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「し、執事、っすか……」
驚く悠斗を尻目に、目の前の男性はそうだと言って眼鏡を直した。
「執事って、マジ?」
「マジなわけあるか。マネごとだよ、執事喫茶ってやつ」
少年が置いてあるテーブルに足を乗せ、ふざけたように言った。
「執事喫茶?」
「聞いたことくらいあるだろう。まあ、執事になりきってお客さまに楽しんでもらう喫茶店だ」
言いながら男性はテーブルに乗っている少年の足を乱暴に下ろさせた。
「お前もいつまでも遊んでないで着替えてこい」
「はーい、わかりましたよ」
少年は鞄を持つと奥の更衣室らしい部屋へと消えて行った。残されたのは、悠斗と眼鏡の男性の二人。相手の凛とした雰囲気に、悠斗はどうしたらいいのか分からず部屋の隅で立ったままである。
「お前名前は」
「え、あ、林田です。林田悠斗」
「歳は?」
「二十歳で、大学二年です」
「そうか。俺は柳浩暁。さっきの女顔の学生は五十嵐冬希。ちなみに高校生だ」
「はあ……。柳さんは店長とかではないんですか?」
「俺はただの店員だ」
その割には随分と偉そうなもの言いだと思ったが、悠斗は敢えて口に出すことをしなかった。
「というか、俺が働くことは決定なんでしょうか」
「うちは今人手不足だ。少しでも動ける人間が欲しい。冬希が連れて来た時点で決まったものと思え」
お金に困っているのは確かなためバイトが決まることはありがたいが、執事となると今までやってきたバイトのノウハウは役に立ちそうにもなく、不安をおぼえる。そうしていると、悠斗が入って来たドアとは逆にある扉が開いた。入ってきたのは背の高い、三十代後半くらいに見える男性。柳に声をかけようとして側に立っている悠斗に気付き、微笑みかけてきた。
「君は?」
「冬希が連れて来たアルバイト候補です、店長」
(やっぱ、みんなイケメンだ……。というか、大人の色気がハンパねえ)
微笑んで立っているだけなのに、溢れ出る大人の余裕がある店長だった。
「そうなのかい? それは嬉しいなあ」
「い、いや俺は……」
目の前の店長が本当に嬉しそうな顔をするので、まだバイトするかどうかはわからないとは言えない空気になってしまった。店長の後ろから睨み付けてくる柳が怖かった。
「で、でも俺全然仕事とかわからないし」
「そんなのはこれからゆっくり覚えていけばいいよ。笑顔でお客様を迎えることができればそれで十分なんだから」
柔らかな笑みを向けられて、悠斗はゆっくりと首を縦に振っていた。