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第二話

 木が一本も生えていなく、緑茂る草原が広がるところにある平坦な道に二つの影が見えた。

 影が近づくほど道の土が舞い上がり、土煙が起こっている。

 ここ最近の真夏の乾燥により、普段より濃く上がっていた。



「これが...深緑の森」


 そうつぶやくように言ったのは、1人の少女であった。

 その少女は荷物と鉄兜を背に背負った黒色の鬣に茶色の体を持つ立派な馬に、またがりゆっくりと進んでいた。

 太陽に反射し輝かしく艶やかな白銀の長髪に赤い瞳。

 身長は高く肢体は少女が着込んでいる重厚な鎧で詳しくは分からないが、鎧の上からでも決して悪くないスタイルだと思われた。


「こんなに大きな森始めてみた...」


 彼女―レイナは、眼前に広がる森の大きさに驚きを隠せなかった。

 首を左右に振っても端という端が見えなく、このまま地平線の彼方まであるのではないか? と想像することは大袈裟な表現でもなかった。

 それほどまでに、深遠の森は巨大でとても深い森であったのである。


「...驚くのはここまでにしよ。これから短いが一ヶ月仕事をする場所でもあるし」


 普通ここにくるのは、王か王直属の重鎮か騎士のみである。

 それ以外がこの場所に近づく事は、堅く禁じられている。

 もしこの制約を破った場合は、国の法律に乗っ取り投獄され罰を下されてしまうのである。

 つまりここにレイナが現れたということは王か王直属の重鎮か騎士ということである。

 だが、王と重鎮達がこの森に直接訪れることは魔性結晶が置かれた日以来来たことがなく、また王も重鎮達も全員男性であり、この時点で王と重鎮の可能性はよほどのことが無い限りありえない。

 よって余った選択肢である騎士であることが伺えた。

 そのレイナは、現在森の監視兼守護している騎士団の本部を目指していた。

 まずはここで王都からの正式な書類を渡しそれから職務につく。

 そうしなければ賊と間違われても言い訳が出来ないからである。

 そう思いレイナはようやく着いた騎士団本部前で馬を降り、本部の門の守兵をしている二人の男性騎士に書類を手に駆け寄る。

 

「すみません、王都からこれからここで実践生として森の守護をするように仰せつかった、レイナ・ローデングが来たとここの騎士長に申してくれませんか?」

 

 辞令を先輩の守兵に見せ、少し頭を下げる。

 口調が変わったのは、初対面なのと目上の方だからである。

 実践生、これは王都にある王立仕官学園―アカデミーと呼ばれる場所で騎士になる為、養成される生徒が実際に学園の外で先輩の騎士と実践を通し、より立派な騎士になるように考案されたカリキュラムを行う者を指す。

 つまりレイナは、実際まだ騎士になっていない。

 騎士の卵ということである。

 また深緑の森はユーデリア新王国において重要な資源であり、それを守る為通常、騎士の中でも経験を積み優秀な騎士を集めている。

 もちろんそれをつけねらう盗賊の討伐も、騎士の役目である。

 だがほかの場所に比べて、規模が大きく殉死する可能性も少なくない。

 その為深緑の森は、普通は実践生を取らない。

 否、貴重な騎士の卵を失わないよう取らないようにしているのである。

 それなのに、レイナはこの深緑の森の実践生に選ばれた。

 それが意味するのは、レイナの実力が手練の騎士に劣らないことであった。

 

「.........」


「あっあの聞いているでしょうか?」


「.........」


「あの...」


 少しばかり二人の守兵の頬が赤くなっている気がする。

 レイナもどう反応したら良いのか分からず、沈黙する。

 お互いにの間に嫌な沈黙の間が流れる。


「守兵殿! 聞いてますか!」


 レイナが痺れを切らし、少しきつい口調で言い放った。


「あぁ、すいません。少しぼーっとしてまして。ご用件は何でしょうか?」


 その声に我に返ったのか二人の守兵は、背筋をぴんっと伸ばし慌てて返事を返してきた。


「では改めまして、こちらに一ヶ月間アカデミーの実践生として配属となったレイナ・ローデングです。こちらの本部の騎士長であるお方にこの書類をお渡しいただけないでしょうか?」


「はい、手前共もアカデミーからレイナ・ローデング殿が来ることは、ガロン騎士長から事前に聞いておりましたので、承りました。では、ガロン騎士長に報告してきますので少々お待ちください」


 そう言って守兵の1人は騎士団本部の中に入っていった。


「あの守兵殿。私に敬語など不要ですよ? あなた方は騎士であり私が憧れの騎士になれたとき、上司に当たる方なのですから」


 少し困ったかのような顔を見せ、敬語が不要なことを伝える。


「いえガロン騎士長からこの騎士団に入るまではお客様だ! 常に敬語を使い敬いの心を忘れるなとおっしゃられるので、私達騎士はそれに従っているまでですよ。もちろん命令だから従ってるってわけではありません。私達はガロン騎士長のことを慕っていますから」


