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カンナ~The world shines~  作者: 三千回目乃 林檎
幼き少年
7/15

少年飛行

世界は動いた。

俺は学校へ行く途中に出会ってしまった。

おきてはならない事件に。

このことはいつまでたっても忘れられないだろう。それぐらい、俺の胸に深く刻み込まれた。

人の魂は輪廻を繰り返すものだと思っているが、それすらも関係なく打ち壊していったあの出来事。

あの子の魂はきっとどこかで暴れ、そして一人悲しく、この大きな世界に一人残されて永久にさまよい続けるのだろう。

そして、その魂に気づくものなど誰一人いなく、きっと、この事件のことすらも人々は忘れていってしまうのだろう。

俺だって・・・・。

そして、この出来事は俺を変えた。




ガタンゴトン。ガタンゴトン。

俺は電車に揺られていた。

耳からは音楽が流れ出している。

ふと、俺は窓の外を見てみた。

いつもと変わらない景色。

でも、なにかが、どこかが悲しく、寂しく、むなしく、つまらなく見えた。

その理由が一体何なのかはきっと誰にも分からないだろう。


俺は、学校がある三次沢みよしざわ駅で降りた。

駅をおり、三次沢高校に向かってるバスのところまで歩いていった。

その途中でコンビニに入り、水とパンを買った。

時計を見たら、9時30分。

まだ、学校へ行く気にはなれなかったので、三次樹みよしぎ商店街をぶらついた。

数多の人が商店街をぶらついている。

平日だというのに。

なんて、この町の人達は暇なんだろう。

三次沢は昔からある場所だ。

商店街に立ち並ぶ店を、創業60年は越えているようなものがほとんどで、中には120年たつものもいる。

この商店街は沢山の歴史を見てきた老人だ。

三次樹商店街に立ち並ぶ老舗の店が売り出している、食べ物はどれもおいしい。

ここで売っている服も、どれも安全で信頼ができる品物ばかりだ。

まあ、ちょっとお高いのだが。

三次沢は昔からあることを誇っていた。それは、盗難事故や警察をよびよせたことがない。ってことだ。

三次沢はできてから80年ぐらいたつが、できた当初から今日まで一度も事件を起こしたことがないらしい。

そのためか、「ようこそ、三次沢へ!!事件を呼ばない幸せの町です」と旗まで揚げたりしている。

それぐらい、安全性に自身があるのだ。

でも、警察を呼んだことがないってのは本当にいいことだ。それに、ここの人達は地域関係も凄くよく、学生さんにも優しい。ここの人達の中にも俺を知っている人は沢山いる。

そんな暖かい町なのだ。

そして俺はこの町が大好きだ。

いきなり光が差し掛かった。

眩しい。

目が潰れるんじゃないかというほどの光がいきなり、どこからかあふれかかり、どこからか痛みに泣き叫ぶ声が聞こえた。

次第に光は弱まった。

そしてそこで俺が見たものは、さっき見た夢と同じ情景だった。

上を見上げれば空は気味の悪いほど晴れている。

ある声が聞こえた。

「悪い子は誰? あんたは悪い子? 君も悪い子?」

どっかの少女が歌ってる。

夢の子だ。

年齢はパット見13歳。

さっきの夢と変わりはない。

でも、素敵な歌声だ。凛とした声に透き通るような音色。

生で聞くと予想以上だ。

おかしいとしたらやはり歌詞ぐらいだ。

「悪い子見っけ あんたは悪い子 つかまえた」

少女はそう歌うといきなり、今までにないくらい口を吊り上げた。

俺に悪寒が走った。

あれが起こってしまうのか?

