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何度目かの突然の前書きになります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
急にやる気が出て、一気にもう一話が完成してしまいました。
そして、この話もそろそろ終わりを迎えようとしています。
あと、何話かは具体的にはわかりませんが。そして、期待に添える完結にはならないかもしれませんが、もう少しの間よろしくお願いします。
宮田が研究所に戻ると、車が一台無かった。そして、助手が何処にもいなかった。
いたのは、実験体の二人とそのクローン。あとは、C拓馬だけだった。
それに不安を覚えた。
一人で何処かに行くことは全く考えていなかったのだ。
しかし、助手は携帯を持っていない。
連絡手段が全く無い為に、困った。
助手が帰るのを待つしか宮田には術が無かった。
彼は焦りを感じながらもそのまま時間の経過を待っていた。
夕日も沈み、窓の外は暗闇に包まれた。
それでも、助手は帰って来なかった。
何処へ行ったのか。車を使っている以上、近くにいるのならそんなに時間はかからない筈だ。
探すことも不可能に近い。
改めて考えても、やはり待つ他無かった。
暫く待ち続けた結果、夕日の沈んだ2時間後くらいに車の音が聞こえた。
そして、助手が帰ってきた。
「一体何処に行っていたんだ⁉」宮田は、声を荒げて尋ねた。
「すみません。買い物に」と助手は答えた。
「買い物なら、私が行ったのに」
「いえいえ。自分の方が若いので」
「若いと言っても、一回りくらいだろう」
「そうですかね。とりあえず、すみませんでした。コーヒー淹れるので待ってください」
「今回は、いいが次からは気を付けてくれ」
「勿論です」と言って助手はコーヒーを差し出してきた。
「ありがとう。貰うよ」
宮田は息を吹いて、冷ましながらそれを飲んだ。
飲み終わってから、眠気を感じた。
「コーヒーは確か、眠気を覚ますんじゃ無かったか?眠いな」と宮田は言った。
「そうでしたか?眠いなら寝た方がいいですよ」と助手は返した。
「そうだな疲れているのかもしれない」
宮田は部屋に行き、目を閉じると深い眠りに入った。
目が覚めると、状況が理解出来なかった。
どうやら車の中にいるようなのはわかった。
動こうとしたが、体が縄で縛られている。
状況に焦った。
「起きたみたいですね」運転席から聞こえた声は助手のものだった。
「い、一体どういうつもりだ⁉」
宮田は、聞いたが助手はただ笑うだけだった。
そして口を開いた。
「貴方を殺すんですよ」
「なっ…!」
宮田は、声を失った。
「あれ?予測してなかったんですか?」助手は笑いながら言う。
宮田は、沈黙で返した。
「今日じゃなくても、いつかこうなってたんですよ。僕が生まれた瞬間から」
そう言って、彼は続けた。
「そう、貴方のクローンとして生まれた時から」
宮田は、俯く。何故か夢を思い出した。
顔に靄がかかっている者の夢だ。
あの顔の靄が取れた顔は、女の顔では無かった。その顔は助手、いや自分のクローンの顔だった。
C拓馬の実験が終わった後、人手を探していろいろ思い出していたが、結局手伝ってくれそうな知り合いは浮かばなかった。
宮田は、考えた結果自分のクローンに協力してもらおうと考えたのだ。
そして、その細胞を若返させることで、実験の協力者と実験体としての協力者が同時に出来るから、一石二鳥とも考えた。
結果、クローンとして彼が生まれた。
彼には、彼がクローンということを説明した。若返っていることも。
その時、自分と同じ名前の彼の呼び方に困り、助手と呼ぶことにした。
年齢も下だから、それが丁度いいとも思ったのだ。
その後、クローンとしての彼は成功していたと思っていた。
しかし、それはあの時に不審に変わった。
