第三話
ガロン騎士長の部屋を出てから、レイナは厨房を目指して通路を歩いていた。
だが、ガロン騎士長に厨房の場所を聞き忘れ、実際には当ても無くさまよっているのと変わりない。
そんなことを考えどうにかしたいと思っていたとき、今歩いている通路の先から五人の男性騎士がこちらに向かって歩いてきていた。
「すいません。厨房にいきたいのですが行き方を教えて頂けないでしょうか?」
レイナはすかさず四人の騎士の先頭を歩いていた男性に声を掛ける。
金髪の男性であった。
「君は確か今日からアカデミーの実践生として来た子だったね。ここにいるってことはもう騎士長には会ったってことか。じゃあ、敬語は無し。あぁ、厨房だったね。厨房はここをまっすぐ歩いてつきあたりを左に曲がって階段を降りれば目の前にあるよ」
「私の事知っているんですか? 事前に行く事だけはお知らせしときましたが、顔はまだ知られていないと思っていました」
「それはね。先に君に会っていた守兵の奴らがアカデミーの子レイナが来た! って言いふらしまくっていてね。だから、この支部の内部にいるやつは大体君がいるってことは分かっているよ。それに、ここに長く居れば見知らぬ顔もすぐ分かってアカデミー生が来ているってことも分かる」
「そういうことだったんですか」
納得したようにレイナは何度も頭を上下に軽く振っている。
「ミラン。お前だけレイナちゃんとしゃべってずるいぞ。俺にもしゃべらせろや」
「いや、先に俺だろ。お前は後でレイナちゃんとしゃべれ」
「二人供落ち着いて、皆で話せばいいじゃないか」
「俺が先にしゃべ....なんでもない」
ミランの後ろにいた四人の騎士がレイナとしゃべろうとお互いにけん制し合っていたが、最後にしゃべった騎士だけは蚊帳の外のようであった。
「あなたたちちょっとうるさいですよ。そんなにしゃべりたいのだったらレイナさんの目的である厨房にご案内したらどうですか」
「「「「それだ!!!!!!」」」」
言い争いをしていた騎士はミランが言った一言で、静かになりすぐにミランのほうを向いて、四人の騎士は大声で言い放った。
「「「「ぜひ俺達に厨房への案内をさせてください! お願いします!」」」」」
頭を下げ右手をレイナに差し出してくる。
「えっと、先輩騎士の仕事に迷惑を掛けるのも悪いですしもう道も分かりましたので...ごめんなさい!」
おろおろとミランはどよめきながらも両手を体の前に添えてこちらも頭を下げる。
「「「「.........」」」」
何も返事が来ないので、レイナは少しずつ顔を挙げて四人の騎士の様子を上目遣いに見上げる。
「!? どうしたんですか!?」
そこに存在したのは、精巧なつくりで出来た人間の白い四体の彫刻像。通常四体の彫刻像が着ている鎧を今の技術ではここまで細やかに作ることはできないし、皆それぞれのポーズを取っている為それと伴って躍動感が見て取れる。また表情も作られた顔になっておらず、人間らしい顔つきだった。
この四体の彫刻像は本当は彫刻などではない。
さきほど話しかけてきた四人の騎士であった。
レイナと厨房に行く間しゃべることを楽しみたかったのに、四人の騎士はレイナにそれを断られ魂が抜けたように固まってしまっていたのであった。
レイナに話かけられ、四人の騎士はねじをまいた人形のように再起動を始め、外に塗り固まられた白い彫刻がはがれ始める
「あ、あの...なんでもない! それもそうだ! ここから厨房なんて一人で行っても迷わないしそれは当然の反応だしな! なぁ皆!?」
一番右にいた騎士がいち早く動き始め、レイナに慌てる様に早い口調で言ってくる。
「そ...そうだよ」
「あぁ...」
「......うん」
他の三人騎士も完全には動き始めては居なかったが、相槌を打つくらいしかできずにいた。
「大丈夫ですか!? あまりに他の人の反応が薄すぎるような気がするのですが!?」
「大丈夫大丈夫...気にしないで。こいつらはただ驚いているだけだから」
ミランはやれやれと手を肩まで持ってきて振っている。
「レイナさん、ほら厨房に遅れてしまいますから、先いってください。こいつらは私が世話しているので」
