亡き王子様との約束
大切な人が沢山いた。
だから、自分にその素質があると言われた時は嬉しかった。
この国を守る為の力。選ばれた証拠。でも、その代償として私は人としての時間を失わなければならなかった。
そのことを一番嘆いたのは、あの人。私の一番大切なあの人。
私の天命に、最後まで抗おうとしてくれた人。
「どうして、君が犠牲になるんだ 」
そう言って、彼は魔女にまで戦いを挑んでくれたのだっけ。
とても嬉しくて、同時にとても恐ろしかった。
だから、私は忘れられることを選んだのだ。また、彼が間違ってしまわないように。
多少、魔法を使えるといっても、ワールズの魔女に外の者がかなうはずがない。
彼が死んでしまうのは、国にとっても、そして私にとっても悲しいことだ。
だから、全てが幸せであれ、と私は静かに忘却の彼方で生きていたのに、なのに…。
緑が全てを飲み込んでいく。
大切な祖国を、飲み込んで壊していく。
あぁ、大切な全てが、消えていく。
もう、居ないはずのあの人も、一緒に飲み込まれて
消えた。
あぁ、また、この夢だ…と泣きながら目を覚ませば、日はすでに昇っていた。
慣れないながらも、急いで出発の準備を整える。早く目的の場所までたどり着かなくては。
なんとかワールズから出ることができた私は少しずつ茨の森を進んでいた。
茨を操れるからといって派手なことをしてしまえばすぐにワールズに気づかれてしまう。
それだけは避けたいのだ。たった一人の生き残りの事がばれてしまえば、どんな理由があれその人は、もう今までのように暮らしていけなくなるだろう。
隠匿することについて、あの国はもっとも簡単な方法を選ぶ。それは、死だったり忘却だったり様々だ。
でも、ワールズに関わって、ただの人として暮らしていけることはないだろう。
そして、それは私も一緒だ。
こんな失態が明るみになれば、きっと私は消されてしまう。
だから、その前にせめて一人でも助けたいと思う。少しでも、長く生きていたい。
小高い丘までたどり着いて見下ろせば、美しい緑の森がどこまでも広がっていた。
見慣れた城や街並みが消えた場所には、もう森が浸食して全てを覆い隠している。
その光景をじっと見つめて、私は改めて己のしでかしたことの大きさに戦いた。
一瞬の己の動揺が招いた失態。取り返しのつかない失敗。償うことのできない過去。
あぁ、私は生きていていいのだろうか。
この罪は、はやりすぐにでも裁かれるべきなのかもしれない。
それでも、私は生きていたと願うのだ。彼との約束を、少しでも長く守りたい。
「私には、もう、それしかないから… 」
そう呟いて彼女は涙を流しながら、たった一人を探しに、また歩き始めた。