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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第28話:金井攻略3

中間テスト最終日。

5月の28日、金曜日である。

午前中に最後のテストを終え、昼食とともに放課後が始まった。

この日は放課後の活動を強制する阿原高校も14時以降は下校してよいことになっている。

テストを終えての感想なのだが、私は難なく解いていけた。

ケアレスミスさえしていなければ、高得点だろう。

昼食は教室で食べるものもいれば、部室に行って食べている人もいるようだ。

もちろん、私達は相談室へと足を運んだ。

教室では残った生徒達がお昼を食べながら、テストの問について語り合っているのだろう。

『あの問題分かった?』とか『選択記号何にした?』とか。

相談室での私達もそんな話をする。

と思っていたが、やはり、それどころではなかった。


「やぁ~~テストお疲れさん。」


「お疲れ様です!」


「それで、どうすんだ?金井さんの事。」


先週の水曜日。

放課後に金井を誘うことに成功した私達は、剣道場で金井と剣道をすることになった。

金井の対人の意識を知るために、剣道に対してどう思っているかを知るために、である。

そして、金井の同級生である、3年の大平も剣道場に来て、話の本題に入った。

金井に剣道部へ戻ってきてほしいと。

結果から言うと、それは失敗に終わった。

誰かのせい、とかではなく。

金井の意思だった。

『それでも、私は剣道はしない。』

たった一言。

それだけ言って、私達の返事も待たずに、金井は剣道場を後にした。

返事は、言えなかった。

呆気に取られて、何も考えれなかった。

それほどまでに、あの場で私達は、成功したと思っていたからだ。

その後、大平と少し話して、打開策を考えることにはしたが、大平はもう、諦めている様子だった。

それから、大した対策をすることなく、今に至る。


「結局、その後は金井さんと会わなかったんですか?」


英梨には報告こそしていたが、テスト勉強に集中させてあげるため、深くは話していなかった。


「行こうとしたんだけど…。」


「私が止めたの。金井さんには、もっと根本的に何かると思ったから。」


金井にはいろいろと引っかかることがある。

私は、無駄に接触することは避けて、先にいろいろ考えた方がいいと思ったのだ。

最初に接触しようとしたのは私だけど…。


「で、テストも終わったし、まずはどうするかだな。大平さんも、今となってはあんまり乗り気じゃないかもしれない。」


「そうだね。愛華、金井さんのこと、何か思ったんでしょ?」


私はここ最近金井を見て、聞いて思ったことを話す。


「金井さんが最近ずっと1人なのは知ってるよね?2年の時には不良グループにいて、確か、あの、体育館の時に何人かいたでしょ?その人達は今一緒にいないけど、同じグループの人だったんなら、その人達は金井さんのことをよく思っていないのかもしれない。」


「え??どういうことですか?」


頭を抱える英梨。

やっぱり説明系は難しい。


「なるほどね。要するに、金井さんは不良グループとつい最近まで繋がりがあったのに、今はないってことか。だから、もしかしたら金井さんは今グループから悪く思われてるってこと。何となく今の金井さんはもう不良のグループを抜けてるっぽいし。」


