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7 ウンクルの日記

短い閑話です。

1日目


 賢狼族を代表し、俺が報告書を兼ねた日誌を書くことになった。

 こういったものは長老が書くべきだと思うのだが、実際に仕事で動く機会の多い俺のほうが適任であるとの判断らしい。

 報告書とはいえ、軽い監査が入る程度で、ほとんど私的な日記として書いて良いとのことだ。




6日目


 時が経てば経つほどに、我々が従属することとなったレウコン・イーリスという軍勢の偉大さ、恐ろしさを身にしみて感じる。

 かの軍勢はとてつもなく強大だ。

 先日、我々賢狼族の戦士たちに武器と防具が支給されたが、それらはいずれも未だかつて見たことがないほどに精巧な作りで、そして強力なものばかりだった。

 永久に切れ味の落ちない剣や、放った矢が火矢となる弓、投げると自ら敵の方へと飛んでゆく槍……。

 しかも、これらはレウコン・イーリスの者たちにとっては、弱すぎてまったく使いものにならない"ゴミ武器"であるそうだ。

 今まで人間の武器や防具を欲しがっていたのが馬鹿らしくなる。

 武器だけではない。

 時折、食料も支給されるが、あれも信じられない程に美味い。

 あの味を知ってしまったら最後、今まで食っていたものが泥団子のように味気なく感じてしまう。

 いったい、彼らはどれほどに高度な技術や文化を持っているのだろう。

 我々には想像もつかない。




10日目


 聞いた話によると、我々の集落を制圧したあの虫の翅を持った3人は、本来は蜂蜜づくりを生業とするただの作業員であり、レウコン・イーリスの中でもその戦闘力は最低に近い存在であるという。

 本来の戦闘員は彼らとは比べ物にならない強さを持ち、行動する際も3人ではなく、最低数百人からなる部隊として動くらしい。

 さらには偵察や計算などに長けた専用の集団もあり、それらが連携してまるで1つの生き物のように動き、迅速に任務を遂行するという。

 その他にも、"局長"や"大幹部"などと呼ばれる、特に強力な者も多く存在しているらしく、あのヘルフェウス様を一撃で葬った女性、エヴァ様は大幹部に属している。

 大幹部は全部で4人と聞いたので、あの方と同じくらい強い者があと3人も居るということだ。

 我らが身の矮小さを思い知るばかりだ。




19日目


 戦闘局長のビーチェ様が我々の集落を視察に来た。

 外見は身体に鎖を巻いたただの少女のように見えるが、遠目に見ても全身の毛が逆立つほどの威圧感を覚える。

 ネグロ大総統閣下やエヴァ様などは一見しても強さが分からない恐怖があるが、ビーチェ局長の場合は一見するだけで勝てないと思わしめる、また違った恐怖がある。

 しかし猛獣のような雰囲気とは裏腹に、その振る舞いは意外と理性的で、話しぶりからして頭も良さそうである。

 それから、人間好きの賢狼族の連中が、揃ってビーチェ局長に惚れ込んだ。

 可愛らしい人間の身体に加え、我々賢狼族に似た耳や尻尾が生えているのがツボに入ったらしい。

 俺にはよく分かりかねるが、ビーチェ局長が可愛らしいというのは、確かに分からないでもない。

 もう少し毛深ければ、きっとトゥラよりも美人になっただろう。

 そうなっていたら、俺も彼らと同じように惚れていたかもしれない。

 俺は話でしか聞いたことがないが、我々賢狼族の遠縁に、人間の身体に獣の耳や尾を持つ"獣人"と呼ばれる種族が居るという。

 ビーチェ局長も獣人なのだろうか。




20日目


 昨日の日誌を見たトゥラにしこたま怒られた。




24日目


 ネグロ大総統閣下から、直々に報酬を頂けることになった。

 我々は今のところ、簡単な情報提供や雑務の手伝い程度でしか役に立てていないが、我々の提供した情報の中に、大総統閣下が喜ばれるものがあったらしい。

 どんな報酬が欲しいか尋ねられた際、多くのものが食料を要求していた中、人間好きの連中が、命知らずなことに"ビーチェ局長との握手"を要求していた。

 あまりにもふざけた要求だ。

 奴らは良くて厳罰、最悪殺されると思ったのだが、ネグロ様は大笑いしながらそれを承諾されていた。

 レウコン・イーリスの下位組織として働かせて頂くうちに分かったのだが、ネグロ様は一度配下となった者に対しては非常に優しい御方だ。

 失言も寛大に許されるし、無茶な命令は決して下さず、よく働けば報酬も下さる。

 性格も気さくで、集落の子どもたちもネグロ様のことを気に入っている者が多い。

 仕える君主として、あの御方以上の者はそう居ないだろう。




25日目


 先日の人間好きの奴らが報酬として望んだビーチェ局長との握手が、本当に実現した。

 戦闘局の仕事がある中、その合間を縫って握手のために我々の集落へわざわざ来てくださったらしい。

 ビーチェ局長は見るからに不機嫌で、前回お会いした時よりも威圧感が増していた。

 恐らくネグロ様から握手をしてやるよう頼まれて、渋々それに応えてくださっているのだろう。

 しかも握手を要求した連中は、ビーチェ局長の威圧を受けても喜ぶばかりで、まったく反省の色が見えない。

 多忙な身だろうに、同族の身の程知らずなわがままでこんな下らないことに参加させてしまい、申し訳ないやら情けないやらで見ていられなかった。

 しかし握手した連中があまりにも喜んではしゃぐからか、最後はビーチェ局長も威圧感が弱まり、微妙に恥ずかしげな様子に見えた。

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