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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第31話:拉致


プルルル…


車内に電話の着信音が響く。

普段から通知音、着信音はそこまで大きな音ではないのだが、この緊迫した車内では目立つほど鳴り響く。

車は7人乗りの車で車内はまぁ、そこそこの広さだ。

車種なんかには疎いから、白い大きめの車としか言いようがない。

ちなみに私は車に乗せられる前に手を縛られており、身動きはほとんどとれない。

やはりこの人達は私を愛那と勘違いしているようだ。

多分、昔の愛那と関わった人達なのだろう。


「…ッチ、電話に出ろ。怪しまれないような返答をしろよ。」


隣の女が私のスマホを取り出して渡す。

着信先は想像通り、愛那からだった。

私はこの時だけ腕をほどかれてスマホを操作する。

もちろん、ここで逃げ出せるほどの力はないので、今はおとなしく従うだけだ。


『あ、愛華?今どこ?先帰ってる?』


考える。

時間はかけられない。

巻き込みたくはないが、助けてもらえるとしたらもうここしかないだろう。

スマホもこれ以上はきっと使えなくなる。

愛那と紗那なら分かる、何か暗号のようなものを…。


「…今日私友達の家に行くから遅くなる。他にも人いるから心配いらないよ。」


そう言って電話を切った。

怪しさはまるでないだろう。

私を知らない人にとっては。


「おい、ケータイ電源切っておけ。」


そう指示されて、隣に座る人がスマホを取り、電源を切ってそのまま預かる。

後は、痛い思いしないように祈るだけだ。


**********************


駅を出た愛那と紗那。

2人とも愛華の想いは完全に把握していた。

愛華が言った言葉は『今日私友達の家に行くから遅くなる。他にも人いるから心配いらないよ。』である。


「整理すると…。」


1、電話が早く切られたこと。

2、『友達』と言ったこと。

3、他にも人がいる、ということ。


「電話が早く切られたから、多分切羽詰まった状況。」


「そんで、愛華が『友達』なんて言葉使うわけがない。使ってくれたらスゴイ嬉しいけど、急にそんなことはないでしょ。」


「最後に『他にも人がいる』ってことは何人かと一緒にいるってこと。つまり…。」


「複数人の誰かと一緒にいてしかも、今悠長にしている時間がないってこと。ってことは、危険ってことだ。」


険しい表情の2人。


「紗那、一応金井さんを呼んできて。この辺のそういう奴に詳しいと思うから、もし移動しているとしたら場所が分かる。」


「分かった。愛那は?」


「私はここら辺を少し探してみる。何かあったら電話するけど何も話さなかったら、話せないって思って。」


「愛那に限ってそんなことはないだろうけど、分かった。」


最悪の状況を視野に、愛那と紗那は分かれる。

愛那はここらの路地を探索する。

駅のホームは賑わっているが、電話越しの愛華の環境音はほとんど聞こえなかった。

つまり、それほど五月蠅くはないような場所にいることしか分からない。

車の中なのか、歩いているのか、それとももうどこか室内にいるのか。

愛那は路地を見回るが、これといった情報は得られなかった。


「…もう!!」


見つからないことに焦りと苛立ちを覚える。

状況が分からない以上、一刻も早く行かないと。

愛那は自分のケータイを握りながら、葛藤する。


「…。」


渋々、愛那はケータイの画面を開き、ある人に電話をかける。


プルルルル、ガチャ。


『もしもし』


覚えのある、あまり好きじゃないその声に愛那は不本意そうに声を出した。


「北条、今、時間ある?」


相手は北条叶江だ。


『普通に仕事中だったけど、私を頼るってことは何かあったね?いいよ、何だい?』


「…相変わらず物言いが腹立つ…。…あんたこの前何か匂わせたろ。」


この前と言うと、愛那と愛華のショッピングの帰りの時だ。


『ん?あぁ。そうそう。それで??』


「…愛華がもしかしたら接触したかも。分からないけど、この辺で愛華をどうにかするって言ったら、多分私と間違えたんだと思うけど、そういう奴らだろ。」


『この辺ってのは…阿原高校のあたりでいい?…愛にはもう話が行ってないと思うけど、確かに最近本郷が力を入れ出している。』


「…どういうこと?」


『切羽詰まってるみたいだから、私もなるべくふざけない方がいいね。私のことはまだバレていないけど、本腰入れて愛を探そうとしているってこと。』


「まじかぁ…くそ。これで愛華も巻き込まれたんじゃ意味ないよほんと。…で、どのグループがやった?」


『そこまでは知らない。ただ、駅の近くなら西の山の中に連れていかれたと思う。勝手に工場の中使ってるはず。他に行くとしたら…直接本郷のところくらいだ。今日は本郷いないはずだからそっちはないと思うけど。』


