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王子様を目覚めさせるために

100年前のあの日。私は、エリク様と約束をした。

「生き続ければ、いつか会える」と。


全て何もかもを忘れてしまう人との約束なんて、守るに値しないのかもしれない。

だけど、私は守りたかったのだ。

だって、それだけが、全てを失ってしまう彼が残せる唯一のモノだったから。


だから、私は、全てを失ってしまう彼の代わりに、何もかもを覚えておこうと決めたのだ。





グサリ、グサリ、と手に足に顔に、茨で血だらけになっていく自分が情けなくて笑ってしまった。

茨の魔女といっても、それは全て「森」の力があってこそだ。

「茨の森」という魔法があってこその「茨の魔女」である。

だから、今その魔法を使えない自分は人と同じだ。あの頃の、ただのリムでしかない。


じゃあ、会えるのかな。

私がただのリムでしかないのならば、彼に会えるの、かな。


「エリク様に、会いたいなぁ 」


私が覚えている彼の最後の表情は、泣き笑いだったっけ。

最後の別れに彼は泣きそうだったけど、生き続けると約束した私に安心していた。

でも、どうして彼は私にあんな約束をさせたのだろう。どれだけ生き続けたって、彼は、もういない。


師匠が見せてくれた映像には、間違いなく彼の遺体が映っていた。

私を忘れて、妻を見つけて、子を成し、人としての一生を終えた姿。

そんなものを見せつけられて、その時は彼を酷く憎んだんだっけ。

私が手放してしまった人としての一生は、長いようであっという間だったなぁ。


なんて考えながら、絡み合って壁を作っている茨を引っ張って、ちぎって、押しのけて、ようやく私はたどり着いた。

其処は、茨が覆ってできた空間で、人が3人ほど入れる大きさだった。

その空間の真ん中に一人の青年が横たわっていた。身なりからして、たしか第一王子様?

「なんで、王子がこんなところで… 」

恐る恐る近づけば、すぅっと呼吸する音がした。見た限り、どこかケガをしているわけでもない。

ただ気を失っているだけならば、この人には早く起きてもらおう。

彼を抱えて、来た道を引き返すのは今の私には無理だ。


「あの…起きてください 」

そっと揺すってみても、全然起きる気配がしない。困った。

うーん…手持ちの物で使えそうなものは…水を顔にかけてやろうか。


「それは、どうだろうね 」

「ぎゃああああ 」

いきなり声がして、私は飛び上がってしまった。

隣を見れば、苦笑いをした少年がいた。青い髪の恐ろしく整った顔の少年なんて、見たこともない。

「あの、君は、だれ? 」

「僕は、見届ける者だよ。彼の願いが本当に叶ったのか、ということと「茨姫」の結末を見届ける者 」

そう言ってニコリと笑うけれど、私にはまったくなんのことなのやら分からない。

でも、少なくとも彼は、ワールズの者ではないらしい。


魔女やら魔法使いは、先制攻撃を好む。魔法での戦いの全てはいかに相手に気づかれず魔法発動ができるかにかかっている。だから、こうやって自分の姿をさらしてしまうなんて戦う気がある者のすることじゃない。

…まぁ、私ごときに、そんな戦略すらも必要ないと思っているのかもしれないけど、ね。

それでも、スペル詠唱すらなく魔法は使えない。その間に私は茨を操ることができるだろう。


「さぁ、早く起こしてしまおう 」

「そうなんだけどね、その、起きないのよ 」

手持ちの水筒を出して、さぁ、今度こそとふたを開けて少年に止められた。

「簡単だよ。茨の中、眠り続ける者を起こす方法なんて決まっている 」

「え? そうなの? そういう魔術的儀式なんてあるの? 」

私の問いかけに、はぁと溜息をついた少年。なんだ、感じが悪いな。

「眠り続ける者の為にできることと言えば、口づけだろう 」

「なんで? それって決まり事なの? 」

したり顔で頷く少年に、私は非常に困ってしまった。

一応、100年ほど生きているが、私にも恥じらいというものはある。

しかも、全然知らない相手に、口づけ…キスなんてできない。


「でもね、そうも悠長なことは言っていられないと思うよ。ほら、 」

そう言って少年が手をかざせば、そこには森の入り口に立つ人を映し出した。

全身を真っ黒に覆っているその人は、多分、ワールズの魔女だ。

そうでなければ、茨たちが彼女を避けるはずがない。


「茨避けの魔法具…師匠の知り合い 」

最悪だ。師匠はいないと安心していたけど、協力者が出てくるなんて考えてもみなかった。

あんなに人嫌いの師匠が茨避けを渡すくらいだから、よほど信頼のおける優秀な魔女なのだろう。

師匠の茨避けを持った者に、今の私が勝てるはずない。

「ね、早く済ましてしまおう 」

「…それで、本当に目が覚めるのね… 」

嬉しそうに頷く少年に、軽く眩暈を感じつつ私は一つため息をついた。


なんとしても、私はこの王子様を助けなければならない。

それは、私の生きる理由になるはずだから。


だから、ごめんなさい。

もう、いない彼に謝罪して、私はそっと唇を合わせた。


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