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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第23話:元剣道部達

約束通り、次の日の放課後、私と愛那と紗那と巡川、それから3年の先輩達が相談室に集まっていた。

初日のようにソファーに対面する形で座る。

もちろん石丸は家に帰って勉強をしているのだろう。


「それで、何を話せばいい?」


3年の先輩の一人、大平が口を開く。


「はい、あまり時間をかけるのも無駄ですしね。えっとまず…金井さんが剣道をやらなくなった理由を教えてもらえますか?」


昨日の夜、家で今日のことを相談した時、ある程度聞くことを決めていた。

ノープランで行くと、時間ももったいないからだ。


「明日は何聞く?愛那は決めてる?」


「う~ん。まずは金井さんがどんな人か分からないと、だよね。他には…。」


「部活に引き込むんだから、3年の先輩との関係も知りたいね。それから、部活を辞めた理由もないと、誘いづらいと思う。」


「それから先はやっぱり聞かないと練れないなぁ。」


とまぁ、決めたことと言えばこのくらいだ。

部活を辞めた理由に関しては昨日の時点で触れてほしくはなさそうだったが、やはりこれが分からないとこちらも動きづらいことだろう。


「…その話は、あの…。」


「いや、いいよ菫。私も昨日考えたけど、やっぱりこれ言わないと、ダメだと思う。」


「…分かった。あの、これは他言無用でお願い。他人にはもちろん、本人にも言わないで。」


今から話してくれるものは金井の話なはずだ。

それを金井に対しても他言無用と言うことは、金井のトラウマか何かなのか?


「分かりました。約束します。」


私は口頭ではあるが、約束を交わす。

他の3人も頷いて答えた。

ここからは一言一句聞き逃さずに、作戦を練らなければならない。

集中する。


「1年生の時の金井は、今でこそあんな風だけど、最初はもっと部活に対しても人間関係にも熱い人だった。私達も中学の時剣道をしていたことを知って剣道に誘ってくれたのは元々金井だったし。」


