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それぞれの末路  作者: 途山 晋
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反撃

「森山は何処に行った?」

岩尾と高木は、二人で道を進んで行ったが森山がいないことに高木が気づいた。

「さっきのところにいるのか?」

二人はわからない。

「じゃあ、見に行くよ」

高木は、そう言って来た道を再び戻って行った。

「気をつけろよ」

岩尾はそう言って、その背中を見送った。

高木は玄関まで戻ったが、森山はいなかった。代わりに、森山も見つけたあの車を見つけた。

中には誰もいない。

高木は、枝道のどれかに森山が入ったのだろうかと考え、また来た道を戻っていった。

歩いて戻っていたのだが、急に何かが横から飛び出して来た。

枝道から飛び出したそれは、峯田のクローンだった。

彼は突然飛びかかったが、高木は揉み合いになりながらも何とか抜け出した。

そして、身構える。

すると、更に後ろの枝道から佐久田のクローンが現れた。

高木は、それに気づき奥を見た。

佐久田のクローンが、奥から歩いて近づき峯田のクローンの横に並ぶ。

二人のクローンが、岩尾の元へと続く道を塞いでいるような感じだった。

高木は、まずいなと思いつつ少しずつ後退りした。

そして、逃げようと思ったが足が突然痛んだ。

高木が振り返ると、峯田のクローンが何かを投げた後のような格好だった。

足元を見ると、灰皿のような物が転がっていた。

これを投げたのか。そういえば、カップを投げたって話も聞いたな。

痛みを堪え駆けたが、当然のごとく追いつかれた。

そして、どこからか出した縄で縛られ、彼は枝道へ運ばれていった。


「遅いな」

岩尾はそう呟いた。

やはり、バラバラに行動するのはまずかったかもしれない。

応援を呼ぶことも考えたが、これは三人の独断で動いている上に、説明のしようが無いためやめた。

森山と高木はどうなったのだろうか。

考えたくは無いが殺されたとも思える。

それは最悪のパターンで、いいパターンとしては逆にあの犯人達を捕まえていることだ。

そこで音がした。

それは呻き声のような声だった。

ここまで響くのだから相当だろう。

そして、それは高木の声に聞こえた。 

高木が襲われたなら、あっちには犯人がいるはず。

そして、すぐ近くの枝道にも誰かが潜んでいるかもしれない。

とりあえず、迂闊に動くのは危険に思えた。

枝道から危機感を覚えた。ここからは何が潜んでいるかは見えない。

その暗い道から、何が出るかはわからない。パンドラの箱の話のように、その枝道に入って確認するような好奇心は生まれなかった。

どうすればいいかという、焦燥感と困惑とがどちらも存在している感覚だ。

岩尾は迷ったが、結果戻った。

前進しても後退しても、展開は変わらない気がしたからだ。

進んでも、戻っても駄目だという危険を感じた。

進んだとしても、なにか利益があるかはわからない。しかし、戻れば森山と高木を見つけるという利益があるかもしれない。

より明確な方を選び、戻ることにしたのだ。

長い一本道を歩き出す。

暫く進むと、床に何かが転がっていた。

それは金属製の灰皿だと一目でわかった。

拾い上げて見てみるが、血痕のような物がついていないことは確認した。

そこに背後から、佐久田のクローンが音も無く忍び寄った。

そして、両腕で首を締める。

岩尾は苦しそうにもがくが、殺してもいいという考えの佐久田には敵わなかった。

背後より前を気にしていたせいで、対応が遅れたせいもある。

やがて、岩尾は気を失った。

これで、三人は全て捕まえた。

そして、後ろを振り向いてぎょっとした。そこには宮田のクローンがいた。

とりあえず、事情を説明した。それからは、一緒に行動した。

まだ気掛かりはあるが。佐久田は、そう考えながら、警察二人を連れていった枝道に岩尾も連れて行った。その枝道は、地下へと繋がっていた。


「岩尾さん!岩尾さん!」

岩尾はその声で目が覚めた。

岩尾は目を開いて、森山と高木に気づいた。

そこは長方形状の部屋だった。

ただの床に、周りには家具らしきものは一つも無い。

入口と思しき扉があったが、恐らく開かないのだろうと岩尾は考えた。

そして、岩尾は気づいた。森山にも高木にも、更に自分も縄で縛られていることに。

森山達に状況を尋ねようとしたが、そこで扉が開いた。入ってきたのは、玄関に出てきた男。

「お目覚めですか」

彼は、そう言った。

「誰だお前は?」

岩尾が、いつもの調子で尋ねる。

「初めまして。私は、宮田悠斗といいます」

森山はそれを聞いて、やはりかと思った。もっと早く気づいていれば良かった。

「俺たちをどうするつもりだ?」

静かに、脅すように岩尾は言った。

