表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第1章 2人の愛
10/71

第9話:友達作り後夜祭

愛那、紗那、金井は職員室に到着した。

先のステージ裏に来たのは現国の男の先生であまり怖い先生ではない。

説教自体も簡単に終わるはずだ。

職員室に入り職員室の奥にある生徒指導室へと促される。

その途中。

教頭先生の席の前で一人の大人が説教を受けていた。


「指導者たるものが会議に遅刻、しかもさぼろうなんて、信じられませんよ!?分かっていますか?もっとしっかりしてもらわないと私達としても―」


教頭は声を荒げながら私達に気付き少しためらうように咳払いをして、再度小さく説教をしだす。

説教を受けていた大人は私達の存在に気付くやいなや、口を開いた。


「教頭先生。私は相談室の生徒を待っていただけなんですよ。決してさぼろうとしていたわけではありません。な?お前らそうだよな??」


その姿はダメな大人の典型だった。

もちろん正体は佐倉先生。

3人誰も佐倉に返事をしなかった。

佐倉は現国の先生が指導室に促すのを見て状況を理解した。


「河野先生、こいつらが何かしでかしたんですか?その指導は生徒委員担当である俺の仕事です。教頭先生、私は指導をしてきますのでそれでは。」


「ちょ、話はまだ…。」


教頭が言い終わる前に指導室に愛那達を連れ込んだ。

現国の先生を押しのけて。

そして指導室。


「…ふぅ~助かった。で、お前ら何かしたのか?」


「おっさんは逆に何したんだ?!」


「俺は何もしてなかったんだけどな。本当に。」


「何もしてなかったのがいけないんだろ。」


もっともなことを言う紗那。


「そういえばお前のねぇちゃんそっちに行ったんじゃねぇのか?」


愛那に愛華のことを尋ねる佐倉。


「あ~多分来たんですけどどこにいるかは分かんないです。おっさんが行くようにさせたんですか?」


「いや勝手に出て行ったぜ。しかし、なんで俺が相談室にいることがばれたんだ?今日は運が悪い日なのかな。」


生徒指導室には大きい机を囲むようにパイプ椅子がセットされており、あまり広くない、窓もない閉塞感の強い部屋になっている。

その名の通り指導時に入れられる部屋なので悪さをするか、進路の話などでしか利用されない。

そのせいか、壁際の本棚には進学資料や就職資料が置いてある。

佐倉はパイプ椅子に深く腰掛け、愛那達3人もパイプ椅子に座る。


「…あんたまだ生徒委員やってんだな。てっきり委員会の担当なんてはずされてると思ったよ。」


金井が皮肉を込めながら佐倉に言う。


「俺も外れてると思ったんだがな。誰もやりたがらないから勝手に入れられてんだよ。」


「相変わらずな性格だな。…ってか何したか聞かねぇのか?早く帰りたいんだけど。」


愛那も紗那も同じことを思っていたが、こんな先生相手でも一応は説教だ。

軽々しく「まだ説教しないんですか?」みたいなことは聞けなかった。


「え?そんなやばいことしたの?ちょっと喧嘩したくらいじゃねぇの?」


「いや、まぁそんな程度だけど。」


「あ、そうか。じゃあ、まぁ、次はするなよ。解散。」


雑に始まって雑に終わった。

教師の風上にも置けない存在だ。

元々知っていたけど。


「じゃあ私達は帰らせてもらうので。お疲れ様です。」


生徒指導室を出て職員室の中を通り職員室も出る。

