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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第27話:金井攻略2


「放課後??私はオッケー!!」


「私も余裕だな。」


愛那と紗那に放課後のことを話したが、不安がることなんてなかった。

2人とも即答だった。


「ごめんね、また勝手に決めちゃって。」


「いやいや!!ナイスだよ!!なんならやってくれると見越してのヘルプだったしね!!!」


よくわからないフォローもしてくれた。


「私は放課後は勉強するので、今回はすみません。何かあったら力にはなります!!」


テスト5日前だし、そろそろ勉強に集中した方が良いだろう。


「ありがとう英梨ちゃん!!」


英梨に手を伸ばし、いつものように掲げ、ぐるぐる回して褒めてあげようとする愛那。

丁度手を伸ばしたあたりで昼休み終了のチャイムが鳴る。


「うわっ!もう時間じゃん!!」


「やばっ。私次英語だ。課題提出しないと。」


余興は飛ばして、私達は相談室を出た。

5時限目はチャイムの5分後には開始してしまう。

といっても、教室までは歩いても十分間に合う時間だ。

焦りつつも、歩いて教室に向かう。


「愛那さん達は勉強いつしてたんですか?テストが近くなくても毎日してたんですか?」


歩きながら、英梨が質問してくる。


「私は授業中にある程度覚えられるし、教科書はほとんど1周してるから…。あんまり参考にならないね。」


「私もそんな感じかな。授業は起きてるときは聞いてるけど、寝てる時の分は電車の中で見たりしてるよ!!」


威張れるようなことは言っていないのだが。


「私は普通に授業聞いてるだけだな。聞いて理解してる。でも、やっぱ愛那と愛華が勉強教えてくれるからもっと分かるかなぁ。」


「皆さんすごいですね…。どっちかっていうとポテンシャルがすごいです…。私なんて授業についていくのがやっとなので…。」


英梨のように、授業を聞くだけで万事解決なんて人はほとんどいない。

私達も大丈夫だろう、なんて思ってるけど、慢心に過ぎないかもしれないし。

今回のテストの点が悪かったら、次回は本気でやろう。


**********************************:


放課後。

授業が終わり、愛那と私は相談室へ向かった。

相談室に着いたと同時に紗那も姿を見せ、一緒に中に入る。

英梨は帰っている頃だと思う。


「よし、ここまで愛華がやってくれたんだから、今回のチャンスはしっかりモノにしないとね。」


「一応安藤さんと大平さんに声かけとくか?」


「う~ん。多分もう帰ってる頃だと思うし、明日の昼休みに一回話してからでいいでしょ。」


「よし、じゃあ行くか。愛華も来るだろ?」


「うん…一応。でも隅の方にいるだけかも。」


約束をしたのは私。

私がいないなんて、そんなおかしな話はないだろう。


「了解。まぁちょっと話しながら剣道するだけだし、すぐ終わるでしょ。」


「あとは、来てくれるかどうかなんだけどね…。」


返事は聞いていないから来てくれる保証はない。

まして、大して深い仲でもない私の誘いなのだ。

それでも行くだけ行ってみよう思う。

相談室を出て、剣道場に向かう。

さすがに体育館には部活をする人なんていなく、誰もいない。

剣道場に着いた。

ドアを開けて中に入る。


「…。」


ドア…。


――ガチャガチャ


完全に鍵がかかっていることを想定していなかった。


「まじか!!体育館はいつも開けっ放しだから開いてるもんかと思ってた…。」


「どうしよう。テスト週間だし、鍵貸してくれないかも…。」


「一応私行ってくる。ここで待っててくれ!」


そういって紗那が職員室へと走っていく。

誤算過ぎた。

普段こちらの方に来ないから、まったく想像に至らなかった。

だが、ここが開いていないということは金井はまだ来ていないということでもある。

先に来ていて、帰ったりしていなければ。


「愛那、金井さんは剣道部に戻ってくれると思う?」


「ん?そうだね。多分、大丈夫だと思うけどな。安藤さん達と話せるようになれたら確定だと思うけど。金井さんは安藤さんたちの事嫌いじゃないと思うし。」


「そっか。そうだよね。」


今日の作戦をおさらいする。

まずは金井が来た後(最初から一番壁が高い)、愛那と紗那が剣道を教わる名目で金井に剣道をさせる。

いい感じに盛り上げて(愛那がそういうのだから、どうにか方法があるのだろう)明日も放課後来てくれるよう約束を取り付けるわけだ。

今日で金井の剣道に対する意識と、対人に対する意識を把握するのだ。

ん?