「そうですか? ではお言葉に甘えて先失礼します。ミランさん。他の先輩騎士さん」
頭をぺこりと下げ、厨房方面に踵を返して、歩いていく。
その後ろ姿は美しい姿と相成ってとても優雅で華があり、これを前から見たらどの騎士もレイナと話たいと思うのは、必然であろうか。
「「「「やっぱりきれいだよな...」」」」
「そうですね。私もたくさんしゃべれてよかったです。あなたたちは残念でしたね」
そういって、ミランは通路を他の四人の騎士をおいて歩き始めた。
「ミランさんもレイナさんに魅了されてたんだな...。あまりに顔や態度に出ていなかったから、興味ないかと思っていたが、それも全部演技ってことだったんかよ...」
「ほら、そんな所にいつまでもいないで、行きますよ」
「「「「はっ、はい! 今行きます!」」」」
すぐにそこから立ち上がって、四人の騎士はミランの後追っていった。
ミランの場所を去ってから少し立った後、レイナはミランから教えてもらった道のりを辿り厨房の前まで来ていた。
そのまま扉を二回叩いて中に入る。
中には白い湯気がいくつかの鍋から立ち上っている。その湯気の臭いが鼻に吸い込まれると、脳内まで刺激されるようなおいしい香りが体中に駆け上がり、胃はそれに感化され突然物欲しいそうに空腹が襲い掛かる。
鍋の中には、色とりどりの野菜や一口サイズの肉が入って煮詰まっているものが中に入っていた。
瞳に刺すような痛みが襲うため、いくつかのスパイスが入っているかもしれない。
そんな鍋をかき混ぜたり、他の食材を切っていためているのは、白いエプロンとコック帽を付けた料理員五人と何故か黒を基調とした服にネコ耳を付けている女性騎士。
この世界には、確かに獣人族も存在するが、ここの騎士には獣人族はいない。
何故この人達は、こんな格好をしているのだろうか? とレイナは不思議に思う。
そんな事を考えていると、鍋をかき混ぜている一人の女性騎士がレイナが居る事に気づき鍋をかき混ぜる手を止めこちらに向かってくる。
桃色の髪に青色の瞳の女性騎士だった。
「あら、あなたがレイナちゃんかしら。初日そうそう料理が仕事なんて運が悪いわね」
「いえ、これも仕事ですから。それよりも、なぜ女性騎士の方はそのような服をきているんですか?」
「これ? なんかガロン騎士長が着ろって言ってきてね。私たちは渋ったんだけど他の男性騎士もガロン騎士長に感化するようにいってきてね、断るにも断りきれなかったのよ。あなた聞いてなかった?」
ひらひらしたスカートの端をつまんでみる女性騎士。
「いえ聞いてませんでした。しかしそれは大変でしたね」
レイナもさきほどの騎士を想像してその光景が容易に想像できたため、顔を少し苦笑する。
「まぁ、一度着てみて慣れてしまえばそうでもないんだけどね。この耳なんか魔具で出来ているからぴょこぴょこ動くのよ。これが案外楽しくてね。」
「これはなかなかすごい魔具ですね。こんな品物王都でも見かけませんでした」
「なんでもこれガロン騎士長が特注で王都一の職人に頼んでいたそうで、それを持ち合わせていたんですって」
「ガロン騎士長の新たな趣味を今垣間見た気がします」
「まったくね」
レイナと女性騎士はお互いくすくす笑い始めた。
「そいえば、私自己紹介してなかったわね。私の名前は、ルディア・ノールよ。よろしくねレイナちゃん」
「はい! よろしくお願いします!」
「では、早速料理に取り掛かりましょうか。レイナちゃんは、そこの角の部屋で鎧をぬいできてね。さすがに鎧のままじゃここは暑すぎるからね」
角の部屋を指差す。
「はい分かりました」
レイナは部屋に向かって歩いていく。
「あ! 言い忘れてたけど、あなたの分もあるわよ。この服」
右手の人差し指を立て目を見開いていってくるルディア。
「本当ですか!?」
「えぇ本当よ」
「さすがに、ちょっと恥ずかしいですけど...」
顔をすこし赤らめもじもじするレイナ。
「駄目よ。皆共通して着るの。分かった?」
「......はい分かりました」
「分かればよろしい。じゃあ着替えてらっしゃい」
ルディアは鍋を再び混ぜに元の位置に戻っていく。
一人取り残されたレイナは、あの服を着るのにため息をつき、重い足取りで部屋の中に入っていた。




