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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第21話:中間テストと相談室

テスト週間始まりの月曜日。

放課後、私達はいつものメンバーで相談室に来ていた。


「やっぱり私帰りたい。」


「何言ってんの愛華!!英梨ちゃんもここで勉強したいって言ってるんだから!みんなでしよう!」


いつものように、愛那に阻まれて帰ることは叶わず、放課後を学校で過ごすことになった。

もちろん話を聞かずに終業のチャイムとともに教室を出ようとしたのだが、私の財布と定期を既に取られていた。


「ごめんなさい、私が勉強あまりできないせいで…。」


「あ、いや、全然大丈夫だよ。巡川さんのせいじゃないから。」


そういって私は愛那を睨む。


「巡川はどれくらい勉強できるんだ?私もそんなにできる方じゃないけど。」


「授業にはぎりぎり付いていけるんですけど、応用とかになると…。」


「じゃあちょうどいいじゃん。みんなで勉強した方がいいよ!!」


「ほんと!?よかった~俺勉強分かんなかったんだよ、『みんなで』がんばろうな!」


「…。」


いつもの4人、だったはずが、石丸がやってきた。

石丸の相談を解決してからと言うもの、ほぼ毎日ここにきている。

ここまで図々しく来られると皆何も言わなくなってきた。


「委員長って案外頭良くないの?私もっと優等生かと思ってた。」


「まぁ優等生なんだけどね?」


「黙れよ石。」


紗那の一言でピタッと黙る石丸。

一度咳払いをしてワークを取り出す。


「…それで、紗那さん。さっそく教えてもらいたいんだけど。数学のこの問題。」


「あ、私もそこ分からなかったです!」


巡川と石丸が紗那に問題を聞く。


「え?何言ってんだ?勉強を教えるのは私じゃねぇよ。」


「へ?どゆこと?」


「知らねぇのか?愛那と愛華はこの学校の入試の得点トップ2だぞ?」


「えぇ!?!?!?」


私と愛那は入試のペーパー試験をほぼ満点で通過している。

ただ、入学式の日の生徒代表挨拶みたいなのは、私も愛那も断っているから、多分3位以下の人が出ているはず。

皆その人が1位だと思ってるんじゃないかな。


「嘘だろ!?こんな…愛華さんはまだしも…いえ、なんでもないです。」


色々言いかけていたが愛那を見て察したのか、どんどん小さくなっていく。


「そうだったんですね!愛華さんも愛那さんもすごいです!!」


「そ、そう?えへへ。じゃあ英梨ちゃんには教えてあげる!」


「えぇ!嘘だろ!!でも俺にはまだ愛華さんがいる!」


「あ、私は教え方下手だからやめた方がいいよ。」


これは本当だ。

その点愛那は教え方が上手い、と思う。

実際、紗那に勉強を教えるのは愛那だし。


「ぐぁぁあ!!愛那さんごめんなさいおねがいします。」


「おっさんにでも聞いてくれば?」


「佐倉先生は…教え方は分かるけど教えてもらうまでに時間がかかる…。」


あの先生も一応は先生だから、教え方だけは上手いようだ。

だけは。

今もどうせどこかで教師らしからぬことをしているに違いない。

職員室にいないことなんてよくあるし、見つけたからと言って面倒くさがって勉強を聞くなんて、とてもじゃないけどこちらが面倒くさい。


「…だからお願いします!教えてください!!」


「…しょうがないなぁ。あぁめんどくさ。」


「めんどく…!?…おねがいします。」


愛那が巡川と石丸に問題を教えてあげている。

私は暗記科目を覚え、紗那は数学のワークを解いている。

やっぱり私は帰ってよかったんじゃ、なんていつも思うだけ無駄なのは自分でもよくわかっている。

まぁこんな日常も許容することに、つい最近私は決めたのだ。


この学校、阿原高校に入学した時は愛那と紗那、それ以上の関係はいらないと思っていた。

日常会話も最低限で、それ以上の関りはいらなかった。

