君の導きの元で
家に帰ってからも思わず叫んでしまった。
「どこへゆけばいいんだ!」
俺はイライラとこれからどこへ行けばいいのか。という疑問とこれからの不安で頭を抱える。
<どこを旅すればいいのかって?そんなの簡単じゃないか。自分が思うままに・・・時に身をゆだねながら世界を歩けばいい>
いないはずのケンタの声が聞こえた気がした。というか、聞こえた。
ったく・・・そんなこと言われたって分けわかんねぇよ・・・
「でも、肝心の最初はどこへいけばいいかがわからない。てか、お前どこにいるんだ?」
<僕はお兄さんの心の中に住み着いている虫さ。肝心の最初が分からないって?しょうがない、君に少しでも権利を与えないようにしようって決めたんだ・・・ってことは今は関係ないか。まあ、いい。教えてあげるよ。特別だよ>
ケンタは焦らす。
早く教えてくれよ。
「わかった。わかったから早く」
<最初は・・・そうだね、美津岸山に行ってみるといいよ>
ケンタはちょっと悩んでから言う。
「美津岸山?!!ちょっ待て・・・、お前どんだけ遠いところだか知ってんのかよ」
<もちろん知ってるよ。でも、それがどうかしたの?>
「どうかしたのもなにも・・・」
美津岸山は、俺が住んでる場所から300キロぐらい離れてる場所にあるそこそこ大きな山だ。
そんな場所までケンタは軽いノリで行けという。
それにその山は活火山だ。それに、最近は活動が活発でいつ爆発してもおかしくないっていわれてる山だ。
<お兄さんは能力計があるじゃないか!>
そういわれればそんなものあったけな・・・でも、まだ使えるのだろうか?もう5年ぐらい使ってないはずだ。埃もかぶってるだろう。
<使えるよ。僕が自動修復しておいた。そして、少しでも早くつくために僕が君の潜在能力に加えて僕自身の潜在能力も同時に使う。そうすれば、半分の時間で美津岸山まで行くことができるね>
「ケンタの潜在能力を俺に貸す?そんなこと可能なのか?」
<可能に決まってるじゃないか。僕は君の虫だよ?君に取り付いている物体が何故できない?>
そういうことか・・・。
でも、ケンタは何故俺にここまで力を貸してくれるんだ。さっきも、何か一人で物々言ってたし・・・。
あいつ、一体何を考えているんだろうか。
<さて、時間が無い。さっそく旅にでよう>
ケンタが張り切るように言った。
「今から?!!」
いくらなんでもちょっと無茶ぶりすぎだろ。って思う。
<もちろん!今何時だと思ってんの?>
外を見てみると、太陽は半分以上傾き、もう少しで夕方になりそうだ。
「4時ちょっと前くらいか?」
<そうさ。夏の昼はそこそこ長いと言ったって、暗い道は危ない。だから、少しでも美津岸山の近くまで言ってしまいたいんだ>
「そうか、そういうことならしょうがないか。でも、ちょっと待って」
俺はケンタに願う。
<いいけど、何をするんだい?>
ケンタは俺に問う。
「ちょっと家族に手紙を書いておこうと思ってな」
俺はちょっと涙ぐんだ声で言う。
俺は結構寂しかった。俺はそこそここの家が好きだった。でも、これからは悪魔と戦わなければならない。生きて帰れるのか?って不安だって俺の中ではうずいてる。それに、本当に俺なんかでいいのか?って思う。
足が立ちすくみそうだ。
俺は、これから命をかけて世界を救う。コレは長い長い戦い。
これから3年間、俺はここに変えることができないだろう。
もしかしたら永遠に帰ることができないかもしれないという、超リスクを背負ってる。
<そうかい>
ケンタも俺の気持ちを察したようだ。
俺は、スクールバックをあけてペンケースとノートを取り出し、中から筆ペンをとりノートの真ん中のページを破き取り、俺は机に向かう。
学校で板書をしているときとは違って、綺麗にしっかり書く。
∥ 親愛なる家族へ
∥俺は、3年間旅に出なければなりません。その理由を教えることはできませんが、というよりは教えたく
∥ありません。俺は、この3年間の旅でもしかしたら帰らぬ人となるかもしれません。し かし、そんなこと
∥にはならないよう、しっかり自分のやるべきことを果たし、常に生きることに貪欲な3年間をおくろうと
∥思います。だから、安心してください。俺は帰ってきます。3年後20歳の誕生日の日に、もしかしたら
∥それより少し早くにこの家に必ず、五体満足で帰ってきます。俺も男だし、約束は守ります。信じてくだ
∥さい。
∥ 忠告
∥早く逃げてください。危険です。どうか、逃げてください。全てが灰燼となる前に逃げてく
∥ださい。そして、3年後、家族みんなで笑顔で俺の誕生日を祝いましょう。
∥さようなら
∥ 神流
俺はざざっと手紙をかき、机にセロハンテープで手紙をとめる。
これで、思い残すことは何もない。と言えば嘘になるけど戦うってきめたことは本当だ。これに偽りは決してない。俺も男だ。嘘はつきたくない。だから、絶対五体満足で帰ってきてやる。
☆
息子が命がけで戦うことを意を決して判断し、そして手紙を書いている姿を見る母親の気持ちと言うものはとても悲しいものだ。
自分が何もできないという無力さに改めて気づかされる。
ここで、なんでそんな危ないことをするの?と留めに入るべきなのかもしれない。けど、今まで神流がこんなに自分で悩んで判断したことがあるだろうか?自分で決断したことはあるのだろうか?
