兄さんが突然入院したかと思うと変態になって帰ってきました。
『私の側にとんでもないドM変態(元クズゲス)野郎が出た。』の番外小説です。
今回は前作のヒーローの弟視点です。一応恋愛カテゴリだから恋愛はあり…なのか…? コメディ色が強い気がしなくもないです
「あぁ…姫先輩は本当カッコイイだけじゃなくてなんて可愛いんだろう……そんな人の後輩でいられるなんて、俺はなんて最高なんだ!!」
「貴方は人として最低ですよ兄さん!!」
僕は部屋の壁一面に貼られた女性の、東優姫の写真を眺めながら恍惚とした表情で叫んでる兄、高須原王子に対して怒鳴りました。
誰かこの変態を逮捕してください!
僕の名前は高須原 陽路。現在中学3年生です。
えぇ、皆さん「えっ、ひーろー…ヒーロー?」なんて思って二度見してるかも知れませんが、それが本名なんです。事実なんです。
僕の両親は世間でも有名な事業を営んでいるほどの方たちなのでカリスマ性もあり頭脳も大変よろしいのですが、なんというか…名付けに関してはホント斜め上にぶっ飛んだ頭をしていると言うか…世間一般で言われているDQNネームなるものを大真面目に僕と兄さんに付けました。
兄さんには「王子様みたいな子になってほしい」って願いを込めて『王子』、僕には「ヒーローみたいな子になってほしい」って願いを込めて『陽路』と名付けました…なんでそんなぶっ飛んだ発想に至ったんですか!! 今時の外国人も自分の子供に対してHEROなんて名付けませんよ!! いや、『英雄』とか漢字の読み無視して読みは外来語にしちゃったのよりはましかもしれませんがね!? でも将来は折角もらった名前ですので漢字はそのままにしますが読みは絶対『陽路』に改名してやりますからね!!
…ごほん。すみません、少々熱くなってしまいました。
そうですよ。今回は名前に関して文句を言いたい訳ではなく…僕の兄、高須原王子についてお話したいのです。
僕の兄さんは高須原家の長男で、常に成績は学年トップで運動神経は抜群という「文武両道」の言葉が相応しい人です。
おまけに容姿も素晴らしいとのことですが、僕と兄さんは年子の兄弟なのでそっくりではないにしろ似ているため、そういう観点はあまりよく分かりません。まぁうちは英語圏やヨーロッパ圏などいくつかの人種の血が祖父母より昔の代から混ざってるみたいなので、正確な人種は特定できないけど海外の血が混じっているから平均日本人よりは少し整った顔に見えるのでしょう。まぁ容姿が整っていようがそれで女子に群がられてもめんどくさいだけですのでいいものとは思えませんが。(これを友人に言ったら「これだからモテ男は!!爆発しろ!!」と泣かれました。)
まぁそんな兄さんはそれはもうモテにモテまくりました。
しかし、それに伴いある問題ができました。それは兄さんが女遊びを始めてしまったことです。
兄さんは幼少の頃から、かなり甘やかされながら育てられました。両親にとって初めての子供でしたのでそれは当然でしょう。
しかし親として叱るべきことがあっても、両親はそれを叱らずにどんどん甘やかしていってしまったのです。
兄さんは、それはいけないことであることを幼いながらに理解していました。しかし肝心の両親は叱らず甘やかすばかり。自分勝手なことをしてるのに叱ってくれない両親に、兄さんは憤りました。注意してもらおうと問題を起こしては両親はそれを揉み消し甘やかすの繰り返し。
そんな繰り返しで、兄さんの性格面の悪化はどんどんエスカレートしました。
そしてそれ故に起こった現在の問題が、女遊びなのです。
常に女性から言い寄られる兄さんは女に困る事はありません。なので女遊びはエスカレートしまくりました…しかしその度に両親は叱るどころか「若気の至りだ」といって結局は甘やかし、叱られなかった兄さんはまた女に手を出す…