あの刑事を、殺すという話を依頼主からされ、それをクローンに話した時、彼はそれに賛成した。
自分は反対して、クローンは賛成するというのはおかしい。
そして、彼の考えを聞いて考えた。
もしかすると、クローンの性格は凶暴性が増しているのかもしれないと。
だからこそ、今日の実験結果を予測出来た。
自分のこの考えが正しければ、どんな人間であれ、凶暴性が増す。
自分のクローンは、それが表面化しなかった為に変化の度合いが掴めなかった。
しかし、今この現状でやはり凶暴性は大きく増すということを確信した。
C拓馬があれから成長した場合に凶暴性が増すのかはわからないが、恐らく中学生からはこの兆候が現れる。
やはり、これは何らかの裁きなのかもしれない。
自然の流れに逆らった自分は、生み出したものによって殺される。
最初こそ驚いたものの、何故か冷静にこんなことを考えられた。
一度殺し屋を見たからだろうか。
あの存在自体が死ともいうような、あの赤黒い殺し屋のお陰、いやお陰ではない所為だ。
それとも運命として受け入れているのだろうか。
こうなることは実際わかってた。
ただ、それが今日とは思わなかったが。
そして、宮田はやっと口を開いた。
「何故こんなことをするんだ?」
宮田は尋ねた。それは、研究心からなのか、悪足掻きのようなものなのか、宮田自身にもわかっていなかった。
クローンは答えてくれないと思っていたが、意外にも答えた。
「それは、同じ人間は二人も要らないからですよ。双子は似てても違う人間ですが、クローンは違う。オリジナルとクローンは全く同じ存在なんですから。ドッペルゲンガー知ってますか?」
クローンは尋ねた。
「当たり前だ。君は私なんだから」
宮田は、即答した。
「そうでしたね。自分で言っててもあまりわかってないものです。とりあえず、ドッペルゲンガーがいますよね?」
「ドッペルゲンガーは存在しない」
宮田も改めて自分と話してるのかと、今までは感じなかった感慨を感じた。
「いるとしてです。ドッペルゲンガーが現れれば、弱い方が消えるのがよくある話です。つまり、クローンが生まれてしまった以上、凶暴性が増したクローンが残り、普通のオリジナルは消えるのも同じことです」
「確かに一理あるかもしれない。状況は同じようなものだしな」
「ですよね?貴方ならわかってくれると思ってましたよ。だって私なんですから」
宮田は、クローンには凶暴性が増しても、オリジナルと思考は大体同じだということを認識した。
「そういえば、何故今日になったんだ?」
宮田は、とりあえずいろいろ尋ねることにした。
「クローンの法則性を見抜いたみたいだったんでね。私は、貴方を見てて私とは違うことにすぐ気づきましたが、貴方は気づかなかった」
「君は、隠すのがうまかったんだ」
「そうですかね。それで、見抜いたから早めに消した方がいいと思って今日にしました。思い立ったら吉日という諺の通り」
「成る程な」
宮田は、他に思い当たらず最後の質問をした。
「じゃあ、最後にこの車は何処に向かってるんだ?」
「森林。深い深い。樹海と呼べる程でも無いですが。地名とかはわかりません。私がわからないのだから貴方もわからないんじゃ?」
「いや、私の記憶は君の記憶より10年先を行っている。君の見た目は私の10年程前の姿に見えるからな」
「そうなんですか。若くなっても、記憶は全て受け継がれると思ってましたよ」
クローンは、驚いていた。
「多分違う。例えば、都に新しい塔がたったんだが、それは知らないだろう」
「知りませんでした」
「やはりな。それにしても、いつ今向かってる場所を知ったんだ?」
「今日です。貴方を殺す為に、ナイフと睡眠薬とロープを買って、それからそこを見つけました」
「買い物は嘘じゃなかったのか。睡眠薬はコーヒーに入れたんだな?」
「ええ、即効性ですが時間は短いやつです。だから、夜が明ける前に起きたんですよ」
宮田は、周りが暗いことに今更気づいた。
「そうか。これで私の中の謎は全て解けた」
