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参 感覚

 僕が目を覚ましたのは、何とも言い難い、不思議な場所だった。あらゆるものが歪んでいる。もちろん、本当に歪んでいるのか信じることができなかったが、そのもの自体に触れることさえも許されなかった。僕は後ろ手を縛られていた。意識がもうろうとしているのはすぐにわかった半面、それをどうにかしようとする僕の意思も働いていた。どうにもならなかった。僕はうつろなまなざしであらゆる方向へ視線をずらした。かすかな、僕の理性の部分でここがどこだか思い出そうとしたり、推理しようとしたりするのだが、どうにもうまくいかない。ここは、僕の知らない世界だ。

 突然、音がした。僕の耳はすでに意識を取り戻しているようだ。鮮明に音は聞こえる。誰かが近づいてくる音。コツコツと女性物のヒールの音。僕のすぐそばで音は止んだ。うつろな目で彼女を見る。スーツ姿の女性。確か、あの時の部屋にいた女性。


―――!!


 僕はすべての意識を取り戻した。わが身に降りかかった禍もすべて。この女性に何か注射されたのだ。しかし、それが分ったところで何をすることもできない僕はただじっと黙って座っているしかなかった。相変わらず、この場所はどこだかわからない。それに、女性が入ってきたとき、その入り口は突然現れたかのようにも感じた。女性の入ってきたドアはいつの間にかなくなっている。


「気分は、どう?」


女性は僕に話しかけてきた。ゆっくりとした柔らかい口調。その声には美しいバラのようなものを感じた。それがたとえ罠であったとしても男の二人に一人は付いていきそうな、そんな魅力のある声である。それと同時に、彼女自身とても美しい。これは二人に一人どころではない。二人ともついていきそうな勢いである。


「最悪。」


僕は答えた。口もどうやら意識を取り戻しているらしい。僕の頭の中で、すべての感覚が正常に戻った時の効果音が流れ出した。僕は、ようやくいつもの僕を取り戻すことができたのだ。しかし、頭のどこか一部分、美しい女性を目の前にし、一番平静を保っていなければならないはずの理性のところが少し、まだマヒしているみたいだ。案外、それも悪くはない。僕は女性に縄をほどかれ、いつの間にか現れたドアを女性と一緒に開け、この部屋を後にした。


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