怒声
美鈴は署に戻ると、報告書を仕上げ提出しに行った。そして、今更のように思ったがこの事件を捜査しているのは、他に誰がいるのだろうと思った。確か、拓馬君の捜索をしていたのは5人程。しかし、この事件をきちんと調べてるのは自分しかいないと気づいた。
上の方の人間は2日経って見つからないから既に諦めているのかもしれない。最近、事件が多く人手があまり足りてない。
だから、仕事の空いてる私に未解決で終わりそうなこの事件を。
しかし、もうすぐ解決するだろう。犯人は明日現れることはわかっている。
これで、私の評価も少しは上がるだろう。そこで子供より評価が大事なのかと嘲笑した。
まだまだ自分は駄目だ。そう思いながら、上司に渡すために部屋に入った。
「報告書を届けに来ました」
そして、上司に渡した。
上司は、報告書を読み始めた。そこで、彼女は不自然に思った。いつもなら渡せば読まずに「お疲れ」と言って私を返すはずなのに。
上司は尚も熱心に読み続けている。
そして、彼はこう言った。
「お疲れ。あと、もうこの事件は捜査しなくていいぞ」
思わず、「えっ⁉」と彼女は言った。
「いろいろあってな。もうこの事件はいいんだ。このままでも解決しそうだし」と上司は続けた。
「そんな。犯人はどうするんですか」
「大丈夫だよ。子供を返すような犯人だ。問題無いだろ」
「そうだとしても‼子供を誘拐してるんですよ⁉そんな人を警察が放置するなんて…」
「しょうがないだろ。もうこの件は終わりだ。早く帰れ」
「そんな…」
上司はもう反応する気は無いようだ。
「失望しました。私は一人で捜査します‼」
そう言って、美鈴はドアを乱暴に開けて出て行った。
「おい‼やめっ…‼」そんな上司の声は虚しく壁に吸い込まれた。
宮田は、拓馬を返す方法がなかなか思いつかなかった。どうすればいいか。
そこへ、電話がかかってきた。
宮田は受話器を取り、「もしもし?」と尋ねた。
「峯田だ」とだけ相手は言った。
いきなりのことに戸惑った。
「いきなり、どうしたんですか?」
「あぁ、警察の捜査を止めれると言うことを教えるだけだ」
「そうですか。ありがとうございます」
「頑張ってくれ」
そして、電話は切れた。
捜査が無くなったか。と彼は確認した。
そして、じゃあそのまま返しても大丈夫じゃないか?と楽観的な考えに至った。捜査を止めたなら問題は無いだろう。
そう思い、拓馬に家の番号を聞いた。
拓馬が知ってるか心配だったが知っていた。
褒めてあげたら喜んだが、やはり元気が少なくなってきた気がする。
なので、「明日、拓馬を家に返すからな?」
と言うと、拓馬は元気に「ホント⁉」と言ってきた。
「あぁ、本当だよ。悪いやつは倒したからもう家に帰れるんだよ」
「やった‼家に帰れる‼」
宮田は、やっぱりこの方が拓馬らしいと思い、そう思った自分にお前は誰だよと突っ込んだ。
拓馬は、元気に飛び跳ねている。
宮田は、部屋を出て電話をすることにした。
空を見上げれば夕焼けが綺麗だった。宮田には、拓馬が帰れるのを夕陽も喜んでるように見えた。
電話をかけると直ぐに出た。
「もしもし。どちら様ですか?」
宮田は、自分を何と言おうか迷ったが結局わかりやすく言った。
「拓馬君を誘拐した者です」
宮田がそう言うと、向こうからは何と言ってるのかわからないがとにかく怒ってることはわかる言葉が響いてきた。
「すみません。少し落ち着いてください。拓馬君は無事です。明日お返しします」と宮田が言うと、向こうからの声は無くなった。
「本当ですか?」と呆然としたような声が聞こえた。
「本当です。必ず、明日拓馬君は帰ってきます」そう言って、宮田は電話を切った。
宮田は、親の愛は怖いなと思い、それ程愛されている拓馬はいい親に恵まれたな。とまた誰なのかわからない視点にだから誰だよと突っ込んだ。
あとは、明日を待つだけだ。
宮田は夕食の時間まで、本を読もうと思った。さっきの声がすごかったから少し落ち着きたいと思ったのだ。
そして、彼は本棚から本を取り出し読み始めた。