そして少女は一方を見た。

そこには、19歳くらいのヤンキー。

ではなく、15歳ぐらいの少年だ。

少女は、

「あんたであーそーぶ」

と言うと、その少年はいきなり体が浮遊しはじめた。

夢で見たのと違う。

でも、あの少年どこかで見たことがある。

「うわ、うわああ!助けてくれ!!」

少年が叫ぶ。

商店街は悲鳴で包まれる。

その悲鳴は残響となり鳴り響く。

だが、そんな悲鳴も瞬きをする程の一瞬の出来事である。

「1曲目は、綱渡り」

そういうと、どこからかでてきたかはわからないが、紐がピーンと張られていた。

高さは10メートルぐらいはあるだろう。

落ちたら即死だ。

でも、おかしい。

おかしい。

夢と違う。

あれは予知夢ではなかったのか?

でも、まるっきり予知されていないとは限らない。

実際に事件は起こってる。

だが、すぐに我に返った。

少女が「1、2、3」と言うと少年はガクガク震えながら歩き始めた。

そして何とか綱渡りは成功した。

「2曲目はうーん、何がいいかなぁ??」

少女は腕組しながら考えていた。

俺は呆然と立って見つめる。

その間にも少年は、

「助けて!助けて!助けてくれ!!」

と涙を流しながら叫んでいた。

警察がやってきたが、助けようがない。

民家の屋根のはるか彼方。

何を使っても届きそうにない高さだ。

「助けてくれえエエエエエっ!!」

少年は涙をボロボロ流しながら叫んでいた。

無理だろ。

助けたいのは誰だって一緒だ。

でも、助けられないものは助けられねーんだ。

諦めろよ。

お前はここで死ぬ運命だったんだから。

俺は自分で思っておきながら、なんて冷酷で歪んでいるんだ。と思った。

少年は泣き叫び、俺は冷たくなる。

そして、少女は考え出した末に一つの遊びが思いついたらしい。

「そうだ!少年飛行をしよう!」

少女は楽しそうに言う。

「イヤだ!いやだ!いやだイヤダ!!助けてくれよおぉぉ」

少年の声はかすれてきた。

通りの奥に誰かがいることに俺は気づいた。

あちらもただたってみているだけ。

誰だ?

目を凝らしてみる。

見えない。

俺は一歩踏み出す。

「だ・・・れ?」

向こうにいる誰かが何かを言う。

パット見た感じ少年のようだ。

というか、俺と同じくらいの男だ。

「だ・・・れ?だ・・・れ」

俺は小さくつぶやく。

向こうの男は、口パクで何かを言う。

「○○○○○   ○○○○○」

「何だ?何を言ってるんだ?」

俺が目を凝らしている中、少女はゆっくりと手を上げる。

「2曲目は、少年飛行」

ちょっと間を空けてから、

「いってらっしゃい!」

少女が言うと同時に少年はどこかへと消えた。

そして、5秒ほどでボロボロになりながら帰ってきた。

火傷を負ってる。

火傷なんてもんじゃない。

髪の毛はぐじゃぐじゃになって、体は傷だらけでいたるところから血が噴出して、服はあってないようなものだ。

それを見た瞬間に、さっきの自分の冷酷さはなんだったんだと思った。

俺はこれを見て、運命だ。といいきかせたんだ・・・。

なんて最低なやつなんだ。

あの少年は涙をボロボロ流してるのに。

なんて俺は無力なんだ。

せめてあの少年を助けてあげたい。

もう助けてあげたい。

けど、あの少女にそう叫ぶ自身もない。

少女は俺の来も知らずにまた手を振り上げた。

少年の目は絶望していた。

もう無理だ。これ以上は無理だ。

そういう目だ。

町中の人は目を背けてる。

この痛々しい参上に、目を見開いて脳に焼き付けるほどの度胸と根性を持ち合わせている人なんて誰もいなかった。

この穏やかな町だったからこそ、人々は眼を背けるしかなかったのだろう。

少女は腕を上げた。

少年が、消えた。

あぁ・・・本当俺は無力だ。

俺は崩れた。

なんで、なんで何もできない。

俺は、カンナとかっていう、異種の能力を持つ選ばれし人間ではないのか・・・?

俺は何でこんな能力を持ってるんだ?