 照れくさそうにレイナにガロン騎士長の素晴らしさを言ってくる。


(それほどまでにガロン騎士長殿を尊敬しているのだな)


「そんなにも素晴らしい方なのですね」


「えぇ! それはもう皆の憧れですよ。ガロン騎士長がいるってだけで、ここへの辞令願いを出す人までいるんですから」


「それはそれは、私がここにこれたのも奇跡に近いのかもしれませんね。神様にでも感謝しませんと」


 そんな話を繰り広げていたとき、騎士団本部から先ほど報告に言ってくれていた守兵の片割れが戻ってきた。


「ガロン騎士長から騎士長室まで来るようにとレイナ・ローデング殿に伝言です。では、このままお進みください。ようこそ深緑の森支部「森の番人」へ」


 顔に微笑を作りながらレイナを二人の守兵は迎えた。


 騎士団本部に入ると、円形のエントランスが広がっていた。

 受付をする木製のカウンターの壁の上には、ユーデリア新王国を象徴する竜の紋章が描かれており、その精巧さは今にも竜が動き出しそうな精巧さであった。

 そのカウンターの両側に広がるように二階に続く階段。天井には琥珀石から発生する静電気を魔具である収縮瓶にいれ、明かりの代用としているようだった。

 そのほかにもソファーが二つに絨毯。

 そんなエントランスには今多くの騎士達が集まり、談笑やボードゲームなどの娯楽を楽しんでいた。その中に数名の女性騎士の姿が見て取れた。

 メナスはそれを邪魔しては悪いかと思い、こっそり抜けていこうとしてたが、すぐに近くで談笑をしていた騎士に捕まり強制的に参加させられていた。

 やがて騎士から開放されたメナスは、少しぐったりしながらも守兵と談笑した騎士から再度聞いた騎士長の部屋場所に歩みを進め、扉の前に立っていた。


「ここが騎士長の部屋でいいみたいね」


 扉を二回軽く手の甲でたたく。


「はいってくれ」

 

 扉の中の部屋から少し渋みのある声が鳴り響いた。


「失礼します。本日よりアカデミーから実践生として深緑の森で働かせていただくレイナ・ローデングです。どうぞよろしくお願いします」


 部屋に入り、机に書類を広げ整理している男性に声をかける。

 荒々しい金髪の短髪で、金色の瞳。鎧を隣の衣装掛けにかけてあるため、服は麻で出来た簡素な服を着ていて騎士長よりも農夫のようにも見えたが、岩のようにごつごつとした筋肉が浮き腕も足も平均男性の体格の数倍も太いように思えた。


「あぁ噂はかねがね聞いている。なんでもアカデミーで過去の先輩騎士達の記録をどんどん塗り替えていってるって話じゃないか。それだから、こんな部署に実践生として許されたんだろうけどよ。この中じゃお前より実力を持っているやつがごまんといる。慢心なんかしていると痛い目見るからな」


「ご心配には及びません。私はこの森の番人の先輩騎士達に自分ではまだまだ及ばないところが、いくつもあると自覚しております。ですので、この一ヶ月という限られた短い時間の中で多くのことを先輩騎士達から学び、吸収し生かして生きたいと思っています」


「......ほぅ、てっきり自己顕示欲が強いお嬢様かと思っていたが違ったようだな。それについては謝る。すまなかった」


「いえ、そう今後も思われないよう日々立派な騎士を目指して精進していくだけです」


「お前さん...いやぁ!!! 気に入った! 俺はお前のその人柄を大いに気に入ったぞ!」


 突然大きな声で叫び始める騎士長。


「あ...ありがとうございます」


 あまりの大きさにレイナは少しばかり驚きを隠しえなかったが、騎士長の前で失態を犯さぬよう出来るだけ押さえ込むようにしていた。


「そいえば名前を教えていなかったな。俺の名前はガロン・ディルソン。一応ここの騎士長っていうものをさせてもらっている。趣味は釣りと狩り。好きなものは部下と酒。嫌いなものはピーマンだな。他には...まぁこんなところよ。これからここは忙しくなると思うが実践生であろうとなかろうとこき使うからよろしく頼むぜ」


 胸元を手でドン!と最後に叩いて言ってきた。


「はい! このレイナ・ローデング粉骨砕身の思いで仕事をこなして生きたいと思うので、こちらこそどうぞよろしくお願いします。ただ、いますぐひとつだけ言いたいことがあります。発言してもいいでしょうか?」


