カンナを持つものの感情
私はゴミ。
いらない存在。
だから死んでしまいたいと願い続ける。
早く逃げ出してしまいたい。そして消えてしまいたい。
あいつを殺して、あの人達も殺して、私自身も殺して、この世から消えてなくなってしまおう。
私という存在がいたこと自体もできることなら消してしまいたいな。
炭となって空にばら撒かれ、人々の頭から私のデータを消してしまいたいな。どうせ、私の記憶が会ったって人生損するだけなんだから。だから、いっそうのこと消してしまって最初から何もなかったようにしよう。
消えればいい。消えればいい。私なんて消えてしまえばいい。私なんてこの世のゴミだ!くずだ!!
私なんて消えてしまえばいいんだ!!!
死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ!!
早く死んじゃいたい!この世から消えてなくなってしまいたい!!!
この小さい箱庭からさっさと抜け出したい!!抜け出して本当の青い空を見てみたい。それを見たら、美しい海で泳いで魚と旅をしたい。
その夢を実現させるために、私は一回だけ家を飛び出したことがある。
けど、それは失敗に終わった。すぐ、父親に見つかってしまった。
私の父親は暴力的な人で、私や私の母さんに手を出す。酷いときは、私に向かって皿を投げられたりしてそれを庇おうと母が私の前に出て、その皿が母さんの顔面にあたって顔中血まみれになった。という出来事もあった。
私は父親を憎んだ。
殺したいほどに。
私はいつの日からかこんな家から逃げようと計画を考えていた。
この家はまるで真っ黒い箱の中。どんなに足掻いて泣き叫んでもその声は聞こえられることなく、ただただ反響している。だから、そんな家から逃げようと考えていた。
私は毎日のように考えた。
本当の家の外の世界のことを。
私の想像では、家を出れば沢山の個性豊かな家が立ち並び、そこには沢山の人々がいて毎日笑顔で話し合って、たまには喧嘩もしたりして、けどいつの日にかはそれは終わっていて、頭上には広い空が広がって、沢山の鳥や小さくぽつんと見える飛行機が見える世界。
そう考えている。
あらがしはずれではないだろう。
あぁ、本当の外の世界へ行きたい。もっと美しい世界を見てみたい。
そんな欲にかられて家から逃げたというのに、家を出てから数時間ほどで父親に見つかって、首根っこをつかまれながら家へと引き戻された。
家に帰ってからは、3日間ほど何も食べさせてもらえなかった。
けど、それぐらいなんともなかった。
私は見たから、美しい世界を。
父親に連れ戻されるまでの数時間の間に私は沢山のものを見た。
駄菓子屋でお菓子を買うということを学び、電車という乗り物もしっかり見れた。私は世界ってこんなに広くてこんなに美しいんだ。と感じた。
私が夢見た世界はちゃんと広がっていた。
私はただただ感動した。
涙を流すほどに。
その天国を父親に邪魔されたときは本気でむかついたが、こんなステキな世界を見れたんだって思っただけで心が少しだけ和んだ。
でも、欲はあった。
もっと天国を味わいたいという欲は。
そして私はまた天国へと旅に出た。
けど、私は天国を旅している途中で気づいてしまった。周りが私を見る目がどうみても異様だということに。
私が歩くと人々は私のほうをじっと見て目で追いかけそしてヒソヒソ噂をする。
「あの赤髪はのろわれた種族の・・・伝説の悪魔家計の髪の色よね・・・」
と。
私は気づいた。
この世界に私の居場所がないということを。
家から出れば全てが天国だと思っていた。けど、そんなのただのまがい物であって現実ではありえなかった。この世界にあるもの全てが私の敵であり地獄であったのだ。
あー、世界は私から全てを取り上げるのね。
私は青い空を見ながら涙をこぼした。
青空さえ涙でかすれてお化けのように見える。私の目にはもう、黒くよどみきった雨雲にしか見えていなかった。
横から何かが飛んできた。
「痛っ!」
下を見れば石ころが転がった。
私は飛んできた先を見た。そこには沢山の人が石を構えていた。
あぁ・・・本当に居場所がなかった。
少しでも信じてたのになぁ。
私はもう一度上を見上げた。
上からも横からも後ろからも前からも何かが私に襲い掛かってくる。私を蝕んでいく。私に逃げられる道なんて1つだけだ。
それは下。
下は地獄を意味する。
そうかそういうことか、私には分かったよ。
私は天国でも現実世界でも生きていけない。だから地獄へ行って滅ぼされろ、と。そういうことか。
何だ、簡単な話じゃないか。何で気づかなかったんだろう。
涙が零れた。
本日2度目の涙が。
涙を止めようとしたけど止まらない。ボロボロ零れてくる。
止まって。止まって。涙、止まれ!