何故だ?

何故だ?

何故なんだ?!

たった1人の少年を見過ごすなんて・・・。

確かに俺はさっきまで、冷酷で運命だからしょうがないとか意味の分からないことぼやいていたけど、でも、今になってわかった。

こんなの悪魔だ。

こんなのあっちゃいけない。

これは悪魔だ。

こいつは、この少女は悪魔だ!

・・・・。

悪魔・・・?

悪魔って・・・。

どこかで聞いたような・・・。

俺の頭に一つの会話を思い出した。


「神流の能力は、悪魔のようなものがいる時に生まれるのだろう?」

俺の質問に、ただの書は自信満々に答えた。

「あたりまえであろう」

「ってことは、悪魔が生まれるってことか?」

「ばか者が、もう既に生まれとるが!」

え・・・?

「えっ・・・・?生まれて・・・いるのか?」

「もちろん」

書は平然と答えた。

それが、世界の定めであることを知っているように。


そうか・・・・。

こいつが、悪魔か・・・。

俺は、この少女のせいで変な人生をあゆむはめになってしまったのか。

このか弱い少女が悪魔・・・?

怖い。

それに信じられない。

俺の中でいろんな感情がうずく。

俺はこんなやつと、カンナとかって言う能力を使って戦うのか?

無理に決まってるじゃネーかよ!そんなの!

何を考えてるんだよ、あの書は!!

俺みたいな友達いなくても友達を裏切ってしまうような人間に、戦えることができるわけネージャンかよ。

世界ってこんな残酷だったっけ?

いや、そんなことない。

もっと優しかった。

いや、世界はこの前までは俺に優しかった。

俺が覚醒した瞬間から、世界は俺を見捨て始めたんだ。

上空に少年が戻ってくる。

戻ってくるといっても、少年は生きてはいない。

死んだ。

ボロボロになりながら。

目は白目を向き、少し焼けていた素肌が澄みのように真っ黒くなり、服の一部は溶けている。

町中に焦げ臭い匂いが漂う。

「うっ!」

俺は気持ち悪くなった。

周りの大人たちは、涙を流しながら下を向き口を押さえていた。

「ゴメンよ・・・ゴメンよ・・・。見ていることだけしかできなかった。坊や、君を救えなかった。ゴメンよ。ゴメンよ」

いつもおいしいおにぎりを販売している江戸頭店の遠藤さんが呪われてるかのようにつぶやく。

遠藤さんの顔は青ざめていて、大粒の涙をボロボロ流し、手はきつく握られていた。

俺もつらい。

早くこの現実から目を背けてしまいたい。

周りを見ればみんな同じ顔をしていた。

絶望の目。

警察の人も崩れ落ち、口を開け、目を見開き泣きながら見ていた。

俺の方にかかっていたショルダーバックが崩れる。

俺の目にも涙があふれてきた。

そんな俺たちの気もしらずに少女は、

「ああ~、もう死んじゃった。つまんないのぉ~。もっと遊びたかったのにィー。もうこんな人形なんていらない。使えないものなんていらないもん!」

少女はあの少年ことを人形としか思っていなかった。

それを知ったとき誰もが感じた。

---こいつは人間じゃない。人間の殻をかぶった悪魔だ。

   こんなやついたらいけないんだ。

   神よ、何故あなたはこの世界にこんな悪魔をおくりこんできてしまったのですか? 

   私たちは何かしたのでしょうか?

   どうか、悪意があってこんなものを生み出してしまったのでなければどうか私たちを助けてください。


と。

誰もが思った。

俺も思った。

けど、神は俺たちを見捨てたわけではない。ちゃんと救いの手は伸ばしてくれている。

しかし、その神の救いの手の指となった俺たち、カンナを持つものがしっかりとした役割を果たしていないからこうなるんだ。

オレにもっと力があったら。オレにもっと行動力があったら。世界は変わっていたのか?


世界は黒く張り始めていく

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