幸い、愛那と紗那が入学式の日に起こしてくれた騒動のおかげで私も不良に見られ、関わってくる人がいなくて助かっていた。

はずなのに、生徒委員会に入ってしまい、相談室の活動を通す中で何人かと深く関わってしまった。

それがここにいる巡川、石丸、そして同じクラスの秋山。

たった3人だが0人とはわけが違う。

その活動をする中で、私の勝手な行動のせいで一度失敗してしまった。

人を傷つけてしまった。

だから私はもっと、人のことを考えなければならない。

関わっていかなければならない。

だから私は、今関わる人とくらいは関わっていこうと決めたのだ。

でもそれ以上はいらない。

今以上の人との関係はいらない。

相談に来る人もそんなにいないだろうし、巡川や石丸みたいに難しい相談は来ないだろう。

まだ私達は一応不良だと思われているから、卒業するまではこのイメージのままでいたいものだ。

来る者拒み、去る者追わず、元々いる者だけを愛していこう。


「…おい、また来てんのか。」


ドアが開き生徒御委員会の委員長、鬼塚紅が入ってきた。


「あ、ちわっす。紅先輩。」


先週、愛那が『一応来るんだったらここの委員長に一言言っとけよ。2年の鬼塚紅って人だから。』と言った後、石丸は紅にあいさつに行ったらしい。

あいさつに行くのも何か変な話だが、生徒委員会担当の佐倉先生よりはちゃんとしてるはずなので、挨拶するならこちらだろう。

いや、どっちもちゃんとしていないか。


「…ッチ。多すぎるぞここ。」


そう言いながらソファーに座れないのを確認し、パイプ椅子を出して座る。


「コウさん今日も寝に来たんすか?」


「コウさんて言うなって言ってんだろ渡辺妹。寝に来たけど…ソファー、空けてくんねぇのな。」


「私ら勉強してますからね。コウさん、我慢してください。」


「おい、お前もコウさんって言うな橘。」


この人も既に関りがあるのだが、それは委員会の先輩という関係だけで、特に何か話す仲でもないし話し掛けてくるような人じゃないから関わるつもりはない。

同じ部屋にいる人って感じだ。


「紅先輩は勉強しないんですか?」


「勉強?…あぁ、赤点じゃなかったらいいんだろ?大丈夫だろ。」


「あ、なるほど…。」


ずいぶん目標が低そうだ。

そういえば


「巡川さん、鬼塚先輩には慣れたの?」


巡川は初対面と総会話時間が2時間に満たない人に対しては酷く怯えてしまう。

私達も最初の頃はずっと怯えられていた。


「あ、はい。鬼塚さん、全然話し掛けてこないから、いい人です。」


「へ、へぇ。」


いい人の基準がイマイチ分からないが、怯えてそれをフォローするよりはマシだ。

結局石丸と巡川は愛那と一緒に勉強し、紗那と私はそれぞれで勉強、紅はパイプいすを並べて隅で寝る形になった。

いつものように顔の上に枕を乗せて。

巡川と石川はとにかくワークをやって、分からない問題があれば聞く、ということになったらしい。

もくもくとそれぞれが問を解いていく。


「…そういえば。」


珍しく巡川が口を開く。


「中間テストの後に部活の大会があるらしいですね。私達もあのままバレーしてたら出られたんですかね?」


珍しい発言だが、今その話はかなり気まずい。


「ちょ、巡川さん、今その話は…。」


石丸を見ると伏せた目が死んでいた。


「巡川、確かにこいつはイジっていいが、まだそれは早い。」


「おい!!なんだよそれ!!」


伏せた目がぱっと上がり、紗那を睨む。

と思ったらすぐに弱腰になったが。


「あ、ああ、あ、そうですよね!石丸君ごめんなさい!!」


巡川に悪気がないのは確実なのだろうけど、紗那は悪気しかない。


「いや、逆に謝られるのもなんか…。いやだからってイジれってわけじゃないけど!!!」


「っていうか委員長まだ気にしてたの?いい加減切り替えないと~。」


「腫物にしてるのみんなの方だから!!!大体俺は気になってないし!!そもそも運動だってそんなに好きじゃないから、あのままマネージャーやってても何もサポート出来てなかったと思う。」


