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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第32話:拉致の果てに

怒った愛那達の登場に、この場にいる全員が驚く。


「え!?お前…渡辺愛那!?じゃあこいつは!??」


私を抑えていた2人が驚きのあまり私を解放し、その場に落とす。

というか、落ちた。


「う…っ。」


衝撃で声が出る。


「本当にこいつ、渡辺愛那じゃなかったのか!?そんな馬鹿な…。まぁ、いい!!結局お前が本人だ!!っていうか…お前、金井じゃん。あんたにはこの件が終わり次第対処するようにって言われてたけど、ちょうどいいや。全員でやる…っ!?!?」


言い切る前に、振り向きざまに、愛那がその女の顔を殴った。

電光石火だ。


「な!おい!いきなりすぎだろあいつ!!」


「いや、愛華がここまでやられてるし、当然っすよ。私も、行きます。」


紗那も参戦する。


「お前ら!!絶対許さん!!」


一人の女を殴ったが、もちろんそれで伸びるわけではない。

互いに距離を置き、向かい合う。


「ッチ。おい、その女もこっちに持ってこい。」


私は不良側に寄せられて再び抑えられる。

というより、背中に乗られて押さえつけられる。

人質なのだろう。


「大人しくしろよ!こいつがこれ以上傷つくのは嫌だろ?さっきまでは顔には何もしてないが、こいつが渡辺愛那でない限りこいつには何でもできるからな?」


不良達は私を人質に牽制をする。

愛那達のことを恐れているのか、5対3という場面だがかなり慎重だ。

昔の愛那の影響の強さをうかがえる。

愛那達も下手には近づこうとはしない。

しかし、表情を変えず、身構えるわけでもなく、スカートのポケットに手を入れたまま2人ともこちらを見ている。

引く気はないんだろう。


「…っ。こっちは5人なんだし、人質もいる。…おい!!金井。お前が何でそいつらの味方してるか分からんけど、今こっちに戻ってきたら私が本郷さんに言っといてやるよ。お前も大学とか将来のこと考えてんだろ?なぁ??」