「ん? あぁいいぞ」


 ガロンは不思議そうに首を傾け、両腕を胸の前で組んでいた。


「なぜ趣味や好きなものや嫌いなものをおっしゃられたのですか? これは別に無くとも良かったと思うのですが...」


「あぁあれか。レイナのことは気に入ったし、こうして事前に言っておけばなにかあとでもらえるかなって思ったから教えたってことじゃないぞ。本当にそうだからな!」


「それはいいんですが、肝心の誕生日など大切な日を教えてくださらないと、こちらも用意しかねると思いますが....」


「確かに...よく気づいたなレイナ。やべぇよ。今までに面会してきたやつにだいたい言ってきたから、いつかなんかもらえると期待していたが誕生日を教え忘れると一生の不覚。ってそのまえに俺が間違っていることを教えろっつうの!!!」


 椅子から転げ落ち手足を床につけ懺悔のポーズのようになり嘆くガロン。


「えっと、とりあえずお疲れ様です」

 

 おろおろしながらもフォローにもなりかねない言葉を発す。


「まぁ終わったことはこの際どうでもいい。まだ人生は長いんだし、これから気をつけてけばいいさ。それにレイナもう仲間なんだから敬語は不要だぞ。分かったな?」


すぐに立ち直って元の真剣な顔立ちに戻る。


(この人意外に抜けてかつ楽天家なのかな? でも、アカデミーの先生よりもずっとなじみやすい。こんな性格だからこそ沢山の部下に慕われているんだろうな)


「えっえぇ...分かりました」


「よし! 本題に戻るぞ」


「...はい」


「今日からレイナお前は、他にもいくつかある支部の中の騎士団支部「森の番人」で実践生として一ヶ月働いてもらうことになっている。主な仕事は、ここは他の支部に比べてとりわけ盗賊や魔物や悪徳商人など徒党を組んで、森の利益を奪おうとしてくるから、それの排除。魔性結晶の結界が働いているか定期的に見に行き、不具合がないか調べる。これらが一番重要な仕事なんだがまずお前には、この「森の番人」の内部で仕事をしてもらうことにした。お前がここで一番下っ端にあたるし他の先輩騎士と仲が良くなるためにも、ここのほうが一番早く仲良くなれると思うからな。他にも先輩騎士もこんな可愛らしい後輩騎士に失態を見せられないと、活をいれるのにもなるのもあるがな」

 

 魔物とは、魔王が君臨していた頃から人間に害をなしていた魔の存在のことをいい、魔王が倒された後は一時期かなりの数が減少したのだが、近年また数を急速に増やしつつあった。

 これはまことしやかに魔王が復活したのではないかといわれていたが、本当かどうかは未だ分かっていない。


「内部仕事は了解しましたが、私なんかが可愛らしいとは騎士長もご冗談が過ぎてますよ。アカデミーの仲間のほうがもっと可愛らしい方がいるんですから」


「...お前さんが可愛らしくなかったら、世の中おかしいぞ...」


 ガロンはレイナに聞こえない声でつぶやく。


「? どうしましたガロン騎士長?」


「いや、なんでもないぞ。うん! それで、メナスの初仕事は...そのなんだ、料理は出来るか?」


 咳払いししてごまかし話をずらす。


「はい一応、一通りできますが...]


「実践生としてここにきてもらったのに悪いんだが、厨房で料理を作って欲しいんだ」



「すぐさま先輩騎士の仕事に加わってもお邪魔になるだけですからいいんですが、なぜ厨房で料理を作らなければいけないんですか?」


 レイナは少し困惑したかのような表情を見せる。


「あぁそれはもっともな質問だな。なぜかというといつも料理をしてくれる料理員が、今日風邪を引いちまったみたいで、寝込んでいるんだよ。幸い一日でなおりそうだったから、今日一日騎士の連中で料理を作ろうと話になったんだが、そのほとんどが料理をしたことが無い男性ばかりだったもんでどうしたもんか悩んでいたんだよ」


「でもすくなからず女性の騎士も確かこの部署にいましたよね? その方達はそのほとんどに入ってない方達ってことですから、それでも足りないって事なんですか?」


「それが内の部署は騎士の数を合わせると五百人ほどいてな。ほらこの森広大すぎるからこれくらい必要なんだよ。それをいつも料理員が手分けして料理を作ってくれているんだが、なにせん十人いた内五人も同時に倒れてな。女性騎士四人入れてもたりなかったんだよ。そこにお前さんが来てくれたってことよ」


「同時に五人も倒れたんですか!? それは大変ですね...分かりました。その初仕事精一杯努めさせてもらいます!」


「おう! よろしく頼むぞ! 期待している!」


 ガロンはレイナに右手を差し出し、それをレイナは左手を出してお互い握手をしてからレイナは騎士長室を後にするのであった。

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