「落ち着いてください。迷惑になることをしなければ殺しはしません」

それは、迷惑になることをすれば、殺すということだ。

「具体的にどうすればいいんだ?」

「ここで大人しくしていてください。見張りは立たせるので」

そう言うと、宮田のクローンは部屋を出た。入れ替わりに峯田と佐久田のクローンが入ってきた。

ドアはガシャンと音を立てて閉まった。重く硬いことを示す音だった。

状況的には三対二。しかし、縄で縛られ身動きが出来ない状態だ。

どうすべきか、三人は考え始めた。三人は無言だったが、互いに方法を探していることはわかった。峯田と佐久田。二人のクローンはそれに気づいていない。

峯田はもう大丈夫だという確信を得ていたため、佐久田は未だ残る気がかりを考えていたからだ。

それぞれの考えはバラバラに、室内に渦巻いていた。


宮田のクローンは地下の三人を閉じ込めた部屋を出てからリビングに行った。広めのその部屋でテレビを付け、製薬会社についてのニュースを探していた。昨日の今日で、さらに大きめのニュースだ。勿論取り上げられていたが、遺書などについての報道はされていなかった。

峯田のクローンが、遺書を渡した人物は何も言ってないのだろうか。そこで、遺書がさっきの警察のうちの一人の手にあることを思い出した。遺書が手元に無い以上、話したところでそれが真実とは認められない。

逆に証拠などなにも無いのに、認められることもあるが。さらに言えば、全く関係ないものを証拠にすることもある。

関係ないところに思考がいったなと頭を切り替える。

なおも、椅子に座りニュースを見続けていた彼は後ろから近づいて来る者に気づいていなかった。リビングに玄関側から入ると、彼が座っている位置は右側にあった。テレビが中心にあるという少し変わった部屋になっているからだ。リビングにある枝道は、左と前方の道はたくさんの部屋に繋がっている。

そして宮田のクローンが座っている後ろの道。リビングルームの右側にあるのは研究室。そこから、近づいて来ているのだ。

近づいて来た者は、手にナイフを持っていた。それを素早くクローンの首筋に当て呟いた。

「大人しくしてくれ」

その声を聞いたクローンは、振り返らなかった。ナイフの感覚は首筋にあったし、声で誰かわかったからだ。彼は大分驚いたが、平静を装った。

そして、彼は尋ねた。

「何故、生きてるんですか?宮田博士」


「研究者は研究する者だ。そして考える者だ」

宮田は自分のクローンにそう言った。それは自分自身に言うことに等しいと思いながら。

「あと、このナイフは私を刺した物だ。丁度いいじゃないか。反撃。いや、復讐劇にか?」

宮田はそう続けた。

「質問に答えてくださいよ。研究者は、研究した結果が無いと考察は出来ない」

宮田のクローンはそう返した。

「…そうだな。答えてあげよう。君が私を殺そうとしたという出来事は過程。そして、私が助かったのは結果だ」

宮田は一息ついた。そして、話し始めた。

「まず、森山君の存在を教えよう。森山君とは、君が今、地下に閉じ込めている警察達の中で一番若い刑事だ」

宮田のクローンは思い出す。三人の内で最初に攻撃した刑事か。

「私は彼に会ったのは君に殺されかけた日の昼頃。そして、私は携帯に貰ったシールを付けた。鳩のね。友好の証と言われてね」

宮田はそう言って苦笑した。

「携帯?携帯電話を持っていたんですか?」

宮田のクローンが尋ねる。

「そうだよ。君の記憶には無かっただろう。お陰で助かることも出来たわけだが」

クローンは頷き先を促した。ナイフの刃は首筋にあるが頷くのに問題がある位置では無かった。

「私は帰り、君を待っていた。それからは何も無く、ただ君を待っていたわけだ。君が帰って来てからは、ある程度君と同じ記憶の筈だ。車で連れていかれた。そこから暫く時間を進める。君は覚えているかな?僕の遺言を」

クローンは、突然の質問に戸惑ったが、覚えていた。あの、遺言にしては仰々しくは無く、くだらない遺言。

「『車のエンジンは消しとけよ』でしたっけ?」

クローンは答えた。

「まあ、大体合ってるよ」

「それがどうしました?エンジンは結局きってましたが」

「それが、答えなんだよ。そのエンジンは森山君が乗って来た車の音だ。僕たちの乗って来た車から少し離れたところに、彼は車を停めた。そして、君が帰った後に彼が私を病院に連れていった。これが、結果だよ」

クローンは疑問をぶつけた。それは、この説明を成立させなくする疑問だ。

「どうして、その森山君とやらがいたんですか?」

「最初に言った鳩のシールだよ。あれは、実は発信機と盗聴器の効果を備えていたらしい」

宮田は苦笑した。森山に助けられたあと、自分も不思議に思い尋ねれば、答えはなかなか驚くものだ。前に読んだ、探偵物の漫画には発信機付きの道具が出ていたが。その話を森山にした時にはさらに驚いた。モチーフはそれだというのだから。警察より探偵が向いてるのではとも思った。

