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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第1章 2人の愛
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第10話:そんな1日と新たな1日

愛那と紗那が帰って来たのは、うどんの生地を寝かせている頃だった。

私はソファーに座りながらテレビを見ていた。


「ただいまぁ~。つ~か~れ~た~。」


「ただいま愛華。今日のご飯は何だ?」


「おかえり2人とも、どうだった?巡川さんは無事?」


途中までは見ていたけど最終的にどうなったかは分からない。


「無事に、だな。愛華の機転のおかげだよ。一時はどうなるかと思ったけどな。あそこのみんなが驚いてたぞ?」


紗那が口走ったそのセリフに愛那がビクッと身を震わし愛華から目をそらす。


「え!?私がやったって言ったの!?」


「い、い言ってないよ??何か察されたというか?よくわかんないけどね??」


「絶対愛那がばらしたんじゃん!!!!!もう、ばらさないと思っていたのに…。」


と言うことは巡川にも気づかれているのか。

今日うまくいっていないから、明日もまた会わなければいけないのに。

大誤算だ。


「ま、まぁいいじゃん!?みんないい感じに終わったんだし!巡川さんも1人で頑張ってみるって言ってたし。」


ん?

と言うことは仕事は終わったということか。

それでもバレたこと自体めんどくさそうだが。


「…まぁそれならいいけど。」


もちろん100歩譲って、だけど。


「っていうか2人とも、やっぱり私がやったってすぐ気づいたんだね。意図も分かった?」


「私は分かったよ!やっぱり愛那も去年見た動画覚えてたんだね~。」


にやにやしながら愛那は私の頭をつかんでクシャクシャしてくる。

恥ずかしくなりそれを手で払う。


「別に見たくなかったのに無理やり見せられたからね。紗那は覚えてた?一緒に見てたよ?」


「見たこと自体は覚えてたけど、誰が誰とか動きまでは覚えてなかったな~。」


「え?動きまでって、愛那、動きを覚えてたの?!」


「完璧なすり足だったぞ?狙いも正確だったし。怪物かよって思ったけどね。」


「えへへ、いや~それほどでも…え!?最後バカにしてない!?集中して見たんだから覚えてて当然だよ!!愛華だって顔を見ただけで思い出せたんだし…。」


「あ、そろそろだ。」


話も途中に寝かしていた生地を取り出し、生地を伸ばす作業に入る。

紗那は鍋に水を入れ火にかけ、愛那は包丁とまな板を出して打ち粉を振るっている。

何も言わずに互いを手伝ったり、そうでなかったりと、その時々によって違うが、これが渡辺家だ。

生地を伸ばしながら話題は紗那についてになった。


「そういえば紗那が生徒委員会に入るんだって。体育委員代わってもらったらしいよ。」


「え!?そうなの!?」


「ははは。これで3人そろって学校生活できるな。クラスが違うのはまぁしょうがないが。」


「やっぱり紗那はうらやましかったんだね。愛華もそう思うでしょ?」


「まだそれを言うか!!」


「私もそう思うな。」


「愛華も!?別に羨ましくなかったし!!」


明日からは3人で放課後を過ごすことになる。

いや、待てよ。

別に私は毎日いかなくても、当番制にして回してはどうだろうか。

なんて、思ってみたけど、多分この2人は却下するだろう。

提案するまでもなく結果は把握できた。

まぁ、もっとも親しい2人なのだから私も嫌じゃないし、それにいるだけで相談は2人に任せればいい話だ。

私は助言を少しできればいいかな、なんて思う。

最も、相談者がそう頻繁に来るとは限らないが。


「そう言えば、今日帰り道で変な人に会ったんだけど…。」


ふと思い出した帰り道にあった人。

全く知らない、女の人。


「茶髪でショートカット、背は普通?くらいで、私と愛那の名前を知ってたんだけど、愛那誰か分かる?」


「ん~??茶髪でショートカット、背が普通??金井??」


そういえば金井も茶髪、ショートカット、背も165cmくらいだ。

ただし金井はショートボブと言った感じか。

私が出会った女はショートヘアと言ってもベリーショートまではいかないくらいの曖昧な短さだった。