生徒指導室に佐倉は残っていたが教頭がそこに入っていくのが見えた。

彼への説教はまだ終わらなそうだ。


「今日は悪かったな。それじゃあ。」


金井は軽く謝ってそれ以上は何もなく帰っていった。

愛那と紗那は自分たちも帰るために荷物を取りに相談室に行く。

愛華も待っていることだろう。

相談室に到着しドアを開ける。

中に愛華はいなく、巡川がいた。


「!おかえりなさいです!それから…ありがとうございます!!」


「おお、びっくりした。巡川さん帰っててもよかったのに。ってそうか、結局放課後もつぶれちゃったのか。今から部活見に行ってももう終わりだしてるだろうしなぁ。」


時間は5時を過ぎていた。

文化部ならそろそろ用具を片づけたりする頃だ。

多分。

巡川の友達作りは、また明日に繰り越しになりそうだ。


「いえ、その話なんですけど。私、一人で頑張ってみようと思います。今日の件は、きっと私がもっと強かったら…。だから、一度自分で頑張ります!!」


巡川の表情は昨日に比べると、しっかり前向きになっていた。

たった2日間の付き合い。

それでも、とても濃い2日間だった。


「がんばれ巡川さん。また相談室にも来てね。」


「そうだな、次からは私もいるからな。よろしく。」


「え!?そうなの!?」


紗那の発言に愛那は驚く。


「クラスの生徒委員会に体育委員と変わってもらったんだ~!だから今日から私は生徒委員会です!」


ピースしながら紗那が言う。

紗那のクラスの生徒委員会は部活をしている体育会系だから、体育委員との交代はかなり良いものだったはずだ。

紗那自体は愛那が入ると思って入っただけで、体育委員に思い入れはない。


「なんだ~やっぱり私達が羨ましかったんだな~?」


「私は愛華と一緒にしたいだけで、お前とは別にいいからな。」


「えぇひどっ!!紗那はおっさんの接待役に決定だから。」


「それだけの理由で入りたくなくなるわ。」


「うふふ、ふふふふ。」


巡川は2人のやり取りを見て笑う。


「私も明日からは…。」


小さくつぶやいて巡川は相談室を出る。


「じゃ、じゃあね!愛那さん、紗那さん!」


最後に少しだけ敬語をやめた巡川。

愛那と紗那も返す。


「じゃあね、巡川!」


巡川はそのまま小走りで去っていった。

巡川が帰った後、荷物を持ち愛那と紗那も学校を出る。

時間にしてはまだ帰るには早い時間だが今日はすぐに帰った。

2人は疲れていたし、残ろうという発想すら思い浮かばなかった。

駅に着いて電車に乗り、長い長い帰宅は続く。


「それにしても、よく剣道できたな。私から見ても足の動きとか様になってたぞ?」


「金井さんが最初からちゃんとした動きやってくれたから、マネしやすかっただけだよ。それより紗那も去年よりすごみが増してたね。」


「な!そんなこと言うなよ、あの時は怒ってただけだから。…ほんと、こういうのはもう今日だけになるといいな。」


「…そうだね。去年決めたしね、うん。噂は流れてるけどねぇ…。」


大きくため息を吐いて沈む愛那。


「大丈夫だって。噂だけならまだ巻き返せるよ。…でもまさか愛華が勘違いされるなんてな。なんのために目立たないようにしたんだか。そういえば、あいつらが言ってたけど、こっちにも噂は来てたんだな。中学生が不良を倒して回ってるって。こっちの方には来たこともないのに噂は怖いな。」