「金井は剣道部の強さを気にしてなかったから、全然実績もないうちの学校でもいいと思ってたんだろうけど、入ってみて後悔したよ。」


以降、話の内容である。


**************************


入学し、剣道部があることを知った金井は、当時は凄かったコミュ力を駆使して剣道の経験者である安藤と大平に声をかけて部活の体験入部に3人で剣道場に顔を出した。

剣道場は体育館の横にあり、その名の通り剣道の練習をするほどのサイズだ。

部室はその剣道場の横にまた用意されている。

剣道場に顔を出した。

しかし、そこには誰も部員がいなかったそうだ。

担当の先生すらも。

職員室に行き、担当の先生を探して話を聞くと


「あぁ、部員は今3年生が引退したから0人なんだ。だから好きに練習していていいよ。」


と言ったらしい。

それを聞いて金井と安藤と大平は自分たちが部を作っていくのだと、これからの活動に気合を入れた。

その日から1週間ほど、放課後は剣道場で過ごす日々が続いた。

もちろん3人だが経験者と言うこともあり練習はちゃんとしていた。

練習しながらも、他にも部員を集めてみよう、なんてことも計画しながら。


問題は1週間が過ぎた頃。

当時の3年の先輩が複数人剣道場に来たのだ。

その先輩達は剣道場をたまり場にしているような最低な不良だったらしい。

金井達は先輩との交流がほとんどなかったせいか、その事実を知らなかったのだ。


「おい、1年。私らが練習付き合ってやるよ。」


もちろん、金井達はその人達がどんな人かは知らない。

だが雰囲気から大体察していたようだ。

普通は、適当に流して、先輩を立てて、穏便に終わらせるのだが、当時の金井にとってその先輩たちの態度は許せなかったのだ。


「本気でやりますから。」


その一言通り、金井は1人の3年を打ち負かした。

しかも余裕で。

当たり前だ。

中学の時全国に出場するほどの選手だ。

名だたる剣道の強豪校からスカウトがあったに違いないはずだ。

そんな金井がこと剣道において、その辺の不良に負けるはずがない。

だが、当然、それで話が済むわけがない。

相手は不良だ。

その日は剣道場も、部室も、ぐちゃぐちゃに荒らされてしまった。

金井達は為すすべもなく、茫然としていたらしい。

先生を呼んでくる発想もなかったようだ。

そして次の日から、先輩たちは剣道場に居座るようになった。

練習をしようにも、『自分たちは元剣道部だから』と理由から邪魔ばかりされた。

その間に金井は竹刀で叩かれたり、道着を汚されたりと、酷いいじめを受けたのだ。

後に聞くと、先生は3年の先輩のせいで剣道部を長く見放していたそうだ。

もちろん、そんな人のいる部活に入部する人などいなく、2年生部員がいなかったのだ。

それでも、金井はずっと耐えていた。

安藤と大平と、たった1週間ではあるが、剣道に対して本気だったから。

安藤達と1から剣道部を築いていくつもりだったから。

だが、安藤達には耐えられなかった。

自分達にはほとんど何もせず、日々金井が酷い目に合わされるのを見ていられなかった。


「金井さん。ごめんなさい、私達何もできなくて…。」


「…いいよ、大丈夫だから。私はいいから、何もできないならせめて、これからも剣道を続けてくれ。」


その頃にはもう、金井の目には輝きはなかった。

それから少しして、金井が部に来なくなり、3年の先輩達も来なくなった。

それ以来、金井は安藤達と接点を持とうとせず、会話するチャンスすらなかったらしい。

安藤達は金井に言われた通り、剣道を2人で続けて、今に至る。


************************


「後で聞いたんだけど、金井はその日、先輩たちに喧嘩をして、当時の女番長だった人に認められたらしいの。だからそっちのグループに入っちゃって、そのおかげで剣道部に人は来なくなったんだけど、多分金井は、自分を犠牲にしたんだと思う。」


安藤と大平の話は終わった。


「金井が当時のことどんな風に思ってるか分からないから、もしかしたらあんまり思い出したくないことかもしれないし…。だから、言わないでほしい。」


私達も重い話を覚悟していたが、予想していた感じだった。

やはり金井は剣道部に所属していたし、中学校の時の動画を見ていたから、高校に入ってから、どこかでグレてしまったのは分かっていた。

だが、やはり、事実を前に何も言えなかった。

慰めるべきでも、同情するべき場面でもない。

次の言葉が見つからず、口を噤む。


「…あんまり気負いしなくて大丈夫よ。剣道部に引き入れてくれ、なんて依頼、そもそも仲がいいと思ったから頼んだだけだし。ここまで話しちゃったけど、無理そうなら全然いいからね。」


見かねた大平が、私達の発言より先に気を利かせる。

話を聞いたところ、安藤と大平は金井に話しかけることを負い目に感じているようだ。

話し掛けられないし、向こうもそれを望んでいないのではないか、と思っている。

それに、当時何もできなかったことに対して、安藤達も少なからず何か思っていたのかもしれない。

長く話さなかったことが、ここまで互いの距離を開けてしまっているのだ。


「…私達としては、確かに、今の金井さんとの関係は先輩たちよりも強いと思います。でも、先輩たちがやらないと、部活動としてはうまくやっていけないんじゃないかと思います。」


率直な意見を愛那が言う。


「それは分かってる…。正論であることは十分。でも、金井はきっと私達に誘われても…。」


「ずっと逃げてたんだ。怖くて。2年になった時に誘えたはずなのに、ずっと避けてきた…。私達の勇気のなさが、今の結果をもたらしているのは分かる。でも、今更どうしようもない…。」


