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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第1章 2人の愛
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第11話:恋と相談は突然に

紗那と巡川が生徒委員に入ってから1週間とちょっとが経った。

5月3日。

肌寒さが少しは無くなってきた頃。

あれから相談室には誰一人として相談者は来なかった。

私としては予想通り、望み通りなのだが。

放課後に集まり、飲み物を入れ、各々適当に話したり宿題したりケータイをいじったりと、おおよそ活動と呼べることは何もしてこなかった。

たまに紅が来たり、佐倉先生が来たり(というか居たり)はあったが、それ以上はない。

他の生徒委員は本当に来ないんだな。

もちろん私はあれから毎日相談室に通っている。

あの日、帰りに職員室に行ったが佐倉先生はどこかに行っていたらしく見当たらなかった。

多分どこかでサボっていたのだろう。

その翌日の朝、SHRの後に教室を抜ける佐倉先生へ当番制を提案したが、私が職員室へサボっていることを報告したのがばれていた。


「渡辺姉。お前は相談室にずっといる方がいいだろう?放課後は帰るんじゃねぇぞ?」


腹いせの様に言ったその表情は口は笑っていたが目はマジだった。


ということで1週間たった今は木曜日の放課後。

ずっとおとなしかった愛那がようやくしびれを切らす。


「あぁぁああああああああ、ひまだぁぁああああ!!!!」


「愛那さん、気長に待ってればいいですよ。ほら、次愛那さんの番ですよ?」


ノートを使って絵しりとりをしている愛那、紗那、巡川。

もちろん私だけやらないなんて空気を読めないことはしない。

私は既に勝っていて一抜けしている。

絵しりとりで勝つというとあまりイメージがわかないと思うが、私達の絵しりとりのルールは描いた絵を周りの人が全員分かったら勝ち、と言ったものだ。

もちろん嘘をついたりはなし。

全員が分からなかったらしりとりのルール通り次の人が絵を描く。

簡単にならないように文字数を6文字以上とかにしているが。

ちなみに次は愛那が描く番だ。


「……。こんなのもうやらないよ!!!!だぁあああ!!相談者が来ない!!!!!!全然楽しくない!!!!」


ペンを投げる愛那。


「あぁ!お前、『る』から始まってるからって逃げるなよ!!」


「酷いですよ愛那さん!楽しいじゃないですかぁ!!」


「たの…しいけども違う!!!!!!」


確かに1週間もこんなことをしていたら飽きるのも無理はないだろう。

私は自習室くらいの感覚でここにいるから飽きるも何もないのだが。


「じゃあ校舎内をパトロールするのはどうだ?活動してる感あるだろ?」


紗那がとんでもない提案をする。

とんでもなくめんどくさい。


「わっ!それすごい楽しそうです!!」


「さすが紗那!!!やる気が違うね!!君は我が委員会のエースたる存在だ。」


「はいはい。」


紗那からそんなやる気のある発言が出るなんて予想外だけど、どうやら紗那も暇だったんだろうな。


「よし、じゃあ2人1組に分かれていこうか、私と巡川さんはあっち方向で…。」


「えっ、ちょ、ちょっと待って!!」


私も行くなんて全く予想していなかった。

いや実際には考えないようにしていたのかもしれない。

この部屋にいる人とだけの会話や活動はまだ耐えられるが、他の人との関わりは耐えられない。

私は常に100歩譲って耐えられるものしかしないようにしている。


「私は行かないよ。めんど…宿題してたいし。…それに誰か相談室に来た時誰もいなかったらいけないしね。」


我ながらすごくいい返しができたと思う。


「あ~確かに。じゃあ3人だし、3人で回ろうか。それとも3手に分かれる?」


「えぇ!?そ、そそれはちょっと…。」


さすがに1人での行動はまだできない巡川。


「ぃよーーっし!!じゃあ3人で行こう!すぐ行こう!!レッツゴ…!?!?」


勢いよくドアを出ようとした愛那は廊下に出ることなく跳ね返って倒れた。

そして廊下側にも同じように跳ね返された人がいる。

長ズボンとカッターシャツ、男子生徒だ。

愛那が起き上がり男子生徒に詰め寄る。


「いったぁぁい!!!何!!誰!!?」


「いたたたた…って、うわぁああ渡辺さん!!!?すみませんすみません!!」


男子生徒は速攻で正座、土下座のポーズをとる。

それはそれはキレイな。

紗那はそれを見て声を出さないように笑い、巡川は大きな音に驚いてソファーの裏に隠れている。


「…って、うちのクラスの委員長じゃん。石川くん…だっけ?もしかして!!相談!?」


