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それぞれの末路  作者: 途山 晋
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末路

クローンは考えた。

その言葉が出るまで時間はかからなかった。

「油断大敵ですよ」

そう言って体を横に倒す。ナイフは首筋に当てられているので、斬れないようにだ。

宮田は突然の行動に、驚き反応出来なかった。

クローンは、立ち上がり宮田の手を叩いた。

ナイフが落ちて音を立てた。

宮田とクローンはそのまま揉み合いになった。

揉み合ってる中から手が出てきて、ナイフを握った。

その握られたナイフは、もう一人の胸に刺さった。

心臓を刺された彼は、悶えていたが大人しくなり、起き上がることは無かった。

生き残った彼は立ち上がった。

そして、思考した。

この出来事は、私で始まった。そして、私が終わらせる。

依頼され、私はクローンという道を取った。

クローンを作ることによって、私はクローンという存在と同時にその末路も生んでしまった。

そして、クローンとオリジナル。両方の末路が生まれた。

その末路を決めようとしたのも私だ。

消えるのは、クローンか。オリジナルか。

その二択。それぞれの末路を私は、決めようとしていた。

私には今、それぞれの末路を決める時が訪れた。

これからクローンを増やすのか。消すのか。

それとも、クローンを増やしオリジナルを消すのか。

末路は私が握っている。

決めるのは自分。他の者ではない。

私が優先するのは、クローンを作った時に、いや、依頼を受けた時に決まった。

道徳ではない。常識ではない。善悪ではない。

私が優先するのは、研究心だ。

しかし私にも、これから末路が訪れるだろう。

それは、天罰と言われるものかもしれないし、天誅と呼ぶかもしれない。

結果としては自業自得と言えるが。

裁きが来るのなら、それは人が行ったとしても、天が行ったと私は考えるだろう。

自分が救われることはあるのだろうか。

クローンとオリジナル。それぞれの末路を決める権利はあるが、私の末路を決める権利は既に私の元には無い。

そう、私には、無い。

白めの服を着ていた彼の、その服は腹部を中心に、赤く染まっていた。

彼は、脂汗をかきながら、息を繰り返しながら、その場にへたり込んだ。

腹部に手を当て、その手を見る。その手も赤く染まっていた。

やっぱり、もう駄目か。そう考えながら、彼は、目をゆっくりと閉じた。


遅い。あまりにも遅い。

佐久田のクローンは、そう思っていた。

そこには少しの焦りも混ざっていた。

この部屋に入るのに、宮田のクローンとすれ違った時に言われた言葉。

もう一人のクローンには聞こえていなかったのだろう。さっきから小声でどうすればいいのかと尋ねて来る。

すれ違いざま、彼はこう言った。

「私が戻ってきてから指示を出す。それまでは待機していてくれ」

この言葉の通り、大人しく待機していた。

と言っても、他にやることが無いのだから大人しくする以外、特にやることはない。

警察の三人も何かを考え込んでいる。

恐らく、ここから脱出する方法だろうが、鍵は自分が持っている。

縄で縛られた三人には、自分から鍵を奪うことは不可能だと彼は考えていた。

この状況は、彼がここに戻るまで動かない。時が止まったように。

佐久田のクローンはそう考えていた。

しかし、今、時はこのまま止まるのではないかと心配になっている。

ずっと考えていた気掛かり。あの車だ。三人は、別々の車で来たのかと最初は思った。

しかし、前にあった車は大きさ的に三人は余裕で乗れる。

わざわざ、二台に分ける必要は無い。

さらに、警察の中の一番若い者が気になることを言っていた。

確か、二人目の警察を連れて来た時だ。気絶していた、彼は目を覚ましていてこう言った。

「まさか、車で後をつけていたとは思いませんでしたよ」

つまり、彼は自分ともう一人のクローンが車に乗って来たと思っていたことになる。

ということは、確実に二台あるうちの後ろの車は警察が使った物では無い。

もし違う誰かが乗って来たとして、考えられるのは白井だ。

記憶の何年後かの姿。老いを感じさせない様子だった。

世界は変わっているのに、彼の姿のみ変わっていなかった。

