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ワールド・トランス・ワールド ~異世界に至る56番目の主人公~  作者: tea茶
第二章 屍鬼来還 《ハロー・グール》
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第十六話 妖精 ヴィー・クー


「さて、綜の方はっと、ちょっと頭のネジを巻きなおそうか」


「壊れてねーよ! さすがにへこむぞ、おい」



 亜理紗に先導された生徒の一団が公園から出て行った後。

 綜と共に残ることを選択した由宇と真桜の二人。


 これから一緒に行動することを踏まえ。

 その信頼に応える意味も含めて、綜は覚悟を決めると、人が【赤く】見えること。

 そしてその予兆に触れた人々が死んでいくことなど、二人には今までに自分が体験した全てを話した。


 ――その答えが、先ほどの由宇のセリフであった。






「兄さん……目が、疲れてる?」


「真桜もかよ! いやそういう反応が来るって分かってたけどさぁ、やっぱり信じてもらえないのはへこむって」


「だって、人が【赤く】見える死の予感って、そう言われてもねえ…………あ~、でも……意外とそれ(・・)って有りなのかもしれないね」


「お、そう思う? なんだよさっすが親友、話が分かるね!」


「え、由宇さん、本気?」



 今しがたの態度を一転。

 今度はどこか納得いったような顔でうなづく由宇に訝しげな顔を返す真桜。

 そんな二人とは対照的に、嬉しげに表情を明るくする綜。


 普段よりもテンションが高く見えるその姿。

 それは、亜理紗たちとの別れを埋めるために、必要以上に陽気に振る舞ってる部分もあるのだろうと、真桜と由宇の二人は気付いてはいたものの、それを口に出すことは無かった。



「いやあ、考えてみればさ真桜ちゃん。ボクたちが今この世界に居ることだって異常なこと(・・・・・)なんだよ。街ごと異世界に転移して、怪物に追っ掛けられて~なんて、普通じゃ考えられないことでしょ? そう考えるとさ、綜のことも、ここ(・・)では有りなんじゃないのかなーって」


