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それぞれの末路  作者: 途山 晋
33/40

最期

「さて、着きましたよ」

そう言って、クローンは車を降りドアを開け、宮田の乗っている後部座席に来た。

宮田は、縄で足を縛られ、椅子に座らされていた。

手は自由だったが、あまり意味が無かった。

外に出ると、車のエンジン音がした。

恐らく、クローンはさっきエンジンを止めなかったのだろう、と宮田は思った。

そして、クローンは宮田の手首を掴み引きずって行った。

そして、一本の木の下に来た。

周りは殆ど森林のようなもので、クローン自身も適当にこの木の下に来た。

「それでは、お別れですね」

「…そうだな」

クローンは懐から刃物を取り出した。それは、ナイフだった。

そして、クローンは言った。

「遺言とかありますか?」

宮田は考えた。誰かに伝えることはしてくれないだろうから、クローンに対して遺そうと思った。

しかし、特にいい言葉が思い浮かばなかった。

そして、「車のエンジンはちゃんときっておくようにな」と苦笑して言った。

クローンは面食らった顔をしたが、「きりましたよ?」と答えた。

「そうか?じゃあ、聞き間違いか」

「そうですね。それにしても、ここでそんなことを言うとは」

クローンは呆れた。

「確かにな」宮田は苦笑した。

「それでは」と言って、クローンはナイフを構えた。

月明かりに照らされ、ナイフがキラリと光った。

「さようなら。私」

クローンは言った。

「ああ、さよなら。私」

宮田も返した。

そして、ナイフは宮田を捉え、呻き声があがった。

クローンは無慈悲な足音を立てて、去っていった。

血が流れる。体が冷えていく。

息が荒くなる。

宮田はここで死の恐怖を覚えた。

今までは、死を実感出来ていなかっただけだったのだと、悟った。

ここで初めて生きたいという心が生じた。

何か手は無いかと考え始める。

血は流れていく。土は赤に染まっていく。

そして希望を見つけた。

その希望は、懐にあった。

それを、取り出した。それは、携帯電話だった。

10年前の、私の、記憶には、携帯電話が、存在しなかったのだろう。

その為に、これは、取られることが、無かったのだろう。

取り出して、最初にシールが目に入った。

震える手で、番号を押す。

駄目だ。意識が…。

宮田の意識は、深く暗い緑の下で、夜の闇に呑み込まれていった。


歩きながら、私は、私を殺したんだと、ふと思った。

何かが欠けるような感覚は無かったし、感慨もあまり湧かない。

ただ、殺したという事実だけが残った。

彼の視点は過去には既に無く、これからに向かっていた。

彼は、まずどうすれば世界中の人間のクローンが出来るかを考えた。

それは、言葉で言えば容易く、実行するには相当の力が必要だ。

その為に、まずは…。

そう考えていると車を停めてる場所に着いた。

やはり、エンジンはきれてる。

彼も自分なのだから、もう少しちゃんとした遺言を残して欲しかった、と彼は思いながら、車に乗った。

そして、車を研究所に走らせていった。


彼は目が覚めた。

昨日、研究所に帰ってきてから疲れて寝てしまっていた。

まだ冷蔵庫に残っていた食糧を調理して食べる。

クローンとオリジナルに今まで食事を与えていたのも自分だったから、負担は特に変わらない。

そう考えると、オリジナルは何もしていなかったのかと思い、苦笑した。

そして、食事を与えてきた。

その途中で考えたが、この研究所を作ったのが、私の記憶を辿ると去年のことだ。

私のオリジナルの言ってる通りなら、十年分を足して今から十一年前ということになる。

この研究所の中は、その一年前の記憶と自分が行動した範囲は変わっていない。

いってないところは、変わっているかもしれないが、行く必要は無いだろう。

そう考えて、部屋の電話の受話器を取る。

昨日考えた計画を実行する為だ。

その計画はこうだ。

まずは、依頼主を乗っ取る。

依頼主はそこそこの権力を持っているのは、察していた。

その依頼主をクローンに変える。

そして、協力してもらう。

そこからある程度、権力のある地位まで行き、何らかの法などを作り効率良くクローン化させようと考えた。