何度思っても歯止めはかからず落ちてくる。
何で私泣いてるの?何が悔しくて泣いてるの?何故私に泣く必要性があるの?こんなの今更始まったことじゃないじゃない。こんなの昔からじゃない。
そう何度も心の中でも思っても結局効果はなく、むしろ涙が零れ落ちていく。
私がぼろぼろを涙すのを見た人達は、動作が止まった。
えっ?って顔をしている。
私は叫んだ。今なら誰もが聞こえる、見てる。
「お前らなんか皆死んじまえ!そして、私も一緒に死んじまえ!!!この世界も滅びてしまえ!!」
私はそう言った後涙を拭いて、家へ戻っていった。
どこも地獄だ。
どうせ私は地獄にしかいけないのだから、せめて私のような汚らわしいものを見て他人が嫌な思いをしないように、自宅で引きこもってよう。それが私にできる唯一だ。
私は家に帰ってきた。
帰ってきたらすぐ父親に怒鳴りまわされ何度も何度も殴られた。
でもどうでもいい。
興味がない。
くだらない。
どうにでもなってしまえ、くそったら。
あ~、死にたいな。
死にたいな。
早く死んでしまいたいな。
父親から解放されたあと、私はパソコンを開きツイッターで愚痴った。誰も見てないけどね。
全てはこの赤髪のせいと私がのろわれた種族だから。
全てはこの2つのせい。
私は何にも関係ないのに。私は何も悪いことなんてしてないのに。何故皆分かってくれないんだろう。
そうか・・・また今更分かった。私がいてはいけないからだ。私には生きている価値がないゴミくずだからだ。
ハハハ・・・
笑えてきた。
「アハハハハハァ」
どうしよう、笑いが止まらない。
最高。
「アハハハハハハハハハハハハハハ!!」
私はでっかい声で笑い続ける。何分も。そのうち疲れて私は眠った。
「お主もカンナを持つものか」
暗い世界で声が響く。
私はそっと閉じていた目を開けた。私の視界に書が映った。
さっきの声はきっとこの書からだろう。
「あなたは?」
私は書に尋ねる。
「わしはただの書じゃ。世界の流れを見てきたものじゃ」
書は答えた。
「へ~世界の流れを見続けてきたんだ~。じゃあ、あなたは私が誰だか知っている?」
私はちょっと意地悪な質問をただの書に尋ねてみた。どうせ、私のことなんて知ってるわけないよな~なんて思いながら。けど、ただの書からの答えは意外なものだった。
「おぬしのことは知っておるぞ」
「え?!!嘘言わないでよ!!」
「嘘じゃない」
「嘘よ!!」
「嘘じゃない」
ただの書は繰り返す。嘘じゃないと。
けど、そんなの嘘だ!嘘に決まっている!!
こんなちっぽけな書が私みたいな世界のゴミのことを知っているわけがない!きっと、高をくくってるのよ!!!
「じゃあ、私の名前を行って見なさいよ!!!」
私は声を荒げながら言った。
「おぬしの名前か・・・」
書の声は止まった。
「ほら言えないんじゃない!ほら吹き!!」
私はちょっと上から目線でかったった。
「いや、言えるぞ。おぬしの名は風雨栞菜じゃな」
かざあめかんな・・・・。私の名前はかざあめかんな・・・・。
私は今まで自分の名前を知らなかった。否、もっと正しく言うと知っていたけど忘れさせていた。
忘れさせていたってのは、私自身が自分の名前を避けようとしていたってことだ。
あぁ、そうだ。
私の名前は風雨栞菜だ。久しぶりに思い出した。
「そう・・・そうよ」
今まで私は一度も自分の名前をフルで言われたことがなかった。人に名前を言われるってこんなに嬉しいことだったんだ・・・。
私は涙が零れた。
暖かい。
心の中で何かがジワジワ広がっていく。心の中のもやもやが少しずつ消えていく。
何だろう?何だろう、この感情。
私は知らないよ。
私が知ってる感情の中にこんな暖かくてジワジワ広がっていく感情なんて知らないよ。
心の中で何かが蠢いてるこの感情の名を私は知らないよ。
私には、死にたいって感情と憧れって感情と殺した言って感情とかそんなのしか知らないのに、今までこれだけだと思ってた感情と逆の感情が流れてくる。
何これ、何これ?
