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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第24話:巡川家


「つ、つつ着きました!!!」


愛那も紗那も含めて、巡川の家に初めてここまで接近した。

玄関まで実に、あと2メートルである。


「ちょ、ちょっと待ってくださいね!」


そういって玄関の前で私達を止め、中に入り部屋でも片づけに行く。

と、思ったら、何やら車庫の方へと足を運んで行った。


「何しに行ったんだろう。」


「あれじゃない?鍵取りに行ったとか。」


確かにそんな感じはする。

言ってるうちに、巡川は戻ってきてそのまま鍵を開けて、玄関を開けた。

初めての巡川家だ。


「ふ~、ふ~…。それじゃあ、あの、私の部屋は二階の階段上がってすぐの部屋なので、待っててもらえます?お茶とか持っていくので。」


そういって巡川は奥の方へと1人進んでいった。

私達は階段を登り、すぐにある部屋に入った。

部屋の大きさは多分8畳ほどで、机とベットと本棚がある。

ぬいぐるみとかがいっぱいありそうだったけど、キーホルダーほどのサイズのものが本棚の上に少し飾ってある程度だった。

机にはテスト勉強をしていたのか、開きっぱなしのノートと教科書がある。

壁には昔の写真と思われるものがコルクボードに貼ってある。

私達は適当に鞄を置いて、床に座ってくつろぐ。


「うわ、これ見てよ愛華。巡川、昔髪長かったんだな。腰ぐらいまであるんじゃないか?」


元々背が低いからその写真を見るに、多分中学生の時なのだろうけど、背が低い分余計に髪が長く見える。

巡川の顔立ちは可愛い方だから、髪が長い時もとても可愛く見える。

なんだか手のひらサイズのお人形みたいだ。


「確かにかわいいね英梨ちゃん。髪長くてもよかったのに。」


「お待たせしました…。ちょ、何やってるんですか!?」


お茶とお菓子をお盆に乗せて持ってきた巡川。

私達が壁の写真を凝視しているのを見て、すぐさま間に入り、コルクボードを遮る。

持っているお盆がひっくり返りそうなのを直前で察知した私はぎりぎりのところで取ることができ、間一髪だった。


「おいおい~、隠すことないぞ巡川~。長髪もなかなか似合ってたし。なんで髪切ったんだ?」


「長髪って…この写真ですか!?うぅ~~ひどいです…。」


「大丈夫だって、英梨ちゃん長髪でも可愛かったし!!」


巡川は恥ずかしそうにしながら怒っていたが、緊張はおかげでなくなったようだ。

私も写真に目を通していたけど、まさか見ちゃいけないものだったとは予想していなかった。

見られてまずいものは昨日の時点で隠しているだろうなんて思っていたけど、今思えば、おそらく初めて友達を家に入れる巡川だ。

こんなところまで頭が回らなかったように思う。

そんなことを考えながらお盆を机の上に置き、お茶を飲む。

ん?