男子生徒はうちのクラス、1年五組の学級委員長だった。

それに愛那が言った名前は間違ってるぞ。

確か名前は…。

誰だっけ。


「石川って誰だよ!あ、いえ、石丸邦仁(いしまるくにひと)です。はい。相談があってきたんですけど。…とりあえず入ってもいいですか?」


誰にも強要されてない正座のまま石丸は言った。

とりあえず中に入れ、私の向かいのソファーに座らせる。

この状況から逃げるつもりだったが宿題を片づけてる最中に座られたため、私が話を聞く感じになってしまった。

まぁ、愛那も隣に座ってくれたのだが。

久々の相談に興奮する愛那。

息を落ち着かせる。


「ふぅ~。それで、相談って何!??」


せっかく落ち着いたのに食い入るように聞き出す。

ちなみに巡川は私達のソファーの後ろに隠れながら、頭をひょこひょこさせながら相談を聞いている。

そして紗那は石丸の隣に深く座って足を組んでいる。

普通にしているだけなのになぜか威圧してるように見えるのは、多分私と石丸だけだろう。

もちろんのように、石丸は小さく縮こまっている。

紗那は気付いてないみたいだけど、やめてあげて。


「え~っと…。相談なんですけど…その前に少し左に寄ってもらっていいですか?」


「ん?…あぁ~いいよ。」


勇気ある提案に紗那が気付き、石丸はわずかにパーソナルスペースを確保する。

それでもまだ少し委縮しているが。


「コホン。ええ~。改めまして、1年5組の石丸邦仁です。学級委員長をしています。部活と委員会は所属してません。それでですね。俺の相談なんですけど…。…同じクラスの秋山桜子さんのことが好きになってしまいました協力してください!!!」


まさかの恋愛相談。

しかも男から。

しかも唐突に。

これには全員呆気を取られている。

がしかし。


「おお!いいねぇ!!相談っぽい!!…で、秋山さんって誰?」


同じクラスなのに。

男子ならまだしも女子なのに。

愛那は全くその人物を知らなかった。

少なくともSHRの出席確認で全員分の名前を呼ばれている。

しかもそんな日常が既に1ヶ月は続いている。

愛那は友達が欲しいというくせに自分から何かをしようとしたりしないから周りに対しての興味も薄いわけだ。

興味がない、というよりはその機会が少ない、か。


「愛華は秋山さんってわかる?」


「え?あ…誰?」


もちろん私も知るわけがない。


「嘘でしょ2人とも…。出席番号1番の子だよ?しかもめちゃくちゃかわいぃぃ!!!!」


愛那に話しかけられたり、ぶつかったりしたときの委縮した姿からは想像もできないほど熱く語る。

アイドルを推すヲタクくらい。

いや、そんな経験はないからあくまで想像だけど。


「私はもちろん違うクラスだから知らないのだが、その子の大まかなプロフィールは分かるのか?」


使えない私達に代わって紗那が聞く。


「え~っと。髪は黒色に長髪。部活はバレーボール部。中学時代もバレー部だったけど可もなく不可もないような普通の選手。得意科目は文系。視力は両目共にA。交友関係はそこそこに広く、誰とでも話せる。SNSの潜伏率は高い。身長は158cm。体重はおおよそ〇〇kg。血液型はO型。足のサイズは24.5cm。よく飲むのはレモン味の炭酸水。住所は…。」


「きもいきもいきもいきもいきもいきもい!!!!!!」


さすがに止める愛那。

後半は別にいらない情報だったし、知っているのがおかしい。


「あ、住所は分からないです。」


ぎりぎり最後のはセーフだったようだ。

いや、もう十分他がアウトだけど。


「相当気持ち悪いですね。と言うか怖いです…。」


ずっと後ろにいた巡川の初めての言葉がこれだ。

相当なのだ。


「これくらいは調べるし観察してたら分かるでしょ!?普通じゃない!?」


普通じゃないし、どこから情報を入手するのだろうか。

敢えて誰も聞かないが。


「とりあえず今言ったことのほとんどは本人には言わない方がいいね。特に愛那。ぽろっと言わないように。」


私はジロっと睨むように忠告する。


「まだ根に持ってる!?絶対言わないって!!」


「こんなこと聞かされたらさすがに秋山さんも引くだろ。よく考えてしゃべれよ愛那。」


「誰からも信頼されてないだと!?おかしい!おかしいよ巡川さん、助けて!!」


「…。」


戸惑った後、笑顔だけで返す巡川に誰からも信用されてないことを認識した愛那は頭を抱えて沈んだ。


「…あの、とりあえず俺は何をすればいいすか?」


肩身の狭い思いをしていた石丸が小さく手を挙げて口を開いた。

沈んだ愛那の代わりに紗那が聞く。


「あぁ~とりあえず、協力って何のだ?」


そういえば確かに、何を協力してくれとは言っていない。

告白か?

それとも相手の好きな人を聞き出すとか?