悔やみと申し訳なさが入り混じっている。

互いにぶつかり合って、解決していくことこそが青春なのだが、そんなのはキレイ事だ。

実際分かってたって蔑ろにするのは当たり前だ。

世の中キレイ事で回ることはほとんどない。


「でも…それだと部活に入ったとしてもギクシャクしちゃいますよ?」


緊張も大分ほぐれてきた巡川が言う。

それでもすごく緊張しているのは膝の上で握りしめる拳を見れば伺える。


「そこからはさすがに頑張るけど…。今私達はきっかけが欲しいっていうか…。」


そもそも、さっきから金井自信の気持ちなどはまったく分からない。

金井はどうなのだろうか。

いじめられて、全部背負って、全てを投げ出して、自身を変えた。

あぁ、こんなの、どこかの誰かと同じだ。

いじめで、人格も、人生も変わる。

変わってしまう。

人は変われる生き物だ。

良い方にしろ、悪い方にしろ。

そんな金井は安藤達を避けているのだろうか。

真相は分からない。

分かっているのは、金井は、いじめられ、避けられ、そのまま一人だったということだ。


「…金井さんに失礼ですよ。」


思わず口をついて出たその言葉は、シンとしたこの部屋に響き渡る。

柄にないことを言ったし、恥ずかしいことを言ったとも思っている。

それでも憤りを隠すことはできなかった。


「…そうだな。そうだよな。愛華。…先輩たちの気持ちは分かります。話し掛け辛いのもわかります。私達が剣道部に戻れるように一肌脱ぐことは簡単です。」


頷いて、紗那も口を開ける。


「先輩たちの相談は部に戻すこと…でいいんですか?今更ですけど、どうしたいんですか?」


「私達は…最後の大会に…。」


「いや、違うな…。私達は金井と仲直りがしたい。部活はその次だ。私達の仲直りを手伝ってほしい。」


大平のこの言葉を待っていたかのように愛那が動く。


「任せてください!!金井さんを、皆で攻略しましょう!!」


愛那の決定に紗那も巡川も頷く。


「!!ありがとう!!私達もできる限りのことはするから…お願いします!!!」


これで、当面の課題だったことは解消した。

部活へ戻すのではなく、仲を直すこと。

それから先はきっと安藤達が上手くやれるだろう。


「今日のところはこの辺で大丈夫ですよ。時間もかかっちゃいましたし。また何かあったら教室の方に行くので。」


簡単な挨拶をして、今日の放課後の相談は終えた。

3年生の帰り際に、私は一つだけ、愛那達にはバレないように質問をした。


「先輩、最後に1つだけ、金井さんは今も、その先輩たちと交流はあるんですか?」


「ん?いや…どうだろう…。私達はほんとに今の金井については知らないから…。もし分かったらまた教えるね。」


「いえいえ、ありがとうございます。またお願いします。」


少し気になっただけだから、別にこれが何かに役立つわけではないが。

まぁ、金井についての情報はなかなか今日で、十分だろう。

本題の金井の真意などはまた後、分かっていけばいい。


「それじゃあ、私達は巡川の家に行くか。」


そうだった。

すっかり忘れていたが、今日の放課後はこのイベントもあったのか。


「!!?そ、それでは家の方にお願いしますす!!」


ぎこちなく動きながら校門を抜け、巡川が案内をする。

その横を紗那が歩きながら、巡川と犬の話とかをしている。

紗那なりに緊張をほぐそうとしているのだろう。


「愛那。金井さんとはどれくらい仲いいのか私は知らないけど、何か策はある?」


「う~ん。一応剣道をいつか教えてくれるって言ってくれたから、それを引き出しにしようかな~と。愛華は?」


「私は金井さんのこと知らないし、愛那に任せるよ。」


金井とあまり話したことのない私よりは、愛那と紗那の方が行動しやすいだろう。

私は今回もサブ要員で十分だ。

と言うか、何もしなくてもいいかもしれない。

謙虚にテスト勉強に集中していて遜色なさそうだ。

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