私の仕事?

いいだしっぺだからいるだけだ。

特にすることはない。


「ん?何やってんだ?お前ら。入らねぇのか?」


紗那がカギを取りに行っているその間、金井が来てしまった。


「あ、金井さん。来てくださってありがとうございま…。」


一応お礼を言おうとする私。

しかし、それを金井は遮って笑いながら言う。


「おいおいっ、固いって!もっと緩くしていいぞ?」


「は、はぁ…。」


距離感が全くつかめない。


「金井さん。お久です。剣道場のカギ持ってき忘れたから、今紗那が持ってきてるんですよ。」


「あ?鍵??貸してくれねぇぞ?テスト週間中は。先生の目を盗んで奪うしかないぜ?」


やはり、貸してもらえないようだ。


「あぁ、やっぱり無理かぁ。どうしよ…。」


「どうしようってお前…こうすりゃいいだろ。」


金井はポケットに手を入れて小さいケースを取り出す。

裁縫セットのようなものだ。

その中から針金を取り出した。


「え、まじっすか!?」


金井はそのまま針金を使って鍵穴をいじり出した。

針金で鍵を開けるつもりだ。

針金を持っている人も、針金を使って鍵を開ける人も今日日聞かない。

っていうかほんとに開くのかも疑問だ。

持ち歩いているってことはよく使うのかもしれないけど…そもそも針金で鍵を開けるなんて一般人にできるものなのだろうか。


「…あ、開いた。」


開いてしまった。

扉をバンッと開けた金井。

一呼吸おいて中に入った。


「んっ……っあぁ!!ふぅ~~。懐かしいな~。」


伸びをして、大きく息を吸って、金井は剣道場の真ん中から全体を見渡した。

見た感じだと、あまり悪い思い出があるようには見えない。

私達がそれを知っていることは、もちろん秘密であるので、もしかしたら悟られないようにしているのかもしれないが。

私と愛那も中に入って周りを見渡す。


中には竹刀と防具がきれいに揃って並べられており、練習用の打ち込み台や、木刀なんかもきれいに整備されている。

綺麗に、大切に使われていることがよくわかる。


「んで、今日は何だった?」


金井が私達に初めて今日の内容を聞く。

ここからは愛那の仕事だ。


「あ、金井さんに剣道教えてほしかったんですよ。それと、テスト週間のストレス解消もかねて。」


さすがに返しが上手い。


「あ~あんとき言ってたな!おっけおっけ。ってか、ほんとに剣道やってなかったんだな…え~と…。」


「あ、愛那でいいっすよ。愛華も、愛華でいいっす。」


「おう、そっか。じゃあ愛那と愛華。とりあえず…ほれ。」


綺麗に並べられた竹刀を取り出し、私達に渡す。


「あ、私は今はいいですよ。見ててやりたくなったらやります。」


私は剣道なんて、見たことあるだけでやったことも触ったこともない。

愛那ができるからって、私もできるわけではない。

多分。


「え?やんねぇの?じゃあ後でやりたくなったらで。…そういえばもう一人いんだろ?待った方がいいのか?」


「あ、紗那ももうすぐ来ると思うから、先にやってましょ。」


なんだかんだで早くやってみたい愛那。

もう竹刀を構えて素振りをしている。


「やるきすげぇな。防具は…さすがに使えねぇな。防具なしでいいか?」


一応だが、素人相手に防具なしの提案はいかがなものかと思った。

防具なしでケガしないようなスポーツじゃない気がする。


「あ、いいっすよ。」


いいようだ。

どこからそんな自信が出るのかわからないけど。


「まぁ、簡単に前の続きするか。今度は集中してるから負けねぇぞ?」


不敵な笑みを浮かべながら竹刀の素振りをする金井。

愛那も燃えている。


「よし、1本先取で行くぞ。」


2人とも位置につく。

審判もいなければきちんとした試合でもないので(防具もないし)、蹲踞することもなく竹刀を互いに向けて止まる。

そこからじっと、動かない。


「…愛華、早く。」


どうやら私の開始の合図を待っていたようだ。


「あ…えと…始め?」


「やぁあ!!!!!!!!!!」


「ぅらぁああああ!!!!!!!」


互いに声を出しながら距離を詰める。

と思ったら牽制し合いながら距離を保つ。

互いに隙がないのだろう。

片方が踏み込み、それを交わし、またすぐ立ち合う、の繰り返しだ。

私はその場に座って愛那と金井を眺めておくことにした。

ジャッジとかはしなくても良さそうだし。

だが、だんだん牽制のし合いに飽きてきたのか、元々アグレッシブな2人だ、防具もないからその表情はよく見えるが、互いに進展しない展開にイライラしているように見える。

それと同時に竹刀のぶつかり合う音が大きくなった。

防具なしの相手にするような振りじゃない。


「いい加減…死ね!!!」


「死な…ないっ!!」


互いに譲らない。

どちらかが気を緩めるまで、多分これは終わらないのだと思った。

けど


―ドン!