僕はもう弟しても息子としても、どちらにも呆れてしまうばかりです。
もうこの問題は一生直らないのではないか?と僕はそう思ってしまうほどでした。
しかしある日、その負のスパイラルが突然終幕を迎えたのです―――――兄さんが、学園の先輩に完膚なきまでに叩きのめされたことによって。
最初兄さんが緊急入院をしたという報せ聞いた時、僕はついに女性に刺されたのかと思いました。この時、まさか学園の先輩の、しかも女性の手により全身複雑骨折したとはよもや思いもしませんでした。いやホント、文字通り『手』によりとは、本当に思いもしなかったんです…。
昼に報せを聞いて、僕は放課後兄さんが搬送された病院へと訪れました。
別に自業自得のことなら当然の報いだろうと思い行く気はなかったのですが、両親から「仕事が早く終われないから陽路だけでも様子を見にいってほしい」と頼まれたら息子である僕は断れないわけで、仕方なく行くしかなかったのです。兄に対して随分薄情な弟だと思われるでしょうが、兄さんの性格の悪さを見て尊敬しろと言われる方が無茶であると反論させていただきます。
とにかく僕は受け付けの方に病室の番号を教えてもらい足を運びました。
まぁ様子を見て無事そうなら「無事で良かったです」と、辛そうなら「辛いだろうけど頑張ってください」とでも声をかければいいだろうと思いながら、僕は兄さんの病室の扉を開けました。
「兄さん、陽路です。突然入院したと聞いてお見舞いに…」
「あぁ痛いなぁでも嬉しいなぁ俺のことを駄目なやつだって怒ってくれた人なんて初めてだしかも女の子だよ女の子なんていつも俺に勝手に寄ってくるうざったるくてはしたない生き物だと思ってたし俺の顔見て頬を染めたり熱を孕んだ目で見てくるのがほとんどだったのにあの人はそんな生き物じゃなくて俺の顔なんて眼中にないとでも言いたげに俺の事を睨んで親友に手を出したことに怒ってきたんだなんて友達想いの人なんだろうでもそれよりも前からブッ飛ばしてやりたかったって言ってたから俺のことずっと前からどうしようもない奴だって知ってて御曹司だとか金持ちだとかで報復が怖くて誰も行動しない中で行動しようとしてたなんて正義感の強い人なんだろうもっと早く止めてくれても良かったのに学校に止められてたから仕方なく我慢するなんて優しい人なんだなぁしかもすごく強かったなぁ俺結構体力も自信あるし武術も長けている方だと思ったけどあそこまで見事なプロレス技をあんなちっちゃい身体でできるなんて思いもしなかったよしかもそれを100連発とか容赦ないなぁでもそれだけ怒ってくれたってことだよね遠慮ないところもなんて素敵なんだろうあのリボンの色からして2年生なのかなじゃあ先輩なんだ随分ちっちゃくて可愛い先輩だなぁあぁ先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩」
「すみません間違えました」
僕は扉を勢いよく閉めました。病院の方々に多大なご迷惑をおかけしかねない騒音でしたがそれでもつい条件反射で勢いよく閉めてしまいました。
うん、きっと今のは幻覚なんだ。3年生になり新学期で生徒会の仕事が忙しかったりやら高校に入学して更にエスカレートしていく兄さんの行動に常に頭を悩ませてきましたから僕は疲れているのでしょうそうに違いありません。
そうでなければ病室の扉を開けたらそこに全身包帯や湿布だらけでとても痛々しいのに、恍惚の表情をしながら嬉しそうに気持ち悪いことを言ってる兄さんが居るなんてことある筈がないんです。自覚なかったけど僕疲れ過ぎてるのかなーあはははははは。
僕は改めて扉を開けました。
そこには全身包帯や湿布だらけでとても痛々しいのに、恍惚の表情をしながら嬉しそうに気持ち悪いことを言ってる兄さんがいました。
夢じゃなかった!! めちゃくちゃ現実だったー!!
