そして、成就される願い
永遠の平穏を約束された茨の国に生まれた王子様は、優しく賢い青年に成長しました。
誰からも愛された彼は、国民が望むまま次期王としての己の役割を十分に理解して享受していました。
だけど、王子様は、いつもどこか虚ろでした。
己の心が、どこか欠けた感覚。
しかし、それがどのような意味を持つのかなんて、今の彼に分かるはずもありません。
そうして時が過ぎ、彼は18歳の誕生日を迎えました。その日は、あの日から100年目の日。
無力だった「エリク」という青年が、唯一運命に抗うためにかけた呪いから解放される日。
眠りから目覚めた瞬間、封じられた彼の魂は解放され、ようやく彼らは一つになりました。
愛しい彼女の名も、姿も、何もかもを思い出した彼は、ようやく満たされたのです。
そして、己の祖国を深く深く憎みました。
100年という流れの中で、彼は茨の国が、もう守る価値のない国だと思ったからです。
だから、彼は強く強く願いました。
こんな国など、滅びてしまえ、と。
そして、茨たる「彼女」はこの願いに答えました。
彼の初恋を守る為に、茨の森は己の意思で、茨の国を飲み込んだのです。
「私の手落ちというところなのでしょうね… 」
ため息をつきながら一人呟く少女に、真紅の魔女は苦笑いで答える。
「それを言うならば、私もやられっぱなしなのよ… 」
美しい真紅の瞳を伏せながら、漆黒の衣装を身にまとう彼女は
全身を赤の装飾で着飾りながらながら、美しい深緑を瞳に宿す少女を慰めた。
「全ては、あの悪魔の仕業…でも、本当に悪いのは誰なのかなんて、誰も分からない 」
何度目かになるため息をつきながら、真紅の魔女と現茨の魔女は目の前の光景に頭を痛めた。
そこには、茨の魔女の弟子たるリムと、そのリムを抱きしめる王子。
そして、その2人を守るかのように茨たちがひしめいていた。
「…私の制御が、ききません。まったくリム、貴方はどんな魔法を使ったのですか? 」
「師匠…なんでこちらに…。うぅ、分かりません。私はただ、生存者を見つけにきて…ぐぇ 」
リムが必死に師匠に返答を返すと、抱きしめられていた腕の力が強まった。
「そんな魔女と、話してはいけないよ、リム 」
え?誰ですか、と言いかけて王子の表情を見てリムは言葉を飲み込んだ。
泣きそうな、でも心底安心したような笑み。泣き笑いの彼は、でも、まさか。
在りえない。絶対に在りえない、自分の願望にまみれた問いだということは分かっている。
それでも、リムは言わずにはいられなかった。
「エリク様ですか… 」
「うん、さすがリムだね。俺がどこにいたって見つけてくれるんだから 」
そう言って泣いてしまった彼につられて、リムもまた大泣きをしてしまったのだった。