「い!?!?いったぁ!!!」


愛那を後ろから紗那が蹴飛ばした。

職員室から帰ってきたのだ。


「おい!!私が鍵取りに行ってる間に楽しんでんじゃねぇよ!!」


紗那はただの寂しがり屋なのだ。

息を気らしているから、走って帰ってきたのだろう。


「おお、帰ってきたか。鍵貰えなかったろ??」


「貰えなかったっすよ!!だから目盗んで取ってきたのに!!」


紗那の右手には剣道場の鍵があった。

それはもう、『取った』よりは『盗った』だけど。


「え!!どうやったの!?!」


「鍵貸してくれって言ったらダメって言われたから。勉強教えてもらうふりして隙見て取ったんだよ。せっかく取ったのになんだよもう!!」


相当頑張ったのだろう。

私達のために。


「まぁいいじゃねぇか。怒られたわけじゃねんだから。で、え~と…。」


「あぁ、紗那でいいっすよ。」


「あ、じゃあ紗那。お前も剣道したかったのか?」


「あ、そうでしたね。しますか。」


紗那に剣道欲は全くなかったようだ。

作戦であることも忘れかけていたようだし。


「ちょ!まだ私の分終わってないし!!」


思いの他こっちは本気だったようで。


「はははは。剣道好きなんだなお前ら。…まぁ、今日はこのくらいで終わるか。テストも近いし、今までの分取り返さないとダメだからな。」


金井が竹刀を元の位置に戻しながら、満足したように言う。


「え、あ、そうですか?まだやりたかったけどなぁ。」


普通に残念がる愛那。


「えぇ、まだ私何もしてない…。」


やる気になっていたのか、紗那も気が落ちる。


「テストは大事だぞ、1年共。まぁまたいつか、剣道してやるよ。」


愛那が使っていた竹刀も一緒に片づけながら金井は言う。

その背中は、なんだか、とても寂しそうに見えた。

それはきっと、私達が金井のことについて知ってしまっているから。

金井がこの空間にどんな思いを寄せているのか、想像してしまう。

愛那も紗那もその背中の寂しさに気付いたようだ。

私達がそれに対して出来ることは、何かあるのだろうか。


「…金井。」


剣道場の入り口から声が聞こえた。

そこには金井の同級生で、依頼主でもある、大平がいた。


「…大平…。」


険しい表情で名前を呼ぶ金井。


「忘れ物があって、鍵を借りに行ったら鍵がないっていうから。来てみたけど、やっぱりあなた達だったんだね。」


「あ?達??」


大平の思わぬ失言で金井が不信感を抱く。


「なんだ?お前ら大平と知り合いなのか?」


『あ』と言った顔で不味そうに顔を伏せる大平。

こういうところこそ、私が良い言い訳を考えなければ。


「…あ、少し前に相談室に来てくださった方で、その時は失くしたものを探すみたいな…。」


咄嗟に嘘でごまかそうとした。

しかし、大平はそれを遮った。


「いや、私がこの子達に相談したのはあなたをここに連れ込ませるためよ。金井、あの時は1人で抱え込ませてごめん!!もう一度剣道、一緒にやりましょう!」


正直に言った大平。

頭を深く下げる。

ずっと、ずっと言いたかったはずの言葉だ。


「…お前ら、そういう意図だったのか?」


「…そうですけど、剣道やりたかったのはほんとですよ。」


「…ふふっ、今更つくろわなくていいよ。全部、大平に聞いてんだろ?」


くすっと笑いながら大きく深呼吸する金井。

大体のことは察したのだろう。

私達が金井について何を聞いたのかも、大平との接触でおおまか把握したはずだ。


「剣道部か。今更なんて思うけど、今剣道やってて結構楽しかったわ。またお前ら姉妹ともう1人に、してやられたな。」


金井が言う『また』とは、前回の英梨の事件の時のことからだ。

金井は大平の方を向いて、緩んだ顔をキっと引き締めて、言った。


「それでも、私は剣道はしない。」

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