「お前、運動苦手なのか?」


「苦手じゃないし!…走ることだけは!」


なぜか誇らしげに言う石丸。


「最低限だな。」


「それも、人としてね。」


「私は走るのも運動するのも好きです!」


辛辣な愛那と紗那に対して運動好きをアピールする巡川。


「でも、巡川さんはあんまり運動得意そうじゃなかったけど?バレーもずっと隅でやってたし。」


巡川とバレーをした約1週間、私が巡川の面倒を見ながら、私達は隅で基礎練をしていた。

その間、愛那と紗那は正規部員を同等の練習をしていたけど。


「そ、それでも私は運動が好きなんです!!もともと昔は運動してたんですから。」


「え、そうなん?何やってたの?」


この情報には私も驚いた。

コミュニケーション力の面からしても、習い事とかとは無縁な環境で育ってきたように思えたが。


「空手です。」


フンっと鼻息を立てながら両腕を腰の位置に構える。


「あ、…。」


石丸は何かを察して急に黙り込む。

つい先日、佐倉先生と一緒にとてつもない制裁を巡川から受けたのだった。

多分石丸は空手と聞いて、深く納得をしたのだろう。

私ですら『あぁ、それでか。』と思ったくらいだ。

これ以上この話を続けたらまた愛那達が悪ノリしてゲンコツの流れになると思ったのか、石丸はここで話を終わらせた。


「私は実は大会とか出てみたかったけどね~。剣道とかまたやってみたかったなぁ。」


4月の後半、愛那は体育館裏で剣道をする機会があった。

その日のことはあまり良い思い出ではないが、それでも元剣道部の人と剣道をして、その魅力を十分に感じれたのだろう。


「まぁもう部活とかする時間はないけどね。こっちが忙しいし。」


「こっちはずっと暇だと思うよ愛那。」


部活する方が、よっぽど放課後を有意義に使えると思う。

現にテスト週間と言うこともあって相談者なんて誰も


「ちーっす。」


ドアが開く。

思ったそばから相談者が来た。

と、思ったが、よく見るとその顔は見たことある顔だった。

親しいわけではないが、よく見た顔。


「あれ、お前らここで勉強すんのかよ。」


「金井さん、久しぶりですね。どうしたんですか?相談ですか!?」


金井桃子。

愛那と剣道をした元剣道部で、巡川を体育館裏に拉致した張本人。

私達の噂の元凶でもある。

3年の不良だ。


「相談??んなもんあるわけないだろ。普通に寝に来たんだよ。3年の教室は勉強する奴らでいっぱいだからな。」


紅といい、佐倉先生といい、この部屋は昼寝部屋だと思われているのだろうか。


「お、っていうかお前、あん時の女の子じゃん。生徒委員だったのか?」


金井は巡川に話しかける。


「…あの後入りました。」


意外と物怖じせずに答える巡川。

巡川は金井に自身のコミュ力のなさをつかれたことがあった。

それに対する強気の精神なのかもしれない。

それとも巡川も成長しているのだろうか。


「へぇ~。…っていうか私の寝る場所ないじゃん。そこで寝てるの誰だ?」


「紅さん、起きてください。3年の先輩が怒ってますよ。」


紗那が紅を起こす。


「紅?お前、鬼塚か。」


「ん~~?…うぁ!!金井桃子…。なんでここにいんだよ。」


「うるせぇぞお前。いいからどけよ、私が寝るから。」


紅と金井が親しそうにしていることに、私達は驚く。


「金井さんとコウさんって、知り合いなんですか?」


「知り合いなんかじゃねぇよ。」


「鬼塚は私が生徒委員会にいた時の後輩だぞ。あの時はもっとかわいかったのになぁ~。」


「うっせぇぞ!!!お前は受験勉強でもしてろ!!」


今でこそ私達も話せるが、元々金井は、いや今も十分周りからは近寄りがたい不良なのだ。

そんな金井とここまで親しく話せるというのはなかなかすごい。

そういえば私達に対しても、初対面の時は普通に接していた。

上級生ではあるが、バレー部に仮入部した時に、上級生にも私達のことが知れているのは分かった。

それでも紅が私達に対して普通に接してくれたのは、金井との関係で、慣れていたのかもしれない。

いや、そもそも周りの噂とかに興味がないのかも…。


「ッチ。今更どうしようもねぇよ受験なんて。あ~あ、ここじゃ寝れねぇし帰るか~。その前に…。」


金井が私の方に来てまじまじと顔を見つめる。


「な、なんですか?」


前髪で目は隠れているとはいえ、ここまで近づかれたら目も合ってしまうかもしれない。

私は顔は伏せぬまま、見られているかもどうか分からない目をそらした。


「ふ~ん。確かに、渡辺愛那とそっくりだな。あんたがあの時ねぇ~。」


あの時の…。

やはり愛那は私がやったことを金井にバラしていたのだ!

私が愛那を睨むと愛那は一瞬目をそらし逃げようとしたが、開き直ったのか笑顔で決め顔をしてくる。


「まぁまた今度、時間がもっとあるときに話そうぜ。もう変なことする気はないからな。」


そう言って金井は簡単な別れの挨拶をして相談室を後にした。


「…っはぁ~~。すっごい緊張しました。」


「巡川さんすごいね。よく頑張ってた。」


たたえるべきは本当に巡川だ。


「巡川も日々成長してるってことだな!」


紗那がいい感じに閉めて、また各々勉強に戻る。

金井の登場はサプライズだったが、相談者じゃなかっただけよかった。

私も途中まで進めていたワークのページに戻る。


「……あの、さっきから俺、いないことになってる?」

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