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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第1章 2人の愛
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第17話:散った石


「あれ?他のみんなはもう部室??」


廊下に出るとすぐに秋山と鉢合わせてしまった。

それに私達がまだ部活に行くと思っているらしい。

…というか思っている。

もしかして愛那はまだ部活を辞めることを言ってないんじゃないか?

いや、迷うことなくそうだろう。


「あ、ごめんなさい秋山さん。私達、委員会活動もしないといけないから、先生に呼び戻されちゃって…。だから部活はもう辞めることにするね。」


「え!?そうだったの!?!?うわぁ~皆上手だったから続けてほしかったのに、残念だなぁ。あ、石丸君も??」


石丸の名前がさっきのトイレといい、廊下での出来事といいタイムリー過ぎて、少し表情がぐらついた。

が、なんとか持ちこたえて。


「え~と。多分続けるんじゃないかな?委員長は委員会とかしてないし。」


学級委員長はそれだけで委員会所属のようなものだから、委員会と部活に所属しなくてもよいのだ。


「へぇ~そうなんだ。あ!そうだ!愛那さんたちとは連絡先交換したんだけど、愛華さんはまだだったよね!」


「え!?そうなの?」


驚いた。

昨日の報告の時にそんなことは愛那は言っていなかった。

どういうことだ?

隠していたのか?


「だから、はい!私の連絡先!!」


秋山は自身のIDを画面越しに見せる。

あまりの秋山の会話のペースの速さに私は追いつけず、断るすきもなくスマホを提示された。


「あ、えっと…。」


断るタイミングを見失いながら、焦って自分のスマホを出す。

普段ならこういうのは断るのだが、巡川の連絡先をもらってからか、甘くなっているのかもしれない。

自分のスマホを開き、されるがままにアプリを起動する。


「えへへ。私の友達どんどん増えてくるなぁ。そろそろ1年女子は全員集まりそう!」


それを聞いて、手を止めた。


「ん?あれ?どうしたの?」


「…やっぱりいい。私、あんまり連絡先とか交換したくないから。」


「え?あ、そうなんだ。」


秋山は断られたせいか、少しムッとした表情でこちらを見る。

私もここで何もせず、引いておけばよかったが、どうやら、私があまり好きではないタイプの人間だったようだ。

だから愛那は連絡先をもらったことを昨日言わなかったのかもしれない。

それと、他にも目的があった。

無意識ではない。

意図的に、睨んでしまった。


「…なに?うざかった?ごめんね?」


秋山も私の態度に少しイラ立ちを覚えだした。

でも、私も止まらなかったのだ。


「友達集めは好きにすればいいけど、私を巻き込まないでくれないかな。なんで私が、友達にならないといけないんだよ?」


やめろ。

止まって。

こんなこと言えば、向こうも嫌になるし、もっとめんどくさくなる。

関わりたくないのに、無理に関わることはない。

そんなこと、心の中では分かってるし、自分で警告を出しているのに、歯止めがきかない。

制御ができない。

口から勝手に言葉があふれてくる。


「は?…あ~ごめんね。私も別にいらなかったわ。…っていうか、愛華さんって少し思ってたけど何?全然口開かないし、怖いヤンキーかと思ってたら、ただのインキャじゃん。ウケんだけど。」


ここが一番の引き際だ。

引け!私!


「私も、あなたはもっとまじめだと思ってたけど、結構遊び人なんだね。今回は委員長?楽しんでるようだね。」


「!?あんた、さっきの話聞いてたの?盗み聞きとか趣味悪。大体、私があんなの狙うわけないじゃん。普通に付き合うとか無理だし。何?羨ましかった?…ってかもう部活行くわ、あんま関わんないで、もう。」