「に、兄さんが壊れたー!」
「おや陽路来てたのか、しかし兄に会ってその第一声が壊れたとはなんだ。確かに今の俺は全身重症ではあるかもしれないが別に壊れていないぞ。そう、壊れたんじゃない…生まれ変わったんだよ俺は!」
「変態としてですか!?」
「おいおい変態とは失礼だな。あぁでも…あの先輩の小さくて可愛らしい手で殴られるのとかすらりとして綺麗な脚で蹴られるのとかゴミを見るような目で蔑まれたりされるのとかなら、大歓迎だ!!」
「へ、変態だぁあああああああああああああああああああああ!!!」
病院では静かにとかそんな当たり前の常識も頭に回らなくなるほど大混乱した僕は、病院内にエコーするほどの悲鳴をあげました。
その後仕事を終えてやって来た両親も僕と同じような悲鳴をあげたのは、仕方のないことだと思います。後でご迷惑をおかけした入院患者の方々に差し入れをしなくては…
その後全身複雑骨折したにも関わらず顔や手足が変形したりとか一部関節が動かなくなったとかそんな後遺症も一切残らず全治一週間という驚異的回復力で退院した兄さんに戦慄した僕は何も悪くないと思います。
そして兄さんに手をあげた先輩に制裁を加えようと甘やかしモード全開の両親を捻じ伏せ、なんか細かい個人情報まで調べ上げてその先輩に付きまとうようになったということに関しておぞましさを感じたことも、仕方ないことだと思わせてください。
兄さんは、確かにあの日から変わりました。しかし、それは更正したと言うより寧ろヤバい道へと突っ込んでいってしまったのではないかと、僕はそう思わざるを得ませんでした…
―――――さて、とりあえず回想は終了させましょう。そして今、目の前に広がる現実に目を向けましょうか。
なんということでしょう、前まで生活環をまったく感じさせないくらい飾りっ気のなかった部屋が、今は壁一面に件の先輩こと東優姫さんの写真が貼られまくっていて…もうただのストーカーの部屋に早変わりですよ怖い!!
「なにこの光景!! どうやったら必要最低限以外の物は全く置かなかった部屋が短期間でこんなストーカー丸出しな空間に早変わりするんですか兄さん!? しかも前まで教科書と参考書程度しかなくて隙間空きまくりだった本棚が今はアルバムみたいな冊子がびっしりと詰めれてるんですけど中身を知るのが怖い!!」
「おいおい、突然俺の部屋に入ってきたかと思えばストーカー発言とは失礼だな陽路。これは姫先輩のことをいつでも眺めていられるようにするにはどうすればいいかという問題を合理的に解決させた結果だ! 因みにアルバムの中も姫先輩の写真でいっぱいだからもう俺の部屋は姫先輩一色で染められているといっても過言ではないだろう!」
「合理的に解決させた結果とかそれらしいこと言っても結局ストーカーの部屋くさいことに全く変わりないです!! しかもアルバムの中身が予想通りすぎましたうわぁああああああああああ!!」
僕は頭を抱えました。もう、目の前の事がいっそ夢であって欲しいとさえ思います。
別に兄のことを尊敬してた訳じゃないけど、更生した結果がこれとか酷すぎる!!
「陽路、お前はさっきから失礼な発言ばかりだな。一応言っておくがこれは姫先輩から許可いただいて撮った写真だからな? それにちゃんと部屋に貼ってもいいかとも聞いて許可をいただいているからこれは合意の上の結果だ」
「許可得て撮った写真だとかそういう問題じゃないですからね!? それに合意の上と言っても絶対東さんは貼られる写真は1枚か2枚程度としか思ってないと思いますよ壁一面なんて想像してないと思いますよ!? まさかないだろうと思いますけど一応言っておきますけど盗撮盗聴まではやらないでくださいね!?」
「えっ…」
「『するつもりだったのに…』みたいな顔やめてくださいね!? 本当にするつもりだったんですか!? 今でも十分アウトとしか考えられないのにこれ以上やめてください!!」
そんな犯罪者一歩手前、いやもしかするともう犯罪者に踏み込んでるかもしれない兄を叱咤しました。
女遊びなどの酷い問題がぱたりと止んだ代わりに、変態的な酷さが日に日にエスカレートしている気がしてならない今日この頃です…。
「…というか前まで東さんのこと姐さんって呼んでませんでしたっけ? いつから姫先輩って呼ぶようになったんですか…それに東さんは姫ではなく優姫って名前だったと思うのですが…」
「別に今でも姐さんと呼ばせてもらっているぞ? でも姫先輩は学校でも姐御とか姐さんとか呼ばれてるからな、俺だけの特別な呼び方を作りたくて本人の前ではたまに姫先輩と呼ばせていただいてるんだ…それに、優姫のきは『姫』という漢字なんだぞ俺は王子って名前で姫先輩の名前には姫って漢字があるなんてもはや運命じゃないかそれなら姫先輩と呼ばずになんと呼ぶんだ!」
「東さん学園ではどんな立ち位置なんですか不良かなにかですか!? 後特別な呼び方作りたいって発想だけでもあれなのに後半の言動はただの偶然なのにそれを運命とか言っちゃう妄執的なストーカーのテンプレ発言じゃないですかぁあああああああああああああああ!!」
もうやだ怖いこの人!!
