第2話:委員会の決め方
SHRが始まる前に私達の話を少しだけしようと思う。
私、渡辺愛華と妹の渡辺愛那についてだ。
私達は双子で私が姉。
他に兄弟はおらず、母親との3人家族だ。
父親は幼いころに蒸発したと母から聞いている。
身長は165cm。
髪はロングで真っ黒と言うよりは少し茶色がかっている。
顔立ちは普通、だと思う。
一卵性双生児なので顔のパーツや身長、髪の色までそっくりまったく同じだ。
違うところといえば、私の前髪は目元まで伸ばしており、愛那は前髪を分けていることと、互いの声くらいだ。
前髪をまねて声色も変えれば成り済ますことも可能だろうが絶対したくない。
と言うか無理だ。
チャイムが鳴り、担任がSHRをしに入室してくる。
5分遅れて。
「わりぃわりぃ。ちょっと遅れたわ。じゃあSHRはじめ~。」
この人が私達1年5組の担任佐倉健吾。
入学式はちゃんとしていたが、翌日のSHRからその腑抜けっぷりは類を見ないものだった。
今日の5分遅れも職員室で寝てたりしたせいだろう。
「SHRっつってもお知らせとかないしな。もう終わるか。」
今のところ2週間全てのSHRが同セリフで終わっている。
もう、する意味がないんじゃないだろうか。
というか教師に向いてないんじゃないだろうか。
「先生!今日は委員会を決めなければいけないと伺っていますが!?」
先週決まった学級委員長、石川君が挙手をして発言する。
学級委員長とはみんなこんな風にキビキビしないといけないのだろうか。
それにしても佐倉先生は早く教師をやめた方がいい。
「お?そうだったの?そんなこと校長が朝言ってたようなそうでないような…。それじゃあまぁ、あと頼むわ石丸。」
石丸君だった。
佐倉先生が教壇から降り、教員用の椅子に腰掛ける。
石丸君が教壇に立ち黒板に『委員会』と書いて各委員会名を書いていっている。
阿原高校では生徒の学校生活自体を重んじており、生徒は全員委員会か部活動の少なくともどちらかには所属して、放課後を週何回かは必ず活動をしなければならない。
部活動に入る気がない私はもちろん委員会所属を視野に入れている。
ここでハズレの委員会に入らないことが最重要なのだ。
学級委員長が黒板に全ての委員会を書き終える。
「はい、それじゃあこの中から所属したい委員会の下に名前を書いてください。部活動所属している人は書かなくてもいいです。上限人数を超えた場合はじゃんけんとかで決めようと思うのでお願いします。それではどうぞ!」
クラスの人たちが周りの人と相談を始める。
委員会の内容は以下の通りだ。
総務委員 2人、風紀委員 2人、環境委員 1人、体育委員 2人、文化委員 2人、生徒委員 1人、図書委員 1人、広報委員 1人
ここで私が考えることは一つ。
人と話さなくても良い委員会だ。
一番良さそうなのは図書委員か環境委員のどちらかだろう。
ある程度周りが決めてから私も前に行こう。
「愛華~。愛華はなにするか決めてる~?私も愛華と同じとこがいいなぁ。体育委員とかどう?」
教室が一瞬鎮まり、ひそひそ声が聞こえる。
「渡辺さん体育委員だってよ!」
「よし!!他の委員会は安泰だ!!」
「いや待て、愛華さんの方が決めるまではわからんぞ。」
さっきから誰も黒板に向かわないのは私達が決めるのを待っているらしい。
しかし愛那の誘いには全く答えられそうにない。
そもそも愛那と一緒というのが、きつい。
「愛那、私環境委員か図書委員にしようと思っているから、ごめんね。」
そういって人数制限の制約の元、私は自然に愛那の誘いを断った。
ここで私が初めて口を開いたかのように見えるがそんなことはもちろんない。
授業中とか必要最低限の会話、発言はしてきている。
「でももう環境委員も図書委員も埋まってるよ?」
え!?
私がもたもたごちゃごちゃ考えている間に人数1人枠の環境委員と図書委員は埋まってしまった。
やばい。
やばすぎる。
同時選択をするとじゃんけんとかめんどくさいイベントが発生してしまう。
すぐさま黒板に向かい私は生徒委員会の欄に名前を書き机に戻った。
これで誰かとペアになることはない。
委員の内容は知らないけど他よりは絶対いいはずだ。
「あ、愛華そこにするんだ。じゃあ私もそこにしよ~。」
「はぁ!?!?」
思わず大きい声が出てしまった。
ためらいなく黒板に名前を書く愛那。
そして学級委員長に言った。
「私達二人で生徒委員やりたいんだけど、いいかな??」
「…仰せのままに!!!!!!!」
愛那は邪気なく言ったつもりだったろうが、学級委員長には何倍も恐ろしく見えているに違いない。
びくびくしながら直立で答えていた。
「ほんとに!?ありがとう!!」
そういって学級委員長の頭をポンっと叩くと学級委員長そのまま倒れてしばらく動かなかった。
周りの人たちはこれでどこに名前を書いても大丈夫だと一斉に黒板へ向かった。
当然私は納得いっていない。
「ちょっ…先生!いいんですかこんなこと!」
「…んん?あぁ何?なんだ??敵襲か!?」
寝ていた。
寝起きだとしても何言ってるんだこの人は。
教師をやめた方がいい。
「愛那が1人しかできない委員会を2人でやろうとしてるんです!そんなのダメだって言ってあげてくださいよ!」
「あぁ~二人でも別にいいんじゃねぇの?え?逆にダメなの?分かんねぇ。」
教師をやめろ。
「それにお前、1人だとしたらだっちか別の委員にいかなきゃなんねぇぞ?委員会に入れない人は強制的に部活だ。なんかめんどいから2人でいいぞ。」
「それはまぁ…。」
1時間目のチャイムが鳴る。
反論する暇も、考える暇もなく席へと戻された。
そのまま佐倉先生の数学へと移行する。
委員会は生徒委員会で愛那と2人に決まった。