秋山が部活に行き、私は相談室へ向かった。

怒ったというよりも、秋山のセリフにイラついたという表現が正しいのかもしれない。

私は、自分勝手にイラついて、秋山に当たった最低なやつだ。

こうなることは分かっていた。

当たり前だ、誰でもわかる。

言い訳はしない。

秋山を怒らせたのは私が100%悪い。

だからこれから起こることも、全部私が悪いのだ。

相談室に向かうため、廊下の突き当りにある階段に行くと、石丸が座っていた。


「…うす。」


「…さっきの、聞こえてた?」


「…うん。はは。ノート、鞄にあると思ってたら教室に忘れててさ。」


「…ごめん。私…。」


自分から仕掛けといて、何がごめんだ。

あんな場所で、あんな言い合いをすれば、他の誰かに聞かれてしまう可能性は十分にあった。

私がもし石丸の立場なら、秋山の立場なら、ふざけるなと思うだろう。

それでもあそこまで言ってしまったのは、私の最も嫌いだった人と、秋山がダブったからだ。


「…ほんと、言いすぎだよ愛華さん。あそこまで言う必要も、言われたくもなかったよ。」


「…ごめん。」


「…今日はもう帰るわ。日曜日の件は少し待っててくれないかな。行くかどうかも、もうわかんないし。」


「分かった。」


石丸はそれを最後に昇降口へと向かって行った。

相談室に到着した私は、扉の前で深呼吸をして中に入った。

中に入ると既にみんな来ており、いつものようにワイワイしていた。

なんでか、凄くほっとした。


「お~。愛華遅かったね。石丸と一緒じゃなかった?さっき戻っていったけど。」


石丸は一度ここへ来てからノートを取りに来たようだ。


「…ごめんみんな。さっき…。」


私はトイレからの事の顛末を話し始めた。

それはもう詳細に。

自白する容疑者の様に。


「…それで、委員長も今日は帰るって。」


話し切った。

わずかな静寂の後、最初に口を開いたのは愛那だった。


「そっか。…わざとだろ?」


「え?」


「石丸が来ること。分かってたんだろ?」


そんな風なことは言ってないし、におわせてもなかったが。

愛那にはバレていた。

実は、石丸がノートを忘れていることは、石丸の机を見て気付いていた。

だからと言って、その時は何も思わなかったのだが、秋山と出会ったことにより、もしかしたらの時のために記憶にとどめておいた。

石丸が帰ってくる可能性は十分に予期している中、秋山を嵌めたのだ。

石丸が相談室に行って、ノートがないことに気付いて、戻ってくる時間を計算して―。

信憑性を確実にするために全て秋山に語らせた。

結局私は、秋山との会話の最中に、散々迷った挙句、石丸に全てを認知させることを選んだのだ。

絶対に知らなかった方が良かったのは分かるが、それでも私は知ってもらって、その上で石丸には選択をしてもらいたかったのだ。

一度知ってしまったなら、知らぬふりはできないだろう。

人間関係での後悔は誰であれ、してほしくはない。


「来ることは予想してたよ。」


というより、来るかもしれないって感じだった。

来なかったら来なかったで、別に良かったし。


「え、ほんとにですか!?」


驚く巡川。


「はい、愛華、自分がやったこと分かってるよね?褒められことじゃないよ。」


「言い過ぎだな。愛華。」


もちろんわかっている。

こんな時上辺だけの仲なら適当に同調して、適当に流していただろう。

そんな風にならないから、逆に救われる。

良いことをした自覚はない。


「でも、誰もできないこと、よく頑張ったな。」


紗那が少しだけ褒めてくれた。


「実は、私達も石丸君には打ち明けようって話してたんです。」


「それでも、そんなやり方、愛華と秋山さんとの仲はどうするんだよ。」


「それは大丈夫。―」


私は別に、これからも、他の人達と交流するつもりはない。

そう言おうとした。

そう思ってるからこそ、私はあんなことができたのだ。

だから、続けてそう言おうとしたのに。


「何が大丈夫なんだ!!!!」


愛那が怒鳴る。


「何も大丈夫なんてないだろ!秋山さんとは関わるつもりがないからか!?ふざけんな!!石丸に伝えるべきなのは分かった、秋山の真意を確かめなきゃいけないのも分かった。でも、それを愛華1人がすることじゃないだろ!!タイミングがなくて、しょうがなかったとしても、みんなでやりたかったよ。だから―」