もう気絶してしまいそうな気分になります…いっそこのまま気絶できたらどれだけいいか!
僕のライフポイントはもう0だ!!(後日友人にそう嘆いたら「ま、まさかそんなネタ台詞がイケメンの口から出るとは思わなかったわ…相当疲れてるんだな…」とか言いながら慰めてくれました。)
「あっ、もうこんな時間か。そろそろ出かけないとな」
そんな僕の心情を察してなんかいないのだろう、兄さんはそう言って出かける準備を始めました。
なんか自分だけ精神的に疲労してるのが馬鹿らしくなってきます…
「兄さん、これから出かけるんですか?」
「ああ、今日は姫先輩は友達と出かけるから、その間に先輩の家にお邪魔するんだ」
「そうですか…ってなんで東さんのプライベートなスケジュールを知ってるんですか!? 後本人が居ない時になんで行くんですか!?」
まさかさっき止めたというのに盗聴・盗撮器を仕掛けに!?
僕は慌てて止めようとしましたが、兄さんはそれを見越したのか僕に「ご家族に挨拶に行くんだよ」と言いました。
「…ご家族に挨拶?」
「姫先輩には内緒で親交を築いておいてもいいかと思ってな。お父様の方も難しいだろうが、特に大変なのはお兄様達なんだよなぁ。まぁ長くかかってでも許してもらうつもりだけどね」
「…は? え? …兄さんは、東さんと付き合っているんですか?」
僕は驚愕しました。
もう皆様も分かったでしょうが、兄さんが東さんに先輩としてではなく異性として好意を抱いているのを僕ももう嫌でも理解しました。だって好きじゃなかったらここまで行動することもないでしょう。
しかし、まだ先輩後輩の間柄だと思っていたのですが、まさか付き合ってるとは…
「いいや?」
と思ってたらあっさりと否定されました。
「って違うんですか!? じゃあなんで挨拶なんて…」
…あれっ? 付き合っていないのにご家族と親交を築いておく?
なんだか、嫌な予感がしました。それって、まさか………
「…なんだ陽路、察しがいいじゃないか。そうだ、俺は姫先輩に本気で惚れている。愛してるんだ。だから惚れさせて好きになってもらうだけじゃ絶対足りない。だから、」
―――――外堀も埋めた方が、姫先輩も俺と結婚しやすくなるだろう?
そう言って嬉しそうに笑ってる兄の瞳は恋情を孕んでいながら、肉食獣のような蛇のような猛禽類のような、獲物を狙った獣のような瞳をしていました。『もう逃がさない』とでも言いたげに…
あ、これはもう逃げられないでしょうね…
僕はそう思いました。いや、誰もがそう思わざるを得ないでしょう。
東さん、貴女はとんでもない人に目を付けられてしまったようです…
とりあえず僕は、将来義姉になるかもしれない東優姫さんに対して心の中で合掌しました。
高須原 陽路
今作の主人公。元クズゲス現ドM変態な前作のヒーロー高須原王子の弟。
常識人であるが故に、前のクズゲスな兄にも苦労してたが今のドM変態な兄にも苦労している不憫な弟くんです。
前作ヒロイン東優姫に対しては同情の念を抱いています。しかし多分出会ったらきっと尊敬の念も抱いて彼も姐さんと呼ぶ。姐御マジ姐御。
でもやっぱり同情の念が一番にくる。「姐さんすみません…!(胃がきりきりきり…」もうすぐ胃薬と友達だ!
ここまで読んでくださりありがとうございました。前作から読んでくださってる方は本当にありがとうございます。
番外結局書いちゃったなーなのでシリーズ化に。でももうこのシリーズは書きませんよ多分。
連載化もしません。何故なら王子の気持ち悪い長台詞のネタが尽きてきっとぐだるので。