巡川のさっきの写真、何枚か写真を後ろに重ねていることに気付いた。

後ろの写真はもっと健気な巡川なのかもしれない。

入ってくるまでに見ておけばよかったと、後悔する。


「はい!!もう勉強します!!皆付きっ切りで勉強してくれないと許さないですからね!!」


コルクボードをひっくり返した巡川は机に広げていた勉強ノートを片して、数学のノートを広げる。

机は大きめのサイズだが、4人で勉強するには少し狭い。


「紗那、愛那が教えるから、私達は一問一答でもしてない?」


「ん?そうだな、確かに。私まだ全然覚えてないから少しずつやろう。」


こうして勉強する流れへと落ち着いた私達は、ようやくテスト週間の風景になる。

決して静かではないが(一問一答をしているから)それでも互いに集中して勉強をできている。

高校生活初めてのテストとなると、やはり誰でも少しは気を張るものだ。


1時間ほど経ち、午後5時半くらいを回った。

そういえば、巡川の家には今、他に人はいないようだ。

両親は仕事だと思うけど、妹は中学生だったと思う。

もしかしたらそろそろ帰ってくるのかもしれない。

巡川の性格上、中学の時も誰かを連れてきたことなさそうだから、私達がいることにひどく驚くかもしれない。

というか、そもそも巡川がこんなだから、もしかしたら妹もかなりコミュ障なのかも。

そんなことを考えていたら、玄関の開く音が聞こえてくる。


「…。」


何も聞こえてこない。

あまり『ただいま』とか言い合わない家なのかもしれない。

そういった家もあると思うし、私が気にすることじゃないのだが。

一応巡川の方を見て表情を見る。

帰ってきた人に何か言いに行ったりするのではないかと思って。

すると、急に立ち上がって、焦った表情をする巡川。


「え??どうした巡川。」


「ちょ、ちょちょちょっと待ってくださ…。」


「英梨姉ぇ、誰か来てんの?」


人が部屋に入ってきた。

ここで人と言ったのは、それが誰か分からなかったから。

ただ言えるのは、その人が女であることと、『英梨姉ぇ』と呼ぶ仲だということ。

多分妹だと思うけど、分からない、それほどまでに、私は混乱していた。

多分他の2人も同様に。

その入ってきた妹と思われる人は巡川に比べてかなり背が高く(目測160、ちなみに巡川は145くらい)、目も鋭く、しかも制服の着こなしが、なかなかに、昔の愛那と紗那を見ているような気崩し方をしていた。


「ちょっと!入ってこないで!!と…と友達が来てるから!!」


いや、分からない。

最近の、こっちの地域の中学ではこういう着こなしが普通なのかもしれない。


「え!?英梨姉ぇに友達がいるなんてすご…。」


目を開いて驚きながら喜ぼうとした、その妹のような人はこちらを見て動きを止める。


「え、あ…え?…え!?!?嘘!?!?もしかして紗那さんと愛那さんですか!?!?!?!?!」


「え?そうだけど。…え?」


紗那は自分の名前が出たことに驚く。

愛那を見ると頭を抱えながらため息をし、巡川は妹のような人を追い出そうと体を押している。

それを払いのけてその人は私達に言った。


「あ、あああの!!!去年のすげぇ噂めちゃくちゃ聞いてました!!!私もこんな風になりたいってずっと思ってて…。あ、私英梨姉ぇの妹の里奈っていいますっ。あの…握手してください!!!」


妹だった。

しかも、『こんな風になりたい』、『握手してください』ときた。

この言葉から連想できるとしたら、いったいこの子はどんな人間なのだろう。

決まっている。

さっきからの巡川はこれを嫌がっていたのか。


「お、おおいいけど。なんだ愛那、この子のこと知ってたのか?」


「う~ん。…去年少し見たことがあって、英梨ちゃんの苗字で、もしかしたらって感じかなぁ。」


「知ってていただけたんすか!?めっちゃうれしいです!!!私こっちの『巡』ってチームの頭やってるものです!!」


あぁ、やっぱり、そちらの方だった。

愛那は昔の段階で知っていたようだが、会いたくなかったような顔をしている。

こういう慕われるのは嫌いではなさそうだけど。


「昔めっちゃ私達を崇拝してるって聞いて、会わない方がいいなぁって思てたけどね。」


「う……まじっすか…。でも、それは辞めることはできないっす!!!!」


巡川に比べて色々ハキハキしている子だ。


「あ、あの、それで握手を…。」


ゴンッ!!!!


話途中で鈍い音が響き渡る。

飛ばされた巡川が怒った表情で背の高い妹の頭を殴った。

ゲンコツだ。


「いっっっったぁぁああああああぃ!!!」


「里奈!!!!迷惑かけないで!!!それに今日は帰り遅いって言ってたじゃない!!なんでもう帰ってくるの!?」


「なんでって…帰りたくなったから?」


「もう!!なんで帰りたくなるの!!!」


こんなに怒る巡川も、敬語じゃない巡川も見るのは初めてだ。

もしかして妹を見られるのが嫌だったのか?

