応を期待していたせいか、少し食い気味に声をかける。


「愛那、私も手伝っていい??」


「…今の愛那なら、どんな選択をしても大丈夫だよ。」


「ん?どういうこと?」


想定していた返事と違う。

だが、それを最後に、場面が暗くぼやけていく。


「え?ちょ、愛那!なんか変だよ!どうなってるの?」


海の底深くに沈んでいくように、音も聞こえなくなり、暗闇へと変わる。

声も出せなくなり、自分が一体何なのか分から無くなった。

そして、小さな光が一つ、瞼を閉じて証明を見るようにぼんやりと現れた。


**************************


「…先生、意識が戻られました!」


そんな、ドラマや漫画で聞いたことのあるような言葉が、はっきりと聞こえた。

それと同時に激しく眩しい光が見える。

久しぶりの光のような感じだ。

何だろう。

テレビでもつけっぱなしにしてたかな。

今の状況がまったく飲み込めない。

というか、ここはどこだ?

頭もまともに働いていない。


「渡辺愛華さん!私のことが見えたら瞬きを二回してください。」


初めて見る男の人にそう言われ、私は瞬きをする。

体は…動く気配はない。

何かに拘束されているのだろうか。

感覚もあまりない。


「良かった…。じゃあ、イエスは瞬き2回、ノーは長い瞬き1回でお願いね。辛くない限りでいいから。まず、自分に何が起こったか覚えている?」


なんだ?

さっきから、この質問は私に対してのものなのか?

私に、何かあったのか?

質問したいことはいっぱいあるのに、眼球もまともに動かないし、声も出ない。

そういえば口元に何か当てられている感覚がある。

状況を呑み込めない私は長い瞬きをする。


「…わかった、今はこの辺にしておこう。ゆっくり休んでいなさい。」


そう言ってその男は周りの人に指示を出し始めた。

それを耳で聞きながら、目を閉じ、考える。

というより、思い出す。

多分ここは、病院で、私は…。


*****************************


次に目が覚めた時、私の前にいたのは、またあの男の人だった。

結局あの後、どこまで考えていたかも忘れて眠ってしまった。


「それじゃあ、今日は声が出せそうかな?無理しないようにやってみて?」


「…ぁっ!あぁっっ。」


痛い!

久々に声を出したのか?

でも痛いのはその一回だけだった。


「はい、出せます。」


それでも大きい声は出ない。


「そうですか。よかった…。それじゃあ、少しずつ話していきますので、なるべく驚かないように。…まず、ここが病院であることは分かるかな?」


「…はい。」


目で見える雰囲気や器具などで大体察した。

それに今日はなんとなく感覚がある。

全身の感覚はないが、手足に何やらコード?のようなものが触れている感覚がある。


「うん、愛那さんは約3日前の夜に、ここに運び込まれたんだ。覚えてる?」


「え??」


全然わからない。

3日も経っていたのか?

っていうか3日前に何があったかもわからない。

最後に私は何をしていたんだっけ。


「愛華さんは交通事故に巻き込まれてここに運び込まれたんだよ。一命は取り留めることができたけどね。」


「…。」


返事に困る。

そういえば、前もこんな、情報が整理できないことがあった気がする。


「大丈夫、落ち着いて、聞いてくれるだけでいいから。愛華さんは3日前の夜。夜というには早すぎるけど、5月28日の午後16時くらいに、阿原山の歩行者用山道で乗用車に衝突された。その時のことを、辛いかもしれないけど、思い出せないかい?」