金井を引き込もうとするリーダー的女。

そういえば金井がいるってことは、金井と関わっていた人なのかもしれない。

というか、会話から察するにそうなのだろう。

ということは、金井がこちらの見方をするよりは何倍もマシな提案だ。


「…。」


愛那も紗那も何も言わない。


「…分かった。すまんなお前ら。」


金井は大きく回ってこちら側に来た。

これが妥当な選択だろう。

愛那達もそれを止めたりはしない。


「帰ってきたな。とりあえずお前は前に出ろ。本郷さんには任せとけ。」


金井を歓迎する不良達。

しかし、金井に見えない角度でクスクスと笑っている。

明らかに良くない雰囲気だ。

金井が不良側に付いたところで、金井の待遇は変わらないと、そういった笑いだ。

その場しのぎの、不良の嘘。

金井にはそれが見えていない。


「…ゲホッ。…金井さん、ダメ。…っ。」


頭は大分鮮明になってきているが、体はかなり危ない状況だ。

痛みがすごく、声を出すだけで全身に響く。

それに、私を抑えていた女がさらに体重をかける。

今この状況で金井に伝えるのは難しい。


「よし、6対2だな。お前らがどれだけ強いとしてもさすがにこの人数は…っ!?」


リーダー的女が言い終わる前に声が途切れる。

デジャブ。

リーダー的女が私の前へと吹き飛んだ。

そう、後ろから前へと。

金井が蹴り飛ばしていたのだ。

話途中に遮ることが最近の当たり前なのだろうか。

金井はすぐ様私の上に乗っている女も蹴り飛ばし、私をつかんで愛那達の方へ飛ぶように逃げる。

裏切っていたのは金井の方だった。


「ふぅ…。これで形勢逆転だ。」


「逆転どころかゲームセットですよ金井さん。」


ともあれ、私はやっと、安心できる状況になった。


「ありが…ゲホッ。」


お礼も満足に言えない。


「ごめんね愛華。遅くなった。もう大丈夫、愛華は私が守るよ!!」


「あぁ、これで本格的に私の立場が危なくなったな…。お前らに焚きつけられたせいで…。」


「ここまでやったんすから、もう覚悟決めましょう。絶対金井さんの方が強いですって。」


結果、5対3で対面する形になった。

もちろん人数的には圧倒的に劣勢だが、それでも相手は1歩引いた状態にある。

だが、1つ劣勢であったことは、私達は外を背にし、向こうは工場内を背にしていた。

そのせいで、


「…あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ。こうなったら仕方ねぇからな。覚悟しろ?」


後ろから鉄パイプを取り出した。

不良の王道を歩いている。


「うぉ、さすがにやばいな。どうす…。」


手を出すなとジェスチャーする愛那。

一歩前に出て、腰に両手を当て、片足を出し、構える。

空手のような構えだ。


「…手加減するな!!」


リーダー的女の合図で1人が鉄パイプを振りかざして突っ込んでくる。

その横から別の一人が回り込むように近づく。

多分1人は狙いは愛那で、もう一人はよけられたときとかの予備、紗那たちが加勢した時ようの守備ようだろう。

2人で同時にくればいいのにと思ったけど、同時よりも1人が予備で付く方が来られる側としては対処しづらい事に気付いた。

同時だと一緒に見れるけど、別れていることでかなり見る情報、考えることが増える気がする。

つまり、かなりやばい状況だ。


両手で持たれた鉄パイプが愛那めがけて振り下ろされる。

真上からまっすぐ下にではなく、やや斜めに、愛那の左肩辺りを狙って振る。

その瞬間に愛那が一気に距離を詰める。

そして鉄パイプと持ち手の境目辺りを両手でつかんで止める。

1番勢いが失われる点を掴んで止めたのだ。

それでも痛いかもしれないが、最低限のダメージだ。

愛那は表情一つ変えない。

だが、その行為でさえ向こうには予想内だったのか、左足で愛那の腰辺りに蹴りを入れる。


ゴン!!