この感情をなんていうの?
「その感情は、嬉しいという感情じゃ」
私の心を読んだのか、ただの書が言った。
「嬉しい・・・っ?」
私は涙声で言った。
「そうじゃ、嬉しい。おぬしは、嬉しいという感情を知らなかったのだな。だから、知らない感情がいきなり自分の心の中に流れ出してきたせいで心がいっぱいいっぱいで涙をボロボロ流しているのじゃな?」
書は優しく言った。
「今はなけばいい。今は心が落ち着くまでなけばいいのじゃ」
私は書の言葉に甘えて心が落ち着くまで泣き続けた。
「やっと泣き止んだか」
書は言った。
「はい・・・なんか落ち着きました」
ないた後ってのは大抵心の中にぽっかり黒く穴ができていることが多い。
今私はその状態だ。
「それでは話をするかの」
「話?」
「そうじゃ。何故おぬしが今ここにいるのかということをだ」
老人の声外決まり変わった。
ちょっと低めの声になった。
「ここにいるわけ・・・?それは何ですか?・・・・あ、そういえばさっきカンナがどうたらこうたらって言ってましたけどそのことですか?」
そう、さっき、この書はお主もカンナの力がなんとかって言っていたんだ。
「そうじゃ。お主よく覚えていたな」
書にほめられた。
「そんなことないです。ありがとうございます」
私は嬉しくなって、礼を言った。
これが嬉しいという気持ちか。
17歳にもなるのに何故こんなことでよろこんでるのだろう。
「おぬしは面白いやつじゃ」
「そんなことないですよ!」
あー、なんか心がうきうきする。
「それで、本題に入るかな。まず、最初に一言。おぬしはカンナを持つものとして選ばれた。国に4人しかいない特別なものとなったのだ。」
「選ばれた・・・?それも国・・・?随分規模が小さいんですね」
「そうじゃ選ばれたのだ。規模が小さい?そんなことない。国というのはこの世界のことじゃ」
書は当たり前というように答えた。
「世界?!!さっきと規模が全然違うじゃない!」
私はちょっとむかついた。
「そうだな。まあ、そんなことはおいておいて、カンナとはなんなのか教えよう。カンナとは世界を救う力を持つ力のことじゃ。そして、カンナには年齢制限がある」
書はいったん間を空けた。
「年齢制限?」
「そうだ、年齢制限だ。カンナという能力を使えるのは子供のうちだけなのだ。すなわち20歳までということ」
20歳まで・・・ってことはあと
「3年間」
「そうだ。あと3年間。そして、カンナを持つものはいつでも現れるわけではない。カンナを持つものが現れるのは、悪魔が現れたときだけなのじゃ。悪魔は、この世界を滅ぼすために生まれてきた存在じゃ。そして、その悪魔に対抗する力こそがカンナ。世界を救うということは、悪魔を倒して世界を破滅の道から輝きの道へと流れを戻すということだ」
「輝きの道。それは、つまり世界が滅びない道ということですか?」
私は書に尋ねた。
「そうだ。そなたは随分と物分りがいい。そして、頭がよい。おぬしは何度も死にたいと願ったようだが、おぬしが死んでしまったらこの世界は滅びてしまう。そして、生まれてくることには意味がある。まあ、自殺を図ったり殺されたり事故死したりということに意味があるのかといったらそれは、道を誤ってしまったのだ。ということだけを言っておこう。決して死ぬことに意味があるわけではない。まあ、自然災害での死の問題に関しては何も言わないでおこう」
書は遠まわしに私に死ぬなと言ってくれた。
私にそんなこといってくれる人(?)は初めてだ。みんなわたしに死んでもらいたいと願っていた。
なんて優しいんだ。
そして私が生まれたことにも意味はあったんだ。
「私そのカンナって能力のこともっと知りたいんです。私の生まれてきたことに本当に意味があるのなら、私は知りたいです。私に何かができるというのなら私はカンナの力を使いたいです」
私がカンナの能力を使って人々を助ければきっと周りの目も私を見る目を変えてくれるはずだ。
「そうか、おぬしはこの力を欲するか」
「はい」
私は知から強く答えた。
変わりたい、私は変わりたい。世界のゴミでも自分を変えたい。
そして、あと3人いるカンナの覚醒者とともに世界をつくるのだ。
もし私のうまれたことに意味があるなら何か自分に自信を持てそうだ。
私は私を変えていくんだ。