いや、ない。
考えてみれば一度もない。いつも神流は誰かにやれといわれたことを黙って実行するだけだった。文句もいわずに。
そんな神流が必死で悩み悲しみつらい思いをし判断したことを母親が、自分の手放したくないという願いのためだけに動くのはまるで神流を信用ていないようでいやなかんじだ。
一般の家ならどうするのだろうか?私には分からない。私には分からない、だから、ただただ見つめてるだけしかできない。部屋をチラチラ覗きながら悲しんでいることだけしかできない。
何かをしてあげたい。その気持ちに決して偽りなどないというのに。
太陽は輝く。雲ひとつ無いはれ模様。
何でこんなすばらしい一日に私はこんなに悲しまなければならないのかしら?
今まで世界を欺き続けてきた私の罪。とでもいうのかしら。
実際、私さえいなければ神流がこんな悲しい旅に出る必要はなかったというのに。
私があのこを悲しめた。そしてあの子は深い悲しみを持ってしまった。あの子をつくりだした私が悪かったのよ。
あの時私が流産していればこんなことにはならなかったのかもしれない。
ごめんなさい、神流。
本当にごめんなさい、神流。
謝りきれない。
私はどうすれば許されるのだろうか。
でも、私にだって許されたいとか願う前に一つだけ心流にためになりそうなことをしてあげることができる。
私はそーっと、そーっと心流の部屋に行き神流が絶対に持っていくであろうバックの中にそれを入れる。
それは薄く輝きを放つ。
これがあなたを守る。
これがあなたを導く。
これはあなたが生きているという証を教えてくれる。
これはあなただけにしか仕えないもの。
あなたは選ばれし者のよ、神流。
あなたはあなたにしかできない、誰も成し遂げることができないことをただただ地道に1つずつ行っていくのよ。
それがあなたの生きる人生に大きくかかわってくる。
あなたが生まれた日、とても嬉しかった。なかなか、私には子供ができなかった。だから、いっそうあなたが生まれて嬉しかったし愛おしかった。
あなたが小学生になって始めてこの部屋を使い始めたとき、神流にはこの部屋はちょっぴり大きいのかなとか思ったけど、気づけばあなたに丁度いい、最適な大きさになっていた。むしろ、あなたのほうが大きく見える。
いつの間にかあなたは大きく成長していた。
気づかないうちにあなたは私より大きくなってた。気づかないうちにあなたは自分で判断をすることができるようになってた。気づかないうちにあなたは優しい人間になってた。気づかないうちにあなたは声が低くなってた。気づかないうちに・・・気づかないうちに・・・。
私はあなたと一緒に入れてとても嬉しかった。
あなたが「高校受験受かったよ!母さん!!」って喜んで帰ってきたときは、本当嬉しかったし少し泣きそうだったの。
だから、そんなあなただから、そんな大切なあなただから、これをあなたに渡すことができた。あなたにこれを渡すことができて本当よかったって思う。
ありがとう。
ありがとう。
生まれてきてくれてありがとう。
さあ、もう時は流れる。
あなたは旅立ちの一歩を踏みしめなければならない。ここから先、私には本当になにもできない。見てることしかできない。
だから、絶対に生きて帰ってきて。
3年後、この家に笑って「ただいま」って言って、帰ってきて。
そして、皆であなたの誕生日を祝いましょう。
私の気持ちを神流、あなたに直接いえないことはとても悲しいけど、でも私はあなたを信じているわ。
頑張って、神流。
生きて帰ってきて、神流。
そして私はそーっと神流の部屋をでて、そして静かに家から飛び出して神流が家をでていくのを待った。
俺はそっと家を抜け出す。
今は丁度4時30分。
まだ少しあついし、蚊がとんでるし、蝉もないている。
早く太陽が沈めばいいのに。でも、俺は夏って個人で気に好きだ。
俺はそーっと振り返り家もみてる。
俺が育った家。
俺が生きていた家。
俺の沢山の思い出。
ありがとう、母さん。
ありがとう、父さん。
3年後会おう。
俺が無事家に帰ってくることを、待っていてください。
俺は絶対に帰ってきます。
それでは、さようなら。
俺はケンタと旅に出た。
今日という、俺の人生を大きく変えた日を俺は絶対に忘れないだろう。
ケンタと初めて歩いた知らない世界の景色を俺は絶対に忘れないだろう。
俺はこの日見た、大して珍しくもない夕焼けを絶対に忘れないだろう。
初めて悩みぬいて決めたこの決断は俺の一生の大きな糧となるだろう。