「う~~ん。分かんないなぁ。それだけの特徴だけだと顔を見ないことには分かんないかなぁ。紗那は何か心当たりある?」


「いや、聞く限りではわからんな。」


「まぁいいよ。よくわかんない感じだったし。次会ったらまたいうね。」


実際不気味ではあったが直接的な害は思いつかなかったし、これ以上は考えるのをやめた。

考えてもしょうがないことは自分が一番わかっているし、何かあるならまた接触してくるはずだ。


うどんを切り終わり打ち子を振るって鍋に入れる。

簡単に麺つゆを水で割って、それで食べることにして、お皿を準備する。


「あ、ちょっと待って。」


愛那が麺つゆを遮り、生卵と醤油を出す。


「溶いた生卵に醤油を入れてつけて食べるとおいしいと思う!!多分!!」


思い付きだった。

でも確かに似たような食べ方をする地域もあるとか、ないとか。

愛那の案に乗ることにした。

最悪合わなかったらスクランブルエッグにでもすればいいし。

ねぎを切り、わさびを盛り、準備は終わる。

麺が茹で上がりざるに移して冷水で占める。

完成だ。

率直に言って、愛那の考案した食べ方は、類を見ない形でおいしかった。


************************************


次の日。

放課後。

相談室には私と愛那、それと新しく参加した紗那がいる。

新しいメンバーなはずなのに、新鮮味は全くない。

私がソファーに座り宿題をやり、愛那が壁に腰掛け、お湯が沸くのを待ち、紗那は私の後ろでソファーに両肘を立てて頬杖している。


「それにしても、本当に委員会替えれるなんてこの学校かなり緩いね。」


確かに、一度決めたうえ、説明まで受けたのに委員会を替えられるなんて普通はありえそうにない。

阿原高校では委員会はあくまで部活動の代わりにやる活動だから、部活の様に所属はある程度自由なのかもしれない。

1人枠の委員を2人でやったりしてるし。


「佐倉先生がいるくらいだから相当緩いんじゃないか?」


「おっさんは学校のルールとは別のところで生きてると思うけどね。」


学校側が管理してない存在ということになる。

なぜ佐倉先生が教員として雇用されているのかを、今度先生に聞いてみよう。


「…なんだ?一人増えたのか?」


ドアを開けて、委員長の鬼塚紅が入ってくる。

手には枕を持っていて、どうやら寝に来たようだ。


「私、橘紗那と申します。以後よろしくお願いします。」


「あ~はいはい、よろしく~。」


自己紹介をちゃんとする紗那に対して、私の反対側のソファーに寝転びながら紅は言った。


「コウさんも自己紹介してくださいよ~。」


「…めんどくせぇ、起きた時な。ってかコウさんっていうな。」


そういうとソファーの横の手を置く盛り上がった部分に頭を置き、枕を顔の上に置いて寝始めた。

枕の使い方が斬新すぎる。


「なるほど…確かにダメなやつしかいないようだな。」


紗那が一つの解にたどり着いたところでお湯が沸き、今日はシンプルに緑茶の粉を入れてそれを飲む。

愛那は紅のせいで座れなくなったので、仕方なくパイプ椅子を出してそれに座り一息つく。

紗那も同様にパイプ椅子に座る。

静かになった教室で各々が適当に時間を過ごしている。

こんな時間が続くと、私はつくづく思ってしまう。

私帰ってもいいんじゃないかな。

そう思ったタイミングでドアが開いた。


「あ、あああああのあの、し失礼します!!!」


デジャブ。

巡川が顔を赤らめながら入ってきた。

コミュ力のせいか声の大きさが制御できていない。


「おおおお!巡川さん!どうしたの!?」


「もしかして、また相談か!?」


愛那と紗那が詰め寄る。


「い、いえ!実は私…生徒委員会に入りまる!!!!!!」


噛んだ。


「えぇ!?マジで!?すごい!!!」


愛那が巡川を持ち上げ、紗那がハイタッチをする。

巡川は小柄だから持ち上げるのは容易のようだ。


「ひぁ。あ、ありがとうございます!」


この喜びの輪の中に私はいないが、私も祝福をする。

コミュ力が著しく低い巡川。

クラスの人とまだ会話をしたことがほとんどないほどに。

委員会を替われたということは、その人に話しかけ、交代できたということだ。

それがどんなに大変なことか、難しいことか、この2日間で私達がよく知っている。

よく頑張ったと言いたい。

言わないけど。


「あ、あああの、もう下ろしてもらって大丈夫です。」


恥ずかしそうに下ろしてもらう巡川。