私の方を向いていた愛那は、振り返って巡川と紗那の方を見て


「私達も悪い!!!!一緒にいてあげればよかった!!!!!」


急な転回に驚きを見せると思ったが、巡川も紗那も愛那も、まっすぐ、私に謝った。

だから私も


「ほんとに…ごめん!!」


頭を下げる。

愛那に怒られるなんてめったにない。

私の勝手な行動は、嫌な目に合うのは私だけで済むと思っていた。

でも違ったのだ。

私達は皆で傷ついた。

それが委員会であり、チームである。

皆で考えれば、もっといい案は出ていたかもしれない。

私のせいで、少なくとも私と秋山の関係は完全に破綻した。


「よし、この話はもう終わり。終わったことだ、これ以上話す意味なし!!じゃあこれからのこと話そっか。」


愛那が仕切りなおす。

正直さっきまでこの件はもうどうにもできないと思っていた。

石丸に本性を知らせ、それで全部終わりなのだと。

でも、私が犯した過ちだ。

最後までできることをしたい。


「まずは何をするかだな。石丸の奴がこれからどうしたいのか、からだ。」


紗那はそういうとスマホを取り出しどこかに電話を掛けだす。

どこかに、なんて言うけど石丸に掛けているのは分かるが。


「…。なかなかでないな。」


掛け続ける紗那。


「あの、私石丸君が置いていったノート、教室からとってきます。私も何かしていたいので。」


巡川は相談室を出て教室へ向かう。


「じゃあ、私達は案出しだな。」


「委員長はもう秋山さんの本性が分かってる。分かったうえで付き合いたいかどうか、なんだけど。多分委員長はあきらめないんじゃないかな。っていうより、私達への相談は『付き合えるようにしてくれ』だから、ここからどうやって付き合えるようにするかだね。」


秋山の本性を知った石丸が、それでも尚、諦めずに付き合いたいと思うかどうか。

人と付き合うとは、嫌な部分も含めて愛せなければ意味がない。


「秋山さん本人は、いんちょーに伝わったことバレてないと思うし、とりあえず日曜日は行った方がいいんじゃない?」


「いや、私が知っているから、もしかしたら気持ち半分石丸に伝わっていると思ってるかもしれない。」


ここで紗那の電話に石丸が出る


『もしもし?紗那さん?今日はもう帰るって愛華さんに…。』


「いいから!!相談室に来い!!どうせまだ電車乗ってないんだろ!?」


『え!?なんでそれを…っていうか行かないよ今日は!もう帰…』


「来いって言ってんだろ?」


『はい!!!』


石丸はいつまでたっても怯えやすい奴だ。

しかもまだ電車に乗ってないので学校には戻ってこれる。

これで今日中に話を進められる。

明日になっていたら、いや、秋山と一度でも話してしまえば、今の石川では多分うまく返せない。

そうなると秋山に確実に勘づかれるだろう。

昨日もそうだったようだが、石丸の時はいつも切羽詰まる。


「まだ大丈夫。できることはあるはず。まだ舞えるっ!!」


ようやく、始まって以来皆で一丸となって動くのは初めてかもしれない。

巡川も帰ってきた。

ただし、少し涙ぐんで。


「すみません…よく考えたら石丸君の席知りませんでした…。」


あ。


「あ…。だ、大丈夫!私も行くから!!」


愛那が巡川の背中を押しながら教室に向かって行った。


「ようやく楽しくなってきたな。こんなことで楽しむのも不謹慎だけどな。」


少し笑いながら言う紗那。

楽しくないと言えば嘘になる。

楽しんでいるというよりも活動してる感を味わっている。

それでもまだ、人と関わりたいとは思っていないのだが、少しだけ、ほんの少しだけ、現状の人達とは関わっていこうと思った。

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