「…ほんとにそうだよね。あ~今日は疲れた。愛華もう帰ってるのかな。」


「愛華、やっぱり帰ってたな。」


「うん…。まぁ次があるよ。」


いつものように会話はそこそこに終わり、ケータイをいじったり、曲を聴いたり、寝たりして時間をつぶす。

そういえば制服が結構汚れてるし、殴る蹴るをされてるから髪とかもかなり崩れている。

電車内ではそこそこに奇異な目で見られているが、気にするような2人ではない。

この汚れは今日を勝ち抜いた証なのだ。

こうして、初めての相談とその任を終える。


***********************************


体育館裏にある倉庫には古くなり使われなくなった用具が多数入っていた。

使われなくなっただけで、機能させようとすれば十分機能するのだが、用具が増えてくる中で古い物はどうしてもこういう場所に追いやられるのだろう。

中には適当なボールがたくさん入れられている籠や、ボロボロになっているマット、古く去った卓球台などがある。

そして大量の竹刀と防具を見つけた。

竹刀がなければボールとかマットを投げ込むつもりだったが、竹刀があってよかった。

竹刀にこだわる理由はもちろん金井の素性を知っていたからだ。

私は倉庫の上に竹刀と防具とバスケットボールを投げ置く。

結構な重労働だけど時間がないし、切羽詰まっているからここで全エネルギーを使う気で取り掛かる。


「ん!!っふ~。今日だけ、今日だけだから。」


そういいながら作業を続けた。

全てを倉庫の上に乗せた後、また倉庫をよじ登る。

これが1番大変だったけどやむを得ない。

登って、窓から中を覗く。

場面は最終局面だった。

巡川が倒れ、髪をつかまれている。

やばいやばいやばいやばい。

急いで窓際に用具を寄せ、バスケットボールを掲げて窓にめがけて―。

寸止めで止まり周りを見渡す。

よく考えたら人命救助とは言え、すごいことをしようとしている。

誰かに見られでもしたら言い逃れなんてできない。

確実に周りに人がいないのを確かめ、今度こそ、窓ガラスを割った。

窓を割ったのは注目させるため。

そこからすぐに、割れた窓から竹刀と防具を投げ入れる。

投げ終わりと同時に倉庫を飛び降りてすぐに逃げる、ひたすら逃げる。

追いかけられることを可能性に入れての行動だ。


「はぁはぁ、走る体力残しておくんだった。」


何とか校内に入り、相談室に着く。

鍵をかけて、息を落ち着かせる。


「ふぅ~。後は…。」


頃合いで先生を呼ぶだけだ。

10分くらい待ってみて職員室に行き、体育館ステージ裏の窓が割れていると報告する。

たまたまその場にいた現国の先生に言った。

そして先生は体育館へ向かい私は相談室に戻って帰りを待つ。

つもりだった。


「…待たなくてもいいのか。」


愛那と紗那は多分、私がやったことに気付くだろうが、巡川は気付かないはず。

愛那も空気を呼んでばらさないだろう。

この後巡川と3人で帰ってきたときに会話の中でぽろっとばらされるのも嫌だし。

帰ってから愛那達には口止めさせよう。

巡川に恩を売るつもりはないが、勝手に買われてもしょうがない。

私は荷物を持って相談室を後にした。


学校を出ての駅までの道中。

その間は時間にすればたった5分だ。

なんなら学校から駅が見えるくらいの距離。

そこで、すれ違った1人の女の人に話しかけられる。


「やぁ、君が渡辺…愛華さんだね。会うのは初めましてになるかな。はは。私が誰かなんて気にしなくていいよ。それにしても、ふふ、聞いた通りのおとなしそうな見た目だね。今の渡辺愛那が出来上がった元凶と言える存在だよ。それにしても君と出会えるなんて運がよかった。名前も知られていないロングヘア中学生が不良を倒して回るなんて噂がここらで流行っていたけど、その人が渡辺姉妹両方だとか勘違いも甚だしくされてるようだね。1人のはずの不良がたかが噂で2人に増えるなんて、面白いことだと思わない?」


突発的に1人でしゃべり続ける。

この人、私の名前も愛那の名前も知っていた。

それに、聞いた通りとは、誰に何をだ?

噂?

把握するのも追いつかない速度でしゃべられた。


「…あの、誰なんですか?私達のこと、何を知ってるんですか?」


「あぁ~、いいよいいよ気にしなくて。私と会ったことは忘れてもらって大丈夫だから。私は何かしようってつもりもないし、何か知りたいことがあるわけでもないしね。」


気味が悪い。

その女は茶髪にショートカット、背は160cmくらいだろうか。

服装は私服?と言うより上下のそろってないジャージを着て、ニット帽を被っている。

人をおちょくるような表情でこちらを見ている。


「…愛那の知り合いですか?」


「まぁ~どうだろう。知り合いと言えば知り合いだし、そうでないと言えばそうでないかな。知り合いの定義もよくわからないものだしね。」


「はぁ。」


「そんなことより、学校でもおとなしく過ごしているのかい、君は。友達も作らずに。それって学校に行く意味あるのかい?生きる意味もあるのかい??…おっと、知りたいことはないと言った矢先にこれは失礼したね。」


「…なんですか?何を知っているか分からないですけど、あまり関わらないでくれませんか?分かってるなら尚更、人と関わる気はないので。」


不気味過ぎて、質問に対して少し腹が立つ。

そのまま振り向いて駅に向かう。

それ以降その人は話しかけてこなかったし、逆方向に足を運んでいた。

名前もわからない人。

帰ってきたら愛那に少し聞いてみることにして、私はそれ以上は気にしないことにした。

電車に乗り、早い時間だから余裕で椅子に座る。

昨日準備した黒色のイヤホンを出してスマホに取り付けて音楽を聴く。

このイヤホンは愛那と紗那と色違いのお揃いで、私がブラック、愛那がシルバー、紗那がホワイトだ。

愛那が持っているところを見たことないけど。


こうして一足先に家に着いた私は今日の食事当番なので献立を考える。

時間にすると今6時前くらいだ。

7時くらいにできることを見越せば、献立を考えて材料を買うまで余裕がありそうだ。

家にある材料を見て改めて献立を考える。

時間もあるし、うどんを作ることにした。

もちろん麺から。

材料はあるので買いに行かなくても済みそうだ。

薄力粉、強力粉を用意して作り始める。

疲れている2人に対して、お疲れ様の気持ちを込めるように、うどんの生地を煉った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