「う……ん、それは……そう、なのかな?」



 どことなく屁理屈にも思えるが、そう考えれば綜がここまで誘導したことも、あそこまで強硬に反対していたことも、真桜には一応、納得はできる話に聞こえてきた。



「ようは単純に考えるだけで良いんだよ、真桜ちゃん。綜を信じるか否か、結局はそういうことなんだからさ、もちろんボクは綜を信じてるよ」


「由宇……ありがとうな」


「うん、それなら大丈夫。私は……兄さんを信じる」


「真桜、お前もサンキューな、そう言ってくれると嬉しいよ」


「そうそう、少しはマシな能力っぽいんだぞ、良かったな~ただのカス野郎じゃなくて」

「そうそう俺はカス野郎じゃねぇ――って? おい、今の誰だー!?」



 気だるげで、舌足らずな甘い声がどこからか聞こえてくると、いつの間にか三人のやり取りに混じっていた。


 その暴言に気付いた綜があわてて辺りを見回す。

 すると、ちょうど綜から見て右手、由宇と真桜からは左に位置する斜め上方に、何かが居ることに気付いた。





「は~い、こっちだぞ♪ おはろ~って、挨拶ってこんなもんで良いのかな?」


 そこには体長約二十センチほどで、背中から薄緑色の二対四枚の羽根を生やした人型の生物が。

 軽く手を振りながら――――ふわふわと、空中を(・・・)漂っていた。





「え? なにコイツ、浮いてる?」

「っ!」

「ふわっ、妖精……さん?」



 綜の視線を追っていた真桜と由宇もソレに気付くと、驚きのあまり三者一様に動きが止まってしまう。

 その三人の視線の先では、まさに童話に出てくる妖精のフォルムに近い生き物が存在していた。



「いやぁ、仲間割れがはじまった時は、はやくも脱落だぞこのハズレくじめ! な~んて思ったけど、割りとイケるみたいだぞお前。ふぅ、これでようやく希望が出てきたぞー」



 なんとなく前向きな発言に、どこか投げやりな態度を織り交ぜながら言い放つ。

 宙に浮かぶ、小生意気そうな生き物の姿。



「でもな~やっぱダメかなー、データ参照しても、パートナーがいない【柳ヶ瀬綜】ってのはちょっと……って!? やめろお前! 銃口をコッチに向けるんじゃないぞ~!!」


「由宇! ちょ、お前何やってんだよ!」



 突然泣き叫ぶ妖精モドキから視線を移すと、隣では口を一文字に結び、真剣な表情を浮かべた由宇が、その手に持った拳銃をソレ・・に向けているところだった。


 その剣呑な様子に気づき、あわてて制止する綜。



「えっ、あ……ああ。ちょっとびっくりしちゃってね……ははっ、ボクは大丈夫だよ綜。ゴメンゴメン、脅かしちゃったねぇ真桜ちゃんも」


「は、はい」



 綜に声を掛けられ、はっとしたように由宇はあわてて銃を降ろす。

 驚きに硬直したままの義妹の前で、惨劇を起こさずに済んで、ホッと溜め息を吐く綜。

 そんな一行のやり取りを見下ろしながら、謎生物はむくれていた。



「ちょっと~、謝るならアタシにだぞ! ったく、何なのよアタシの担当は……こいつらって完全にハズレじゃないか~!」


「さっきからハズレハズレってうっさいなちっこいの! 大体、言葉喋れる小動物の方が、よっぽどおかしいってもんだろうが!」


「く、確かに【ヴィー】の中では、アタシはハズレかもしれないけど……お前だって歴代の【柳ヶ瀬綜】の中じゃ、ダントツに頭悪そうだぞ!」


「なんだとこのちんちくりんがぁ!」



 妖精モドキと同じテンションで怒鳴り合ううちに、自然と言葉も荒っぽくなっていく綜。

 そんな綜に眉を微かにしかめると、真桜が改めて小さい生物に問いかける。



「えっと、ヴィーって……あなたの名前?」

「ん? ああ、お前は【柳ヶ瀬真桜】か」



 真剣な目で問いかける真桜に興味を引かれたのか、先ほどまでの投げやりっぽい雰囲気が幾分鳴りを潜めると、その佇まいを整え、自己紹介をはじめた。



「イエス。そうだぞ【柳ヶ瀬真桜】こと、妹ちゃん。そしてようこそバークウェアに、【柳ヶ瀬綜】と【東雲由宇】、アタシは【ヴィー・クー】。お前達の水先案内人を請け負った、電脳神霊エイーシャ・ヴィーシャ様の【分霊】だぞ」



 そちらの紹介はいらないとばかりに、名乗っても居ないはずの三人を、フルネームで呼ぶヴィー・クー。


 その言動から、彼女がすでに綜たちの情報を握っていることが伺える。



「エイーシャって、あのデカイ女神さまのこと、だよな?」


「おーいえ~す、そうさ柳ヶ瀬綜こと、このハーレム野郎! おっと、コイツ(・・・)は成りそこないだったぞ~♪ まあそんなことはいいや。そのとおり! エイーシャ様は神霊様で、アタシたち【ヴィー】はエイーシャ様の眷属、言ってみれば大量生産されたコピーってところだぞ~」


「えっ? コピーって……いやいやまてよ、なんで俺がハーレム野郎なんだよ!? うがぁ~! なんなんだお前は! 色々ツッコミどころありすぎだよっ!」



 早口でペラペラと一息に喋り、混乱する綜を見てはカラカラと笑うヴィー。

 その軽薄な姿と、一気に与えられた情報に混乱し、頭をかきむしる綜。



「そう言われると、確かに……あの大きい女神(ひと)に、似てる」



 ふむ、と顎に手を当てまじまじとヴィーの姿を見る真桜。

 その言葉通りに目の前のミニミニ生物の容姿は、あの神霊と呼ばれる存在に似通っていた。


 両サイドでツインテールに結んだ、空気に溶ける様に透き通った薄桃色のストレートヘアーに、深い翡翠色の大きな瞳。

 それはあの女神エイーシャを幼くしたような容姿で、その矮躯を大正風の和装洋装が混じった、ゴシック調のフリルで彩った服が包んでいた。



「分霊ねぇ……ふぅん」



 それまで押し黙っていた由宇は、軽くため息を漏らすとヴィーに語りかける。



「とりあえずさ、話をまとめると、君――ヴィー・クーという分霊は、神霊エイーシャ・ヴィーシャを元とした劣化品で、他にも替えがいくらでもある消耗品である、と。あと柳ヶ瀬綜はハーレム野郎だって」


「なんだー!? その言い方はさすがに酷いんだぞ! 泣いちゃうぞーアタシ!」


「ハーレムって! だからそれは俺じゃないっての! きっと前の俺・・・の話なんだよ! 悲しくもこの俺には全然、まったく、そんなの欠片も身に覚えが無いんですけどねえ!!」



 話を上手くまとめたとばかりに、満足げに頷く由宇に、息ぴったりで不平不満を口にする二人。

 そんな綜とヴィーを無視し、由宇はさらに言葉を紡ぐ。



「ヴィー、君はさっき水先案内人って言ってたよね、それってどういう意味なのかな?」

「うぇっ? あ……えっと」

 


 尚も文句を続けようとするヴィーの機先を制するように、真面目な声のトーンで、シリアス調な空気を醸し出しながら問いかける由宇。


 改まって説明を求められたことで、ヴィーも佇まいを正すと。

三人に向きなおり、語りはじめた。




「あのね、アタシは神霊エイーシャ様のネットワーク端末だから。つまりエイーシャ様の命を受けて、アタシら【分霊・ヴィー】たちは、有益な人材である新たな移人が街から出られるようにするってのが仕事ってことで……ちなみにぃ、これが上手く行けば霊力補給ってボーナスが出るんだぞ!」


「ふ~ん、この世界で役に立つ能力のある人間を、優先的に街から出れる様にサポートする。それが君たち【ヴィー】の役目ってわけだ……露骨なえこひいきだねえ」



 どこか苦い、含んだ言い方をする由宇だが、その様子を気にすることもなく、ヴィーは涼しげな顔をしたまま浮いている。



「まさか……有望な人材って」


「そりゃあお前のことだぞ、柳ヶ瀬綜。もっとも歴代の【柳ヶ瀬綜】と比べると……お前はハズレっぽいんだけど……」


「兄さんがハズレ? それ、どういう意味?」



 綜をこき下ろし、わざとらしく落ち込んだ様子で言い放つヴィー。

 その一言が見逃せず、真桜は問い詰めるようにヴィーに迫る。



「う……だって、柳ヶ瀬綜(ソイツ)にはパートナーがいないから、単純に戦力的には二分の一で、半分なんだぞ」


「えっ、俺の……パートナー?」



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