一人ずつクローン化していくのは、恐ろしく大変な筈だ。というより不可能に近い。

そして、彼は計画の実行を始めた。


部屋にノックの音が響く。

峯田は、この音に飽きてきた。

いっそのことドアを開けっ放しにしようと考えた。

「入れ」と峯田は言った。

これもぶっきらぼうな言い方になった。

「失礼します。電話がまた来ました」

峯田は、その言葉で宮田だと思い内線の繋がった電話に出る。

「次はなんだ?」

挨拶もせずに峯田は尋ねた。

「急にすみません」

峯田は、声を聞いて驚いた。

宮田だと思ってたが、聞こえた声は少し若目の声だったからだ。

「お前は誰だ?」峯田は、怪訝に思い問う。

「私は、宮田博士の助手をしている者です」

「助手?ああ、お前がそうか。それで、何故宮田博士では無い?」

「宮田博士は、体調を崩して寝込んでいます。その為、代わりに報告を」

峯田は、すぐに納得した。

「なるほど。で、報告とは?」

少し間が空いた。

峯田には、受話器の向こうから、息を吸う音が聞こえた。

「研究が完成しました」

峯田は震えた。

ついに。ついに完成したのか。そして、私の念願は叶ったのだ。

年甲斐も無く、興奮した。

何年振りかと、一瞬考えたが無駄なことだと思いやめた。

自分の中で動く、喜びを抑えて反応する。

「よくやった」

「はい。それで、髪でいいので体の一部が欲しいです」

峯田は、自分の喜びと相手の冷静な対応の差に少し恥じた。

「わかった。君の為にも急いで送ろう」

実際は自分の為だ。

「わかりました。それでは」

電話はきれた。

峯田は、早速机の引き出しから鋏を取り出し、白みがかった髪を一本切った。

「佐久田、これを届けに行け」

佐久田に髪を渡す。

「了解しました」

佐久田は部屋を出て行った。

やっと、叶った。

この夢を望んだのは、最近のことだ。

最初は、社長という役職にも少し困惑していたが、それも慣れた。

仕事に熱心だったはずが、いつの間にか利益のみを求めるようになった。

やりがいなどというものは、当然無く虚無感が生まれた。

不老になりたいのは、金と権力を維持したいと宮田に説明していたが、実際は違う。

ただ、この虚無感を埋める方法を探したかったのだ。

その為にどれだけの時間を費やすのかもわからなかった。

だからこそ、不老になる必要があった。

しかし、自分はもうそれをやめたかったのかもしれない。

虚無感を続けたくなかったのだ。

だから、宮田の意見を呑んだ。

自分の複製に、あとを託すと。

自分という存在は残したいが、自分という自我は残したく無い。

もう、逃れることが出来る。

峯田は、安堵とも疲れともとれる溜息を吐き出した。


なんとかなったな。

クローンはそう思いながら、部屋をウロウロしていた。

疑われることは全く無かった。

その事に少し驚いたが、成功したのだからいいかと感じた。

暫く、そのままウロウロしてたが、そのうちにインターホンが鳴った。

玄関には、男が立っていた。

今いる、男女を連れてきた男だと思い出した。

「こんにちは」クローンは笑顔で、そう言った。

「これを」佐久田は、瓶を渡した。

その瓶には、峯田の髪が入っている。

「わかりました。それと、貴方の髪もいただけませんか?」

「何故ですか?」

佐久田は、わからなかったので尋ねた。

「使うので」クローンはそれだけ言った。

佐久田は、理解出来なかったがとりあえず髪を抜いて渡した。

「それでは」

佐久田は、そう言って去っていった。

クローンはそれを見送ったあと、二人のクローン作成に移った。

前に男女でやった時も思ったが、遺伝子組み換えの発達が凄いと感じた。

前は、まだ記憶が十年前のものとは気づいていなかったが、十年でこれ程進歩するとは。

それだけ、この方面は研究がされていたのだろう。

そんなことを考えながらも、クローン作成を続ける。

そして、依頼主の髪と、誰かはわからないが毎回研究所に来る男の髪を使った。

暫くして、目の前に二人の男が立っていた。

クローンは、両方のクローンを少し若返らせた。

そうすることで、凶暴性が増すからだ。

クローンは、目の前の二人のクローンに全てを説明した。

自分達がクローンだということ、そして記憶は若返っていること。

二人は、最初はあまり理解出来なかった。

クローンの側からすれば、受け入れ難い。