「それは良かったですね。死ぬとしたら全てを知っておきたい感情はわかります。私は貴方ですからね」
それで、質問に全て答えてくれたのかと宮田は感じた。
宮田は、恐れを感じていた。
彼にではなく、自分自身にだ。
凶暴性が増すことで、こんな風になる自分が恐ろしかった。
しかし、少しは優しさも残っていたことに安堵した。
少なくとも、死の目前にいる相手の心を救うくらいの優しさは残っていた。
口調も荒ぶっていない。あの二人の実験体のクローンは変わっていたのに。
恐らく、私のクローンは話し方は変わらずに性格だけ凶暴性が増したのだろうと考えた。
または、最初はそういう口調だったのが、生まれてからずっとその話し方で私と接してきたからか。
そして、宮田は目を閉じた。
これから、自分は、依頼主は、刑事は、どうなっていくのかを考えた。
未来は全くわからない物だから、研究の使用もない。
そこで、さっきので最後と思っていたが、新しい疑問が浮かんだ。
「これからどうするんだ?」
これが一番大切な質問だったのかもしれない。
「世界中の人間をクローンにします。その後、どうするかはわかりませんが」
「何故そんなことをするんだ?」
「人間は異端を恐れる、というより忌むものです。だからこそ、似たような人間と関係を持つし、全く異なる人間とは離れます。クローンなんて、異端中の異端です。それなら、世界中の人間をクローンにすればいい。そうすれば、クローンは異端じゃない。オリジナルが異端です。そして、人間は周りに合わせようとする。私もそう。クローンだとしても。しかし、クローンである私にはそれが出来ない。それなら、周りを自分に合わせるしかない。それも理由の一つですね」
「…そうか」
宮田は、納得した。
クローンは自分なのだから、その言葉に自分が納得しない訳が無いのだが、大体の人間も賛同する気がする。
人間は、確かに大きく異なる者を嫌い、周りに合わせようとする。
だからこそ、差別は消えないし、いじめは起こる。
自分と異なる者が怖いのだ。だからこそ相手を下に見て、それを隠す。
そして、恐れに気づくものは少ない。
また、乗り越える者も少ない。
恐れに、気づけば決して下に見ることは無い。
乗り越えられれば、友好的になれるはずだ。
人は得てしてそういうものでは無いのだろうか。
だからこそ、クローンの主張も正しいとは決して言えないが、否定することも自分には出来ない。
クローンとオリジナルが逆の立場なら、オリジナルは絶対にクローンを滅ぼす。
自分がきっとそうだ。
今は、クローンが強いからこうなっているが、逆の立場ならクローンは全て処分していたはずだ。
つまり、オリジナルもクローンも関係無い。人間が問題だ。
宮田は、そこまで考えて息を吐いた。
「どうしました?」クローンが尋ねた。
「いろいろ疲れたよ。依頼主の願いを叶える為にこんなことになるとは思わなかったし、ここまで考えさせられるとも思わなかった」
「でしょうね。お気の毒です」
「君が私を殺さなければ万事解決なんだが」
「それは無理ですね。クローンにオリジナルは必要ないですから」
それを聞いて、宮田は不安を覚えた。
「拓馬はどうなるんだ?」と思わず尋ねた。
「自分の心配より他人ですか。いや、拓馬だからですかね。オリジナルの貴方には、オリジナルが可愛く見えるかもしれないが、クローンの私には、クローンの方が可愛く見えるんです」
宮田は、クローンが拓馬をどうするのかは言わなかったが、消すのだと確信した。
「確かにそうかもな。私は、C拓馬に何処かで嫌悪感を抱いていたのかもしれない。所詮はオリジナルから生まれたクローンだと」
「そうですよね?そういうもんなんです。貴方だけじゃなく人間は皆」
こういうことを言ってると、人間という存在はなんなんだろうか。
同じ種類の生物だというのに殺し合い、そして、それは何も生まない。
宮田は、再び息を吐いた。