さらに、彼は頭がきれるのも知っている。

その彼なら、ここに来る可能性がある。私が、佐久田だということに気づいていたのだから。

彼に親しみを覚えてないことはない。しかし、私はクローンという立場。オリジナルの彼とは相反する関係だ。

だからこそ、彼を殺すことに躊躇いは無い。

出来れば、彼をクローン化したい。

仲間にして、心強い人物だ。

もし、ここに来ているなら好都合だ。

殺すことが出来て、なおかつクローン化もすることが出来る。

私の動くべき時は今だ。

白井、または他の誰か。その者を殺し、クローンを増やす。

ここにいても意味は無い。どうせ、警察三人は何も出来ないだろう。

そして、佐久田のクローンは扉のノブに手をかけた。

三人は、チャンスだと思った。

一人なら倒せる。

「何処へ行くんだ?」

峯田のクローンは、佐久田のクローンに尋ねる。

「用事があるんだ。抵抗出来ないだろうから、あとは頼んだ」

佐久田のクローンは部屋を出て行った。

この部屋は、鍵が無ければ内側からも外側からも開けられないように作られている。

鍵を持っているのは、佐久田のクローンと宮田のクローンのみ。

よって、佐久田のクローンが部屋から出れば、峯田のクローンと三人は出ることは不可能だ。

しかし、それに気づいている者はいなかった。

クローン二人は初めてこの部屋を使ったし、三人の警察も初めてこの部屋に来た。

峯田のクローンは止めずに、「早く戻れよ」とだけ言って行くように促した。

佐久田のクローンは頷きを返して、部屋を出て行った。


あの人は大丈夫なのだろうか。

美鈴は、宮田について考えていた。

森山さんは、昨日、宮田博士が目覚めたことと襲われていたことを教えてくれた。

急だったために、理解するのに時間が掛かった。

そして、朝に私の世話に来た看護婦の人が言っていた。

「ある患者の人が朝にいなくなってたらしいのよ。その人は昨日起きたばかりで、刃物で刺されたらしいんだけど。お腹の辺りを刺されていたおかげで、臓器の損傷が少なくて、死ぬことは無かったのよ。でも、傷は完全に塞がってはいないはずだし。捜してはいるんだけど、心配だわ」

そんなことを患者に話す、看護婦が私は心配だった。私が刑事だったからなのかもしれないけど。

そして、その患者は確実に宮田博士だ。

昨日目覚めたということと刺されたという珍しい状態。

そんな傷も塞がっていない状態で、彼は何処へ行ったのか。

動けない私の体がもどかしい。

今、何が起こっているのかもわからない。

早く。早く。焦りだけが募った。

私は、待つことしか出来ない。

美鈴は、対象もわからずに、ただ無事を祈っていた。


どこにいるんだ?

部屋を出てから佐久田のクローンは考えた。

何をするつもりで、彼はこの部屋を出たのだろうか。

少し考えてから、考えるより行動する方が早いと思い、とりあえず歩くことにした。

地下から階段を登り、上に出る。

いつも騒いでいるクローンは、静かだった。

曲がり角から、誰かが飛び出して来ないかを気にしながら歩いた。

クローンは、その人物をほぼ白井だと思い込んでいる。

彼は、宮田の存在を知らない。その為に、彼の中では、他に候補が存在しないのだ。

クローンは、枝道などは通らずにそのままリビングルームに向かった。

枝道の中で使っているのは、地下室だけ。だから、他の枝道にいるとは考え辛い。

そして、彼はリビングルームに着いた。

テレビの音声が、近づくとだんだん大きくなってくる。

部屋の中心にあるテレビは、廊下からリビングルームへ向かうと、いやでも視界にはいる。

部屋に入り、見回した。

そして、すぐに見つけた。

横たわる二人の死体を。

正確には、宮田はまだ生きているが虫の息だ。

佐久田のクローンは、どちらも死んでいると思った。

前にオリジナルを殺した時には、絞殺だったために血も出なかった。

そして、彼がクローンとして生まれてから動揺したことは無かった。

しかし、初めて彼は動揺した。

この理解出来ない状況に。

二人の男が横向きに倒れている。

片方はクローンだ。

左胸にナイフが刺さっている。血はあまり出ていない。

そして、もう一人。誰だ?見たことは無い。

殆ど赤い服を着ている。

ゆったりとした服だ。

恐る恐る、彼は近づいた。

そして、それが血だとわかった。

出血している?それが広がって、赤くなっているのか?