しかし、なんとか的確に理解させることが出来た。

そして、自分のこれからに対する意見と計画を話した。

凶暴性が、増してるからなのかはわからないが、賛同してくれた。

今更気づいたが、二人のクローンは男女のクローンの様には暴れなかった。

もしかすると、他にも何か要因があるのかもしれない。

しかし、それは特に問題ない。

これからの計画に支障をもたらす物でも無い。

クローンは、二人を依頼主のところへ向かわせた。

二人には記憶があるから、会社の位置もわかる。

車も運転出来るので、二人だけで行かせた。

あとは、このまま成り行きに任せるだけだ。

クローンは、そう考えながらも自分の計画に絶対の自信を持っていた。


部屋には自分と佐久田がいる。

峯田は、また電話を受け取っていた。

「クローンを向かわせました」

その声がこちらに聞こえて来た。

峯田は「そうか」とだけ言った。

「はい、それでは」

そして、電話は一方的にきれた。

峯田は、やっとだと思った。

遂に逃れられる。

形の無い束縛から。

全てが上手くいった。

上出来だ。

峯田は、そう考えて待つことにした。

彼は、他のことに、全く手をつけられる気がしなかった。

峯田は、佐久田にこのまま部屋に待機するように言った。

暫くしてから、内線が入った。

「宮田と名乗る男性と、その付き添いと名乗る方が来られました」

峯田は、片方は自分だとわかったが、もう一人はわからなかった。

助手がついてきたのかもしれないと思いながら、部屋に来るように言わせた。

少しの時間が経ち、部屋にノックの音が響いた。

「入れ」

その声の後、ドアは開き、二人の男が入ってきた。

峯田は、それを確認すると二人に近づいていった。

そして、昔の自分が目の前にいる光景に少し驚いた。

言葉では、言っていても、実際にはなかなか実感出来ないものだと感じた。

もう一人の方は誰かに似ているような気がした。

すると、若い自分が口を開いた。

「私が貴方で、こちらは佐久田です」

峯田は、佐久田かと一瞬納得しかけたが、何故という疑問が生じた。

「何故、佐久田までいる」

「すみません。私の髪も取られたのです」

佐久田は、謝った。

「二人とも複製がいた方が便利じゃないですかね?」

若い峯田は、そう言った。

「そうか。わかった」峯田は、とりあえず了承したことにした。

「それで、これからどうするんだ?」峯田は、尋ねた。

「勿論」若い峯田がそう言って間を開ける。

そして「死んでくれ」そう続けた。

そこからの、複製達の動きは早かった。

佐久田は、若い佐久田に腕で首を締められ、峯田は、若い峯田にどこからか出した縄で首を締められた。

「一体…何を…!」峯田は、途切れ途切れに問う。

「オリジナルには全て消えてもらう」若い峯田がそう言った。

峯田の視界が佐久田を捉えたが、もがいていた。

峯田には、もがく体力が無かった。

「な…んだ…と」

「世界中をクローン人間にするんだとよ」

若い峯田は、口調が変わっていた。

峯田は、自分が昔こういう口調だったと思い出した。

「…な…ぜだ?」

だんだん苦しくなっていく。

「世界は平等で無いとな」

峯田の意識はそこで消えた。


「死んだみたいだ。息をしてない」

峯田のクローンはそう言った。

佐久田のクローンは、それに頷いた。

「俺の記憶には、お前がいないんだよな」

また、それに対して頷く。

「喋らないのか?」

「必要な時以外は」

声を発したことに驚いた。

「そうか。まあ、いいや」

そう言って、峯田の死体に手をかける。

「お前はそっちな」

佐久田の死体は、引きずられていく。

峯田のクローンは呆気ないと思いながら、部屋の中央にその遺体を引きずって行った。

佐久田の死体もそこへ行く。

二人の死体は、中央に固められた。

峯田の遺体は、縄を使って吊り上げられた。

足元には椅子を置いた。

筋書きは、こうだ。

突然、社長が秘書を殺す。

社長は、罪の重さに気づき自殺。

こんな簡単なものだ。

二人は、事後処理を終え、何食わぬ顔をして部屋を出て行った。

この後、数時間後に、この状態を発見した白井によって警察に通報された。



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