序
宇宙は最初、小さな点だったという。それが、ビッグバンとやらいう大きな大爆発とともに今の宇宙へと形作っていく。もちろん、最初の点は限りなくゼロに近い存在であっただろうし、大きな爆発ビッグバンとやらも、僕らが考えているような原子爆弾が爆発したような爆発ではないだろう。しかし、その現場を目撃したものなんて一人もいなくって、何がほんとで何がうそか、証明できる方法などないのだ。しかし、目の前に起こった事件は事実としてあり、それは過去のことだが、物理的に論理的に証明し、その根拠となるものさえあればそれは事実としてあったことと認定され、たとえその目撃者がいなくとも、それは事実であると証明することができる。それが、この世の中なのだ。
事の起こりは、数日前。僕がこうして街をぶらぶらしているのにはわけがある。やたらと大きい看板や、すごく目立つ格好の若者。それらに囲まれながら、僕は街を歩いている。別に何が楽しくて歩いているわけではないが、特に目的もなくただひたすらに気晴らしをしているだけなのだ。
始めは簡単な事件だと思っていた。だけど、それが甘かった。もっと強大な力がこの事件には働いていることをもっと早くに気付くべきだった。だけど、こうなってしまっては後の祭り。僕の力では何もすることができない。もう、この事件は僕の中では終わってしまったのだ。とっくの昔の話なのである。
単純な話の発端は、公園で見つかった変死体。死体そのものの不思議はなかったのだが、その死体を司法解剖してみると、内臓が一つなくなっていることが分かった。初めは愉快犯の仕業だと思われていたが、翌日、今度はビルの空き地で同じように内臓が一つなくなっている死体が見つかった。初めの死体は心臓。二番目の死体は、肝臓をそれぞれ抜き取られていた。しかし、体の表面からはそれを確認することができず、一度、体を開いてみないと分からなかった。
『元々、心臓がなかった人物なのではないか。』
あり得ない。そんな人間係にいたとしたら、この世は不老不死の人間であふれかえっているに違いない。しかし、現にそれは受け入れなければならない事実だとしたうえで、捜査は始まった。警察が選んだ最初の一手は、内臓がもともとなかった人物探し。
いろんな病院に聞き込みを行った。しかし、これといって確証を得られるような証言や証拠は押えることができなかった。どこの病院の医師も口をそろえて言う。
『そんな人が、もしいたとしたら、僕が知りたいですよ。ああ、でも、腎臓がなかったってのはよしてくださいね。そんな人なら結構いるもんで。』
警察は大きな壁にぶち当たった。そして、その原因をどこに求めたか。最初の一手が間違っていたのではないか。つまり、もともと内臓がなかった人物を探そうっていうのが間違いではなかったのか。警察のお偉いさん方は世間体を守るため、一から捜査を組み立てることにした。そして、捜査方針を決定した僕を免職とすることで、すべてを丸く収めようとしたのである。
もちろん、捜査方針を決定したのは刑事部長である。しかし、僕は刑事部長ではない。部長に捜査の方針の一つを提案しただけである。しかし、それが結局は採用され、それによって警察は損害を得たとして、捜査方針の決定に重大なかかわりをもった僕を問答無用に免職としたのである。そういうわけで、僕は街をさまよっているのである。