だからこの前、愛那達が家に行ったときは、かなり遠くで待たされたのか?


「まぁまぁ、英梨ちゃん。全然いいよ。なんだかんだ可愛い子だし。」


「え!!英梨ちゃんって呼んでるんすか!!自分も是非『里奈』って呼んでください!!お願いします!!」


「おい巡川!!この子めっちゃ面白いな!!」


急に騒がしくなって収拾がつかなくなってきた。

私はこの間、一度も口を開けていない。

怒涛過ぎるし、私は崇拝されたりしないから当たり前だが。


「あぁ~もう!!一旦落ち着け!!」


久々に愛那が一括し、場を鎮める。

ピタッと止まる里奈と、息を切らす巡川と、けらけら笑う紗那。

全員が落ち着いて座って、愛那が指揮を取り出した。


「まず、自己紹介をしよう。私は愛那。」


「私は紗那。もう知っているっぽいけどな。お前の姉ちゃんと友達だぞ。」


それを聞いた巡川はかなり嬉しそうだ。

それはさておき、多分これは私のために用意してくれたのだろう。

私一人、のけ者状態になっていたから。

まぁ、別に嫌ではないし、孤独感なんてとっくに慣れていたのだが。


「私は愛華。愛那の双子の姉で―。」


「愛那さんのお姉さん!?!?しかも双子!?!私も愛華さんと呼んでよろしいすか!!!!」


本当に里奈は、巡川とは180度違う感じだ。

ぐいぐい来るし。


「はい!ストップ!今度はお前の番だぞ。」


「あ、はい!!私は巡川里奈(めぐりかわりな)っす!中学3年で、さっき言った通り、頭してます!愛那さんたちの事はかなり有名で、めちゃくちゃ尊敬してました!!」


『エッヘン』と胸を張る。

この姿を見ると巡川の妹だなぁと納得してしまった。

なかなかに、表情とかがそっくりだ。


「よし、じゃあ里奈ちゃん。帰っていいよ。私ら勉強するし。」


やることは済んだし、とあっけなく終わりを迎える。


「ええ!?そんなぁ…。」


「ほら!里奈!!じゃまだから出てって!!私も勉強しないといけないから!!」


「え~。英梨姉ぇ勉強なんて昔は―。」


「あぁぁああ!!!うるさいから!!!ほら!出てって!!」


今度は背中をぐいぐい押して里奈を外に出すことに成功した。

ドアを閉めて今度こそ確かな静寂が戻ってきた。

追い出された里奈は、もっと粘ると思っていたが、案外簡単に引き下がったようだ。


「ふぅ~。ごめんなさい。うるさくなっちゃって。」


「全然いいよ~。それより私も英梨って呼んだ方がよさそうだな。妹と被るし。」


「…!?ほ、ほんとですか!?」


こういう友達っぽいことにめっぽう弱い巡川。


「愛那も英梨って呼んだ方がいいんじゃないか?」


「私は『ちゃん』付の方が可愛いと思うから付けてるんだけどなぁ。どっちがいい?」


「え~っと…付けてもらってもうれしいです!!」


打って変わって、とても嬉しそうに、幸せそうにする巡川。


「…愛華も英梨って呼んだ方がいいんじゃないか?」


私は。

そういえば私は、巡川とは友達になるとは言っていない。

うやむやにしたまま、なんとなく仲を深めていけるようになり、今に至る。

ここでしっかりとけじめをつけた方がいいだろう。


「…英梨さん。改めてだけど…これからもよろしく。」


友達になってなんて、恥ずかしくて言うことはできなかった。

これが今の私の精一杯だ。

精一杯のけじめ。

こんな程度の物でも巡川はニコリと笑って『はい』と頷いてくれた。

紗那も愛那も嬉しそうにこっちを見るから、なんか恥ずかしい。


「よし、じゃあ勉強に戻ろっか。」


騒がしかったけど、これもまた青春なのだろう。

初めは望みもしていなかったものを、今はこんなに楽しいと思っている。

私達は、皆で一歩ずつ、前進できているのだ。

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