「分かった。ありがとう…ございます。」


『ぷふっ!なんだよそれ!!…なぁ、冗談抜きで戻ってこないのか?愛、私らはいつでも準備できてるぞ?』


「…今はその気はないって。こんな風に使うのは申し訳ないけど…。」


『ふふ。了解。また連絡する。』


電話を切る。

後ろめたい気持ちもあり、あまり北条には慣れ親しくしたくなかった愛那。

行き場を大まかに絞って、紗那の帰りを待つ。

北条の話を聞く限り、いよいよ急がなければならない。


「お~い!愛那!」


紗那が息を切らしながら走ってくる。

後ろには金井もいた。


「金井さん、すみません、わざわざ。」


「いや、いい。話は簡単に紗那から聞いた。愛華が連れていかれたんだろ?ここら辺の奴なら間違いなく私のいたグループの奴らだ。」


「どこに行くか分かりますか?」


「多分あっちの山の中にある工場だと思う。行くだけ行ってみるぞ。」


「はい!!」


愛那と紗那は返事をして山へと走り出した。


********************************


私を乗せた車はどんどん町から離れていき、あまり補装されていない道を走りだした。

ガタガタと揺れる。

外の景色は木や草がメインになって、どうやら山の中へ進んでいることが分かった。

この町の地理には詳しいわけではないので、どの山なのかとかは見当もつかない。

王道的に、人気のないところへと誘導されている。


車が停まった。

見るに、そこは工場のような場所だった。

でもそこにある設備や重機は古めかしそうではなく、手入れがされている気がする。

王道的には廃工場とかだけど、さすがにそこまで準備されてはいないか。

人はいないが、廃でない工場の中へと私は連れていかれた。

手は縛られている。

私は2人に腕を固定されたまま工場内の奥まで連れていかれ、初めてしっかりと対面する。


「あれからずっと探してたよ、あんたのこと。渡辺愛那。さんざん私等のチームつぶしてくれたね。その礼はきっちり取ってもらうとする。」


確実に愛那の名前を出した。

やはり、間違えている。

3人が私を睨み、そのうちの一人、多分リーダー的な人が私に言う。

今にも殴り掛かりそうな雰囲気なので、私が愛那でないことを主張しなければ。


「あの…私その、渡辺愛那?って人じゃないで…うっ!!?!」


言い終わる前にみぞおち辺りから激痛が広がる。

胃の中の物、全部吐き出しそうだ。

それはもう、躊躇はなかった。


「んなわけねぇだろうが!!オラぁ!!いつもの威勢はどうしたよ!!?」


安易だった。

始めに、車に乗せられる前に断っておくべきだった。

ここまで来て、顔も見た目もそっくりな私を今更他人だと確認しないだろう。

ここにいる私以外全員が、疑ってすらないのだから。

これは私のミスだ。


「あんたのせいで私等もひでぇ目に合ってんだ、よっ!!本郷さんに渡す前に私等の憂さもはらさせ、ろっ!!」


「おい、うちらにもやらせてくれよ。」


他の女も私の腹や腰を殴ったり蹴ったりする。

痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたい!!!

あまり余計なことも考えられないくらい、頭の中が痛みでいっぱいだった。

無意識なのか、痛みから体が逃げようと動く。

固定されている腕を大きく動かし、縛られた腕をほどこうとする。

だが、そんなことはさせまいと2人に抑えられ、他の人からの追撃がある。


「おい、顔は殴るなよ。念のため本郷さんにバレちゃいけないからな。」


腹、胸、足、まんべんなく攻撃された。

それくらい殴られ続けたのか。

さすがに、痛みで意識が遠のきそうだ。

昔、こんな痛みを、もしかしたら愛那達は慣れるように受けていたのだろうか。

当時の私はあまり見ていなかったけど、愛那は確かに傷を作って帰ってくることがたまにあった。

そんな傷と、周りの噂から何となく愛那のことを当時の私は察することが出来たのだが。

もしそうだったら、こんな痛い思いをずっと受けていたなら、良かった。

今回は、助けを求めてしまったけど、このまま見つけられなくてもいい。

私が代わりになれば、それでいい。

痛みで開き直っているだけなのかもしれないけど。

次第に現実と夢との区別がつかないような、ぼんやりとしてきた。

きっと、本当に耐えられない時、人の脳は痛みを遮断するのだろう。

だからだろうか、なつかしい、なにか、頭に誰かの声が響く。


『私…遅れて…するもの…!!愛…は、私…守る…!!』


途切れ途切れで思い出す。

誰のセリフだったか、もう考えるほどの気力もなくなってきた。

あぁ、落ちる。

眠気に似た何かに体を預けかけた時、かすかに聞こえたバイクのエンジン音がすさまじい速さで近づいてくるのが聞こえた。

その音が、すぐ近くで止まる。


「あ?誰だ?」


「ッチ。少し様子見て…。」


猛攻が止まり、外の方向を気にしだす。

すると、聞き覚えのある声が聞こえだした。


「ったく、ノーヘル3人乗りなんて…無茶するなお前ら。人通りが少ない道でよかったなほんと。」


「しょうがないですよ、ヘルメもないし時間もなかったんすから。っていうか金井さんもがっつり歩道走ってここまで来たじゃないですか。無茶しすぎっすよ。」


「ガタガタの道まっすぐ行くよりマシだろ!!それに歩道の方が近いんだよ!!」


「しかもバイクで登校してるなんて。」


「…いや、それのおかげで助かったろお前ら。」


「そんなことどうでもいいって!!二人とも愛華早く!!どこ!?!?」


「落ち着け、いるかどうかも分かんねぇし。いるとしたら多分ここ…。」


遠のく意識の中ぎりぎり持ちこたえて目を開ける。

そこには、私が待っていた人が立っていた。


「…!?いたよ…。」


「愛華!!…お前ら…許さん!!!!!!」


セリフからは軽く聞こえるが、めちゃくちゃに怒っている。

ようやく、痛い思いも終わったようだ。

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