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 店の事務所だった場所から、店内である広く賑やかな場所へと連れてこられた。二人掛けのテーブルが四つに、四人掛けのテーブルが二つあり、席数はそれほど多くはない。だが、その席はすべて埋まっており、この店は人気があるのだと認識した。

「じゃ、俺はホールの方に戻るんでキッチン頼みます。柳さんが怖いんスよ」

 冬希のその言葉に悠斗がホールの方を見てみると、丁度こちらをむいた柳と目が合った。つい先ほどまでお客の相手をしていて笑顔だったはずだが「遅い、何をしているのだ」とでも言うように、それはそれはくっきりと綺麗に眉間に皺が寄っている。お客には見えない角度でやるところはさすがとでもいうべきだろうかと悠斗は苦笑いをしていた。その横では柳の様子に気付いているのかいないのか店長は変わらずにこやかだ。

「じゃあ、悠斗くんはキッチンの方に来てくれるかな。まずは裏の仕事を教えるよ」

「あ、はい」

 キッチンの方へ向かう店長について行くと、男性の大きな背中があった。背は180近い悠斗よりも高く、モデルのようにすらりと長い脚に、くすみのない綺麗な金色の髪をしている。

「相馬くん、ありがとう。あとは僕が変わるからホールに出てくれるかな」

 相馬くん、と呼ばれたその男性は店長の声にこちらを振り返り、悠斗はその顔を見てまた驚かされた。綺麗な碧い瞳に、スッと高い鼻、少しだけ掻き上げられた髪と口元にあるホクロが色っぽい。本日4人目のイケメンに悠斗は出会った。

(……何か悲しくなってくるわ、俺)

「悠斗くん、彼は相馬怜くん。うちの店で一番の古株なんだ」

「あ、林田です。よろしくお願いします」

 頭を下げると、上の方から強烈な視線を感じた。腰を折った状態のままで恐る恐る上を見上げてみると相馬が悠斗をガン見していた。これで見つめられるのは本日四回目であるが、前の三回とはどこか違うと悠斗は感じた。何故ならば、品定めするようにというよりは熱っぽい表情で見つめられているからだ。

「あ、あの、そうま、さん?」

「いい……」

「はい?」

「いいわあ! とってもいい! 冬希ちゃんとは違う可愛さがあるわあ!」

「いいいっ!!」

 ずいっと顔が近づいてきたために悠斗は体を大きく後ろに引いた。それを気にも留めず、顎に手を当ててうっとりと息を吐いた。相馬の声は色っぽく、吐いた息にまで艶がある。しかし、これはどういうことなのだろうと、今まで出会ったことのない事態に言葉も出てこなかった。

「あ、あの、店長、このかたは……?」

「相馬怜くんだよ。可愛らしいものが大好きなんだ」

「いや、身長180近い二十代の男は可愛らしいとは言わないと思うんですけ、どおおお!!」

 話している途中で悠斗の臀部が大きな手で撫でられ、暖かいその感触に悲鳴を上げた。触られるだけならまだしも、その手が臀部を揉みだしたので急いでその手を掴んで止めさせた。

「ちょ、ちょっと相馬さん!! 何してるんですか!」

「そんなに過剰に反応しないで。ただのスキンシップじゃない。でもあたし好みのお尻してるわあ、悠斗くん。顔も、反応も好みだわあ」

「……もしかして、相馬さんはそっち系の人なんですか?」

 言っていて悠斗ははっきり聞き過ぎな気がしないでもなかったが、同じ職場で働くのならばはっきりさせて置きたいと思ったからだ。今後の関係に関わってくる重大な問題だ。

「いやだわあ。大丈夫よ、そっち系じゃないわ」

「そ、そうですか」

 その答えにほっと息を吐いていると

「ええ。あたしは可愛いものなら男の子でも女の子でも大好きよ」

「全然大丈夫じゃないんですがっ!!!」

 予想の斜め上を行く答えが返ってきた。全く安心できない、むしろ自分の貞操の危機のような気がして店長の後ろへと素早く移動した。

「あら、怖がらせちゃったかしら。大丈夫よお、可愛いものを愛でるのが好きなだけで手を出したりしないわ。でーも」

 言葉を一回切ると相馬はその長い脚で一気に悠斗との距離を縮め、再び悠斗の臀部を鷲掴みにした。

「ひいっ!」

「このお尻が魅力的で手が伸びちゃうかもしれないわね」

 ウインクを一つ落とすと、相馬はホールへと消えて行った。その背中を茫然と見ながら悠斗は呟いた。

「店長、この店、すごい人たちばっかりですね……」

「みんないい子たちだよ」

 店長は相変わらず笑顔だった。

 

 

 

 

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