この状況を、クローンは彼なりに理解しようとした。

まず、この謎の男が、恐らく車に乗って来た男だ。

そして、理由はわからないが、宮田のクローンを刺した。

宮田。まず宮田とは誰なのだろうか。

宮田と名乗ったこのクローンは、誰のクローンか知らない。

もしかすると、侵入者の方はオリジナルなのか?

そうだとしても、何があったのかはわからない。

襲いかかって、返り討ち、というより相討ちになったとしか思えないが。

襲いかかったのは、謎の男。

それは間違いない。

佐久田のクローンは、悩んだ。

この状況をどうするべきか。

放置していても問題が無いといえば、無い。

どうせ見つかることは無いのだ。ここにいるのは、警察を除けば全てクローン。つまり、内通者しかいない。

佐久田のクローンは、拓馬のクローンがいることを知らない。

幼児が死体を見た場合どうなるかは、予想もつかないし、そうなる自体を予測出来ない。

佐久田は、問題があるとすれば、気分の問題としか考えていない。

死体はいずれ腐るし、死体があるという存在で気が滅入るだろう。

…処分しておくべきか。

誰も使わない部屋はあるだろう。

枝道は無数にある。

佐久田は、まず宮田のクローンの死体を引きずって行った。

誰もいない部屋に向かう枝道へと。


宮田は、意識を取り戻した。

体は冷え、死ぬのだと思った。

彼は、体に鞭を打ち立ち上がった。

宮田は、考えた。

自分が生きている理由。それは、罪は償わないといけないということなのだろう。

だからこそ、目が覚めた。

残された時間は僅かだ。

這いずりながら、ガスコンロへと向かう。

コーヒーを沸かす時はいつもガスだった。そして、側にはいつでも補給出来るようにガスボンベもある。

コックを捻り、ガスを出す。四本あるが、一本で充分だろう。

いや、一本しか無理だ。

次に、近くのガスコンロに近づき火を点ける。

これで、終わりだ。全て消える。末路の存在も。全て。全て。

体が、重い。もう、動けない。

罪は、全て消した。

これからのことは、末路じゃない。

未来だ。


人間の体というものは、死体となっても重いままなのかと佐久田のクローンは思った。

死体を引きずり、枝道へ入り、部屋に死体を置くのは大変だった。

部屋の中でそう思う。

しかし、これからもう一体の死体も運ばなければいけない。

彼は、憂鬱な気持ちになっていた。

彼が部屋を出ようとして、急に耳をつんざくような音がした。

ジリリリリと鳴るその音の招待を、彼は掴めなかった。

とりあえず、異常を探す。

一番何かが起こっている可能性のあるリビングルームへ向かう。

近づくと暑くなって来た。

そして、部屋の中が見える位置で何が起こったのか把握した。

火事だ。

火は、部屋の中を蛇のようにうねっている。

手の施しようがないのは、彼には一目でわかった。

原因はわからないが、火災が起こっている。それだけで充分と感じた。

リビングルームは既に入ることは出来ない。

クローンの子供は助けることは出来ないだろう。

急いで道を引き返し地下へと向かう。

この際、自分ともう一人のクローンだけで充分だ。

鍵を懐から取り出し鍵を開ける。

開いた瞬間、衝撃が襲う。

腹部と頭に衝撃だ。

殴られたのだと認識するのに時間はかからなかった。

彼は、よろめきながらも踏みとどまった。

「何故?」

それしか言いようが無かった。

警察の三人が、縄から抜けてる。

三人の背後には、倒れているクローン。

佐久田のクローンは、投げやりになった。

不測の事態が起こり過ぎ、彼は混乱していた。

岩尾は向かって来た佐久田のクローンに、見事な一本背負いを食らわせた。

三人は、急いで階段を登る。

途中で、閉じ込められたクローンのドアがあったが、一瞬止まっただけで通り過ぎた。

彼らは、なんとなく直感のようにもう無理だということを悟った。

枝道から、廊下に出ると赤い蛇は既に廊下にまで伸びていた。

彼らは、逃げるように玄関まで走って行った。

そして、戸を閉める。

三人は車に乗り、岩尾が運転して研究所を後にした。

声を出すものは誰もいなかった。



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