「あ、付き合えるようにしてほしいです。」


「率直すぎだろ!!」


愛那と紗那が合わせてつっこむ。

私も同じことを思ったくらいだから、巡川も多分思ったはず。


「えぇ!?無理っぽいっすか!?!?」


「無理も何も、何をどうすればいいか見当もつかないよ。っていうか無理でしょ。」


「な!?それは俺のスペック的にか!?そうなんだな!?!?」


全員が無言でうなずく。


「まぁ秋山さんをまだ見てもないから何とも言えないけどね。」


愛那がソファーに深く腰を預けながら、ため息をつき、天を仰ぐ。


「バレー部らしいですから、今から体育館に見に行ってみませんか?」


「そうだな、まだ部活終わりまでは少し時間があるし。行ってみようか。」


え、めんどくさい。

でも誰かと話しに行くわけでもない、様子を見に行くだけだ。

それくらいなら文句も言わずに行ってもいい。


「よし!じゃあ俺も準備して…。」


「え?来るの??」


「まさかの俺NG!?俺の相談なのに!?俺が行かないと誰が秋山さんか分からないぞ!?」


「あ~…しょうがないな。じゃあ皆で行こっか。」


というわけで5人で体育館へ。

5人で廊下を歩くなんてなかなか目立つことだが放課後なので誰かに見られることもない。

ちなみに巡川は石丸の視野外に隠れるよう紗那の影に隠れている。

まだ心は開けていないようだ。


体育館に到着。

そういえば相談のたびに体育館に来てる気がするけどそんなことは気にしない。


「で、どの子?」


「あ、今ボールを持ったあの子だよ。黒の練習着を着てる。あぁ、すっげぇ可愛い。」


確かにかわいい。

というよりも、めちゃくちゃかわいい。

これは倍率高いんじゃないのか?


「あぁ~確かにかわいいな。…どう考えてもいんちょー、あれは高望みじゃ…。」


「ええぇ!?それは…うん…はい。」


分かりやすく落ち込む石丸。


「そうだよ!!他にも何人かの男子が狙ってるし俺なんかは見てもらえてるとも思ってない!!だからこうして協力を頼んだんです!!なのでどうか、よろしくっす!!!!」


「そうだな…石田、だっけ?とりあえずどれくらい秋山さんと仲がいいの?」


「いや、石田って誰だよ!あ、えっと、今までで2回話した!」


「それは望み薄ですね。私でもわかります。」


つい最近まで誰とも話せなかった巡川のこのセリフはかなり重い。


「うあぁぁぁやっぱりかぁぁああ!」


「ひっ!!」


「おい!!大きい声出すと巡川が怯えるだろ!!」


かくまうように怯える巡川を抱き寄せる紗那。

この二人は仲がいいな。


「なんにしろ、まずは秋山さんについて知ることだね。愛那は話し掛けてもあれだし…。紗那と巡川さんはできる?」


「ちょ、あれって何だよ。」


「あぁ、昼休みとかに外にいてくれたら話しかけやすいけどな。私はともかく巡川は…。」


「ねぇあれって何なの?」


「私はちょっと怖いですけど、できるだけ頑張ろうと思います。」


「あれって何なんだよ!!!」


愛那を全スルーしてやることを分担していく。


「私と愛那と委員長で簡単に作戦立てるから2人は接触をおねがいね。」


「おう。なんか楽しくなってきたな、こういうの!」


最初から委員会として参加する紗那は初めてのことに高揚している。

巡川も声は出さないが鼻息を荒立てている。


「私だけ納得いかない!!!別に作戦立てるのはいいけどこんな風に阻害されるとなんか違う。別にいいのになんか違う!!」


「分かった分かった、じゃあ私らも作戦立て手伝うから一旦相談室に戻ろうか。ここに長居しても目立つわけにはいかないからな。」


「『愛那は何やりたい?』『私は作戦立てでいいよ』。この一連の会話をすればいいじゃん!?ねぇ!ちょっと聞いてる!?」


騒々しくしながら皆相談室へと戻る。

私の役割は、なかなかにめんどくさくなさそうなので割かし納得している。

1つ腑に落ちない点として、


「あの、委員長。どうして私達に相談をしたの?クラスでも話す男子は少なくないはずでしょ?私達なんかに話すメリットが分からない。」


「あぁ、えっと。俺、あんまりそういうのがバレるの苦手でさ。中学の時に色々あってね。それで…えっと…。」


言い淀むが言い換えられなかったのか


「渡辺姉妹なら誰にも言ったりしないかなと思って、相談室だし丁度いいし…。」


つまり、誰とも話さない私達は、誰かに言う状況にならないと踏んで相談しに来たということだ。

確かにその通り。

それでもあまり良い噂のない私達を尋ねたのは、それを気にするよりも切羽詰まっていたということなのだろうか。

倍率も高いようだし。

それでも私はなんでか軽んじられてみられているような、利用されているような感じがし、苦笑いで返す。


「誰にも言わないといいね~。」

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