愛那が要約してくれた。


「あ、なるほどです。」


英梨も納得する。


「元々その人達と繋がってから剣道部は救われたようなものだから、もしかしたら抜けてしまった今だからこそ、剣道部に近づきづらくなったのかも。」


「ってことは、金井さんは剣道に入りたくても入れないってこと?」


「まだ憶測だから何とも言えないけど、一つ枷になってはいそうかな?」


どっちにしても


「金井さんにまた聞いてみないと分からないよ。」


もしも予想が当たっているなら、抜けた金井が剣道なんて始めてしまえばまた同じことが起こってしまうかもしれない。

でも、この予想が当たってしまえば逆に手の打ちようがない。

不良、しかも卒業生だから、今何をしているかも、どこにいるのかも知らない。

それが分かったとしても、何もできない。

不良なんて普通に怖い。

ビビっていしまう。

愛那と紗那は大丈夫そうだけど。


対策と言う対策が練れないまま、大平と安藤が相談室に来た。

ここに来る前に紗那が呼んでいてくれたのだ。


「先輩達…率直に聞きますけど、金井さんまだ諦めてませんか?」


「…正直、大分応えた。」


あの日、1週間前、剣道場にいた大平が言う。


「私も話は聞いたけど…。さすがにもう望み薄かな…。大会まで時間も少ししかないし…。個人戦だけでいいかなって思ってきた。」


「…やっぱそうなりますよね。」


断られたから、当たり前の選択だ。

それでも尚固執して、諦めないなんて、そんな人は実際ほとんどいないだろう。

諦めが良いところが人間の良いところだと私は思う。


「…もう少し待ってみる。話しかけて、もう1回頼んでみるよ。」


諦めないところが人間の良いところでもある。


「あなた達はもう何もしなくて大丈夫だよ。あとは私達がするから。ここまでありがとうね。」


「…いえいえ。また何かあったら言ってください。」


今回の相談はこんな形ではあるが終了した。

スッキリしない部分も多いが、こんな時もあるだろう。

ただ、思うところは、ここまで深く金井のことを知り、考えると、同情ではないのだがどうにかしたくなった。

3年の先輩たちは相談室を後にする。

私達は相談室に残ったまま、いつもの相談を待つ状態になった。

英梨がお湯の準備をし、飲み物を作る。

沸騰する音が相談室に響き、そのおかげか室内の少し重い空気がだんだんと緩んでいった。


「はぁ~、やっぱり最後までやりたかったねぇ。」


「私は別にどっちでもよかったけどね。」


「どっちにしろ、先輩たちが頑張るって言ったんだし、それが1番だと思うけどな。」


「私は何してても、皆といれば楽しいですよ!」


次の相談者が来るか、日が空くまではこの話が続きそうだ。

私も本心では、まだ不完全燃焼と言うか、対策を頭の隅の方で考えてしまう。

面倒くさい相談は終わったものの、なかなか腑に落ちない。

せめて、大平達から離れた後の金井を知ることができれば、まだ何かできるかもしれないけど。


「…お前ら毎日ここにいんのか?」


紅が相談室に入ってきた。

テストも終わったし、いつも通り寝に来たのだろう。


「おつかれさまで~す。コウさんテストどうでした?」


気さくに愛那が訪ねる。


「あ~?関係ないだろお前らに。…普通だよ。」


そう言いながらパイプ椅子を並べて寝転ぶ。

そういえば、もう一人この部屋には男がいたような。

確か、テスト前に毎回近状報告をすると言ったが、誰がその役を任ってくれたのだろうか。

少なくとも、私は連絡先を知らないけど。

ドアが開いて、脳内噂の人が入ってくる。


「おいぃいい!!!!!!1回も!!1っっっっっ回も!!連絡なかったぞ!!!!!!」


やっぱり気にしていたようだ。

そして、誰も連絡してなかったんだね。


「お、久しぶりいんちょー。クラスでも勉強頑張ってたし、話しかけるの悪いかなって。」


「あ、ほんとに?今回のテストはおかげさまで良い出来だと…、違う!!!!スマホで連絡してくれてもいいじゃん!!それくらいは見るよ!!」


「え~。お前を連絡先の中から探すのがめんどくさいんだよ。連絡してほしかったら自分から声かけて来いよ。」


「いや!!名前『い』から始まるから!!割とすぐ見つかるだろ!!!なんか自分から連絡したら催促してるみたいで恥ずかしいし!『ご飯行こう』って言ってしつこく『いつ行く?』っていうやつみたいで!!」


「よくわかったな。」


愛那と紗那は連絡先を交換しているのか。

英梨は…顔見る限りしてなさそうだし、興味もなさそうだな。

でも、緊張している顔ではない。

石丸にも慣れ始めているのだろう。


「石丸君、数学解けましたか?」


その証拠を見せんとばかりに英梨は石丸に話しかける。


「ん?あぁ最後の問題時間がなくてぎりぎりだったけど多分…大…丈夫。」


言葉とは裏腹に顔色は微妙だ。


「皆はどうでした?」


そういえば、ここで初めてテストの振り返りをする。


「私はある程度できたかな。ミスがないといいけど。」


「私はまぁまぁできたよ。愛華に勝てるかは分かんないなぁ。紗那は?」


「私もそこそこ。英語のリスニングがきつかったかな。」


まぁこの二人は大体大丈夫だろう。


「うわぁ…。『分かんなかった』とか『難しかった』とか言わないのがすごいです…。」


「ほんと…勉強時間俺の方が絶対多いのに…。」


うなだれる2人。


「勉強は時間じゃなくて質だからな。息巻いてたようだけど。」


煽る紗那。


「…うるさい!!!」


返す言葉もなかったようだが、精一杯返した。


「お前らがうるせぇ!!!!!!」


「すみません!!」


寝ていた紅が飛び起き、怒鳴る。

石丸の早い謝罪も、テスト明けだと懐かしくも思う。

テストも終わり、いつもの相談室のように戻ってきた。

またいつものように相談者を待つ日々。

英梨が忘れかけていたお湯をコップに注ぎ、ココアの粉を入れる。

最初の重い空気はいつの間にかどこかへ行ってしまい、私達の意識の中に金井の件はほとんどなくなっていた。

現時点までは。


「で、結局どうなったの?俺だけ蚊帳の外はやめて?」


「ん?あぁ、結局ダメだったよ。剣道はやらないって。3年の先輩がもう一回頼んでみるらしいけど、私達はもうしなくていいって。」


「えぇ、結局何もできずに終わったのか…。」


「私もまだしたかったんだけどね~。さすがに相談者からそんなの言われたら仕方ない。」


「せめて金井さんのことをもっと知れたらよかったんだけどね。」


自分で言ってなんだが、口にしたとたんに、あることを思い出した。

金井が剣道を辞め、1番荒れていた時期、つまり2年の時に、接していたはずの男がいることに。

この部屋の、相談室の隅に目をやった。

そういえば


「…!そういえば、紅先輩、金井さんの2年生の時の唯一の知り合いじゃないですか!!??」


この場の全員が『はっ』と顔を合わせ、紅の方を見る。


「え?金井?唯一ってなんだよ。他にもいんじゃねぇのか?」


『他にも』ということは、どうやら紅も仲が深ったはず。

こんなところで、思わぬ収穫だ。

冷めかけていた熱が再度沸く。


「コウさん!!!なんでもいいです!!金井さん周りの事教えてください!!!」


愛那が詰め寄る。

言葉こそ出さないが、英梨も紗那も石丸も耳を傾ける。


「あぁ?金井の話?…いいけど、つるんでたやつの事とかか?」


いつも何の頼りにもならない紅が、今日初めて、頼りになった。

こんなことは絶対に言わないけど。

しかも、いきなり欲しい内容を言ってくれそうだ。

不完全燃焼だったものに火がともり始めた。

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