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ワールド・トランス・ワールド ~異世界に至る56番目の主人公~  作者: tea茶
第二章 屍鬼来還 《ハロー・グール》
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第十七話 魂現技能


「いやいやパートナーってんなら、ボクで充分でしょ。戦力だって、ほら拳銃(コレ)とか」


「うわった! だから! その銃をアタシに向けるんじゃないぞー!」


「お前らなぁ……はあ」



 冗談交じりに軽く銃をヴィーへと向ける由宇と、その振る舞いに憤り、空中でばたばたと暴れるヴィー。

 そんな二人のやり取りに毒気を抜かれ、ため息をつく綜。


 浅く舌をぺろりと出すと、由宇は銃を持った腕を引く。

 そして改まった調子になると、目線も鋭く、ヴィーを見据えた。



「でもさあ……サポートって言う割には、君の登場ってずいぶん遅かったよねぇ? まるで、綜がみんなと別れるまで待っていたように……ふ~んそっかぁ、やっぱり皆を助ける気は無かったんだよね、キミって?」


「…………」


「なっ!? そうなのかお前? どうして、サポートっていうのなら、もっと早くみんなを――」



 由宇の発言に対し、無言で見返すだけのヴィーの姿にハッと頭を上げ、憤りを見せる綜。

 だが、それをヴィーは強い口調で遮る。



「はん! バカ言うんじゃないぞ、柳ヶ瀬綜っ!!」


「っ!」



 見る者全てを凍えさせるような、冷たい人外の視線で。

 中空から文字通り、見下してくるヴィーの佇まいに、我知らず気圧される綜。




「移人が際限なくこの世界に移住し続ければ、人口過多で世界のバランスを崩し、大戦が再発するのは目に見えてるんだぞ! その後は間違いなく、移人は根こそぎ間引かれておしまい! それこそ何万、何十万という移人を養うためにこの世界の人間が土地や建物、生活や命そのものを削って保護する責務は本当は無いんだぞ! それに今だって、高確率で発生する犯罪や争いの回避でこの世界の人間だって頭が痛いんだぞ! それでもチャンスをやろうってのが、間違いだってわけ!? あのさぁ……慈悲や善意だけで国も経済も回ってんじゃないぞ! みんなを救おうなんて傲慢な考えがそもそも破滅を招く! だからさっきみたいに、無茶を通して皆を守ろうとするお前は……結局ハズレだって言ってるんだぞぉっ!!」


「うあぁ、長いし……耳が痛っ」




 綜の憤りなど歯牙にもかけず。

 逆にうっぷんを晴らすかのように、竜巻のように捲し立てるヴィー。


 確かに彼女が言ってることは正論だということは、綜も内心理解している。


 実際に、綜自身の意志を貫いた結果。

 亜理紗たちと決別することになったのは身を持って体験しているだけに、それは耳が痛い話だった。



「確かにね、さっきのは下手すれば綜自身が破滅していたと、ボクだって思うよ」


「ちぇっ、どいつもこいつも……俺はただ、助けたかっただけだってのに」


「兄さん……」



 眉間にしわを寄せ、恨めし気にこぼす綜に、何も言えない真桜と、涼しい顔で受け流す由宇。

 そして、呆れ顔をしたヴィーが最後に口を開く。



「あのさぁ、別に人助けするなって言ってるわけじゃなくて、単に身の程を知りなさいってことだぞ。それこそ目につく人、全てを救うことなんて王様にだって無理なんだし、それに今までの【柳ヶ瀬綜】にできたことは、恋人(・・)と身の回りの数人程度をせいぜい守ることくらいなんだぞ」


「ばっ! 恋人なんていねー……って……あれ? ということは、この世界に来た、前の柳ヶ瀬綜()の中には、彼女持ちがいたってこと? もしかして、パートナーってそういう意味なの?」



「…………」



 恋人発言がふと気になり、思わず問い返す綜。

 それに対し、真桜と由宇の二人はヴィーが返答するのを、神妙な面持ちのまま無言で待っている。


 そんな三人の様子を見て、悪戯っ子のように楽しげな笑みを浮かべるヴィー。



「んーふふ~逆よ逆、アンタ以外の【柳ヶ瀬綜】は全員・・彼女持ちだよ~ん! 寂しいシングルボーイはアンタだけなんだぞー! あはは、超無様~!」


「はあぁぁっ!? な、なんだよその、『クラスで二人組作ったら一人だけ余ってましたー』みたいな、ボッチ設定は! じょ……冗談キツイって。さ、さすがに……それは、ウソだよなぁ?」


「…………いやぁ……ホント、残念ながら……これが【柳ヶ瀬綜(お前)】の真実なんだぞ」



 小動物っぽい生き物に、憐みの目で見られることに耐え切れず、頭を抱えうずくまる綜。



「ちきしょーーー! そんないかにも『同情してます』、みたいな目で見るなよー!」

「……兄さん」

「あれ、綜ってこんなにバカっぽかった?」



 そのあんまりにも悔しげな綜の姿に、真桜も由宇も、さすがに近づいてまで慰めようとはしなかった。



「残念なのはアタシの方だぞ、第五十六期・柳ヶ瀬綜――と、さっきまでなら言いたいところだったんだけど、意外とアンタ……見込みあるかも」


「えっ、彼女出来るの?」


「バカ! 違うぞっ!」



 間の抜けた綜の返答に、思わず怒鳴りつけるヴィー。

 ストレートな綜の物言いに、知らず知らずその頬は微かに赤くなっていた。



「ほんっとバカ、ったく。アタシが言ってるのはね、アンタが【魂現技能サイコスキーム】に目覚めたんじゃないかってことだぞ。それで、改めて第五十六期・柳ヶ瀬綜に問うぞ、この世界に来てからアンタ……おかしな【力】を身に着けたでしょう? ほら、さっきこの子たちに話してた、人が【赤く見える死の予感】って、やつだぞ」