「それから、私…、私と、友達になってくだひゃい!!」


噛んだ。

それにしても今日の巡川はスゴイな。


「!?もちろんだよ!!!やったぁあぁああ高校初友達だぁああ!!!」


「もちろん私もよろしくな!!」


初友達にテンションが上がる愛那。

紗那も意外と乗り気なのに驚いた。

クラスの子とは可もなく不可もなく、過不足なく人間関係を築き、自らは決して深めようとしないのに。

巡川とは濃い時間を過ごしたからだろうか。

私はもちろん、こんなことを考えながら警戒していた。

この流れはまずい。


「あ、あの。それから愛華さんも。よろしくお願いします!!」


手を差し出しながら頭を下げる巡川。

その横で微笑みながらこちらを見る愛那と紗那。

ベタな告白みたいな展開に、なんだかこっちまで恥ずかしくなる。

そんなことはさておきだ。


私は友達を作る気はない。


「ごめんなさい、巡川さん。私そういうのはちょっと…」


さすがに「友達になってください」なんて言われるのは初めてだから、どんなに頭の中でシミュレーションしてたとしても返答に困る。

それでも勇気を出したあの巡川に対してこんなことを言えば、また自信を無くしてしまうかもしれない。

それでも私は、濁すように言いながら、巡川の反応を見ないように目をそらす。


「…愛華。…。」


愛那の表情は怒っているような、残念がっているような、そんなどっちつかずの顔になり、セリフを躊躇うように目を伏せる。

紗那の顔からも笑みは消えていた。

このまま重い空気が流れると思ったが、間髪入れずに巡川が言う。


「…いいんです。私が勝手に、友達だと思っているだけですから。愛華さんは無理に変わらなくてもいいんです。」


予期しない返答に戸惑った。

私は、私の都合で巡川の勇気を踏みにじるつもりだったのに。


「…。それでも私は…きっと仲良くできないかもしれないよ。」


「いいんです!!今まで通りの愛華さんで。愛那さんに聞きました。あの日助けてくれたんですよね?そんな愛華さんとも私は一緒にいたいです。あの日は助けてくれてありがとうございました。」


そうか。

あの日の私の行動は知られているんだった。

あの日は巡川と関りを深めないように顔を出さなかった。

それでもバレてしまい、巡川の意識下に私と言う存在を植え付けてしまったのは、私の判断がまだ足りなかったということだ。

今この状況はきっと、回り回って私が生み出したものだ。


「…はぁ。うん、あまり…期待はしないでね。」


頭を上げ、泣きそうになった目を輝かせながら声を上げて喜ぶ巡川。

愛那と紗那もめちゃくちゃ喜ぶ。

こうして巡川は私の中で「知り合い」から「委員メイト」になった。


「それじゃあこれからは4人で相談室、頑張っていこぉう!!!!!!!」


3人で掛け声を出しながら部活動みたいなテンションでワイワイする。

その輪には参加しないけど。

愛那と紗那が私を無理やり引き込んだりはしてこなくて助かる。


「うるせぇぇぇええええ!!!寝てるんだよ俺はぁああああ!!!」


すっかり忘れていたが紅が寝ていたのだった。

枕を吹き飛ばしながら起き上がる。


「ひぃいいいいいいい!!!!だ、誰ですかぁああ!?!?!」


いつもの巡川に戻った。


「!?また一人増えたのか?お前ら騒ぐんだったら別の場所でやれ!!!俺は寝る!!寝たい!!!!」


この学校の生徒委員に関わる男は欲のままに動く。

それを学んだ。

こんな風な男を私達はよく知っている。


「コウさんっていつも眠そうですね。夜更かしですか?」


「………。」


愛那の言葉に返事はない。

寝に入ったのだろう。

顔の上に枕を置いているせいか寝息すら聞こえないが、私には「コウさんっていうな」と言う言葉がボソッと聞こえた。


「あ、お湯沸かしてるから巡川さんも何か飲むか?」


話を変えるように紗那が提案する。


「あ、はい!私も皆さんと同じので、お願いします。」


敬語はまだ抜けない。

それでも今日の巡川の勇気を見れば、それくらいは気にもならないものだ。

委員会活動を始めてたった3日。

それだけで大きく景色が変わったように思う。

とりあえず私は帰りにあのダメ人間佐倉先生に、放課後の相談室の当番制を要求しようと思った。

愛那達には内緒で行こう。

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