「私は、ある刑事の見舞いにいったんだ。そこで、彼に会ったわけだが。彼は私を怪しく思ったそうだ。友好の証として渡された鳩のシールは、実際は疑いの証だった。お陰で、私は生き延びることが出来た訳だがね」

「ある刑事?それにしても、信じ難い話ですね。フィクションとしか思えない」

「刑事は、君も知らない人だよ。フィクションと言うのなら、君の存在もそれに近いと思うけどね。世界初のクローン人間なんだから」

クローンは苦笑した。

二人が同じ人物のせいなのか、会話の中で苦笑が多い。

「私の記憶は古いから知りませんが、そうなんですか」

「ああ、実際にはどうか知らないが、ヒトのクローンを作った事例は報告されていない」

クローンは、どう調べたのか気になったが、それよりも今はこの状況に持ち込んだ過程を聞かなければいけないと思った。

クローンは、『研究者は研究する者だ。そして考える者だ』という別人であり、同じ人間である彼の言葉は正しいと思った。自分が言っているのに等しいのだから当たり前かとも思ったが。

いつ、ここに来たのか?どのタイミングで。何故後ろの部屋から出て来たのか。彼は、自分の記憶を辿った。

最初のチャンスは、あの警察三人が降りた後だ。あの三人の乗って来た車に一緒に乗って来たのかもしれない。

彼は、それを尋ねた。

しかし、宮田は否定した。

そして、急に静かになったと思ったらそんなことを考えていたのかとも言った。

クローンは、それに答えず、また考える。他になにかおかしいことは無かったか。一日の半分、いや四分の一にさえいかない、この時間の記憶を思い出す。

まず、三人の警察が来た。車でだ。

三人が入って行くのを見守ると、途中で枝道に入った。

その隙にリビングルーム、つまりここに向かい、そこから二人のクローンに状況を説明した。戻っていくと、一本の枝道の方から声が聞こえ、身を隠した。

会話を聞いていると、どうやら全ての枝道に行くつもりのようだったから、三人が枝道に入った瞬間に二人のクローンを、既に警察三人が調べた枝道に行かせる。

そうして、二人を隠した。

自分自身は、身を隠しながら後をついていっていた。

三人は、殆どの枝道を通り、地下への道を通った。その後、自分を探すことにしたらしい一人の刑事が玄関に戻って行った。

リビングルームへと繋がる一本道は進んでいると、カーブ上に歩くことになる。

直進してるように感じるが、実は緩やかにカーブした造りになっているのだ。何故こんな設計にしたのかは思い出せない。

実験の為だったのかなんなのか。

そして、岩尾が、襲われている高木に気づかなかったのもこれが原因である。

真っ直ぐの道なら、襲われている高木が見えた筈だが、カーブのせいで見えない位置で襲われていた。

クローン達が、どうしてそうしたのかわからないが、森山と高木を襲ったのは悟った。帰らないのはそういう意味だと思った。

残された刑事が、考え込んでから、玄関の方へ向かったので、静かに尾行した。余程焦っていたのか、早足だった。後ろに自分がいることも気づかなかった。

玄関まで、大分近づいて来た。

その後を追っていくが、突然横の道から人が飛び出て来て驚いた。声を出さなかった自分は凄いと思う。

出て来たのは、佐久田のクローンで、集中しているのか自分に気づかなかった。

そして、彼は警察の首を締めて気を失わせた。

それから、私に気づいたようで事情を話してくれた。

そうだ、その時に何か気になることがあった。多分、それが答えだ。

なんだった。クローンじゃない。方法じゃない。警察じゃない。乗って来た。…そうだ!車だ!

「車で来たんですね。警察とは違うもう一台の車があったそうですから」

「正解だよ。車の存在は誰に聞いた?」

「クローンですよ。秘書のね。依頼主である社長の秘書です」

「あの人のクローンを作ったのか」

「依頼主のクローンもいますよ。どちらも若返ってますが」

「なるほど」

宮田は自分のクローンが何をしたかったのか理解した。乗っ取りをしたかったのだろう。

「それで、今の状況にはどう至ったんですか?」

クローンには、どうして、研究室の方から出て来たのか謎だった。

「それは、多分タイミングが良かった。普通にここに向かっただけだった。誰かと会えば、警察で無ければ、ナイフで身を守った」

実際、運が良かったと宮田は思う。

警察にも、クローンにも全く会わずにここまで来れるとは思っていなかった。

「じゃあ、そろそろだな」

宮田は息を飲む。

クローンは、息を吐き、冷静だった。

「遺言は無いか?」

宮田は尋ねた。









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