緑の瞳の記憶
生まれた時から自分の存在なんて無価値だと思っていた。
だから、奇麗な赤い人が迎えに来てくれた時、初めて「私」という存在を認めることができた。
茨に守られる国。そこは、他国からの侵略もなく。どこまでも平和な国。
だけど、そんな平和な国にも貧しさはあるものだ。むしろ、閉鎖的な国だからこそ身分制度から逃れることはできない。
平和を、平穏を守り続けるうちに、少しずつこの国は腐敗していった。
一部の富裕層にのみ、この国の平和という化け物は優しくほほ笑んでいるようにしか見えない。
外からの害意に敏感な茨たちも、国の中の害には気づけない。
いや、気づきながらも知らぬふりをしている。私には、そんな茨が恐ろしい牢獄の監守のように思えて仕方なかった。
ただ国があればいいという、そんな風に見えてしまうのだ。
茨が守るべき国民として見なされなかった私は、その日その日を必死に生きていた。
奴隷という存在は、代えのきくただの消耗品だ。存在に価値なんてない。
生きようが、死のうが、関係ないのだ。
そうやってただ生きているだけたっだ私は、その人に拾われた。
「適性者…「茨」があなたを呼んでいます… 」
美しい人。自分を魔女と名乗ったその人は、悲しそうな顔をして私を「茨の魔女」として見出した。
その日から、無価値だった私は、ワールズの魔女としての、世界で唯一の存在としての価値を得たのだ。
攫われるように連れてこられたのはどこかの王城のような部屋。
光に包まれた一瞬で、路地裏からこんなところへ移動したのだろうか。
「あなたには、コレの管理者になってもらいます 」
手渡されたのは、淡い緑の針だった。どこにでもある、縫い針のような何か。
「これを、どうすればいいのですか? 」
「人差し指に、刺してみてください 」
不思議に思いながら、ぷつっと突き立ててみれば、血は流れなかった。
代わりに細い緑のツルのようなものが右手を覆っていく。
「あの、これ、は… 」
「大丈夫。あなたに害をくわえませんから、あなたを認めているのよ 」
意思を持つような緑の茨…不思議とそれを見ていると安心していく。
なぜだろう、茨なんて大嫌いだったはずなのに。
「貴女は今日から「茨の魔女」として、茨の森の管理者となってもらいましょう 」
そう告げる真紅の魔女は、悲しそうに微笑んだ。