一瞬響く音。

骨があたるような音。

その音とともに、不良が倒れた。

文字通り、倒れこんだのだ。

動かない。

愛那は相手の蹴りに対して自分の右足を上げて守りの姿勢になっていた。

あの一瞬で対応したのだ。

そしてそのすぐあと、パイプをつかんでいた右手を握りしめ、相手の顎めがけて腕を引いた。

引かれた腕はキレイに、流れるように手の甲を相手の顎に当てた。

脳を揺らして戦意を奪うには十分すぎる一撃だ。

回り込んでいた人も一瞬固まる。

そして、その相手が倒れこんでいる最中に愛那が言った。


「…次。」


なりふり構わなくなった不良達。

声をあげながら一斉に、残りの3人、リーダー的女以外が襲い掛かる。

それを見た紗那と金井が1人ずつ対応する。

心臓にまっすぐ、鳩尾に深く、顎に一発。

それぞれを瞬殺した。

統率の失われた、雑な攻撃ほどかわせるものはない。

ましてやパイプを振っている。

剣道をやっている人なら、これくらい避けることなどなんでもない。


「私も愛華の分で相当イラついてるけど、この一発でいいよ。」


「ごめんごめん、1人多くもらって。」


「っくそ!!なんだよお前ら!!金井!!いいのかよ!!お前をこれから全力で潰す事になるぞ!?あぁ!?!」


「…ふぅ、よし。」


金井が深呼吸を軽くして小さくつぶやいた。

そして金井が愛那と紗那を見る。

愛那と紗那は頷いて、金井を送り出す。


「…あぁ~、それは確かに困りますけど、私等に負けた先輩はさらに酷いことされるんじゃないですか?だから…このことも、私のこともなかったことにしません?」


「ぐっ…。何言って…。」


そうか。

これは金井を救うことでもある。

1人じゃどうしようもなかったことにケリをつける機会でもあったのだ。

それでもかなり危ない橋。

現に、不良には隠しているが手が震えている。

これは過去から積もった全ての恐怖と緊張からのものだろう。

それを必死に抑えての交渉だ。


「私の件は終わって、現在も渡辺愛那の情報収集に力を入れているってことで、負けたこともここだけの話で止めるってことです。」


「…。」


「ていうか、そうしないとやばいでしょ?」


追い詰めていく金井。


「…分かった。」


小声で不満を言いながらも、了承した。

これを破れば、もちろん自身も危うくなる。

契約としては、破られそうもない。


「じゃ、最後に金井さん。」


愛那が金井の背中を押す。

そのリーダー的女のことを金井は『先輩』と呼んでいた。

もしかしたら、金井の高校生活を変えた張本人かもしれない。


「…今までの分、これでチャラっす。」


そう言って拳を固めその女の鳩尾当たりに一発。

重い、想い一撃だ。

高校生活をつぶされた分、剣道を侮辱された分、剣道仲間に酷いことをした分。

いろんな想いだ。

元全国出場をするほどの実力者から放たれるその一撃は、決してやわなものではない。


「っがは!!!!」


倒れこむ不良の女。


「二度と!!!私に関わるな!!!」


隠した方の手はまだ震えている。

それでも全てを出し切ったのだ。

表情は、涙ぐんではいるが、とても清々しい。

金井の3年間の戦いは、これにて本当に終わった。


「帰りは、お前らどうする?さすがに4ケツはできねぇよ?」


「あぁいいですよ。歩いて帰るんで。愛華だけ送ってあげてください。」


愛那が私を支えながら外に出て、バイクの前で話す。


「え、私はいいよ。だんだん痛みにも慣れてきたし。それに、ノーヘルでしょ?」


バイクにはヘルメットは1つしかない。

本当にノーヘル3ケツできたのか。


「何言ってんの!!そんなものに慣れる必要なし!!骨は多分折れてないけど、打撲の方がじわじわして痛いんだよ!?」


たしかに歩くたびに振動で痛む。


「ってか普通に救急車呼んだ方がいいんじゃねぇか?」


紗那の提案はもっともだが、こんな現場は見せられない。


「救急車はちょっと厳しいかなぁ。いいよ、普通に歩いていけるから。…あ、お母さんになんて言おう…。」


せめて、学校にはバレないようにしたい。


「じゃあ3人でゆっくり帰るんで。金井さんお疲れ様です。」


「…まぁ、お前らには巻き込んだ申し訳ない気持ちもあるし、感謝の気持ちもある。また近いうちに何かお礼をさせてくれ。それまでくたばんなよ。」


皮肉を言いながら、金井はヘルメットをかぶり、バイクに乗って山を下りて行った。

私と愛那と紗那はゆっくりと山を下ることにした。

坂だから、一歩一歩に通常より体重がかかるから余計響く。

でも、愛那と紗那に支えられてるから、多少は楽だ。

一歩一歩、山を下っていく。


*****************************


愛華がいると思われる山へと走る愛那と紗那と金井。

だが、金井が山とは別方向の路地へ曲がる。


「え?こっちが近道なんですか?」


「いや、もし行くとしたら皆はいつもの車で行っているはずだ。だったら走ってちゃ間に合わないからな。これを使う。」


「えぇ!!金井さん免許持ってるんですか?!」


そこには中型のバイクがあった。


「っていうかバイクで学校来てるんすね。不良だな~。」


「うるせぇ!一回来たら楽過ぎて止められなくなったんだよ。…で、バイクはあるけどヘルメが1つしかないからな。幸い人通りは少ないから1人はノーヘルでいけるけ…おい、何やってんだ。」


愛那と紗那が後ろに一緒に乗る。


「どうせ法を破るなら、これくらい良いでしょ。急いでるんで!!」


「はぁ!?さすがに3ケツはちょっと…。」


「急ぎましょう!!金井さん!!早くしないと!!」


急かす愛那。


「…あぁっ!もう!!バレたらお前らだけ置いていくからな!!」


そう言いながらバイクにまたがり、ヘルメットを手に取る金井。

だが、そこから動きが止まってしまった。


「…金井さん?」


「…いや、大丈夫だ。ただもし今から行く場所に愛華がいるとしたら、少し…な。」


今から行く場所に、もし愛華がいるなら、そこに連れて行ったのはもちろん金井の元グループのメンバーだ。

それに怯えながらの日々を送っていたのに、今そこに行こうとしているのだ。

怖いに決まっている。

それを愛那は察した。


「…金井さん。チャンスですよ。いい案があります。金井さんの頑張り次第ですけど。」


「え??」


愛那が案を伝える。


「…でも、上手くいくのか?相手が何人いるかもわからないんだぞ?下手したらお前らだって…。」


「金井さん。私達じゃないですよ。そこは金井さんがケリをつけるところです。私達はそれをサポートするだけですから。」


「ちょ!紗那!愛華を助けることも重要だからね!?」


「分かってるって!!それを私達がして、金井さんは金井さんでやるってこと!!」


「…っぷ、あははは!!分かったよ。そろそろ私も、頑張らないとな。3年、無駄にしたからなぁ。」


「…金井さん。」


「なんだよ。」


「笑って帰りましょうね。」


金井は少し笑ってフルフェイスのヘルメットを被る。

エンジンをかけてアクセルをふかし、ミラーの位置を直す。

愛那と紗那は互いにしっかり掴まる。


「じゃ、落とされんなよ。」


そう言ってアクセルを捻った。

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