「え? あ、ああ……そのことか」



 ヴィーの言葉にピクリと反応する綜。

 その真摯に問いかける様子に、綜も姿勢を正すと軽く頷きかえす。



「うんそうだな……ヴィー。確かに俺は、この世界に来てからおかしなモノが見えるようになったよ」


「くく、やっぱりね♪ たぶんそれは、『危険を予測できる』能力(スキーム)に間違いないんだぞ! いやー良かった、ただのハズレくじを掴まされたと思ってたからさー、さすがに【魄来兵装スピリットオーダー】までは目覚めてないみたいだけど、これはちょっと希望の芽が出てきたってもんだぞー!」



 今までのどこか投げやりな態度とは打って変わり。

 自分の発した言葉の勢いに乗ったのか、一転してポジティブな雰囲気で語りだすヴィー。


 その明るく無邪気な姿に、異世界の奇妙な生物に対しての抵抗が薄くなったのか、真桜も積極的に質問を飛ばしていく。



「あの……スキームとかオーダーって、なんなの?」


「あはー、言って無かったっけ? んじゃんじゃ、ヴィー先生による説明タイムだぞー♪」



 上機嫌なまま、どこから出したのか。

 すちゃっと縁の赤い眼鏡を装着し、指示棒を片手に語り出すヴィー。


 その分霊の姿は、この世界に来た直後。

 説明をしていた神霊の姿と、明らかに似通っていた。






「まず、この世界で言う【魂現技能スキーム】っていうのは、精神の能力スキル。――分かりやすく言えば、【超能力】のようなものだと考えておけばいいぞ、その方が移人には理解しやすいでしょ? それともう一つ、【魄来兵装オーダー】ってのは、個人の特定の霊力――すなわち、人が放つ【霊力粒子(スピリット)】と呼ばれる、この世界に存在する微粒子で形作られ、具現化した個人特化の装備のことなんだぞ。例えば人それぞれで、剣とか盾とかそんな感じで目に見える装備品として現れるから、具現強化の能力と思えばいいぞー」



 真面目な教師然とし、思いのほか熱弁をふるうヴィーの姿に、思わずこくりと頷き、真剣に聞き入る学生三人。



「ちなみに、【魄来兵装オーダー】が発現した能力者は、身体能力も飛躍的に上がるんだぞ、さてそれはなぜでしょうか? ――はい、由宇ちゃん」


「……えっと、いわゆる霊力が……解放された状態だから、かな?」


「はい正解! その通り~、霊力の放出量が上がることで、自身の肉体を霊力で強化することができ、オーダー能力者は筋力や耐久力など、人間の限界を突破した力を発揮することができるようになるんだぞー」


「あ、どもども」



 指示棒を脇に挟むと、パチパチと由宇に向けて器用に拍手をするヴィー。



「ではなぜ、移人であるはずの柳ヶ瀬綜が能力を発現したのか? それは世界に対する【最適化】にあるんだぞ。そう、例えば高地に住めば呼吸機能が強化されるように、月に住めば六分の一の重力に慣れる様に、人類という種は、潜在的に適応能力が高い生き物です。では、そんな人間たちの世界を移し替えたら? はいっ、真桜ちゃん!」


「……世界に、適応する?」


「はい! 大せいか~い! 花マルあげちゃうぞ! うん、つまりはそういうこと、この世界に存在する、人間はスキームが――『能力が使える』という概念作用により、同じ人間である移人も能力を使えるようになるってわけ……とはいえ、全員が使えるわけじゃないぞ、使えるかどうかは結局はその人の才能次第だし、能力にも個人差があるんだぞ」



 長い説明が終わり、一区切りついたとばかりにメガネのフレームの位置を直すヴィー。


 その姿に綜たちは各々、緊張を解くように呼気を吐くと、お互いに目配せし合う。



「なるほどねぇ。それが俺にとっては、危機察知の能力だったってことか」


「う~ん、それなんだけどぉ……良く考えると、今までの柳ヶ瀬綜が持ってない、記録されたことも無いスキームだから、レアものだーってなんか喜んじゃったんだけど、逃げるだけの能力じゃ、実際に役に立つのか疑問になってきたんだぞ」


「おいっ、人を無用の長物みたいに言うなよ! あー、なんだよちくしょー、俺もへこみそうだわぁ」



 しずしずと指示棒とメガネを仕舞うと、どんよりとした雰囲気を身に纏い始めるヴィー。

 それにつられる様に落ち込む綜。

 そんな二人を見て真桜はあわてて声を掛ける。



「あ、あの……他の柳ヶ瀬綜(兄さん)は能力が異なるの? 同一人物でも、そうなるんだ?」



 その問いかけを聞くと、気だるげに顔を上げるヴィー。



「いやまさか、同一人物で発現した能力は、通常は同じになるぞ。大体そんな当たりハズレがある移人は、この街では【柳ヶ瀬綜・・・・】だけなんだぞ」


「えっ?」



 小さな手をふるふると左右に動かし、ありえないと否定するヴィーの姿に、知らず口を開け、呆けた顔を晒す綜。



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