阿原山…。

そういえば最後に、山に登った気がする。

すごく座り心地が悪くて、手と足は自由ではなかった。

それと、何人か、見たことない人がいて…。


「思い…出しました。…ゴホッ。」


急にしゃべったせいか、咳が出る。


「あ、今はまだ大丈夫。無理しないで。ゆっくりでいいから、その時のことを教えて欲しい。」


「ありがとう、ございます。」


こんな風なことが次の日まで何度か続いて、ようやく私の記憶も復活しだした。

よくわからないコード?なども次第に減っていき(まだあるけど)、声もある程度出せるようになってきた。


そして段々と感覚も取り戻し始めて分かった。

腹部や胸部の打撲傷がズキズキ痛むのと、心臓部分がとてつもなく痛い。

体を起こせないから、見ることはできないが、胸のあたりに大きなけががあることを予測する。

男の先生の話だと、私は歩行者用の道を無理矢理通ってきた乗用車に轢かれたらしい。

それまでのことも何となく思い出した。


知らない女複数人に拉致されてボコられ、そこに愛那と紗那と金井が助けに来てくれた。

そしてその後帰っている途中で…。

ようやく頭の中も整理がついてきて、今回の先生との会話。

私は質問をする。


「…あの、愛那…もう一人私と一緒にいませんでしたか?事故の時。その人が救急車を呼んでくれたんですか?」


「…。」


ん?

どうして、下を向いて黙るんだ?


「今日はちょうど、そのことについて話すつもりだったんだ。でも私の口よりは…。」


そう言うと立ち上がり後ろに下がる先生。

奥から看護師のようにきっちりした格好で母親が来た。


「お母さん?…ごめん、心配かけて。」


「…いいよ。辛かったな愛華。ごめん…こんな時なのにあまり来れなくて…。」


「全然いいよ。それより、愛那は?…来てないの?」


「…。愛華。愛那は…。」


きっと、頭がよく回る今だから、こんな風に色々考えてしまう。

そんなに含めないでよ。

やめてよ。

変なこと考えちゃうよ。

嫌だ。


「…愛那は、もう、いなくなっちゃったよ…。」


死ぬほど、泣いたのだろう。

母のその目はよく見ると腫れあがっている。

もう出ない涙が、まだ出ようと、まだ出したいと、そう言っているように、泣き声が響く。


「…え?」


それを聞いた私は、泣くことも、考えることもできなくなって、ただ天井を見上げた。

右手を母が強く握る。


渡辺愛那は、死んだのだ。


******************************


それからはずっと心ここにあらずと言った状態だった。

私は今、集中治療室と言うところにいるらしく、面会などはほとんど制限されているらしい。

検査などをクリアしたら、別の棟に移れるらしいけど、もう、何がどうなのか考える余裕はなかった。


「渡辺愛華さん、今日は君の手術についての話なんだけど…大丈夫かい?」


「あ、大丈夫です。」


大丈夫って、何がなんだろう。

意識ははっきりしているし、体中は痛いけど話す分には大丈夫だ。

じゃあ、他には何が大丈夫で、何が大丈夫じゃないんだろう。

頭が回っているはずなのに、同じような自問自答が繰り返される。


「…いや、これはもう少し後にしよう。…愛華さん、ここには私達がほぼ24時間常についているけど、1人になりたい気持ちを無視するほど野暮じゃない。…感情的になったっていいんだよ?」


「…ありがとうございます。」


「…ふぅ。」


少し溜め息のようなものをして、先生は私の下を離れた。

まだ、頭の整理がついていないのだ。

いや、整理できるようなものじゃない。

きっと折り合いを付けるべきなのだろう。


次の日、私は検査をクリアしたのか、別の病棟に移されることになった。

憎らしくも頭は悪い方ではない。

受け入れたくもない現実に、私の頭は折り合いをつけようとしている。

気持ちと頭に、どんどんラグが生じる。


「愛華さん、落ち着いて聞いてほしい。君が今日この病棟に来て察したかもしれないが…。」


この病棟。

この病棟って…。


「君は心臓破裂に陥って、施術による修復は困難だった。だから、今の君の心臓は…。」


この病棟は『移植病棟』だ。


「君の心臓は、渡辺愛那さんのものだ。」


私の心臓が強く鳴る。

一気に、現実に気持ちが追いついた。

吐きそう、いや、吐いた。


愛那はもういなくて、私は愛那に生かされて、私は、私だけが、今も生きているのだ。

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